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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第五話 土方東下・其の壹

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 桜花に代わり新緑が彩る東海道を、東に向かって三人の男達が歩いている。それは新選組隊士募集の為、東下の旅を続けている土方、伊東、斎藤の三幹部であった。
 出立してからすでに四日、表面上は諍いも無く、滞り無く旅は続けられている。ただ寝る時だけは少々様子が違っていた。何と伊東は警戒感を顕わにし、刀を抱えて眠るのである。しかもわざわざ柄袋を外し、すぐに抜刀できる状態にしてから床に就く。
 それはここ桑名宿でも同様で、毎夜に及ぶあまりの慎重ぶりに土方も呆れざるを得なかった。

「上洛の際、鞘のまま不逞浪士をばったばったとなぎ倒した男とは思えぬ怖がりぶりですな。」

 あからさまに嫌味を言い放つ土方の言葉にも伊東は怒ること無く、むしろ笑みさえ浮かべる。

「起きている時ならば相手を見極める余裕があるけれど、寝ている時はそうは行かないしね。相手が僕より腕の立つ相手という可能性だってあるだろう。では先に休ませてもらうよ。」

 そう言い残すと、まるで島原の太夫でも抱くかの如く愛おしげに刀を抱いて寝てしまうのだ。その隙の無さはさすが伊東道場の道場主だった男と称賛すべきだろう。

(ちっ、これじゃあ暗殺もへったくれもありゃしねぇ。)

 布団に潜り込んだ伊東を忌々しげに睨みつつ、土方は内心舌打ちをする。

「・・・・・さすが先代に請われて婿養子になっただけはありますな。」

 土方の鬱憤に同調するかのようにぽつり、と呟いたのは斎藤だった。どこからくすねてきたのか、ちゃっかり貧乏徳利を部屋に持ち込んで一人酒を呑んでいる。

「まったくだ・・・・・だからこそ近藤さんもころっ、と騙されたんだろうよ。それより斎藤よ。」

 ぎろり、と斎藤を睨みながら土方は凄む。

「その酒、どこからくすねてきた?」

 上役二人を出しぬいて酒を呑む斎藤に、八つ当たりとばかりに土方が絡み始める。だが、斎藤は平然と酒を飲みながら、土方が想像していたよりもさらにとんでもない一言を吐き出した。

「付いてきましたよ、飯盛女を買ったらおまけで。」

「はぁ?おめぇ、いつの間に飯盛なんて買いやがった!」

 酒だけならいざ知らず、飯盛女まで―――――土方は思わず斎藤の胸座を掴む。

「飯盛如きで副長がそんなに悔しがるとは思いませんでした。いいじゃないですか、京都や江戸じゃいい女が勝手に寄ってくるんですし。」

 斎藤は苦笑いを浮かべつつ、胸座を掴んだ土方の手を外した。

「飯盛を買ったのは副長が湯屋に行っている間です。この先の道中の情報も聞き出したかったですし、名物の焼き蛤も奮発して貰いたかったですしね。」

「・・・・・その割には貧相な蛤の干物しか出て来なかったじゃねぇか。」

 食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものである。桑名といえば名物の焼き蛤、それを密かに楽しみにしていたのに夜の膳には魚の他に蛤の干物が二つ、申し訳なさそうに出されただけだった。それに対しても斎藤が説明をする。

「もう旬が終わってしまって旨くないそうです。その詫びにとこれを貰ったんですから。」

 そう言って斎藤は貧乏徳利を持ち上げた。つまり斎藤は土方や伊東を出しぬいて一人飯盛女を買い、ちゃっかり酒まで譲って貰ったのである。その要領の良さに土方は大仰に溜息を吐いた。

「・・・・・広沢さんがおめぇを連れて行け、って言った理由が判ったよ。」

 聞き耳を立てているかもしれない伊東に聞こえぬよう、土方は口の中で呟く。この行動力、機転の利き方はやはり諜報ならではだ。言っては何だが新選組ができた後、監察役になった山崎とは比べ物にならないくらい技量は上である。

「まぁ、そういうことですよ。」

 斎藤はぐい呑みを空けつつ、袂から一枚の書付を土方に渡した。それをちらりと見た瞬間、土方の表情が厳しくなる。

(伊東が何処かに手紙・・・・・だと?)

 そこには、土方の目を盗み伊東が何処かに手紙を出していたことが記されていた。ただどこに出していたかはさすがに斎藤も判らなかったらしい。斎藤は土方の顔に己の顔を近づけ、聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁いた。

「もしかしたら『大魚』が釣れるやも知れません。今しばらく日和を見ましょう。」

 それは取りも直さず『会津の意向』である。山南の敵討ちはまだまだ先になるが、こればかりは仕方がない―――――土方は唇を噛み締め、小さく頷いた。



「・・・・・今頃、土方さん達は桑名あたりですかねぇ。」

 晩春の日差しが力を失い始め、西の空が紫色を帯びてきた頃、沖田がポツリと呟く。

「出立してから四日だもんな・・・今頃うめぇ焼き蛤でも食っているんじゃねぇか?」

 額に滲んだ汗を拭いながら、原田が沖田の呟きに答えた。

「焼き蛤ですかぁ。いいなぁ・・・・・同じ『焼き物』でも雲泥の差ですよねぇ。こっちはお世辞にも食えたものじゃありませんから。」

 忌々しげに呟きながら沖田は目の前の光景を見つめる。焼けてしまったのは祇園の町家、こんがり焼けてもちっとも美味しそうには見えなかった。周囲に立ち込める焦げ臭い匂いに頭がくらくらし、迂闊に息を吸い込もうものなら未だ残っている熱気と舞い散る灰でのどがやられそうである。

「あ~あ、こんなに汚れちまったよ。またおまさに叱られそうだよなぁ。」

 沖田や原田、それに部下の平隊士全員が煤と汗に汚れている。このまま家に帰ろうものならその汚れに妻が文句をいいそうだと、やけに嬉しそうに原田が笑う。要は『叱ってもらう相手が家にいる』という惚気なのだ。

「でも、焦げ臭さで脂粉の香りが消えているだけマシじゃないですか?」

 原田の惚気への対抗なのか、半分茶化すように沖田が尋ねる。実は火事の避難誘導の際、原田は助けを求める多くの娼妓達に囲まれて、一時期身動きが取れない程だった。焼け跡の焦げ臭い匂いがなければ間違い無く娼妓の移り香が消えなかっただろう。原田もそこいらへんを自覚しているのか、沖田のその問いかけに原田は一も二もなく頷いていた。

「実はそうなんだよ!この前もちょいと島原に寄ってから家に帰ったら手桶を投げつけられちまってよぉ。」

「まるで江戸のおかみさんみたいですよね、おまささんって。」

「そこがいいんだろうが。男の顔色伺って媚を売るような女じゃ、新選組幹部の女房なんて務まらないぜ。」

「確かにそれは言えるかもしれません。」

 長州贔屓の多い京都で新選組の評判は決して芳しくはない。その関係者というだけで白眼視されることも多いのだ。そのような状況で新選組幹部の妻、または妾という立場でいる事は、それ相応に強くなければやっていられない。
 それは小夜にも言えることで、普段は京女らしく物腰柔らかであるが、いざ沖田の体調のこととなると『医者の娘』として一歩も引かないところがある。それはもし何か危機に出くわしたら間違いなく立ち向かうだろう―――――そんな強さを垣間見せる瞬間でもあった。

「うちも普段は大人しいんですけどねぇ。この前宿酔で帰ったら叱り飛ばされましたよ。やっぱり気が強いおなごに惹かれるんですかねぇ、江戸っ子は。」

「そういやお前の『コレ』ってさぁ。」

 原田が周囲を見渡しながら声を潜める。

「『池田屋』の時、会所にいたかわた医者の娘だよな?」

「え、ええ・・・・・やっぱりまずいですかね。」

 沖田も辺りに気を配りながら声を潜める。身分違いとは言っても平民とは訳が違うだけに、嫌でも慎重にならざるを得ない。

「まぁ、身分はな。だけど土方さんが黙認しているんだから浪士である内は構わない、ってことだろう。それよりも・・・・・。」

 原田がさらに真剣な表情を浮かべ、沖田に尋ねる

「平助もあのかわた医者の娘に懸想してる、ってぇのは知っているのか?」

「え・・・・・?」

 想像だにしなかった原田の言葉に沖田は愕然とする。確かに藤堂も小夜に好意を持っているんじゃないかと薄々は感じていたが、それは一過性のものだとばかり思っていたのである。

「そ・・・・・うだったんですか。」

「何だ、知らなかったのか。まぁ平助は蛤御門の後、江戸に隊士募集に行っちまったしな。その点ではおめぇにツキがあったのかもしれねぇ。」

 原田はにやりと笑うと空を見上げた。

「土方さんに預けた平助への手紙におめぇ達の事を書いておいた。これで平助が諦めてくれりゃいいけどよ・・・・・あいつ、意外と往生際が悪いから。」

「ありがとうございます、原田さん。」

 沖田は原田に礼を述べる。原田とは違って沖田と小夜の関係はあくまでも私的なものである。たとえ藤堂に小夜を奪われても何も文句が言えないのだ。

(藤堂さん、しばらくは江戸に居る、って話だったけど・・・・・帰ってきたら気をつけなきゃいけないのかな。)

 雲ひとつ無かった快晴の空に小さな黒い雲がかかるような、微かな不快感を沖田は感じる。だが、それは小さな雲のようにすぐに消えるもの―――――沖田はそう思いながら火事現場を後にした。



 土方達の旅は順調に進み、京都を出立して十三日後に無事品川に到着した。前もって到着を連絡をしていたので、それぞれの友人知人が品川宿まで迎えに来ていた。そんな中、土方がどうしても来て欲しかった人はここにも来ていなかった。

(お琴・・・・・ここにも来ねぇか。)

 勿論、戸塚村の琴にも今日到着する旨を手紙で知らせてある。だが、その姿はどこにも見当たらない。

(やっぱり・・・・・振られたか。)

 娼妓から貰った手紙の束を冗談半分に送ったのは自分である。それくらいならしょうもない冗談だと笑って許してくれると思ったからだ。だが京都と江戸の距離は、土方が思っていた以上に琴にとって遠かったらしい。今日は諦めよう―――――土方がそう思った時である。

「ほら歳三、何呆けた顔してんのよ!」

 不意に女の声が土方を呼んだ。

「あ、のぶ姉・・・・・来てくれたんだ。」

 土方に声をかけてきた人物、それは土方の実の姉であるのぶであった。

「当たり前でしょ!そうでもなけりゃ仕事仕事で日野になかなか来やしないんだろうから・・・・・そうそう、これ、お琴ちゃんから預っているわよ。」

 のぶはそう言いながら土方に手紙を押し付ける。そこには懐かしい文字で『としぞうさま』と書かれていた。あれほど待っていた琴からの返事をこんな形であっさり渡されるとは―――――驚きのあまり土方は声を失う。

「色々あるみたいだけど・・・・・男ならここで頑張りなさいな。」

 もしかしたら琴から何かを聞いているのかもしれない。だが、のぶはただ一言弟にそう言い残すとくるりと背を向け、良人の彦五郎の方へとたち去ってしまった。

「頑張れ・・・・・って言われてもよ。」

 姉の応援にくすぐったさを感じつつも、なかなか手紙を開くことが出来ない。だが、これを開かねば進むことも退くことも出来ないのだ。

(ええい、ままよ!)

 土方は覚悟を決め、手紙を開いた。



UP DATE 2013.6.14

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男三人の東下旅、さすがに大人だけあって表面上は何事も無く行っているようですが、さすがに夜ともなると色々な思惑が出てくるようです(^_^;)伊東参謀は刀抱えて寝ちゃうし、斎藤さんは情報収集も兼ねて飯盛女に言い寄り、ちゃっかりお酒までくすねているという・・・ちなみに斎藤さんはソーローではありません。副長が長風呂なんです、そういうことにしておいてください(ここいら辺は大人の深読みで・・・)

一方京都の方では祇園で火事があったようです。その避難整備に新選組や見廻組も駆り出され、娼妓の手を引きながら避難誘導している隊士の姿も目撃されたとかいないとか。ちょっと前なら鼻の下を伸ばしつつ避難誘導していたであろう若い助勤たちですが、この時期はちょうど休息所を持ったばかり、嬉しいような、でも帰るのが怖いような、そんな複雑な気持ちになったのではないでしょうか。そんな中、多分夫婦げんかになるのはサノ&まさ夫婦のところだと思われます。

次回更新は6/21、姉・のぶに渡された琴からの手紙には何が書いてあるのか・・・次回をお楽しみくださいませv
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