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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第十話 ささくれ・其の貳

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天狗党の乱が一段落し、壬生へ帰ってきた新選組を待っていたのは、大阪屯所の拡充とその資金集め、さらには大阪へ常駐させる隊士の人選であった。
 ただでさえ挨拶回りや年末年始の準備に忙しい最中、できることなら年明け落ち着いてから大阪屯所の拡充に取り組みたいと思っていた幹部達だったが、過激攘夷派は一刻足りとも待ってはくれない。

「・・・・・だからって、年賀状まで代筆させますかね。」

 沖田は呆れ顔で隣で年賀状を書いている山南に愚痴を零した。そんな沖田の横にも書かれたばかりの年賀状の束が積まれている。それは沖田が出す年賀状だけでなく、土方名義の年賀状が含まれているからだ。むしろ沖田本人の年賀状より土方名義の代筆の方が多いかも知れない。
 そもそも当の土方は瀬田への出張から帰還するなり大阪へ行ってしまい、未だ帰ってこない。そして大阪へ行く前にただ一言、『日野の連中に出す年賀状、俺の分も書いておいてくれ。』と今年の始めに江戸から届いた年賀状の束を目録代わりに渡されたのである。

「あれ、お琴さんの分はいいんですか?」

 出し忘れがあってはならないと、渡された年賀状の名前を確認した沖田が土方に尋ねた。別に他意はなく何の気なしに尋ねた一言だったが、沖田が問うたその瞬間、土方の肩がぴくん、と跳ね上がる。それを見た瞬間、沖田は土方の逆鱗に触れてしまったかと首を竦めた。だが、土方は声を荒らげることはなく、むしろ静かすぎるほど静かに沖田の質問に答える。

「・・・・・てめぇの女への年賀状を代筆させる野暮天がどこにいやがる、馬鹿が。」

 心の動揺を悟られぬよう、できるだけ平静を保とうとしていた土方だが、その声は明らかに震えていた。

「言われてみればそうですよね・・・・・じゃあこちらは代筆しておきますね。」

 どうやら逆鱗まではいかないまでも、心のささくれを掻きむしってしまったらしい―――――沖田は確信し、土方の声の震えに気が付かない振りをして年賀状書きの代筆を引き受けた。そして今に至るのである。

「自分の名前で出す年賀状は気楽でいいんですけど、さすがに土方さんの代筆となると迂闊なことは書けませんし・・・・・肩に力が入ってしょうがありませんよ。」

 二十枚目の年賀状を書き上げた沖田は肩を解しながらぼやき続ける。

「そこまで肩肘張ることも無いんじゃないか?日野だってきっと判ってくれるだろう。」

 ぼやく沖田を宥め続ける山南自身も、自分の年賀状と近藤の年賀状の代筆をしていた。土方が大阪に金策に出向いている分、京都に残っている近藤の負担も重くなる。それでなくても永倉は謹慎中、藤堂は江戸にいるだけに助勤や伍長を含む幹部も人手不足なのだ。一応伊東派からも新たに助勤を選び仕事を始めてもらっているが、ひと月ふた月では巡察はともかく隊中枢に関わる細かな仕事は任せることはできない。となるといやがうえにも古参の助勤や伍長らの負担が大きくなってしまう。

「年明け暫くはこの忙しさが続くんでしょうかねぇ。」

 佐藤彦五郎への年賀状を認め終えた沖田が、再び大きなため息を吐く。その時である。

「だろうね。想い人になかなか会えなくて寂しいかい、総司?」

 思いもしなかった山南の指摘に、沖田は耳まで真っ赤になった。

「や、止めてくださいよ、山南さん!それに何でそんな事を知っているんですか!」

 確かに瀬田への出張に帰還してからの諸々の雑用で小夜に逢うことはできていなかった。巡察の際、御霊神社の前に結び文をしているが、小夜の弟の伸吉が先に見つけたら握りつぶされてしまうだろうし、かわた村の他の者達が捨ててしまう可能性も否定出来ない。今のところ二、三通に一通は小夜の許に届かないと言ったところだろうか。小夜からの返事も同様だ。できることならすぐにでも会いに行きたいが、隊の状況がそれを許してくれなかった。だが、その事を何故山南が知っているのか理解できず、沖田は動揺を顕わにする。

「おまえの様子を見ていれば判るさ。どこの誰かは判らないが、花街での噂がないところから鑑みると素人の娘さんなんだろう?」

 そこまで推測されているとは露程も思っていなかった沖田は、拗ねたような視線で山南を見つめる。

「そこまで推理されてるなんて・・・・・でも、そういう山南さんだってここ最近島原に行ってないんじゃないですか?明里さん、きっと寂しがってますよ。」

「そ、総司・・・・・戯言を言うんじゃない!」

 今度は山南が赤くなる番であった。それを確認した沖田は形勢逆転とばかりに一気に畳み掛ける。

「どうもこうも隊内は勿論、島原でも噂ですよ。新選組総長の山南敬助が天神・明里を落としたって。」

 含み笑いを浮かべながら沖田は山南の顔を覗きこむ。そんな山南の顔は茹で蛸のように真っ赤になっていた。

「まったく・・・・・大方左之助か新八あたりだろう。特に新八は謹慎だというのに土方くんの目を盗んでは島原に足繁く通っているみたいだし。」

 山南は原田や永倉の素行の悪さを嘆きながら腕を組む。それに関しては沖田も同調せざるを得ない。

「そうなんですよねぇ。どうも亀屋の芸妓・小常さんに入れ込んでいるらしいですよ。原田さんからの又聞きですけど。」

 非行五ヶ条を提出した後、半ば自棄になっていた永倉から離れていった娼妓や芸妓も多かった中、ただ一人永倉に辛く当たられても離れず、辛抱強く永倉を支えていたのが小常だったという。そんな事があって永倉も今は小常一筋だと原田が面白半分に言っていたのを沖田は聞いていた。

「なるほど・・・・・皆、いつの間にか京都に根を下ろし始めているんだね。そもそも数ヶ月で江戸に帰還するとばかり思っていたのに、二度目の正月を迎える事になっているわけだし。隊規では妻帯は認められていないけど・・・・・近いうちに所帯を持つ者も現れるかもしれないね。」

 きん、と冷たい空気に包まれた庭を見つめながら山南が呟く。その言葉と、穏やかな瞳はどこまでも温かく、これからやってくる春を彷彿とさせた。



 長逗留の京都に根を張る者がいる一方、未だ未練を江戸に残している者がいるのもまた事実である。大阪の豪商に対して、一軒一軒金策に回っていた土方は、定宿の京屋に到着するなり大きく溜息を吐いた。屯所に泊まることも勿論可能だが、仕事や部下に煩わされることなく、一人になる時間が欲しかったのである。勿論大阪新町に遊びに行く気分にもなれず、運ばれてきた食事にさえ箸を付けずに物思いに耽る。

「年賀状くれぇは・・・・・書いたって罰は当たらねぇよな。」

 悶々とした心の澱を吐き出すように、土方は呟いた。十一月にしつこく出した琴への手紙、その返事も未だ返ってこない。今までの琴のまめさを考えるとこれは異常事態だった。もし琴や向こうの家族に何かあったのなら土方の兄弟なり知人なりが知らせてくれるはずだが、それもない。となると、やはり琴に愛想を尽かされたとしか思えない。

「男ってもんはな・・・・・女にだけかまけちゃいられねぇんだよ!」

 そんな強がりを呟いてみても、心にぽっかり空いた虚しさは埋められない。いっそ金策が上手く行かず相手に喧嘩を吹っかけることができれば、私事の恋の不調など忘れることができるのかもしれない。しかし、こんな時に限って大阪商人どもの愛想が良く、気味が悪いほど順調に資金調達が上手く行ってしまっているのだ。集まった資金はすでに銀五千貫を超え、六千貫にまで届きそうな勢いある。このまま順調に行けば最終的には六千五百貫を超えるだろう。これは金に換算すると七万両ほどになる。本来ならこの順調さを喜ぶべきなのだろうが、鬱憤を晴らす機会が無いことに土方は不満を覚えていた。

「こんな時に限って気味悪いほど話が上手く進みやがる。面白くねぇ。」

 仕事が順調な分、琴からの手紙が来ないことに気が向いてしまい、余計に苛立つ。それは指先にできた小さなささくれのように、瑣末ながら土方の心を確実に蝕んでいく。

「今度の隊士募集の時は・・・・・俺が東帰してもいいか、勝ちゃんに交渉しねぇとな。」

 琴との関係がこのまま終わるにしろ、腐れ縁で続くにしろはっきり蹴りを付けなければやっていられない。暮れなずむ町並みを見つめつつ、土方は己の恋の行く先に決意を固めた。



 大阪で土方が物思いに耽っている頃、頼まれた年賀状書きを終えた沖田が足早にいつもの御霊神社に向かっていた。小夜と会う約束はしていなかったが、結び文くらいはあるかもしれないと屯所を飛び出してきたのである。逸る気持ちを抱えつつ五条坂に差し掛かったその時である。

「あれ?あの人達は・・・・・?」

 二、三人くらいの武士の集団であった。周囲を気にしつつ法華寺に入っていくのを沖田は目撃したのである。参拝にしては遅すぎる時間であるし、僧侶との話があるにしてもその挙動があまりにも不審であった。

「ちょっと・・・・・気にはなりますね。」

 さり気なく法華寺の門に近づき中を覗こうとしたが、薄暗がりでは正直よく判らない。中は至って静かであったし、万が一乗り込むにしても沖田一人ではあまりに無用心すぎる。

「明日・・・・・巡察の時にでも覗いてみましょうか。」

 これから何か事を起こすにしては、寺の中はあまりにも静かすぎる。何かやらかすにしても今日はないだろうと沖田は踏んだ。正直、不逞浪士かどうかも確たるものではない男達を追跡するより、結び文くらいは期待できる御霊神社に行きたい気持ちのほうが大きかったのである。少々気にはなったが、法華寺に入っていった男達をそのままに、沖田はその場所を離れてしまった。



 沖田がいつもの御霊神社に到着した頃には、すっかり日が暮れていた。途中番屋で借りてきた提灯の灯りが頼りなげに足元を照らす。さすがにこんなに暗くなってしまっては結び文を探すのさえ大変そうだ。今日結び文を探すのは諦めようか―――――沖田が思ったその時である。提灯のぼんやりした灯りに人の影が浮かんだのだ。そしてその影は沖田が夢にまで望んだひとのものであった。

「沖田・・・・・センセ?」

 相手も沖田に気がついたようで、驚きと嬉しさがないまぜになった声を上げる。

「お小夜さん!お小夜さんなんですね!」

 沖田は確信するなり、影の方へ走り出していた。

「どうしたんですか、こんな時間に・・・・・ご家族が心配するでしょう。」

 小夜に会えた嬉しさもあるが、この暗闇の中、紙燭だけを頼りにこの場所までやってきた小夜にむしろ危うさを覚える。だが、小夜は平然と笑みを浮かべた。

「ここまでなら・・・・・境の御霊神社までやったら大丈夫です。それに、暗闇やないと結び文を見つけられてしもうて・・・・・伸吉が捨ててしまうんおす。」

「そう・・・・・だったんですか。すみません、こんな真似をさせてしまって。」

 沖田は提灯を持っていない手で小夜を抱き寄せながら頬ずりする。小夜の頬は夜気にすっかり冷えきって、ひんやりとしていた。

(やはり・・・・・早く休息所を見つけたほうがいいのかもしれない。)

 小夜は大丈夫だというが、この近くで不逞浪士に絡まれたこともある。小夜を少しでも危険に晒さないためにも、いち早く腹を決めるべきなのだろう―――――沖田はそう思いながら、小夜のひんやりした唇に己の熱を帯びた唇を重ねた。



UP DATE 2012.12.14

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天狗党の乱が終わり、瀬田から帰ってきた新選組を待ち受けていたのは年末のクソ忙しい日々でした(笑)
大阪での資金調達もかなり急で大々的だったみたいですし・・・・・そのとばっちりを受けたのが総司と山南さんです(爆)実はこの直後に出された『土方歳三』名義の年賀状が、総司の筆跡と瓜二つだとか・・・・・きっと忙しくて代筆を頼んだのでしょうねぇ(^_^;)とりあえずお琴さん以外の年賀状は総司に押し付けたようですv
一方総司に年賀状を押し付けた土方の恋はあまりうまく行っていないようです。十一月に出した手紙の返事も未だ返ってきていないようですし(´ε`;)ウーン…やはり一度江戸に行って白黒付けないことにはこの恋、収まりそうにありません。

次回更新は12/21,小夜に会いに行く途中見かけた法華寺に入っていく不審人物・・・・・総司の心に引っかかるものがあるようです。
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