FC2ブログ

「紅柊(R-15~大人向け)」
甲午・秋冬の章

ならずの御職・其の壹~天保五年七月の片恋(★)

 ←烏のがらくた箱番外~更新日時変更のお知らせ →烏のまかない処~其の百六・ノンアルコールビール
 清掻の音が残暑の風に靡く。千住での務めを終えた五三郎は吉昌に引き連れられて他の門弟達と共に吉原へ来ていた。いや、正確には半分強制的に連行されてきたと言うべきか。

 今日の仕置で出た胴はたった一つだった。その主だった部分は来年御様御用が控えている五人に譲り渡され、五三郎達が稽古する分は腕のみだった。仕方がない事とはいえ、やはり芳太郎との差を痛感させられてしまう。

 さらに今日死罪になったのが、五三郎にとってやりきれない人物でもあった。その人物とは将軍・家斉の御側衆・水野美濃守の家来の弟である。すでに勘当されてはいたが友人ら二人を斬り殺し一人に深手を負わせた罪に問われたのだ。
 旗本と一万石ちょっとの小名―――――主君の石高の差がほんの僅かなだけで立場は五三郎とそう変わらない。一歩道を間違えば五三郎だって同じ立場になるかもしれない。それだけに人事とは思えなかったのだ。
 そんなモヤモヤした苛立ちを抱えたまま幸のいる平河町の道場に向かうことはできないし、子供が生まれたばかりの兄夫婦がいる藩邸の長屋にも帰宅する気にもなれなかった。取り敢えず娼妓相手に遊んでこの鬱屈した気持ちを晴らしたい、そんな思いのまま何とはなしに遠く聞こえる三味線の音を聞いていたその時である。

「後藤様ぁ、お待たせしましたぁ。」

 五三郎の新しい敵娼である座敷持の清波が笑顔で入ってきた。以前、幸に熱湯をかけようとした夕波から馴染みを変えてもらったのだ。梅茶より格下の座敷持でありながら、この清波はかなりの『当たり』だと五三郎は満足している。

 来年の春に年季が明けるので少々年増ではあるが、客を振ることは一切無いし、愛想も良い。もちろん床上手でもあり、いつ『御職』になってもおかしくないと馴染み客の誰もが口を揃えて言うのだが、なぜか清波は『御職』になりきれずにいた。
 それゆえに付いた渾名が『ならずの御職』―――――なれないのではなく、御職にならずにいるのだと付いたものである。

「おう清波、今日も元気だなお前さんは!」

 五三郎は努めて明るく振舞おうとするが、何となく元気が無いのを清波に見破られてしまう。

「どうしたんです?あまり元気が無いようですけど。またお師匠様に叱られたんですか?」

 年上の娼妓だからだろうか、まるで姉のように清波は気安く五三郎に尋ねる。その口調が五三郎の不機嫌の糸を解いたのか、ぽつり、と五三郎は呟いた。

「そんなもんでへこんでちゃ山田道場の門弟なんかやってられねぇよ・・・・・なんかよぉ、今日のお仕置きは色々身につまされるものがあってさ。」

 そう切り出し、五三郎は今日の出来事を清波に語りはじめた。それを清波は相槌を打ちながら黙って聞いている。お喋り好きの娼妓の中でこれは極めて珍しい。それを良い事に五三郎は腹の中に溜まっていたモヤモヤを全て吐き出してしまった。

「・・・・・てな訳さ。大旗本と小名なんてたかだか百石二百石の差しかねぇし、明日は我が身かと思うとなぁ。」

 天を仰ぎ、思わずぼやいてしまう五三郎の言葉に、清波は優しく頷く。

「なるほどねぇ・・・・・でもそれは考え過ぎでしょう。そもそも後藤様には腕があるじゃありませんか 。去年からメキメキと上達している、って聞きますし。そこいらの冷や飯食いとは訳が違うでしょう?」

 そう言うとするり、と五三郎の懐に手を入れてきた。ひんやりとした細い指が五三郎の厚い胸板を這いまわり、得も言われぬ心地よさが湧き上がる。

「しかしよぅ、芳太郎には先を越されちまうし・・・・・。」

 その心地よさに溺れたくなるのを堪えつつ、五三郎は話を続けようとする。だが、色事の手練手管は清波の方が遥かに上手だ。五三郎の胸を這いまわっていた指はいつの間にか五三郎の乳首を捉え、軽く摘まれる。更に爪で弾かれ指の腹で転がされていくうちに、五三郎の逸物は自らの意思とは関係なくむくむくと力を漲らせ始めた。
 そんな五三郎の反応を見越しているのか、清波はもう一方の手で五三郎の袴の紐を解き、その奥へと手を伸ばしてゆく。

「芳太郎・・・・・前畑様でございますね。そりゃあ、先を越されても仕方がないでしょう。あのお方は想い人を手に入れるために何年も前から努力なさっていましたからねぇ。」

 清波の思わぬ言葉に、快楽に溺れかけていた五三郎は思わず目を見開いた。

「想い人って・・・・・お縫さんのことか?何で敵娼でもないのに知っているんだよ。」

「だって前畑様は、敵娼の藤波ちゃんに全部ばらしてましたから。どうやったらお縫さんを落とせるかって色々相談していたみたいですよ。」

 藤波も清波同様来年の春年季が明ける娼妓である。同い年だけに客同士の話もするのだろう。

「娼妓、ってぇのは・・・・・そんな事も相談に乗るのかよ。」

 ここへきてようやく五三郎も清波に手を伸ばし始めた。抜けるところまで抜いている襟元に唇を這わせ、胸許をやや強引に押し開く。そしてやや小振りな双丘を露わにすると、両手で包むように揉みしだき始めた。

「ええ、変に纏わりつかれるよりは・・・・・いいお客として適当に遊んで貰ったほうが・・・・・あんっ」

 首筋から降りてきた五三郎の唇が清波の乳首を加え、ちゅるりと吸い上げた途端、清波は甘い声を上げる。さらに五三郎は舌で凝った乳首を転がしつつ軽く歯を立てた。その刺激に清波は頤を仰け反らせ、裾を膝上まで乱しながら身体をよじる。

「じゃあ・・・・・そのうち俺も相談に乗ってもらうとするかな。」

 小振りな乳房をこねくり回し、膝で清波の脚を割りながら五三郎は囁く。

「どなた・・・・・なんですか?後藤様の想い人、は・・・・・」

 まさか五三郎の口から想い人の事が出てくるとは思いもしなかった清波が興味深そうに尋ねた。だが五三郎はニヤリと笑って首を横に振る。

「まだ言えねぇよ。あいつを狙っている奴はゴマンといるから・・・・・ただ、あんたの目はあいつに似ているかも知れねぇ。」

 清波の目は確かに美人というには少々大きすぎた。その二重のぱっちりした目は、幸の目とよく似ている。

「へぇ・・・・・それは良いことを聞きまし・・・・はぅ!」

 五三郎の手が清波の太腿を滑り、奥の花芽を捉えた瞬間、清波は身体を跳ね上げた。手練手管だと解っていながらそれを感じさせない清波はさすがだと五三郎はいつも思う。

(おなごであっても道を極めているのに、俺ときたら・・・・・)

 情けないと痛感しつつ、ふと清波の顔を改めて見る。油が切れかかっているのか、清波の顔が闇に溶けかかっている。その分、弱い行灯の灯を反射して目だけがやけに目についた。そのきらりと光る大きな目は本当に幸に似ている。そう思った瞬間、五三郎は幸を押し倒しているような錯覚に陥った。

(幸―――――!)

 思わず口にしてしまいそうなその名前を呑み込み、五三郎は清波の身体にむしゃぶりつく。
 幸と清波は十歳以上歳が離れている。若い娘の張りこそ無いが、蕩けそうな柔らかさはまた格別だ。きっと幸も十年後にはこの様な抱き心地になっているのかもしれない。その時、誰が幸の良人になっているのか―――――それが自分であると五三郎は妄想する。

(誰にも・・・・・幸は渡さねぇ!)

 どこまでも柔らかい細身の体に唇を這わせながら、五三郎は壊れ物でも扱うかのように花芽を擦り、蜜を含んだ花弁をくすぐる。恥じらいながら身悶える清波の身体は、五三郎の中で幸のものと変わってゆく。己の体の下で幸も愛らしく、淫靡な啼声を上げるだろう。妄想の中で五三郎に抱きつき、熱く蕩けた花弁を押し付けてくる幸は、きっと『兄様』と甘い声で五三郎を誘うに違いない―――――そう考えただけで五三郎の逸物は痛みを覚えるほど怒張する。

「そろそろ、挿れるぜ。」

 五三郎は腰を進めると蜜壺に宛てがい、清波の蜜壺へ―――――妄想の中の幸の蜜壺へ一気に挿入した。さすがに使い込んだ清波の蜜壺は緩さを否めないが、それさえも五三郎は妄想の色へと塗り替える。

(二十七にでもなりゃ、幸だって子供の二、三人くらいは産んでる筈だ・・・・・だったらこれくらいになるだろうよ)

 その子供は男の子だろうか、それとも女の子だろうか―――――どっちであってもきっと猫可愛がりに可愛がってしまうかもしれない。普段は厳しい為右衛門でさえ、我が子の前では相好を崩すほどだ。きっと自分もああなるのだろう。

「ゆっ・・・・・!」

 己が創りだした妄想に酔い、我を忘れて五三郎が幸の名を口にしかけたその時である。


ガタン!


 不意に部屋の隅で起こった物音に、五三郎は動きを止める。

(誰た!)

 音のした方に五三郎は視線をやり、清波の簪の場所を確認する。妓楼に上がる際、刀は預けてしまう為、武器になるのは娼妓の簪くらいだからだ。
 だが、そこにいたのは怪しい者などではなく、油差の若い者であった。どうやら部屋の隅に置いてあった台の物にぶつかったらしい。五三郎と目があった油差は申し訳ないとばかりに会釈をすると、切れかかっていた行灯に油を注いだ。その瞬間、強くなった行灯の灯りに清波の姿が浮かび上がり、幸の幻は掻き消える。

(ちっ・・・・・興ざめだぜ。)

 いっそ事が終わるまで薄暗い状態か、または行灯の灯はいらなかったかもしれない。失ってしまった幸の幻に未練を残しつつ、五三郎は改めて油差の方を見る。

(―――――!)

 細面の、いかにも優男然としたその顔立ちに似合わぬきつい目で、油差は五三郎を睨みつけていた。その視線に五三郎は男の嫉妬を瞬時に感じ取る。

(油差なのに・・・・・花魁に惚れちまったのか?)

 妓楼では娼妓と男衆の色恋を禁じている。だからどんなに惚れていようが金があろうが自分の見世の娼妓を抱くことは出来ないのだ。

(目の前に惚れた女がいるのに抱けねぇとは・・・・・おめぇさんも気の毒だな)

 一番傍にいながら己のものにできない苦しさは五三郎も同じだ。しかも油差という仕事柄、惚れた女が他の男に抱かれる姿を見なければならないのだ。男としてこれ以上辛いことはないだろう。
 部屋を出て行く油差の後ろ姿を見つねつ、五三郎は名前も知らぬ男に共感と憐憫を覚えた。



UP DATE 2013.7.3

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





スミマセン、家庭の事情により遅刻してしまいました(T_T)やっぱり月曜日まるっ、と潰れると痛いものが・・・これを反省に次回からはもう少し計画的に駄文を書いて行きます(^_^;)


芳太郎に先を越され、しかも死罪になったのが自分と似たような境遇の男だったことに少々凹んでいる五三郎です。
(ちなみに旗本の家来の弟でも武士扱いはされません。しかも勘当されていますし・・・なので武士の死に方である切腹、斬罪ではなく死罪となります)
その鬱憤を晴らす為に馴染みの娼妓を抱くことになったのですが・・・・・ついつい幸と重ねあわせちゃいましたねぇ( ̄ー ̄)ニヤリ恋する男の妄想力の逞しさというか何というか・・・・・実際手を出しちゃいけない相手ですからこれで我慢するしかありません。清波もそこいらへんは割りきっているとは思うんですが、口に出しちゃあオシマイよ、ということで(笑)

ただ気になるのが油差の男ですが・・・・・どんなことになるのやら(^_^;)次回も五三郎と清波、そしてピーピング油差の話は続きます、★付きで。
そして来週も父の状況によって少々更新が送れるかもしれませんのでご了承くださいませm(_ _)m
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱番外~更新日時変更のお知らせ】へ  【烏のまかない処~其の百六・ノンアルコールビール】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱番外~更新日時変更のお知らせ】へ
  • 【烏のまかない処~其の百六・ノンアルコールビール】へ