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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十一話 黒い隊服・其の参

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慶応元年閏五月二十二日、真新しい隊服を身に付けた新選組総勢百余名は三条蹴上がりに待機していた。既に日は暮れ、月も昇らぬ京の街は闇に包まれている。だが、未だ将軍の行列ががやってくる様子はなかった。

「遅いな・・・・・何かあったのだろうか?」

 四条方面を見つめながら、近藤が隣で待機している土方に尋ねる。時折胃の腑の辺りをさすっているところを見ると、なかなかやってこない将軍の行列に神経をすり減らしているのだろう。そんな近藤とは対照的に、土方はあえてのんびりとした口調で答える。

「いや、何かあったら山崎ら監察方が即座に知らせが来るだろう。何せ千を超える大人数で淀川を上ってくるんだ、遅れてもしょうがないだろう。それに・・・・・。」

 土方は周囲に目を配りながら声を潜める。

「夜なら飛び道具は使えねぇから多少は警備が楽だ。幕府の奴らもできるだけ楽に移動したいんだろうよ。」

 その瞬間、近藤の顔が強張った。

「歳、口が過ぎるぞ!それに大樹公に飛び道具だなんて・・・・・縁起でもない!」

 気色ばむ近藤だが土方は平然としている。

「そういう事態もあるってことさ。長州の奴らがどんな汚い手を使ってくるか・・・・・近藤さん、あんただってさんざん思い知らされているだろうが。」

 あまりに的確過ぎる土方の言葉に近藤は頷くしか無かった。

「しかし話は変わるが、これじゃあ本当に闇夜に鴉だな・・・・・溶け込んじまってちっとも判りゃしねぇ。」

 背後に並ぶ百人以上の隊士達を一瞥して土方は不満気に鼻を鳴らす。『誠』と染め抜かれた提灯を手にしているが浮かび上がっているのはその顔だけ、あとは影の様に闇夜に溶けてしまっている。これでは新入隊士達のせっかくの晴れ舞台も極めて地味なものになってしまう。

「ま、大樹公が上洛している間、この隊服を着る機会は何度かあるだろうさ。」

 土方のぼやきに近藤が慰めを入れたその時である。闇夜にぽつりと灯りが浮かぶ。その灯りはこちらに向かっているらしく、徐々に大きくなってきた。

「土方さん、あれは・・・・・。」

 灯りに気がついた沖田が土方に近づき声をかける。その問いかけに土方は小さく頷く。

「山崎だろうな。大樹公がやっとご到着らしい。」

 土方のその言葉の通り、闇の中からやってきたのは黒い隊服を身に付けた山崎だった。

「局長!先程大樹公が四条を通過しました!まもなくこちらに到着なさります!」

 山崎が息を切らせて将軍の到着を告げる。その報告に全員が四条の方を見ると、遠目にもはっきりと大量の提灯の灯りがこちらに向かって近づいているのが判った。

「全員、襟を正せ!大樹公がいらっしゃったぞ!」

 何時にない近藤の大声が闇夜に響く。その瞬間、だらけ始めていた隊士達に一気に緊張が走った。



 壮観―――――将軍の夜の行列を一言で言い表すならこれしか言葉はないであろう。土方は内心、先ほど近藤に告げた言葉を訂正した。

(将軍行列がここまで煌々と明るいとは・・・・・これじゃあ鉄砲で狙い放題じゃねぇか。)

 数多くの葵の紋が入った提灯に取り囲まれた将軍の行列は、草履の擦れる音だけを立ててしずしずと道を進んでゆく。予め知らされていなければ狐か狸に化かされているのでは、と我が目を疑いたくなるほど幻想的だ。そんな美しすぎる行列の前後、そして周囲を会津や桑名の藩士達が取り囲むように護衛していた。顔なじみの彼らが護衛をしているから現実の出来事だと認識できるが、そうでなければただ呆然と行列を見つめていただろう。そんな新選組に馴染みのある、だがいつもとは違う威圧的な声が飛んできた。

「新選組!」

 公用方・広沢安任が隊列を組んでいる新選組に声をかけたのだ。その声に近藤以下隊士達は反射的に頭を下げる。

「出迎えご苦労!此処から先、御所までの先導を新選組に命ずる!心して取り掛かれ!」

「え・・・!」

 近藤と土方、否、新選組隊士達は我が耳を疑う。将軍行列の先導―――――てっきり会津藩の近くに配置されると思っていただけに、その名誉ある配置を一瞬受け入れる事ができなかった。そんな新選組に対し、広沢は再び声をかける。

「聞こえなかったのか、近藤?先導を・・・・・」

 少し心配そうな声音で広沢が問いかけたその声を、近藤の弾む声がかき消した。

「広沢様、有難き幸せに存じます!おい、皆!行くぞ!」

「応!」

 新選組は急いで将軍行列の前に進むと、そのまま先頭を歩き出す。早過ぎないよう、遅過ぎないよう行列の速度を気にしながらの行軍であったが、先頭を切っての将軍の護衛なのだ。新入隊士達は勿論、古参の幹部達の顔も晴れやかである。

「あ~あ、どうせならおまさや向こうの家族にも見せてやりたかったぜ、この晴れ姿。」

 原田が思わず呟く。将軍行列の先陣など滅多に任じられるものではない。それだけに家族に見せたいという原田の気持ちも尤もなのだが、今は月も無い真夜中である。さすがに家族も見物に来ることは出来ない。そんな原田の呟きに頷いた幹部は一人二人では無かった事は言うまでもない。



 御所まで辿り着くと、将軍を載せた駕籠はそのまま門の中へと入ってゆく。後に残された新選組は清和院御門で待機するよう命じられた。

「御所から二条城までの護衛も任された。皆、心してかかるように!」

 近藤は誇らしげに隊士達に告げるが、他の幹部達は別の思惑を抱いていた。

「長州の動向はそんなに活発になってきているんでしょうか、土方さん。」

 近藤に聞こえないように沖田が土方に尋ねる。

「・・・・・だろうな。でなけりゃ御所から二条城まで、こんな仰々しい護りはいらねぇだろう。というか俺達だって先導を任されちゃいねぇさ。」

 そう言いながら土方は何か考えこむように腕を組む。そして暫くしてからポツリと呟いた。

「もしかした大樹公がいる間だけでもこの周辺を見廻っておいたほうがいいのかもしれねぇな。」

「しかしそれだと見廻組や奉行所の管轄を侵犯してしまうことに・・・・・」

 御所近辺のような安全な場所は幕臣である奉行所の同心や見廻組が巡察に回っている。この一時だけだとしても、見つかれば後々面倒なことになりかねない。

「それが問題なんだよなぁ。」

 土方は眉間に皺を寄せた。動きたくてもしがらみが邪魔をする。危険だと解っていても手を出す事は許されない。

「ま、今夜は仕方ねぇ。大樹公の護衛に徹するしかなさそうだな。」

「それに今日は幾ら何でも挨拶だけでしょう。一刻もしない内に出ていらっしゃいますよ。」

 沖田は気楽に答えた。だが、この予想が間違いだったことに気が付くのにそう時間はかからなかった。



 てっきり挨拶程度で終わると思っていた将軍の天皇への拝謁はなかなか終わらず、新選組が清和院御門で待機を命じられてからニ刻を有に過ぎていた。

「おい、まだ話は終わらねぇのかよ!」

 苛立ちを含んだ声で呟いたのは永倉である。

「そんな重要懸案なんてあったか?確かに長州討伐も一段落して、ちょろちょろうるさいネズミが出てきてはいるけどよ」

 原田も永倉に同調した。それだけならまだしも、普段こういった事に口を出さない井上までもがぽつりと口を挟んだのである。

「もしかしたら、再び討伐が検討されとるんじゃろうか?」

 その瞬間、その場の空気が凍りつく。

「ま、まさか・・・・・だって半年前に交渉で事なきを得たじゃありませんか。」

 沖田は井上の発言を否定しようとするが、その声は引きつっている。

「いや、源さんの言い分にも一理あるかもしれないよ。」

 藤堂も話に加わり、井上の発言に同意した。

「ここ最近、長州でも過激派が勢力を伸ばし始めているみたいだし、今のうちに叩いておいたほうが後々のためにいいんじゃないかと。」

 最初はヒソヒソ声だった話がだんだんと声高になってゆく。その話を聞きつけて平隊士達も徐々に集まってきた。勿論興味深そうに聞く者が多かったが、中には明らかに怯えを見せる者もいる。それはまだ入隊したての新入隊士達だった。

(あ・・・・・この話は新入り達にはちょっと刺激が強すぎるようですね。)

 怯える隊士達に気がついた沖田が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。日常の巡察でさえ命を落としかねない新選組の仕事をする上で、一番の敵は恐怖心である。一度死に対する恐怖を抱いてしまえばそう簡単にそれを払拭することはできない。

(頼みますから、辞めるときはちゃんと土方さんに申し出てくださいよ。でないと余計な仕事が増えるんですから。」

 沖田は芹沢が死んだ直後の頃を思い出す。求心力を失った新選組から次々に隊士達が脱走し、それを粛清していったことを―――――正直、あのような思いは二度としたくない。

(そもそも公方様の話が遅いのがいけないんですよ。皆に余計な妄想を抱かせるから。)

 喧々諤々の議論になりつつある仲間たちを横目で見ながら、沖田はいち早く謁見が終わるのを祈らずにはいられなかった。



 結局、将軍が拝謁を終え、御所から出てきたのは夜が白々明けた頃だった。来た時同様、新選組は将軍の行列の先陣を受け持ち、二条城まで送り届ける。

「ご苦労。」

 一橋公から素っ気ない労いの言葉を受けた後、新選組はようやく屯所に帰還することが出来た。その頃には新品だった黒い隊服もくたびれてよれよれになっている。

「あ~あ、結局明るい内に格好いいところは見せられなかったな。」

 原田のぼやきに皆が同調する。将軍行列の先陣も、見て見らわなければ結局闇の中に溶けてしまった隊服同様あやふやなものでしかないのだ。そんな現実に落ち込む男達を土方の声が現実に引き戻す。

「着替えたら通常の巡察にもどれ!ちんたらしてるんじゃねぇ!」

 土方の怒声に隊士達は各自持ち場へと散らばっていったが、ただ一人沖田だけは呼び止められる。。

「そうだ、総司。おめぇ、今日の午後空いているか?」

「ええ、まぁ。」

「だったら近藤さんの護衛を頼む。」

 近藤の護衛ならば他に用事があっても誰かに頼んでしまうだろう。沖田は苦笑いを浮かべながら勿論、と返事をする。

「ところで近藤先生、どちらに行かれるんですか?」

「木屋町だ。何でも御典医に会うそうだ。」

 近藤が何故御典医に逢うのだろうか。そして御殿医とあろうものが何故木屋町にいるのか―――――土方の言葉に沖田は小首を傾げた。



UP DATE 2013.7.27

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晴れがましいお披露目は、すっかり日も暮れ月も昇らぬ夜中でした(爆)。将軍の夜の到着は史実でして、新選組の隊服は間違いなく闇夜に溶け込み目立たない・・・・・というか提灯に首だけにゅっ、と浮かんでいるような状態だったでしょう。昼間だったら百人を超える黒尽くめの屈強な男達は相当な威圧感とともに目立つと思うのですが(^_^;)これもおちゃめな新選組らしくてまたいいかな、と(おいっ)

そんな彼らが見たものは荘厳な将軍の行列でしたv『葵と杏葉』の時に夜間の大名行列について調べたのですが、昼間見るのとは違った美しさがあるらしい・・・今だとエレクトリカルパレードみたいな?(違っ!)そうなると将軍行列はさらに華やかになるでしょう。ただ、夜中なので『下にぃ~』の掛け声は無しでv夜の行列について書かれた文献、錦絵は浅学なので存じあげないのですが、絶対美しかったはず!そしてその美しい行列の先導を任された新選組はきっと誇らしかったと思いますv

次回更新は8/3、木屋町にいる御殿医、松本良順登場ですv
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