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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第四話 桜花の密談・其の肆

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 ようやく顔を覗かせた居待月が、部屋の中に飾られた八重桜を照らしている。その淡い月明かりの中、低い男の声が部屋の中に訥々と響く。

「・・・という訳だ。会津の意向でおめぇの東下は今回無くなった・・・・・しかし驚いたぜ。まさか斎藤が会津の密偵だったとはな。」

 土方は出された焙じ茶を飲み干しながら、しみじみと沖田に語った。

「何だ、おめぇ。驚かねぇのか?」

 斎藤が会津の密偵だったという土方の話に、特に表情を変えない沖田に土方は疑問を呈する。そんな土方に、沖田は大仰に溜息を吐きながら答えた。

「ええ、別に・・・・・時々会津のお国言葉が出ていましたし、時々怪しい行動もありましたしね。それよりも・・・・・土方さん!」

 微かな苛立ちを滲ませつつ沖田は土方に迫る。

「いつまでここに居座るつもりですか?土方さんが新世帯に転がり込むような野暮をする人だとはちっとも思いませんでしたよ!」

「まぁまぁ、総司はん。うちは別に構いまへんし・・・・・。」

 ゆるりと焙じ茶を飲む土方に喰ってかかる沖田を、横で茶のお代りを淹れていた小夜が嗜めた。



 月明かりに照らされるこの場所は西本願寺の屯所ではなく、沖田の休息所である。黒谷で斎藤の件を聞いた後、その脚で沖田の休息所に向かったのだ。ただ、要件だけを伝えれば良いと思うのだが、ちゃっかりと茶を飲み寛いでいるのが少々問題であった。

「小夜、もうお代わり出さなくていいです。甘い顔をすれば何時まで経っても居座りかねません。」

 沖田は茶を淹れなおし、土方に差し出した小夜を止めようとする。だが困惑の表情を浮かべつつ、小夜は土方に淹れたての焙じ茶を差し出す。

「せやさけ、上役はんに粗相があっては・・・・・もし宜しかったらこちらも如何でひょか。」

 そう言いながら小夜がさらに差し出したのは、いかにも高価そうな羊羹であった。その羊羹を見た瞬間、沖田は大声を上げる。

「あ~っ!その羊羹、大事に取っておいたのに・・・・・!」

 どうやら秘蔵の羊羹だったのか、沖田が情けない声で小夜に訴える。だが、その羊羹を見た瞬間、土方は沖田を上目遣いで睨みつけた。

「おい、総司。この羊羹、どこからくすねて来やがった?」

「え?くすねただなんて人聞きの悪い・・・・・。」

 土方の厳しい疑惑の目に先程までの強気はどこへやら、沖田は途端にしどろもどろになる。

「そういや・・・・・大文字屋が引越し祝いに送ってきた羊羹が数本、無くなってたよなぁ。」

 土方の指摘に沖田は吃驚したのか、大きく目を見開く。

「引越し祝いの羊羹って・・・・・そんなものまで数えているんですか、土方さんは!」

「当たり前だろう、引越祝いの返礼だってしなけりゃならねぇんだぞ。羊羹の数だって把握してなきゃ返礼だってまともに出来ねぇだろうが。」

 してやったりという笑みを浮かべつつ、土方は羊羹を一切れ口の中へ頬張った。濃厚ながら上品な甘さが口の中に広がり、土方は満足気な表情を浮かべる。

「さすがに『虎屋』の羊羹は違うな。」

 今夜は一晩中土方に付き合わなくてはならないかもしれない―――――さらに羊羹の切れ端に手を伸ばした土方を見て、沖田は微かな絶望を覚えた。



 土方が沖田の休息所の戸を叩いた時、沖田と小夜は今まさに床に入ろうとしていたところだった。それこそ情事に及ぶ直前に土方が乱入してきたといっても過言ではない。さすがに普段おおらかな沖田でも、これには苛立ちを覚えてしまった。
 さらにここ最近山南の引越しと東下の準備で忙しく、小夜が泊まりでやってきてくれたのは五日振りだったのだ。そもそも沖田が五日ぶりに休息所に戻る事を土方だって知っていた筈である。
 というか、夕方黒谷に出向く前に『二ヶ月近く女と会えなくなるんだからやる事はしっかりやっておけ』と沖田に言ったのは土方ではないか。

「土方さん・・・・・そろそろ屯所に帰らなくていいんですか?」

 ふた切れ目の羊羹を食べ終えた土方に、沖田が半ば諦めたように尋ねる。そんな沖田に対し、土方は厭味ったらしく焙じ茶を啜りつつ呟いた。

「よっぽど俺が邪魔なようだな・・・・・ま、早く女房を抱きたいのも解るけどよ。」

 『女房を抱きたい』―――――土方がその言葉を放った瞬間、沖田も小夜も真っ赤になった。特に小夜は恥ずかしさの余り土方に対し背を向けてしまう。

「な、何てことを言うんですか、土方さん!そ、そもそも小夜とはまだ内縁で・・・・・。」

「内縁だろうが何だろうが女房みたいなもんだろうが。」

 慌てふためく二人を前に、土方はにやり、と笑うと三切れ目の羊羹に手を伸ばす。

「解っているんならさっさと帰ってください!まったくもう・・・・・。」

「俺が東下すりゃやりたい放題だろうが。別に一日二日どうってことはないさ。」

「なっ・・・・そんな身も蓋もない言い方をしないでくださいっ!」

 耳まで真っ赤にしながら沖田はさっさと土方を追いだそうと躍起になる。だが、そんな沖田を尻目に、土方はぐるりと部屋の中を見回した。
 きれいに整えられている部屋の所々に野の花や八重桜の小枝が飾られている。どれも豪華な花器に生けられている訳ではなく、欠けた鬢付け油の小壷や竹筒を利用していた。金がかかっている訳ではないが美しく心地よい―――――明らかに小夜の趣味だろう。
 被差別民の娘が沖田の内縁の妻としてやっていけるのか一抹の不安があった土方だったが、これなら沖田を預けても大丈夫だろうと確信する。

「まぁ、おみつさんには俺の方からそれとなく言っておいてやるから安心しろ。」

 三切れ目の羊羹を食べ終えた土方は、焙じ茶を飲み干しながら沖田に向かって断言した。

「え、良いんですか?だって・・・・・」

 と言いかけて沖田は口を噤む。さすがに小夜がいる場所で伊東暗殺の件を出すのは気が引ける。だが、伊東暗殺に携わらないのに『ご褒美』だけ貰うというのも居心地が悪い。

「さすがに結婚云々まで進んだ話はできねぇけどな。将来を共にしたい女がいる、って話くらいなら別に構わねぇだろう。向こうだっておめぇの事を心配しているんだしよ。少なくとも面倒を見てくれる女がいる、ってだけで向こうは安心するだろうよ。」

 むしろ沖田の為と言うよりは、おみつ達を心配させない為に伝えるらしい。土方の、沖田の姉達に対する心遣いに、沖田はようやく納得の表情を浮かべる。

「じゃあそろそろ帰るわ。明日は遅番だったな・・・・・頑張りすぎて刻限に遅れるなよ。」

 すっかり飲み干した茶碗を置くと土方はそそくさと立ち上がり、居待月に照らされた夜道を屯所に向かって帰っていった。

「総司はん・・・・・副長はんて、お茶で酔いはるお方なんどすか?」

 土方が出て行った後、小夜は小声で沖田に尋ねる。あまりに突飛な土方の言葉に、小夜が面食らい酔っているのではと思うのも仕方ないだろう。

「いえ、普段はお酒でもそう酔わないんですけどね・・・・・尤も井関屋さん、って酒屋に特別に調合してもらったお酒に限りますけど。」

 沖田は苦笑しながら土方が使っていた茶碗を手に取った。

「でもちょっとほっとしたかな。あの土方さんが部屋を見回して何も言わずに帰って行きましたから。」

「え?それってまさか・・・・・?」

 小夜の顔がある事に気が付き、強張る。

「ええ、そのまさかですよ。あの視線の動きは間違いなく『武士の妻』としての小夜の品定めをしていました。間違いなく『合格』だったんでしょう。」

 沖田は笑いながら小夜に茶碗を渡した。

「土方さんはずっと小夜との関係を黙認していてくれているんです。私のやる気を考えてのことなんでしょうけど・・・・・だけどやっぱり心配だったんでしょう。」

「せやけど、何でそんな事が解りはるんですか?何も仰っらへんかったのに。」

 土方は特に小夜を褒めたり貶したりしなかった。それなのに何故沖田は土方が小夜を認めたと確信するのか理解できない。もしかしたら沖田の思い違いかもしれないと、小夜は心配気に沖田に尋ねる。そんな不安げな小夜に、沖田は自信満々に答えた。

「え、言いましたよ。『将来を共にしたい女がいる』って話を姉達にしてくれるって。」

 小夜が沖田の内縁の妻として不合格なら、土方はそのような事は絶対に口に出さない。羊羹だけ食べてそのまま屯所に帰ってしまっただろう。

「土方さんも帰ったことだし・・・・・やっとこれで心おきなく床に入れます。さすがに土方さんが引き返してくることはないでしょう。」

 沖田は茶碗を片付けた小夜の背後から腕を回し、細い腰を引き寄せる。

「五日ぶりなんて・・・・・出張でもないのにお預けを食らっていたんですから、いいでしょう?」

 小夜を抱く腕に力を込め、沖田は小夜の耳元で囁いた。それがくすぐったかったのか小夜はクスクスと笑いながら首を竦める。

「もう、くすぐったい。ほんま子供みたいな御人なんやから・・・・・」

 甘い声を上げつつ、小夜は沖田の方へ首を回すした。その瞬間を逃さず、沖田は小夜の唇に己の唇を重ねる。月明かりの中、二つの影は一つに重なり、いつまでも離れることは無かった。



 それから五日後、原田の祝言も無事済ませた後、土方、伊東、そして斎藤は江戸へ向かって旅立っていった。巡察に出ている隊士以外全ての隊士達が見守る中、土方は振り向くこと無く前へ前へと進んでゆく。

(いったいどんな旅になるのか・・・・・本当に大丈夫かなぁ。)

 斎藤を旅に加えるようにと命じた会津の思惑もいまいち解りかねる。だが、土方にその正体を明かしたという事は、斎藤は土方の味方になってくれると考えて間違いないだろう。
 それでも拭えぬ不安は何故なのか・・・・・散りゆく桜の下、東へと旅立ってゆくその背中を見つめながら、沖田は旅の無事を祈らずにはいられなかった。



UP DATE 2013.6.7

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斎藤と会津藩の関係―――――それを知った土方が、沖田にその旨を報告するまでは良いんですが、その場所とタイミングがあまりにも野暮でした(爆)いや~夜の新婚家庭に行っちゃあいけないでしょう(*´艸`*)
可哀想に沖田は『お預け』を食らった状況で暫し土方に付き合うことになってしまいました。さらに屯所からくすねてきた秘蔵の『虎屋の羊羹』まで土方に奪われて・・・・・踏んだり蹴ったりというのはこの事でしょう(苦笑)

だた、この突撃訪問で小夜の評価は上がったようです。主婦なら解っていただけると思いますが、急なお客様ほど困るものって無いんですよね~(>_<)だけど小夜が管理している沖田の休息所は散らかってもいなかったし、花まで生けられているという・・・・・下手な姑よりよっぽどキビシイ土方からの合格点は、沖田にとってもひと安心でしょう^^


次回更新は6/14、土方ら東下旅の様子を少し取り上げたいな~と思います。(時折京都の様子も書きたい・・・というか主役は沖田^^;)

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