「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第十六話 ぜんざい屋事件・其の肆

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見廻組が捕らえた佐々木六角源氏の一団―――――彼らについて少々説明しておく。
 彼らは元治元年一月半ばから兵庫を中心に火縄銃・陣笠・刀槍を揃えて乱暴を働いていた武装集団である。その頭領が佐々木六角源氏太夫と名乗っており、そこから『佐々木六角源氏の一団』と呼ばれていた。勿論、宇多源氏嫡流の六角佐々木氏とは全く関係なく、単にその名門を騙っていただけである。
 佐々木六角源氏太夫本人は早くから京都で志士活動をしていたが、第一次長州征伐が終った元治元年一月に浪士三百名を集め、馬印を掲げて『公辺に御味方、御与力致し候』と合唱させるなどして活動を本格化させる。そして元治二年一月二十五日『容易ならざる企て』を抱いて上京するが、翌二十六日、下河原鷲尾町の料亭で休息中に佐々木只三郎が直接率いていた見廻組の襲撃を受けて佐々木六角源氏太夫・龍王丸親子以下十二名は捕縛された。だが一部残党は逃亡し、その残党狩りが急務とされたのである。



 見廻組から佐々木六角源氏の残党狩りの要請が来たのはその日の夕刻であった。しかも驚いたことに見廻組与頭である佐々木只三郎自ら壬生の屯所にやってきたのである。

「与頭御自らお出ましとは、大した余裕だな見廻組は。」

 隊士達の騒ぎに何事かと玄関まで出てきた土方は、佐々木の顔を見た途端呆れたように肩を竦めた。

「まぁな・・・・・って言いたいところだが、残念ながら人手不足は見廻組も同様だ。こんな口実がなけりゃ息抜きも出来ねぇ。」

 軽口を叩き合いながら佐々木は局長室に上がると、近藤と土方に佐々木六角源氏一団の捕縛状況について説明する。

「・・・・・という訳だ。残党の一部は京都に残っているみたいだが、殆どは織田兵庫介に率いられて兵庫を目指して逃走している。確か今、大阪屯所に出張っている筈だよな。」

 探るような佐々木の問いに、土方が止める前に近藤が馬鹿正直に答えてしまう。

「ああ、隊の半数が大阪に出張しているが。」

 それはすなわち、京都の新選組本隊が手薄になっている事を意味する。できることなら佐々木にその事を知られたくなかった土方はしょっぱい表情を浮かべた。それに気がついた佐々木は思わず噴出す。

「土方さん、そうしょっぱい顔をするなよ。大阪であんな騒動があったんだ。仕方ないさ。だが、大阪に新選組の半数が出張っているなら好都合・・・・・佐々木六角源氏の残党を大阪で一網打尽にしてほしいんだ。奴ら、『容易ならざる企て』とやらを計画していたらしい。だからこの前あんたらが取り逃がした『ぜんざい屋』の土佐浪士と合流するかもしれない。いや、もしかしたら・・・・・。」

「すでに合流しているかもしれねぇ、ってところか。」

 佐々木の言葉に土方が唸り、腕を組んだ。『容易ならざる企て』が具体的にどんなものか未だ口を割っていないというが、一ヶ月と経過していない時点で立て続けに起こっている事件に関連が全くないとは言い切れない。

「もしかしたら天狗党や長州側と関わっているのかもしれないが、『ぜんざい屋』とも繋がりが無いとは言えない。今まで関わっていなかったとしても今回のことで結託する可能性もあるだろうしな。」

「判った。大至急大阪に連絡をしておく。で、俺達はどこを捜索すれば?」

「いつもの巡察範囲で充分だ。俺達や町奉行所の縄張りは荒らすなよ。」

 冗談めかしながらそう言うと、佐々木は冷め切った茶を一気に飲み干した。

「しかし、あんたらの顔を見ながら酒じゃなく茶をすする、ってぇのもしけた話だな。ここ最近は互いに忙しくて一緒に飲みに行っていないし、今度島原にでもいかないか?」

 佐々木は酒を飲み干す仕草をする。それに対し、近藤と土方は苦笑いを浮かべる。

「いいのか、佐々木さん?部下に示しがつかんだろう。競争相手の親玉を捕まえて飲みに誘うなんて。ま、きらいじゃないけどな。」

「近藤さんならそう言ってくれると思ったぜ。歳さんは?酒が駄目なら女だけでもいいぜ?」

「まるで人を好きものみてぇに言いやがって・・・・・ま、桜の咲く頃なら屯所の移転も終わっているだろうから構わねぇぜ。」

 屯所移転、という一言を聞いて佐々木が軽く驚きの表情を浮かべた。

「ほう、ようやく移転か。だいぶ隊士も多くなってきたし、さすがにここからだと町中の巡察にはちょっと遠いしな。」

「それだけじゃねぇ。そろそろ家を返してくれって家主にせっつかれている。」

 屯所移転の『本当の理由』が土方の口から零れた瞬間、佐々木が腹を抱えて笑い出す。

「ははは、なるほどな!確かに新選組の連中みてぇなガラの悪い連中に乗っ取られてりゃ返してくれ、って言い出すか!」

「人聞きの悪い!ガラの悪さは見廻組ほどじゃねぇぞ、佐々木さん。」

 土方の言葉に三人の笑いは止まらなかった。



 佐々木が屯所から去っていった後、土方は早速大阪に早飛脚を出した。そして幹部達を招集し、見廻組からの要請を伝える。

「・・・・・その『容易ならざる企て』とやらの詳細はまだ吐いてねぇって事だが、もしかしたら『ぜんざい屋』と結託して同時に事を起こす予定だったかもしれねぇ。それを確かめる為にも残党狩りを徹底しろ!」

 その瞬間、助勤達を始め若い隊士達の目が輝き出す。それもそうだろう、『ぜんざい屋』の捜索が行き詰まり、どんよりとした空気が漂っていた最中である。もしかしたら『ぜんざい屋』の手がかりが掴めるかもしれないと皆色めき立つ。

「承知!絶対に残党どもを捕縛するぜ!」

「応っ!!」

 正直近所迷惑なほど元気な鬨の声と共に、若い隊士達は夜の京都へと飛び出して行った。



 一方、大阪へ送った織田兵庫介らの集団捕縛命令は二十六日の深夜に山崎へ届けられた。そして山崎は受け取った命令書を懐に、屯所ではなくすぐ近くにある万太郎の道場へ出向く。

「万太郎センセ、こんばんは。『道場破り』に来ましたえ。それにしても遅うまで精が出ますなぁ。」

 道場に灯りが灯り、素振りの気配を確認してから、ふらりと入ってきた山崎に万太郎は苦笑する。

「まったく山崎さんは・・・・・確かに昼日中ここに入ることは難しいでしょうけど、夜中の『道場破り』もないでしょう。ところで要件は?」

 額に滲む汗を拭いながら万太郎は山崎に語りかける。山崎がこの道場に直接やってくるということは、新選組、しかも極めて重要かつ極秘の用事がある時だけだ。案の定山崎は真顔になると、万太郎に近づき小声で事情を語りはじめた。

「壬生から、出動要請や。」

 山崎は土方からの指令書を広げる。

「今度は佐々木六角源氏、ちゅう輩らしい。もしかしたらこの前の『ぜんざい屋』と結託している可能性があるかもしれへんと。」

 そこで山崎はふと声を止める。そして戸の向こう側に向かって声をかけた。

「すんまへん、ご新造はん!すぐ帰りますさかいお茶はご遠慮させてもらいます!」

 山崎の言葉に万太郎ははっとし、戸の方を振り返る。いつの間にか万太郎の妻が忍び寄ってきていたらしい。だが、山崎の言葉に諦めたのか、戸の向こう側の気配は黙ったまま去っていった。

「あんたの嫁はん・・・・・旦那の仕事の話を盗み聞きするやなんて。どうやら副長の杞憂や無かったようやな。万はん、あの嫁はんにはもうちっと気ぃ付けたほうがええと思うで。」

 険しい声で山崎が万太郎に忠告する。

「もしかして山崎さん、それを確かめにうちの道場に来たのか?」

 疑り深そうに尋ねる万太郎に対し、山崎は苦笑しながら首を振った。

「それもある。せやけどそれ以上にこの前と同じ失敗をされたらあかんと思うてな。この時間やったらあんたの兄はんや弟子だけやなく、他の奴らにも酒が入っている可能性があるやろ。」

 確かにその指摘は悲しいほど的を射ていた。山崎の指摘に万太郎は頷くことしかできない。

「否定出来ないところが情けないところだが・・・・・。」

「せやから明日の朝にこの件を知らせるんや。三十郎はんや三木はんあたりは酒が残ってはるやろうと思うけど、少なくとも篠原はんやったら何とか使えるやろ。」

「篠原さん・・・・・ねぇ。」

 複雑そうな表情を見せた万太郎に、山崎は釘を刺す。

「万さんの嫁はんを狙うてるらしいけど、この際文句は言えへん。使えるもんは猫の手ぇさえ使いたいんや。」

 山崎の真剣な眼差しに万太郎も頷かざるを得なかった。

「今夜中にわてらで潜伏先を探しまひょ。そこを・・・・・。」

「一網打尽、というところですか。承知しました。門弟の何人か使えるものがいますので彼らにも手伝わせます。」

 その頼もしい言葉に山崎も嬉しげに頷く。かくして真夜中の捜索が始まった。



 大阪における真夜中の探索の結果、以外と簡単に残党を見つけることが出来た。その特徴的な姿から目撃者が多かったのだ。
 残党二十四名は織田兵庫介に率いられて兵庫を目指して逃走していたが、二十七日昼前に大坂堂島の旅籠・播磨屋で新選組三十名に包囲された。これは大阪に出張していた新選組隊士全員であり、いかに大きな捕物だったかを物語る。さすがにこれだけの大人数が捕物に参加しただけに事は順調に運び、手向かった鈴木四郎という浪士が斬られた以外、残り二十三名は大した怪我もなく全員捕縛された。京都の斬刀狩りにおいても新選組は複数人の残党の捕縛に成功しており、この件に関しては成功したといえる。だが佐々木六角源氏一団の取調べの結果、天狗党とも長州藩とも、さらにはぜんざい屋事件の土佐浪士達とも無関係と判明し、大坂奉行所に引き渡されることになった。

「ちっ、結局『ぜんざい屋』とは何の関係も無かったとはな。とどのつまり、佐々木さんにいいように利用されただけじゃねぇか。」

 煙管を苛立たしげに噛みながら土方は沖田に文句を言う。

「佐々木さんだって悪気があったわけじゃないと思いますよ。何せあの時は何の白状もしなかったんですから。」

 沖田の宥めもなんの役にも立たなかった。結局佐々木六角源氏の集団は名家を騙ったならず者の集団だった。志も何もなく、ただ京洛を騒がせただけ―――――無駄な労力を強いられたのである。

「ああ!何もかもうまくいかねぇな!」

 思わずぼやく土方の一言に、沖田はただ頷くことしか出来なかった。



 そんな騒動があった一月も終わろうとしていた三十日、とんでもない話が壬生屯所に飛び込んでくる。松平容保が将軍家茂の上洛要請のため東下を志し、朝廷に裁可を請うたのである。この事が、土方にある決意をさせることになる。


UP DATE 2013.2.1

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助太刀をした『佐々木六角源氏』事件の方は新選組の活躍もあり解決することが出来ましたが、肝心のぜんざい屋事件とは全く関係ありませんでした(^_^;)三十名も出動する大捕物だったにも拘わらず、自分達が担当している事件の役に立たないなんて・・・・・悲しいものがあります。今回たまたま新選組側に怪我人はいませんでしたが、一歩間違えば数人の怪我人、下手をしたら死者を出していたかもしれない大捕物・・・・・この時代の治安を守るのは本当に大変だったと思います。

こんな感じで『何となくついていない』新選組ですが、これからさらについていない事態が立て続けに起こります。次回更新2/8から始まる『望み、散る(仮題)』、続く『山南切腹』となるのですが・・・・・色々な望みが叶えられない事態が起こりそうです。
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