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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十話 黒い隊服・其の貳

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 ここは自分の休息所の筈だ―――――沖田は目の前で食事をしている土方を見つめつつ心の中で確認した。本当なら三日ぶりの小夜と二人きりの夕餉を心置きなく食べる予定だったのに、と恨めしささえ抱いてしまう。

(人の休息所に上がり込んで食事をするくらいなら、お琴さんを京都に連れてくればいいのに・・・・・何故婚約を解消なんてしたんでしょうか。)

 確かに土方が娼妓からの手紙の束を日野に送りつけて以来、琴からの手紙は来なかった。少なくとも沖田は土方からそう聞いているし、それ以後も琴からの手紙を見かけていない。やはりあのことが原因で二人の関係がこじれ、婚約解消にまでなったのだろうか―――――沖田は土方に尋ねたかったが、がつがつと飯を喰らっている土方には声をかける好きが無かった。否、土方自らが意識して沖田に声をかけさせないようにしていると言ったほうが正しいかもしれない。

(だったらここに来なければいいのに。それとも・・・・・。)

 沖田はある事に思い至る。

(話したくても話すのに躊躇してしまうような話なのか?)

 例えば琴の両親が土方に愛想を尽かして別の許嫁を立ててしまったとか、琴が重い病に罹っているとか、結婚に差し障る出来事が起きてしまったのかもしれない。そうだとしたらやはり話したくても話せないだろう。沖田はただひたすら土方が自ら喋り出すのを待ち続ける。
 そうこうしている内に土方は早々に食事を食べ終え、懐から四つに折りたたまれた書付を取り出した。

「総司、ちょいとこれを見ろ。もう少し詰めた後で発表するが、これからはこんな感じでやっていくつもりだ。」

 そう告げて土方は沖田に四つ折りの紙を渡す。沖田がそれを広げると、そこには几帳面な細い文字で新たな組織の役職が書かれていた。



一番隊隊長  沖田総司  二番隊隊長  永倉新八  三番隊隊長  斎藤一
四番隊隊長  松原忠司  五番隊隊長  武田観柳斎  六番隊隊長  井上源三郎
七番隊隊長  谷三十郎  八番隊隊長  藤堂平助  九番隊隊長  鈴木三樹三郎
十番隊隊長  原田左之助

撃剣師範 沖田総司  撃剣師範 池田小三郎  撃剣師範 永倉新八
撃剣師範 田中寅三  撃剣師範 新井忠雄  撃剣師範 吉村貫一郎
撃剣師範 斎藤一

柔術師範 篠原泰之進  柔術師範 柳田三二郎  柔術師範 松原忠司

文学師範 伊東甲子太郎  文学師範 斯波良作  文学師範 尾形俊太郎
文学師範 毛内有之助  文学師範 武田観柳斎

砲術師範 清原清  砲術師範 阿部十郎

馬術師範 安富才助  槍術師範 谷三十郎



「へぇ・・・今度は助勤じゃなくて組長制になるんですね。それにしても大々的な変更ですね。」

 仕事上の幹部の呼び名変更にもびっくりしたが、それ以上に沖田が沖田が驚いたのは師範制度だった。確かに入隊してくるものの中には刀の使い方もろくに知らない農家の次、三男坊もいる。今までは直接の上司である助勤が教えていたが、その方法にも限界があると思っていただけに、この師範制度はありがたいかもしれない。沖田はひと通り組織表を一瞥した後、特に何も考えずに小夜にもそれを見せた。

「文学師範・・・なんてお方もいらはるんですね。やはり腕っ節だけではあかんのですか?」

 沖田と小夜にとっては別段どうという事もない、ごくありふれた日常の光景だが、土方は紙面の内容を理解した小夜に少し驚いた表情を浮かべる。

「何だ、お小夜さん。あんた、漢字も読めるのかい?」

 この時代、『必要ないから』と娘に文字を習わせない親も少なくない。喩え習わせたとしても平仮名くらいだ。振仮名が振ってある黄表紙ならばそれで用が事足りるので、武家や公家でもないのに漢字まで読める娘となるとそれこそ限られてくる。

「へぇ。医学書は漢字が読めへんとお話になりまへんので。」

 土方の驚きに、小夜は漢字を読むことが出来る事情を語った。その小夜の言葉に土方は成程な、と頷きながら話を続ける。

「今回の新入隊士、そして大阪組との合流で百人以上の大所帯になったんだ。今までのやり方じゃ間に合わねぇさ。後は隊士の指導だ。短時間で一人前に仕立て上げるにはそれぞれの分野の師範がいた方がいいだろう。尤も文学師範は伊東が言い出したおまけみてぇなもんだけどな。」

 土方は小夜が差し出した煙草盆を引き寄せると、自らの煙管に刻みたばこを詰め始めた。これは確実に居座るつもりだな、と理解した沖田は小夜に目配せをする。その視線に頷いた小夜は『膳を片付ける為』と言いつつ席を外した。

「それより土方さん・・・・・お琴さんとの間に一体何があったんですか?」

 小夜が部屋から出て行った後、沖田は単刀直入に土方に尋ねる。詰問に近いその問いかけに、土方は暫く黙りこくった後、ぽつりと呟いた。

「・・・・・振られたんだよ、ものの見事に。」

 ふっ、と煙を吐き出しながら土方は自嘲的な笑みを浮かべた。その目によぎった哀しみの色に気がついた沖田は、怒鳴られる覚悟で恐る恐る尋ねる。

「やっぱりあの娼妓達の手紙の束がまずかったんですかね。」

 てっきり怒声か拳骨が飛んでくると覚悟していた沖田だったが、土方は力なく首を横に振っただけだった。

「じゃねぇんだとよ。むしろ・・・・・。」

 土方は言いかけたが、再び黙りこむ。どうやら言葉を選んでいるようだ。沖田は土方を急かさないよう、じっと待ち続ける。

「・・・・・むしろ、俺が新選組に心を奪われているのが気に入らねぇみてぇだな。」

「はぁ?何ですか、それ!」

 煙草三口分の沈黙の後吐き出された土方の言葉に、沖田は失礼なほど素っ頓狂な声を上げてしまった。
 男が仕事に夢中になる事が気に食わないとは―――――土方から琴の人となりをそれなりに聞いていた沖田としては、その理由に違和感を感じる。怪訝そうな表情を浮かべる沖田に対して土方は少し困ったように眉を寄せた。

「う~ん、なんて言ったらいいのか・・・・・あいつは『歳さんの夢についていけなくなった』って言っていたな。あと『こっちで応援してあげる事はできるけど、京都まで行って歳さんの手助けをしてあげる事はできない』とも。」

 煙草を深く吸い込みながら、土方はじっと宙を見つめる。

「あいつの両親もだいぶ弱っているみてぇだし・・・・・一旦は婚約を解消したけど、やり直しが出来ねぇ訳じゃねぇ。」

「・・・・・妙に自信ありげですね。」

 明らかにやり直す気満々の土方の口調に沖田は呆れた。

「当たり前だろ。他に惚れた男がいる訳じゃないと言っていたし、新選組だって十年、二十年京都に居座るわけじゃねぇだろう。喩え爺婆になろうとも、俺はお琴以外と所帯を持つ気はねぇよ。」

 言い切る土方に頭痛さえ覚える。沖田は皮肉交じりに土方を茶化す。

「爺婆って・・・・・土方さん、往生際悪いですねぇ。普段隊士達に雄々しさとか潔さを求めているくせに。」

「それとこれとは別だ。それに不逞浪士の捜査にはしつこいくらいの根性も求めているじゃねぇか。」

「土方さんのは根性じゃありません。執着、執念っていうんですよ。」

 溜息混じりに沖田がぼやいたその時、小夜が焙じ茶を淹れて部屋に入ってきた。

「お、すまねぇな。」

 土方は相好を崩し、ちゃを受け取る。琴の話はそこで終わり、再び新たな隊士編成の話へと二人の会話は戻っていった。



 数日後、組織新編成が発表され、それと同時に新たな隊服も支給された。浅葱の隊服を知っている古参隊士達は下染め止まりでない隊服に安堵の表情を浮かべ、新入隊士達は新たな隊服にはしゃぎ、広げて見入っている。中には早速袖を通するものも出始めたため、土方が釘を刺す。

「それを着るのは来月の大樹公上洛の時だ!それまで汚すんじゃねぇぞ!」

 大樹公―――――将軍の一言が出たその瞬間、隊士達の表情が引き締まった。そう、これを着るときは大舞台の時なのである。今まで将軍どころか大名の家臣さえまともに顔を合わした事のない新入隊士達は緊張に顔を強ばらせ、中には震えだすものまで現れる始末だ。それを見た永倉と原田が新入隊士達を茶化し始めた。

「おいおい、今から緊張してどうするんだよ!大樹公上洛は一ヶ月も先だぞ!」

「全く世話が焼けるぜ!不逞浪士の取締のほうがよっぽどの大仕事だぞ!」

 だが、二人のそんなからかいにも新入隊士達は表情を和らげることは出来ず、中には緊張のあまり真っ青な顔をしてしゃがみ込むものまで出る始末である。そんな新入隊士達を見て沖田は穏やかな笑みをうか寝る。

「無理もありませんよ。私達だって初めて大樹公上洛を迎えた時は緊張したり興奮したり・・・・・懐かしいなぁ。」

 人数も少なく、安っぽい浅葱の羽織での出迎えだったが、それでもあの時の誇らしさは忘れない。だがそんな思い出に浸ってばかりもいられなかった。

「七番隊隊長谷三十郎九番隊隊長鈴木三樹三郎以下二十名は明日から下阪し、儒者・藤井藍田を捕縛せよ。残りは京都で巡察に当たる!以上、解散!」

 長州討伐が一応の終結を見せたものの、不逞浪士たちの動きはむしろ活発になっている。将軍を迎え入れる前にそれらを一掃しておかねばならない。それが新選組の勤めなのである。だが、むしろ日常勤務の命令が新入隊士達の緊張を解いたらしい。土方の声と共にようやく表情を緩めた隊士達は、三々五々各自の持ち場に散らばっていった。

「それにしても、本当に黒尽くめの隊服にするとは思いませんでしたよ。」

 沖田は平隊士達が片付けている隊服を見つめながら隣にいた斎藤に呟く。

「土方さんも意地になっているんだろう。以前の隊服は不評だったしな」

 そもそも浅葱の隊服に文句を言ったのは沖田ら若い幹部達だ。土方は未だそれを根に持っているのだろう。やはり土方には『根性』より『執念』の方があう。だが、さすがにそれを口に出すことは憚られた。

「確かに不評を口にしたのは私達ですからねぇ・・・・・これで土方さんの溜飲も下がったでしょう。」

 周囲に聞こえぬよう小声で呟いた沖田の言葉に、斎藤だけが吹き出す。かくして新たな隊服は新たな新選組の象徴として広まっていく事になるのだが、そのお披露目は一ヶ月後の閏五月二十二日、将軍の出迎えの席での事になる。



UP DATE 2013.7.20

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・・・上司なり先輩なり、目上の人が家に転がり込んでくると本当に厄介です(^_^;)ちなみに新婚時代、旦那の先輩(当時独身)が我が家に遊びに来た時、家中の食料全部食いつくされてしまいましたorz

さすがに土方はそこまで行儀の悪いことはしませんが(いつでも来れるし←おいっ)新たな組織表を沖田に見せたり、江戸での出来事を話したりと、ちょっと屯所でやるのは憚れれる話をするようにはなっています。特に新入隊士が多く入ってきているこの時期、伊東派だけでなく長州の諜報にも神経を尖らせなければなりませんので屯所では迂闊な話ができなかったでしょう。勿論近藤さんの休息所でも同様の話はしたと思いますが、近藤さんはオナゴ関係が派手だから・・・(^_^;)

そしてとうとうやって来ました、黒い隊服v今回は『下染め止まりは嫌!』という若手幹部のために頭から爪先まで黒で統一してみました♪文句があるなら言ってみろバカヤロー、ってところでしょうか(^^)浅葱のだんだらにしても全身黒尽くめにしても確かに目立ちますよね~。大藩の中で活動していた新選組、やはり存在感をアピールしたかったのかもしれませんv

次回更新は7/27、新たな隊服で将軍上洛のお迎えです♪



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