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「短編小説」
横浜恋釉

横浜恋釉~守り猫と虔太の告白

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菖蒲の花も盛りを超え、牡丹が今は盛りと咲き乱れる。どうやらここの主だった男・九条は『百花の王』を殊の外愛していたらしい―――――滝沢虔太は庭に咲く牡丹を窓越しに見つめながら確信した。横浜の別邸にも牡丹をあしらった調度が多いが、本邸ほど華やかで高価な物は置いていないし、本物の牡丹も植えていない。
 そんな男の好みが娘にも影響するのだろうか。九条の愛娘・董子も百花の王の如く華やかである。虔太を出迎えた董子は淡い朱鷺色の倫子地に紅白の牡丹をあしらった振袖を身に付けていた。それに合わせた帯には勇ましい、というよりむしろ愛嬌を感じる唐獅子があしらわれており、蝶と共に遊んでいる。
 ただ、あまりにじろじろ見つめてしまうと自分の下心が見透かされてしまいそうで、虔太は董子をちらりと見ただけであえて彼女から視線を逸らした。

「さすがに本邸は大きいですね。これならうちの会社の東京での拠点として充分すぎます。」

 虔太は屋敷を見回しながら感嘆の声を上げる。だが、目の前にいる董子は怪訝そうな表情を浮かべるばかりであった。

「そうかしら?確かに野毛の別宅よりは広いと思うけど・・・・・華族の屋敷としては小さい方よ。」

 確かに董子の指摘通りだった。立ち並ぶ華族の屋敷の中において九条邸は特に大きい訳ではない。だが、虔太が東京に進出する為の足掛かりには充分すぎるほどの大きさだったのである。

「でも、良いんですか董子さん?横浜の別荘ではなく東京の方を引き払ってしまって。」

 この屋敷は一人娘の董子が相続したものであり、最も大きな財産でもある。虔太は心配になり董子に改めて尋ねた。だが、董子の決意は固いものだった。

「ええ、今の私じゃ地租のお支払いはできないし、それに・・・・・。」

 言いかけた董子の表情が不意に険しくなる。

「こちらの家にあの男がしつこくやって来るんですの!」

 怒りを露にした董子の言葉に虔太は驚きの表情を浮かべた。

「あの男ってまさか・・・・・西園寺宗聖ですか?」

「ええ!あれだけ辱めを受けたのに、性懲りもなく・・・・・。」

 怒り心頭の董子に対し、虔太は腕組みをして考え込んでしまった。西園寺が訪ねてくるとなると、何時なんどき董子にその手が伸びてくるか判らない。最悪怪我をさせられる可能性もあるのだ。

「・・・・・そうなるとやはり東京の屋敷では危険極まりないですね。判りました。ではこちらの邸宅、遠慮なく使わせてもらいます。」

 虔太の頼もしい言葉に、董子は安堵の微笑みを浮かべた。だが、虔太は未来永劫この邸宅を自分のものにしておくつもりは毛頭ない。何時の日か―――――董子が借金の為に手放してしまった調度や骨董も全て買い戻し、以前と同じ姿で董子に返すつもりでいた。それまでの間東京での足掛かりとして借り、返す時に董子に求婚することができるほど社会的な地位を確立出来れば―――――虔太はそう意思を固めていた。
 ただ、自分に董子への告白の勇気が持てるかどうかは定かではない。虔太の心にほんの少しだけ不安が過ぎったその時である。

「あれ・・・・・あの猫、どこかで見たような・・・・・。」

 ふと、扉の辺りを見た虔太が驚きの声を上げた。そこにいたのは何の変哲もない黒ぶちの猫だった。が、同じような猫の彫刻が施された水指が別荘にあるのだ。まるで別荘の彫刻が動き出してこちらの邸宅にやってきてしまった様な錯覚に虔太は陥る。

「ああ、あれはわたくしの飼い猫ですの。獅子丸、おいで。」

 董子は蕩けるような笑みを浮かべ、ぶち猫を呼んだ。すると猫はすたすたとやってきて董子の脚に体を擦り付け始めたのである。猫にしてはやけに人懐こいその仕草に、虔太は思わず微笑みを浮かべてしまう。

「猫にしてはだいぶ人懐っこいんですね。」

「ええ。それがまた愛おしくって。」

 今まで気が付かなかったが、どうやら董子は相当な猫好きなのかもしれない。

「勿論この子も別宅に連れて行くんですよね。」

 何気なく董子に尋ねた虔太だったが、その瞬間董子が微かに目結を顰める。

「・・・・・大丈夫かしら。猫は土地に付く、って言うし。」

「大丈夫ですよ、きっと。」

 虔太はようやく董子の足許から離れたぶち猫を抱き上げた。その時である、不意にぶち猫が暴れだし、虔太の手を引っ掻き、床に飛び降りたのである。

「虔太さん!」

 董子は慌ててぶち猫に引っかかれた虔太の手を取った。

「大丈夫?普段は大人しい子なのに・・・・・獅子丸!」

 董子はテーブルの下に逃げ込んだぶち猫を叱るが、虔太はそれをやんわりと止める。

「大した怪我じゃありませんから。きっと獅子丸は牡丹を護る唐獅子のつもりでいるのでしょう。」

「牡丹を護る・・・・・唐獅子?」

 思わぬ言葉に董子は小首を傾げた。

「ええ、牡丹のごとき美しい主を護るのが唐獅子の努めだと思っているのでしょう。」

「そんな・・・・・恥ずかしい。」

 虔太のあまりにも大仰な褒め言葉に董子は真っ赤になる。

「獅子丸の気持ちは解らなくもありません・・・・・というか、堂々と董子さんを守ることができるなんて妬けますけど。」

「え・・・・・それって・・・・・。」

 さすがに虔太の言葉に含まれた意味に気が付き、頬を桜色に染めた。その色に虔太は自信を深める。

「勿論、身分違いは自覚しています。だから、東京での仕事を成功させて董子さんに相応しい男になったら・・・・・改めてあなたに求婚をするつもりです。その時まで、待っていてくれますか?」

 今度は虔太が董子の手を取り、自分の想いを告げた。


 初夏の風が庭の牡丹を揺らす。爽風のごとき青年の言葉は、牡丹の乙女の心にを揺らし恋の色に染め上げた。だが、移ろいやすい花心は得てして他の色に染まりやすい。
 牡丹を別の色に染める『烈火』が己の近くに居る事を、虔太は警戒することなく董子への恋を噛みしめていた。



UP DATE 2013.4.30

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なんとな~く互いに好意を抱いていた虔太と董子ですが、とうとう今回虔太が自分の想いを口に致しましたヽ(=´▽`=)ノこれはぶち猫・獅子丸のお手柄なんでしょうか・・・・・ただ、弟の虔弥という強力なライバルがいますからねぇ。特に虔太の東京での仕事が忙しくなった時、虔弥がどう出るか、詳細は次回語らせて頂きます( ̄ー ̄)ニヤリ


そして今回初登場のぶち猫・獅子丸v本当は菖蒲が描かれた作品か武者絵のタイルをお題に小説を書こうとしたのですが、『高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指』なる作品のにゃんこに心奪われまして・・・(^_^;)もしお時間があったらぐぐってみてください。猫好きなら絶対にハマります(*^_^*)さらに水指に彫られている牡丹も5月に咲きますし、『今月はこれ!』と決定してしまいました。
なお、虔太の両親、虔三郎&結衣を主人公とした『横浜慕情』でも牡丹のモチーフは出ております。ただ、着物=虎(唐獅子)、帯=牡丹なのですが・・・・・同じモチーフでも武家の娘で堅実な結衣と華族の娘で華やかな董子の違いを表現したく、あえて同一に近いモチーフの着物を着せてみましたvよろしかったら比較してみたくださいませ^^

次回更新は5/28、紫陽花のモチーフと虔弥の逆襲を書かせて頂きます♪
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