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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第四章

夏虫~新選組異聞~ 第四章 第十七話 希望、散る・其の壹

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松平容保の東下申請―――――それはぜんざい屋事件や佐々木六角源氏の残党狩りに追われていた新選組にとってあまりにも急な話しであった。だが、新選組も決してこの話に無縁だったわけではない。昨年末の東下に於いて、近藤は非力ながらも将軍の上洛要請の嘆願を幕府に出していた。これは近藤自らの意思というより、むしろ会津の意思によって近藤が動いたといって良いだろう。結局近藤の要請は江戸によって却下されてしまったが、今度は容保直々に東下し、将軍上洛を申請しようというのである。そして申請を出した次の日、朝廷によって容保の東下は裁可されるに至った。

「会津公の東下って・・・・・近藤さん、その話は本当なのか?」

 黒谷から帰ってきた近藤からその話を聞き、土方は驚愕する。

「ああ。俺も非力ながら大樹公の上洛を要請したが叶わなかったし、会津公を始め京都に居る諸侯は皆、大樹公の上洛を願っている。会津公御自ら病の身をおして東下し、上洛を願えばきっと大樹公も上洛して下さるに違いない。」

 そう土方に語る近藤の表情はどこまでも晴れやかだった。長州討伐に勝利しながら、長州側には最小限の損失しか与えられなかった為、早々に水面下では長州側が動き出している。それを感じてか『ぜんざい屋』や『佐々木六角源氏』のような輩も次々現れ、新選組らを翻弄するのだ。それらに睨みを効かせるためにはやはり将軍という『重石』が上洛することが必要となってくる。

「先の討伐で長州藩を完膚なきまでに叩き潰しておけば、会津公も無理をしなくて済んだのに、気の毒な話だよ。」

 健康であっても東下、上洛は大仕事である。それを病身の会津公が行おうとしているのである。それを近藤は心配していたが、土方の関心はすでに別のところにあった。

「近藤さん・・・・・俺も会津公の東下に付き従っていいか?」

 思いつめたようなその口調に、近藤は細い目を大きく見開く。

「一体どういう風の吹き回しだ、歳?」

「隊士募集だよ。新しい屯所は大きくなるし、会津からも百人規模にしろと言われている。今回の東下から帰ってくる頃には新入隊士をそのまま新しい屯所に入ることもできるだろうし、またとない機会だと思わないか、近藤さん。」

 まるで昔から考えていたような口調で土方は近藤に自らの東下理由を並べ立てたが、言葉に出来ないもう一つの理由も近藤は知っていた。

(まだ・・・・・お琴さんからの知らせは無いのか。)

 去年の半ばまで事あるごとに土方の許に届いていた琴からの手紙がここ最近来ていない。つい最近では江戸からの年賀状に琴からのものが無かったのを近藤は記憶していた。そしてそれを知った時、一瞬だけだったが土方がかなり落胆した事も近藤は知っている。
 確かに京都での務めも重要だが、支えてくれる女(ひと)があってこそ力を存分に発揮できるのではないか―――――無粋な近藤さえそう思う。新選組副長になってから、ただ一つも私的な我儘を望んだことが無い土方が望む東下、近藤としてもそれを叶えてやりたいと切に願う。

「歳・・・・・行ってこい。京都の事は心配するな。」

 長々とした説明は要らない。近藤のこの一言に全てが含まれていた。

「済まねぇ、近藤さん・・・・・恩に着る。」

 土方は自分の我儘を受け入れてくれた近藤に一礼すると、衣紋掛けにかかっていた羽織をひったくる。そして驚く隊士達を尻目に黒谷に向かって走り出していた。



 黒谷に到着すると、土方は半ば強引に公用方の広沢を呼び出し容保の東下に自分を随行させろと迫った。

「頼みます!この通り!!」

 土方は自分の希望を一気にまくし立てると、畳に額を擦り付けた。

「・・・・・連れて行けと言われてもなぁ。俺の一存でどうこうできる話ではないし。」

 土下座をしたまま微動だにしない土方に対し、困惑の表情で広沢が唸る。

「そもそも我が殿とて朝廷から許可が降りただけで何時出立できるか判らんのだ。それに新選組は未だ『ぜんざい屋』の下手人を捕まえておらぬ。そちらの方が先決ではないのか?」

 痛いところを突いてくる広沢に土方は一瞬怯むが、それでも必死に喰らいつく。

「そ、それは局長の近藤を筆頭に隊士達が捜索中ですので・・・・・。」

「だが、実働部隊の『頭』がいなくてはいざというとき困る。特に我が殿が京洛を離れる時ほど、後の護りは固めなくてはならないのだ。もしお前が東下している最中、大きな事件があったらどうなるか・・・・・それくらいお前だって解るだろう。」

「・・・・・。」

 広沢の言葉は全て理にかなっている。もし土方が広沢の立場であれば、否、琴の事がなければ同じように考えるに違いない。

「屯所の移転も近づいているが、『西』は未だごねている。我が殿と共にお前がいないとなれば彼奴らは話を反故にするだろう。人の良い近藤では心許ないし・・・・・。」

 広沢が言いかけたその時である。不意に土方の背後の襖が開き、少年の声が部屋に響いたのである。

「土方、殿が直々にお呼びだ。特別に寝所への入室を許可するので付いてまいれ。」

 感情のない、ぞんざいな言葉遣いは容保の小姓のものであった。

「何故殿が土方の来訪をご存知なのだ?」

 まるで自分の不手際を密告されたような、不快な感覚を覚え広沢が小姓に尋ねる。

「広沢殿が珍しく苦戦しているのを殿に告げたものがおります。それ以上知る必要は無いでしょう。」

 可愛げの欠片もない物言いに広沢の表情がますます不快げに歪む。その表情を笑いを押し殺しつつ見つめながら、土方はある事に思い至る。

(会津公に直訴すればもしかしたら・・・・・東下に随行できるかもしれない。)

 急にやってきた思わぬ好機を逃すまいと、土方は膝の上の拳を強く握りしめた。



 だが、土方の願いも虚しく、申し出はあえなく却下されたのである。



 容保の寝所に通された土方は、容保を見た瞬間思わず息を呑んだ。容保の体調はかなり悪いらしく顔色は青ざめ、小姓に支えられ上体を起こすのがやっとである。だが、その声は以外に力強かった。

「土方、そなたの気持ちは誠にありがたい。だが、京都だけでなく大阪にも不穏な空気が漂っている中、新選組には我が留守の間、京都の護りを頼みたいのだ。大樹公の上洛が果たされれば少しは過激な不逞者達もなりを潜めるだろう。」

「・・・・・御意。」

 今にも消え入りそうな声で土方は返事をする。

「どちらにしろ、近々隊士募集のため東下してもらうことになるやもしれぬ。西本願寺に屯所を移せば百人、否、百五十人は隊士を受け入れることができるだろう。だが、今はその時ではない。そなたの気持ちはありがたいが、今回の東下は諦めてくれ。」

 豪胆な会津武士の頭領とは思えぬほど穏やかに、そして丁寧に容保は土方を説得する。病の床からここまで丁重な説得を受けてしまえば、さすがの土方もしつこく食い下がることもできない。これならば広沢に対しごねていた方が話が通ったかもしれないと、土方は心中でで諦観のため息を吐いた。



 地面に沈み込みそうなほどの深い落胆を抱え、屯所に帰ってきた土方を待っていたのは江戸からの二通の手紙であった。その中にはやはり琴からのものは入っていない。

(畜生!どうも最近星回りが良くねぇ!琴の奴もどこまで強情なんだ!)

 思い通りにならない苛立ちを、遠く江戸に居る琴に八つ当たりする。一体どうしてこんな事になってしまったのだろうか―――――近くで暮らしていれば単なる悪ふざけで済んでしまうことでも、距離と時間がそれを疑心暗鬼に育て上げてしまう。今更ながら土方は自分の子供じみた悪ふざけを後悔する。

(調子に乗って娼妓からの誘い文なんか送るんじゃなかった。)

 だが、今更嘆いても後の祭りである。陰鬱な気持ちをひた隠しながら土方は自分宛の手紙を改めて確認する。

「お、彦兄と・・・・・のぶ姉からか。それにしてものぶ姉の手紙はやけに分厚いな。何か入っているのか?」

 土方は副長室に閉じこもると、早速彦五郎の手紙から開いた。それは年賀状の返事と日野の近況、そして以前送った『行軍録』に山南と永倉の名前が無い事を心配する内容だった。

「ああ、そういや新八や山南さんの名前は行軍録への記載を控えたっけ。直後に出兵する気満々だったからなぁ、あの時は。」

 彦五郎からの手紙を読み進めながら土方は苦笑する。行軍録を書いた当時、永倉は謹慎中であったし、山南は腕の古傷が原因で出兵できない為それぞれ名前を書かなかっただけである。
 また山南に関しては、自分や近藤に何かあった時に隊をまとめてもらう為、生きていてもらわねば困るという事情もあった。だが、その事を彦五郎らには一切伝えていなかったので変な疑いを持ってしまったのだろう。

「面倒臭ぇが、返事にはその辺りの理由を書かなきゃならねぇな。」

 土方は彦五郎からの手紙を丁寧にたたみ文机に置くと、今度は姉・のぶからの手紙を開く。その瞬間、何かが土方の足元に落ちる。

「こ・・・・・これは!」

 落ちたものを土方は慌てて拾い上げる。それは土方が琴と婚約した際、琴に送った櫛だった。

「何で・・・・・何でこんなもんがのぶ姉の手紙に入っているんだよ!」

 櫛は共に生きていこうと誓った相手に送るものであり、それを突き返されるという事は女の方が愛想を尽かしたということを意味する。実際は男からの申し出によらねば婚約を解消することはできないが、ここまで来ると修復は極めて難しい。

(何か・・・・・のぶ姉の手が見に、琴について何か書いてねぇか!)

 土方は手にした櫛を懐に仕舞いこむと、もどかしげにのぶからの手紙を広げる。そして読み進めるうちにその表情は強張っていく。

「嘘・・・・・だろう。俺は・・・・・絶対に信じねぇからな。」

 土方は怒りを押し殺した声で呟く。のぶの手紙に書かれていたもの、それは琴が直々に日野の彦五郎の許に訪れ、内々に婚約の解消を嘆願したというものであった。



UP DATE 2013.2.8

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『何となくついていない』状態だった先週から、今週はさらにver.UPして『信じられないくらいついていない』状態に陥りました、土方限定で(^_^;)
容保の東下に合わせて東下を希望したのに容保直々に却下され、さらにはのぶ姉の手紙には琴から突っ返された櫛まで入っているという(江戸時代の櫛=現代の婚約指輪、または結婚指輪みたいな意味と捉えて下さいv)・・・・・本人から直接返されるのならまだしも、姉夫婦を通じてというのはかなり重症でしょう(^_^;)
詳細は次回に書かせて頂きますが、彦五郎に口添えを頼んだとも思えるこの行動に琴の本気が透けて見えます。(土方本家に直接行くのは気が引けたのでしょうかねぇ^^;)

次回更新は2/15、のぶの手紙の詳細&助勤達の休息所探しにおける苦戦を取り上げたいと思いますv
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後の祭りというやつですかね(^_^;) 

そうなんですよ~(>_<)
遠くに出てきちゃって羽根を伸ばしすぎただけでなく、恋文の束を日野に送っちゃいましたしねぇ(^_^;)
次回おのぶさんの手紙の詳細を明らかにしますので宜しかったらお付き合いおねがいしますね♪
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