「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第十一話 ささくれ・其の参

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しんしんと底冷えのする十二月の闇の中、御霊神社に入り込んだ沖田と小夜は身体を寄せ合いながら近況を語り合っていた。瀬田への出張以来逢うことができなかっただけに、話は尽きない。

「・・・・・でね、土方さんったら私に年賀状の代筆をさせたまま大阪から帰ってこないんですよ。まったくひどいと思いませんか?しかも許嫁への年賀状はちゃっかり自分で書くんですから。だったら自分で全部書けばいいのに。」

 ふくれっ面で愚痴をこぼす沖田に小夜がくすくすと笑う。そんな他愛のない恋人同士の会話を交わしながらも、沖田は先程ちらっ、と見た法華寺に入って行った男達の事が気になっていた。ただ寺に入っていっただけ―――――ささくれのような小さな出来事だが、それが沖田の新撰組隊士としての勘に引っかかるのだ。そして沖田のその気配に小夜も感づいた。

「沖田センセ?もしかして・・・・・この後、お仕事があるんやないですか?」

 申し訳なさそうな小夜の言葉に沖田はどきり、とする。

「あ、すみません。私、そんな上の空でしたかねぇ。」

 沖田は小夜と会話を交わしていながら務めに心を奪われていた己を恥じた。しかし小夜は気にするなとばかりに優しく首を横に振る。

「いいえ。せやけど何となく判るんどす。どこがどう・・・・・というのははっきり言えへんのですけど。」

 小首を傾げながらも、いつもの沖田とは違うと小夜は言った。

「ははは、やっぱり勘の良さはおなごには敵わないなぁ。実はそこの五条坂の法華寺で怪しい集団・・・・・と言っても二、三人ほどの小さな集団ですけどね。見かけたんですよ。もしかしたら思い過ごしかもしれないんですけどね。」

 笑いながら事情を話す沖田だったが、五条坂の法華寺と聞いた瞬間、提灯の頼りない灯りでもはっきり判るほど小夜の表情が険しくなった。

「法華寺言うたら・・・・・勤王で有名なお寺はんですよね。」

 声を潜めながらも、はっきりと沖田に告げる小夜の言葉に沖田は愕然とする。

「え・・・・・お小夜さん、それは本当ですか?」

「へぇ。どんど焼けの後はあまりおおっぴらにはしてへんようですけど、ご住職が長州のお侍はんと仲ようしてはるのをうちも何度か見てますえ。」

 小夜の言葉に沖田は考え込んだ。やはり今からでも法華寺に向かったほうが良いのかもしれない。それでなくても大阪は既にきな臭くなっている。その影響が京都に及んでいないはずが無いのだ。

「お小夜さん・・・・・今度会う約束は確約できませんが、今日はこの辺で失礼します。やはりあの男達が気になりますので。あ、それと・・・・・。」

 沖田はちょっと躊躇いながら言葉を続ける。

「年が明けて落ち着いたら本格的に休息所を探そうかと思います。時間がかかっても屯所移転の三月前までには見つけるつもりなんですが・・・・・お小夜さんの事情もありますからずっといてくれとは言えませんが・・・・・その、たまに・・・・・私の休息所に来てくれませんか?」

 休息所に来てくれ―――――それは自分と深い関係になってくれということである。正式な妻であれ妾であれ、表には出せない関係であれ『自分の女』になって欲しい、遠まわしな言い方であるが、沖田にとってそれが精一杯であった。そんな沖田の言葉に対して小夜は驚いたように目を丸くしたあと、ちょっと悪戯っぽく聞き返す。

「たまに・・・・・で、ええんどすか?」

 珍しく挑むような小夜の視線に、沖田はらしくもなくたじろいでしまった。

「いや、その・・・・・・あの、そりゃいつも居てくれるに越したことは無いんですけど・・・・・。」

 提灯の仄かな灯りでは判らないが、沖田の顔は耳まで真っ赤になっている。恥ずかしさのあまり、ごにょごにょと口の中で言い訳をする沖田に小夜が思わず笑ってしまった。

「冗談おす。休息所のご近所はんのこともありますし、少しずつ様子を見ながらそのうちに、ってことでよろしおすか?」

「勿論です!来てもらえるだけでもありがたいんですから!」

 小夜の色よい返事に反射的に弾む声で答えてしまい、沖田ははしゃぎすぎたと反省する。

「じ、じゃあ詳細が決まり次第この件は改めて。これから法華寺に行ってきます。」

「ほな、お気をつけて。行ってらっしゃいませ。」

 まるで新妻のように送り出してくれる小夜の言葉を背に、沖田は提灯を手に走り出していた。

(毎日こうやってお小夜さんに仕事に送り出してもらえたら・・・・・。)

 自分はもっと強くなれるだろう。愛しい人の小さな言葉ひとつがこれほど自分に力を与えれくれるとは、半年前には―――――小夜と出会う前には全く思いもしなかった。

(年が明けたらすぐに・・・・・二人で暮らせる場所を探さないといけませんね。)

 沖田は小さな幸せを噛み締めつつ、冬闇の京都を走り続けた。



 沖田が五条坂の法華寺に到着した時、新たに一人の男が法華寺の門をくぐるところであった。沖田はその男に気が付かれないよう提灯の灯りを吹き消すと、向かい側の小路に身を潜め、法華寺の門を監視する。

(自分がこの場所を離れている間、一体何人ほどの男達が入っていったのだろう。)

 久し振りに小夜に逢えたことが嬉しくて、つい長話をしてしまったのを沖田は少し後悔した。もし話をもう少し早く切り上げていたら、少なくとも法華寺に入っていった男達の人数くらいは把握できただろう。

(少なくとも三人・・・・・いや、四、五人は見積もっておいたほうがいいでしょうかね。)

 そうなるとさすがに一人で乗り込むことは無謀すぎる。かじかむ指を吐く息で暖めながら沖田は法華寺の門をじっと見つめていた。その時である、闇の向こう側に『誠』と染め抜かれた提灯の集団―――――新選組の巡察隊がこちらに向かってやってくるではないか。

(この時間、この場所だと・・・・・永倉さんの部隊ですね。)

 ただ、永倉自身は謹慎中であるため、伍長の島田が隊を率いているはずである。沖田は身を潜めていた小路からするりと抜けだすと、『誠』の提灯に向かって手を振り始めた。それに気がついた島田が部下を引き連れ沖田に近寄ってくる。

「沖田さん!こんな所でいったいどうし・・・・・・。」

「しっ、静かに!」

 島田が大きな声を出したので、沖田がそれを制する。そして法華寺の中に視線をやりながら小声で事情を話しだした。

「・・・・・ちょっとここを通りかかったら、中に不審な人物が入っていきましてね。判っているだけで三人、もしかしたらもう少し多いかも知れません。」

 沖田の説明に島田達は驚きの表情を浮かべる。

「不審者・・・・・ですか?」

 ここ最近京都は平穏を保っていたが、年越し前に動きが激しくなってきたのかと島田達は顔を見合わせた。

「取り敢えず、中に入って様子を見ましょうか。」

 沖田は大刀に手をかけながら島田に尋ねる。否、それは尋ねる形を取ってはいたが、明らかな命令であった。

「・・・・・ですね。ところで呼子は?」

「俺が持っています。」

 島田の背後に付いていた山野八十八が懐から呼子を取り出し沖田に見せる。それを見て沖田は頷いた。

「判りました。山野さん、もし相手が十人以上いると判ったら吹いて下さい。皆、一人で二人くらいまでは相手ができるでしょう?」

「勿論です!馬鹿にしないで下さい!」

 握りこぶしを作って沖田に力説する島田に、沖田は苦笑いを浮かべる。

「島田さんだったら五人くらいあっという間になぎ倒しそうですけどね。永倉さんがいないから仕事ができない、と土方さんに嫌味を言われない為には丁度いい相手かもしれませんよ、この中でたむろっている輩は。」

 口の端に微かに笑みを浮かべると、沖田は開いている通用門から忍び込んだ。それに続き島田、そして他の平隊士らも入り込む。そして手分けしてどこに男達が居るか探索を始める。すると冬の風に運ばれて本堂の方から話し声が聞こえてきた。

「沖田さん、話し声のする本堂の方から光も漏れています。間違いなくあちらで会合が行われていると思われますが。」

 いつの間にか沖田の横に来ていた島田が沖田に本堂の様子を告げる。

「・・・・・でしょうね。行ってみましょう。」

 沖田は報告を受けると島田と共に本堂の方へ回った。すると、漏れだした話し声に気がついた平隊士たちも一人、また一人と本堂の方へやってきて全員が本堂の前に揃う。

「意外と・・・・・多いですね。中にいる奴ら。」

 山野の呟きに沖田も頷く。てっきり五、六人かと思っていた不審者だったが、話し声やうごめく影から鑑みると、どう少なく見積もっても十人はいると思われた。

「山野さん、呼子を。それと同時に相手の不意をついて一気になだれ込みます。」

「承知。」

 沖田の命令に全員が頷く。その刹那、闇を切り裂き山野の呼子が鳴り響き、本堂の扉が島田によって強引に破られた。不意を突かれた男達は動くこともままならず、その場に凍りつく。

「新選組だ!大人しく縛に付け!」

 普段の丁寧な口調とは打って変わり、厳しい沖田の声が響き渡った。その瞬間、本堂を照らしていた蝋燭は吹き消され、闇の中、鯉口を切る気配が感じられる。それに気がついた沖田はすぐさま部下達に本堂の外へ出るように指示した。

「島田さん!山野さんと上田さんと共に裏に回って下さい!残りは私とこちら側で待機!中に飛び込んだら確実に斬られます!本堂から出たところを捕縛します!」

 人数的にもこちらのほうが少ないし、状況の解らぬ闇の中に飛び込んでしまったら間違いなく膾に切り刻まれる。呼子を聞きつけた援軍―――――京都町奉行所であろうが見廻組であろうが贅沢は言っていられない―――――が来てくれるまで、本堂から敵を逃さないことが肝心だ。

(援軍が間に合うか、それとも私達がやられるか・・・・・。)

 凍えるような寒さでありながら、沖田の額には嫌な汗が滲む。さながら地獄の釜のようにぱっくりと口を開いた本堂の入り口を睨みながら、沖田は大刀の切っ先をその闇に向けた。



UP DATE 2012.12.21

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やっぱり新選組一の人斬り・沖田総司の勘は伊達じゃありませんでしたv久し振りに出会った愛しい人との会話の中でも気になるものは気になるようでして(^_^;)
そしてそんな男の上の空に気がついてしまうのが恋する乙女・小夜(笑)話に夢中になりながらもどこか落ち着きがなかったんでしょうね~。そしてそれを指摘しつつも怒ることなく総司を笑顔で送り出す・・・・・こういうところに巻いちゃうんでしょうね~^^ま、同棲を始めたらこれが日常でしょうから、小夜もある程度覚悟は決めているのかも知れません。(当時の佐幕派、維新派にかかわらず最前線で戦っている男の妻や恋人は覚悟を決めていた筈です。ていうか、その強さがなければ一緒になれないと思う><)

そんな小夜と別れ法華寺に到着した総司は、島田らと合流して法華寺に乗り込みましたが、相手は意外と多いようで・・・・・総司を含めて5~6人の新選組VS少なくとも10人以上はいるであろう不審者の集団、今年最後の更新はその戦いが中心となりそうです^^

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