FC2ブログ

「紅柊(R-15~大人向け)」
甲午・春夏の章

桜ひとひら・其の貳~天保五年三月の変化

 ←逃亡者櫻 リベンジ開始1 →拍手お返事&今年の春は肌の調子がかなり良いかもしれない(例年比)
春にしては少々ひんやりしている山田邸に、花見帰りの酔っぱらいの声が響き渡る。

「山田ゆきぃ、たらいま紀州様のところから帰還しましたぁ~っ、と!」

 その声に慌てて玄関に飛び出した五三郎は、幸を見た瞬間ぎょっ、としする。そこにはごきげんよろしくへべれけに酔っ払った幸と、それを支えている二人の付き添い―――――どうやら紀州徳川家の者らしい、若い侍と中年の奥女中がいた。

「あ、あにさまぁ~。たらいまぁ!」

 五三郎に気が付いた幸は両手を振りながら五三郎に笑いかける。今日の幸は御三家の宴に呼ばれてただけあり、錆浅葱の紋付に中高島田といういつもよりきちんとした格好をしていた。それだけに酔っぱらいの醜態が目に余る。普段あまりうるさいことを言わない五三郎だが、今回ばかりはさすがに腹に据えかねた。

「おい、幸!おめぇ、どんだけ酒飲んで来やがっ・・・・・。」

「申し訳ございません!」

 五三郎の怒声が終わる前に幸を支えていた若い武士と中年の奥女中らしき女が深々と頭を下げる。

「え・・・・・あ、あの・・・・・・。」

 明らかに自分よりも身分が上と思われる二人に深々とあたまを下げられ、五三郎は動揺する。そして二人が頭を下げた瞬間、支えを失った幸はふらふらと五三郎の傍へ歩み寄り、そのまましなだれかかった。

「おっと。」

 よろけた幸をそのまま抱きとめた五三郎だったが、次の瞬間思いっきり顔を顰める。

「うわっ、酒臭ぇ!どんだけ飲んできたんだ、おめぇ。」

 試し切り後の宴会など、そこそこ飲む機会が多く酔っぱらいには慣れているはずの五三郎でさえ思わず顔を背けてしまうほどの酒臭さである。最低でも五合、下手をすれば一升近く飲んできたかもしれない。そんな五三郎の反応に、若い侍と中年の奥女中はますます身体を小さくして頭を下げた。

「わたくし、紀州家中奥向中臈を努めております阿佐山と申します。此の度は誠に申し訳ございませぬ。奥方様が進める御酒を我々も止めることが出来ませなんだ・・・・・。」

「御三家の奥方様に酒を勧められて断れる人間はそうそうおりませんよ。しかも家臣であれば尚更・・・・・ですが、限度というものがあるでしょう。」

 五三郎の声が険を含む。相手の方が遥かに身分は上だが、こちらにも将軍家御様御用を任されているという自負があり、幸はその跡取り娘なのだ。たとえ相手が御三家であろうと通さねばならない筋というものはある。

「・・・・・事と次第によっては上様にご報告することになりますが、その覚悟はおありでしょうか?」

 五三郎は幸を抱きかかえながら二人を睨みつけ、その視線に二人はますます縮こまる。一触即発の不穏な空気が漂うが、その空気を一瞬にしてぶち壊したのは五三郎の腕の中にいる酔っぱらいであった。

「まぁまぁ、あにさまぁ、いいじゃないれすかぁ。楽しかったんれすしぃ。怖い顔はやめてくらさいよぉ。」

 けらけらと笑いながら幸は五三郎の頬を引っ張る。まるで子供の悪戯のような幸の仕草に、縮こまっていた二人の使者もほっとした表情を浮かべた。

「馬鹿か、おめぇ!楽しけりゃいいってもんじゃねぇだろう!仮にも武士の娘が!」

 頬を引っ張られながら五三郎は幸を叱り飛ばすが、幸は五三郎の頬をこねくり回しながら言葉を続ける。

「らってぇ、紀州の奥方さま、去年までいっつもさみしいお顔されてたのにぃ、今年は美佐のご中臈がいらしてにこにこしてたんれすよぉ。」

「はぁ?美佐の・・・・・ご中臈ぅ?」

 事情が飲み込めず、五三郎は素っ頓狂な声を出すが、それを補ったのは中年の奥女中であった。

「実はこの春から江戸藩邸に上がった中臈がいるのですが、その娘が奥方様の亡くなった娘によく似ておりまして・・・・・子を失ってから十年余り、塞ぎ込み、御酒に酔うことで淋しさを紛らわせていた奥方様にようやく笑顔が戻ったのです。」

 奥女中の言葉を引き継いで今度は若い侍が続ける。

「何せ殿御自ら国許で探した娘ですから、才色兼備で後々は側室になるのでは、と表まで評判になっております。ただ、殿より先に奥方様のお気に入りになってしまい、殿でさえなかなか顔を合わせることができないとか・・・・・。」

「・・・・・だったら酒の量は減るものですよね?」

 普通だったら、悲しみも癒え酒量は減るものだろう。だが、今年の幸は明らかに去年より多く酒を飲んでいる。その疑問に答えたのは中年の奥女中であった。

「それが、嬉しさのあまり美佐の中臈を侍らせて飲めや歌えやの宴をするようになりまして。その雰囲気に呑まれて客人が潰されることも多くなっているのです。また、美佐の中臈がまだ白酒しか許されていないとはいえ奥方と張る酒豪でして・・・・・この春、お幸様で二十人目です。」

 確かに御三家の奥方、そして奥方お気に入りの中臈が勢い良く飲んでいるところ、勧められた酒を断るわけにもいかなかったのだろう。五三郎は自分の頬を引っ張って遊んでいる幸の背中に回した手に力を込める。

「・・・・・なのでお幸様には何の落ち度も御座いません、そのことだけを山田浅右衛門殿にお伝え願えればと。」

 奥女中の言葉に続いて、若侍も再び頭を下げる。この二人は客人が酔いつぶれる度、こうやって謝罪に回っているのだろう。

「承知しました。六代目には拙者から事情を伝えておきます。」

 ふにゃふにゃと今にも崩れ落ちそうな幸を抱きかかえたまま、五三郎は厳しい表情のまま二人に告げた。



 五三郎は幸を引っ張りながら幸の寝室がある二階へと上がろうとしたが、階段の下で幸がふにゃりと膝から崩れ落ちた。完全に酔いが脚にきているらしい。

「おい、五三郎。大丈夫か?」

 様子を見に来た吉昌が五三郎に声をかける。

「大丈夫じゃありませんよ、お師匠様!まったく、紀州の奥方も奥方たが、幸坊も適当に誤魔化しゃいいものを・・・・・今度登城した際、お師匠様から紀州様に伝えておいてくださいよ!今年は特にひどすぎるって!」

 五三郎は吉昌に愚痴をこぼすと、足許に崩れ落ちている幸を両腕で抱えた。本来、剣士は重たいものを持ってはいけないと言われているが、五三郎は全く気にしていない。
 特に『刀に斬らせる』という、試し切りの極意の一つを身につけてからはそれが顕著だ。片腕斬りを習得したり、腕を折られても罪人の首を斬った事がある意味自信に繋がっているのかもしれない。

「この酔っぱらい、東の座敷に転がしておきます。あそこなら厠も近いし、間に合わなけりゃ庭に吐かせておけばいいですよね。」

 呆れ口調で呟くと、五三郎は幸を東側に面した四畳半の小部屋に運んでいった。仲間内では『酔っぱらい部屋』と称されている部屋で、道場で宴会があった際、酔いつぶれた門弟が放り込まれる部屋でもある。近くに厠も手水場もあるだけに何かと都合が良い。

「ほら、幸!しゃきっとしろ!」

 五三郎は畳の上に幸を下ろすと、その頬をぺちぺちと軽く叩く。

「ふぇ?ここは・・・・・?何で兄様がこんなところに・・・・・?」

 上半身を起こしながら、幸はぼんやりと五三郎の顔を見つめる。

「・・・・・おめぇ、まだ紀州様のところにいるつもりでいるな?ここは平河町の道場だ。おめぇは呑んだくれて紀州様の家臣に送ってもらってきたんだ。覚えちゃいねぇだろうけどよ。」

 五三郎の説明を聞いているのかいないのか、幸は酔っぱらい特有のとろんとした目で周囲を見回していた。錆浅葱の訪問着のまま横座りしているので、裾が乱れて脛の中ほどまで見えてしまっている。なまじ渋い色味の訪問着だけに、幸の脚の白さが余計に際立ってしまう。そして、その乱れた裾に気がついた五三郎の胸は高鳴り、急に照れくささを覚えた。

「ま・・・・まぁ、そんな事はどうでもいい!それより早く着替えちまえ!いつまでもそんな格好で座り込んでいると折角の一張羅が皺になるぞ!今着替えを持ってきてやるから!」

 一瞬でも邪な想いをよぎらせてしまった事を隠すかのように、五三郎はさっさと部屋を後にした。



 二階へ続く階段を上がりながら、五三郎はぶつぶつとぼやく。

「畜生、ガキのくせして色気だけは一人前って・・・・・。」

 肩を怒らせ呟く五三郎だったが、不意に幸がもう十六歳だということに思い至る。人妻であっても何らおかしくない年齢なのだ。

(な・・・・・何を!余計なことを考えるんじゃねぇ!)

 五三郎は二階に駆け上がり幸の部屋に入ると、入口近くにあった行李の中から桜鼠の長着を引っ張りだす。そしてさっさと用事を済ませてしまおうと、幸がいる東座敷へと戻った。

「お~い、幸!着替えを持ってきてやったから着替えを・・・・・!」

 襖を開けるなり、五三郎は言葉を失う。そこには襦袢姿で倒れ込んでいる―――――否、眠りこけている幸がいたのだ。辛うじて錆浅葱の小袖と桜の刺繍が入った丸帯だけは衣紋掛けに掛けたようだが、そこで力尽きたらしい。しかも湯文字が太腿の中ほどまでめくれ上がり、幸の細く、形の良い脚が顕わになっているではないか。

「お、おい!幸!お、お・・・・・起きやがれっ!風邪引いちまうぞっ!」

 五三郎は慌てて手にしていた桜鼠の長着を幸の脚に被せる。そして立て続けざまに身体を強く揺するが、幸は全く起きようとしない。

「もう・・・・・勘弁してくれよ。」

 五三郎は疲れ果てた表情で幸のすぐ傍に胡座をかき、肩を落とす。頑是無い子供が寝相悪く着物の裾を乱すのなら可愛げがあるが、惚れた女にやられる身としては堪ったものではない。絶対に食べてはいけない据え膳を―――――しかもそれが一番の好物となれはどんな男だって苦悩する。だがこの魅惑的な『据え膳』は、自分が『山田浅右衛門』の銘を得るまでは絶対に手を出してはいけないのだ。
 五三郎は幸の身体を冷やさぬよう自分の羽織を脱ぎ、幸の肩口にそれをかけようとした。その時である。

「う・・・・・うん・・・・・。」

 少し苦しげな呻き声と共に幸が五三郎の方へ寝返りを打つ。その瞬間、五三郎の目に飛び込んできたのは寝乱れてかなり緩んでいた襟元、そしてその奥にちらりと見える胸の膨らみであった。華奢な身体からは想像もつかない、意外なほど豊かな胸の膨らみに五三郎の目は引き寄せられてしまう。

「だ・・・・・駄目だ!」

 さすがにこれはいけないと幸の顔に視線をずらしたが、それもまたいけなかった。まだあどけなさが残る無邪気な表情とは不釣り合いな、半開きになった唇が妙に色っぽい。紅を差していたはずだが、酒で落ちてしまったのだろう。ほんのりと桜色をした唇がまるで五三郎を誘っているかのようにしっとりと濡れている。

「もう・・・・・勘弁してくれっ!」

 五三郎は己の邪念を振り払うかのようにぎゅっ、と目を瞑り、自分の羽織を幸にかけた。大柄な五三郎の羽織は、幸の顔半分から下、柔らかな曲線を描く尻のあたりまですっぽりと覆い隠す。色気の欠片もない、男物の羽織で邪念の元凶を隠したことでようやく五三郎はひと息つく。

「おい、幸坊・・・・・とっとと起きやがれ、この餓鬼!」

 ひと息ついたとはいえそれはあくまでも一時的なこと、五三郎の我慢は限界寸前である。だが、そんな五三郎の気持ちを知ってか知らずか、幸はなかなか起きようとはしなかった。



UP DATE 2013.3.12

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





珍しい、というか初めてかもしれない大トラ・幸です(^_^;)普段はきちんとコントロールして飲む子なんですけどねぇ・・・・・さすがに紀州様の奥方&お気に入りの中臈に勧められては断れなかったのでしょう。しかも今まで暗く塞ぎ込んでいた奥方が、娘代わりのお気に入りの中臈を侍らせテンション高めに酒を勧めてくれば悪い気はしないでしょう。幸も楽しいお酒だったようですv

ただ、大変なのは世話をする方で・・・・・誰も手伝ってくれず、五三郎一人が酔っ払い幸の世話を任されてます(^_^;)これは子供時代から幸の世話=五三郎の仕事、という流れになっているからでしょうか。他の大人達も五三郎に任せておけば大丈夫だと思っているフシがあるようです。気の毒に・・・・・(五三郎ももう少し大人だったら役得vと開き直れるのでしょうが・・・・・こいつも結局ガキなんです^^;)

酔って身体が火照っているせいでしょうか、やけに寝相が悪い幸とそれに翻弄される五三郎、次回はどんな展開が待っているんでしょうかvネタバレしちゃうと面白さが半減してしまう話ですので今回はこの辺で。更新日は3/19を予定しております^^
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【逃亡者櫻 リベンジ開始1】へ  【拍手お返事&今年の春は肌の調子がかなり良いかもしれない(例年比)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【逃亡者櫻 リベンジ開始1】へ
  • 【拍手お返事&今年の春は肌の調子がかなり良いかもしれない(例年比)】へ