FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第七話 土方東下・其の参

 ←烏のまかない処~其の百五・鶏と卵の酢醤油煮 →烏のがらくた箱~その百六十九・どっちのほうが五月蠅いんだろう(^_^;)
 江戸に到着してから五日後、ひと通りの面接を終えた土方ら三人は、合格者の名簿を作成した。 およそ三十人に上る合格者の名前に目を通しながら土方は呟く。

「まぁ、前半はこんなところか・・・・・あと二、三十人はかき集めないと。」

 そんな土方の呟きに頷いたのは伊東だった。少し暑い所為だろうか、優雅に扇子で風を送っている。

「確かにそうだね。前回の隊士募集と違って今回は余裕があるんだし・・・・・そうそう、僕のところの門弟達の中にも入隊したいと希望している者がいるんだ。もし良かったら後日、君や斉藤くんに確認をして貰いたいのだが。」

「・・・・・別に俺達の確認なんて必要ないでしょう。弟子の腕前は師匠である貴方が一番知っていると思われますが。」

 内心の苛立ちを押し隠しつつ、土方は素っ気なく言い放つ。今回の隊士募集で伊東は積極的に自らの門弟に声をかけ入隊を勧めていた。
 勢い伊東道場の入隊希望も多く、それ相応に腕も立つ分合格者も多くなり、斎藤、伊東らの試験においては半分以上が伊東道場の出身者で占められていた。
 否、まだ斎藤が同席している文半分より少し多いくらいで済んでいるが、伊東一人で試験監督をさせていたら間違いなく全員が伊東道場の門弟になっていただろう。

(こりゃ日野でも隊士募集をかけねぇといけねぇな)

 明日から予定している二年ぶりの帰省も結局は仕事に追われることになる―――――そう覚悟した土方は、すっかり乾いた隊士名簿を丁寧に畳んだ。



 江戸における隊士募集を伊東、斎藤、そして藤堂に任せ、土方は一人日野への帰省を果たした。

「おう、歳三!えらく立派になったな!まるで武士じゃねぇか!」

 義兄の佐藤彦五郎宅に集まった地元の友人達が土方の姿を見るなりわいわいと騒ぎ立てる。確かに以前と違い、夏場だというのにきっちりとした羽織袴を身につけ、腰に二本を差している土方はまるで武士そのものだ。そんな己の姿に土方もまんざらではなく、自慢げに胸を反らせた。

「そりゃそうさ!何せ武士になるために京都まで出張っているんだからよ・・・・・尤も中身は何も変わっちゃいねぇけどさ。」

 その瞬間、皆の中から爆笑が起こる。試衛館とはまた違う、懐かしい顔に土方はほっとした。
 そして歓迎の雰囲気の中、隊士募集も順調に進み、土方を訪ねて旧知の友人や親戚、そしてその中から土方と共に京都で戦いたいと申し出るものが相次いだ。その中に彦五郎とのぶの息子、つまり土方の甥に当たる源之助も入隊を希望したのである。

「歳三おじさん、俺だってもう子供じゃないんです!鉄砲の腕だってかなり上げているんですから見てください!」

 隊士募集の面接の合間に源之助は土方を庭に連れ出し、銃撃の腕を披露した。さすがに自ら売り出しただけあって源之助の腕は素晴らしく、その技術の高さに土方は驚く。

「殆ど百発百中じゃねぇか・・・・・上洛したら間違いなく銃撃師範だ!おめぇ、やってみる気はあるか?」

 土方は源之助の両腕を掴んで、そのやる気を尋ねる。勿論源之助に否やはない。

「勿論に決まっているじゃないですか!じゃあ京都に連れて行って・・・・・」

 源之助がそう言いかけた時である。

「源之助 !歳三!あんた達、何やってるの!」

 キンキンと頭に響く怒鳴り声と共にのぶが裸足で庭に降りてくる。そして二人の耳を思いっきり引っ張った。

「い、いてぇ!の、のぶ姉!何するんだよ!」

 自分より一尺も背の低い姉に耳を引っ張られ、土方はじたばたと暴れる。だが、のぶは土方の耳を強く引っ張ったまま離そうとしない。

「全くうちの男どもときたら・・・・・源之助は京都になんかやりません!何時死ぬか解らないところに行かせるなんて私が許すとでも思っているの!」

「い、いや・・・・いてて!」

「源之助も二度と歳三おじさんに無理を言うんじゃありません!解ったわね!」

 そう言うとのぶは息子の耳もかなり強く引っ張ったらしい。源之助は涙を浮かべ許しを請う。

「は、はいっ!ゆ、許してください、母上・・・・・いたたっ」

 母は強し、というべきか。結局源之助の新撰組入隊はのぶの大反対によって幻となってしまう事になる。



 賑やかな日野帰省の日々であったが、その間も土方は心の片隅で琴の事を気にかけていた。懐には江戸に到着した際に貰った手紙を大事にしまってあり、一人床に入った際はそれを取り出しそっと見返す。

「話したいことがあるっていうんだから・・・・・よりを戻す余地はあるよな、絶対。」

 ともすると、悪い予感に苛まれそうになる己の心を叱咤し、土方は良い方へ考えるように努力する。だが、明け方見る夢はいつも琴が背中を向けて去っていくものばかりだった。



 楽しい時間は瞬く間にすぎてしまい、試衛館に帰る十五日がやってきた。皆が見送りに集まっている中、土方は早駕籠を呼んで四谷大木戸まで行くように告げる。

「おい歳三・・・・・早駕籠って、そんなに隊士募集の予定が詰まっているのか?」

 彦五郎に聞かれて、土方は曖昧な笑みを浮かべる。

「ま、まぁ・・・・・そういう事にしておいてくれ。」

 土方はのぶに目配せをして早駕籠に乗り込んだ。事情を知っているのぶはにっこりと微笑み、土方に囁く。

「歳三、気をつけて。あと・・・・・あっちのほうも頑張ってね。」

 のぶの意味深な物言いに彦五郎は怪訝そうな表情を浮かべるが、その表情から逃げるように土方は早駕籠を出立させた。

「・・・・・あとはのぶ姉から彦兄に言っておいてくれるだろう。」

 さすがに大勢がいる前で『琴に逢う約束をしているから』とは口が裂けても言えなかった。だが、早駕籠で行かねば約束の夕七ツに間に合いそうもない。

「おい、できるだけ急いでくれ。昼八ツにまで大木戸についたら酒代を弾むぜ!」

「あいよ!」

 土方のハッパに、早駕籠を担ぐ雲助達は勢いづき、さらに速度を上げて走りだした。



 四谷大木戸で早駕籠を乗り捨てると、土方はそこから徒歩で市谷八幡へ向かった。さすがに八幡様の前に早駕籠で乗り付けるのは気が引ける。

「さすがにちょいと早すぎたか・・・・・。」

 約束の刻限に間に合うよう早駕籠まで使ってここに来たが、ようやく昼八ツ半の鐘が鳴ったばかりだ。身なりを整えても四半刻以上時間が余ってしまうだろう。

「ま、八幡様にお参りしながら待てばいいか。頼みたいことは山ほどあるしな。」

 隊士募集の成功に新選組の幕臣採りたて、それに琴との仲を戻して貰わねばと指折り数えつつ、土方はそのまま境内に続く階段を昇りきる。その瞬間、思いがけない光景に出くわした。
 珍しく人の少ない境内で、一人本殿に向かって拝んでいる女がいる。年の頃は土方より少し下、中年増位だろうか。すっきりとした後ろ姿も美しい、いわゆる小股の切れ上がった女である。だが、その後姿に土方は見覚えがあった。

「おい・・・・・お琴!お琴じゃねぇか!何やっているんだよ、こんな早い時間に!」

 土方は驚き、その後姿に駆け寄る。すると土方の声に気が付いたその女が振り返った。

「歳さん・・・・・思ったより早かったのね。てっきり日野に引き止められてしまうのかと思っていたけど。」

 にっこり笑ったその笑顔は土方が知っている琴のものだった。その笑顔に土方はほっと胸を撫で下ろす。

「いや、引き止められたさ。だけどそれを振りきって四谷の大木戸まで早駕籠を使ったんだ。刻限に遅れておめぇに逃げられちまったら元も子もないからな。」

 からからと笑う土方に対し、琴は不意に表情を強張らせた。その変化に土方も素早く気がつく。

「おい、どうしたんだ?もしかして・・・・・まだ娼妓からの手紙の件を拗ねているのか?」

 土方の探るような言葉に、琴は少し吃驚したように目を見開いた。

「娼妓からの手紙って・・・・・もしかして去年、勇さんが持ち帰ってきた、あれのこと?」

「ああ、そうだが・・・・・。」

「ごめんなさい、今言われるまですっかり忘れてたわ。」

 琴は表情を崩し、クスクスと笑う。どうやらその件で拗たり手紙を寄越さなかった訳では無さそうだ。だが一体何故・・・・・心当たりが見当たらず、土方は悩む。

「ねぇ・・・・・歳さん。」

 悩みの表情を浮かべている土方に、琴が語りかける。その声は今まで土方が聞いたことが無い、真剣なものだった。

「何だ?」

 琴の声音に土方は身構える。だが、そんな土方とは対照的に、琴は真剣ながら穏やかな口調で語りかけた。

「お願いがあるの。婚約を・・・・・解消して。」

 その声は決して大きく無かったが、鋭く土方の胸に突き刺さる。

「な・・・・・何ふざけたことを言ってやがる!冗談も大概に・・・・・!」

「冗談じゃない!・・・・・私は本気よ。」

 土方を睨みつけるような強い視線に、土方は言葉を失う。いつ、自分は琴をここまで思いつめさせてしまったのだろう―――――その緒さえ理解できず、土方は困惑する。そんな土方に対し、諦めた口調で琴は告げた。

「歳さんは・・・・・すっかり武士になってしまったもの。歳さんのことはまだ好きだけど・・・・・私は武士の妻にはなれません。」

「な、何を世迷い事を・・・・・俺が武士になれたんだ!お前だって武士の妻くらい・・・・・!」

「歳さんのような覚悟が無いのに?無理に決まっているでしょう。」

 琴は土方に背を向けながら語り続ける。その声は涙に湿っていた。

「勇さんを幕臣にする為、新選組を大きくする為、日々努力している歳さんは魅力的だし、誇りに思う。だけどね・・・・・私にとって歳さんは偉大すぎてついていけなくなってしまったの。」

「お琴・・・・・」

 日野で見た夢と同じだ―――――琴の後ろ姿を見て土方は恐怖を覚える。

「勿論これからもずっと歳さんのことを応援していくけど・・・・・妻として歳さんを支えることは無理・・・・・!」

 琴が言いかけたその瞬間、土方は背後から琴を抱きしめていた。

「・・・・・そんな簡単に俺がおめぇを諦めるとでも思うのかよ。」

 ざわざわと鳴る新緑に混じり、土方の声が琴の耳をくすぐる。喧嘩をして琴が拗ねた時、よくこうやって琴の機嫌を取っていた事を土方は思い出す。だが、思い出の中の琴と違い、腕の中の琴はただひたすら身体を固くしていた。


UP DATE 2013.6.28

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





ようやく琴との再会を果たした土方ですが、切りだされたのは婚約解消でした(T_T)
女遊びならまだどうにかなるのでしょうが、『土方歳三』そのものの変化についていけないとなると・・・・・やっぱりつらいものがありますよねぇ。琴にとって土方はキラキラと輝いて眩しくて魅力的な存在であることには変わらないんでしょうが、共に人生を歩んでいく相手となると・・・と思ってしまったのかもしれません。

ただ、諦めようとする琴に対して土方はまだ諦めきれないようで・・・・・(^_^;)次回前半も歳は琴の説得にあたります。場所も市谷八幡じゃなく新宿の旅籠に変えて・・・・・(要・オトナの深読み)次回更新は7/5、お待ち下さいませね^^
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のまかない処~其の百五・鶏と卵の酢醤油煮】へ  【烏のがらくた箱~その百六十九・どっちのほうが五月蠅いんだろう(^_^;)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のまかない処~其の百五・鶏と卵の酢醤油煮】へ
  • 【烏のがらくた箱~その百六十九・どっちのほうが五月蠅いんだろう(^_^;)】へ