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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十四話 名医来たる・其の貳

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 近藤の帰還を受けて松本の屯所内見学は一旦中断し、局長室に通された。

「いや、本当に申し訳ございません!平にお詫び申し上げます!」

 松本来訪時の他出を詫びる近藤だったが、松本は既に上の空だった。出された茶にも口をつけようとはせず、そわそわと落ち着きなく隊士部屋の方を気にしている。明らかに屯所見学の続きがしたくて仕方が無いといった風情だが、近藤の侘びは長々と続く。

「おい、挨拶はそろそろ終いにしてあっちの様子を見せてもらえねぇかい?」

 我慢の限界が来たのか、とうとう松本は近藤の言葉を遮って立ち上がってしまった。

「俺は江戸っ子なんでな、気が短けぇんだ」

 あえて『江戸者』ではなく『江戸っ子』の言葉を使い、近藤をせっつく。

「は、はぁ」

 松本の性急さに鼻白む近藤だったが、いつもなら近藤の味方である土方までもが松本の肩を持った。

「諦めろ、近藤さん。あんたが帰ってくるまで屯所内部を『診て』もらっていたんだ。その続きを中断させるほうが悪い・・・・・・どうやら新選組は相当な重篤患者らしいしな」

 そう告げると、土方は松本から貰った改善点―――――武器庫以外ほぼすべて―――――を簡潔に説明する。

「・・・・・・という訳だ。で、これから一番大事な隊士の様子を見ようか、って時にあんたが帰ってきたんだ。松本法眼が苛立つのも仕方ねぇだろう」

 土方の説明に、渋い顔をしていた近藤もようやく納得した。

「承知しました。では私もご一緒させていただきます」

 さすがに土方だけを付き添いに、という非礼は許されない。即座に近藤も立ち上がる。そして松本の弟子を加え、四人による屯所見学は再び始まった。



 さながら梁山泊――――――後に松本自らが著作に記したように、そこはまさに勇壮激烈な男達の世界だった。
 巡察に備えてだろうか、刀剣や鎖衣の手入れをする者がいたり、庭先で剣術の稽古に明け暮れているものもいるだが、そんな活きが良い男達に混じり、そうでない者達も松本の目に付いた。
 近藤や土方が来ているというのに、起き上がりもせず横になったままの者がいる。それだけではない。全裸で陰部まで露わにしているものさえいる始末である。その様子にだんだんと松本の表情が険しくなる。

(いくら何でも無礼すぎやしねぇか?)

 幾ら建前上『同士』とはいえ、近藤や土方は上司だ。それなりの敬意は払うべきだと思うし、道具の手入れをしていた者達はそうしている。だが寝転がっている者はちらりとこちらに目を遣るだけなのだ。そして近藤も土方もそれを咎め立てようとする素振りさえ見せない。

(いくら無頼の者の集団だってこりゃねぇだろう!隊士の躾は一体どうなっているんだ!)

 一部屋一部屋観察するにつれ、松本の怒りは徐々に高まっていった。



 屯所を一巡し三人が局長室に入った刹那、雷並、否、それ以上の怒声が屯所中に響く。

「近藤!ありゃ一体どういうことだ!隊士が局長であるおめぇに挨拶もしねぇなんて!あれで上様を、幕府を守ろうっていうのか、ええ?無礼にも程が有るぞ!」

 松本の剣幕に近藤はたじたじとなる。

「い、いや、その・・・・・・」

「こんな状態で隊士を制御出来るのか?もっと規律を厳しくして隊士達を制御するべきだろうが!こんなことじゃ幕臣なんて夢のまた夢だぞ!」

 松本のあまりの剣幕に、近藤はなかなか反論ができない。その時、近藤に代わり土方が松本に答えた。

「松本法眼、貴殿の怒りはご尤もです。しかし彼らは病人なので無理はさせられない・・・・・あえて束縛せずにいるのです」

 土方のその答えに、松本は大きな目を更に大きく見開く。

「何だって!三分の一はいたじゃねぇか!あれが全部病人だって言うのか?」

 あまりの惨状に松本は愕然とする。

「新選組ほどの組織だったら医者に診せることだって可能だろう。何故診せねぇんだ?」

 至極まっとうな質問を松本は投げかけるが、土方は苦笑いを浮かべつつ首を横に振った。

「いいえ、会津の医師などが診察に来てくれるのですが、医者を信じないものも少なくないのです。某らも手をこまねいておりまして・・・・・・何か解決策があれば教えを請いたいのですが」

 確かに百人を超える隊士であっても、三分の一が使い物にならないのでは話にならない。そこは近藤や土方の悩みの種でもあった。

「・・・・・・おい土方」

 新選組側の悩みを聞き、松本は腕組みをしつつ重々しく口を開く。

「まず手始めに病人を一つの部屋に集めろ」

「一か所に・・・・・・ですか?」

 土方は小首を傾げながら尋ねる。

「ああ、できるだけ風通しのいい、日当たりもいい場所がいいな。そこに病人を集めて寝かせておけ。そして・・・・・・」

 松本は一呼吸置いて続ける。

「一日一度、医者に回診をさせる。その方が効率的に病人を診ることが出来る。医者は南部の弟子の一人でも寄越してもらおうか。あと、小者を雇って看護者にさせろ。医者がいない時の面倒はそいつらにさせる」

「承知しました」

 いつの間にか矢立と懐紙を手にしていた土方が松本の指示を書きつけた。

「それと風呂はどうしている?ちょっと見回ったところ、見当たらなかったが」

「近所の湯屋に行かせていますが、何分少々遠めですので、ついつい井戸で行水程度になってしまう者も・・・・・・」

「そいつはいけねぇな」

 松本は唇を尖らせ、風呂についても指示を出す。

「夏場はいいが冬場はそれじゃあ困るな。確か西本願寺は風呂の許可を貰っていたはずだ。できるだけ大きな風呂を三つくらい用意しろ。それなら巡察帰りの隊士達が一挙に全員入ることが出来るだろう」

「承知しました。早速準備にとりかかります」

 そう言って矢立をしまい込み、早速行動に移ろうと襖に手をかけた土方を松本が慌てて止めた。

「おっと、その前にやってもらいてぇ事がある。隊士全員褌一丁でどこか一か所に集めろ。俺が見立ててやる!」

「え、法眼自らですか!」

 圧倒されてい今まで黙っていた近藤がようやく口を開く。

「おうよ、その為にわざわざここに来たんだからな!いや~久しぶりだぜ、こんだけ大勢を一度に診るのはよ!」

 やけに嬉しそうに言ってのけると、松本は持参した襷を袂から取り出し、それをかけ始めた。



「近藤先生、間に合ったでしょうかねぇ」

 清水方面の巡察を終え、屯所に帰還しようとしている道中、沖田は部下達に尋ねる。土方の指示により、近藤の他出先に向かい松本の来訪を伝言したのは沖田達だった。その知らせを聞いた近藤は勿論、相手側もおののきすぐさま近藤を屯所に送り出したのである。

「さすがに間に合ったと思いますよ。あれだけ泡を食って屯所に向かわれたんですから」

 中村金吾の言葉に隊士全員が大笑いをした。

「ところで佐々木さん、大丈夫ですか?」

 沖田はともすれば遅れがちになる佐々木に声をかける。

「ええ・・・・・・喘息だと思うんですけど、やっぱり一度医者に診てもらった方がいいんでしょうかねぇ」

 佐々木は胸を抑えつつ苦笑を見せた。だが、歩くのさえ辛そうなほど息を切らせている。

「ガキの頃からだっていっていたもんな。動き続けると呼吸が苦しくなるって」

 蟻通勘吾が心配そうに尋ねる。

「ああ、昔はそれでももう少し長く保ったんだが・・・・・年かな?」

「違ぇねぇや!」

 中村が混ぜっ返し、皆が爆笑したその時である。物陰から十人ほどの集団が飛び出し、沖田ら一番隊を取り囲んだ。

「新選組だな!覚悟!」

 浪士の一人が長州訛りのある声で叫ぶなり、一番隊に襲いかかる。

「まったく・・・・・・どうして凝りないんでしょうね」

 沖田は大仰に溜息を吐きながら大刀を抜く。部下たちもそれに倣い刀を抜くと、襲い掛かってくる浪士たちを迎え撃った。いつもと変わらぬ巡察の光景――――――だが、いつもと違う事が一つだけ起こったのである。

「うお―――――っ!」

 沖田の横から佐々木の悲鳴が聞こえたかと思った瞬間、佐々木が腕を来られて刀を落としたのだ。

「佐々木さん!」

 沖田はすかさず佐々木を斬った浪士に斬りつけ戦闘不能に陥らせ、佐々木を庇うように寄り添う。

「すみません・・・・・・しくじりました」

 あえて笑顔を見せる佐々木だが腕の傷はかなり深く、血がどんどん袖を染めてゆく。そんな中、隊士達はどんどん浪士達を倒してゆき、全員が捕縛された。

「中村さん!こいつらを奉行所に!私は佐々木さんを私の休息所に一旦連れて行きます!」

「もしかしてお小夜さんがいるんですか?」

 蟻通が安堵を滲ませた声で沖田に尋ねる。

「ええ、奇遇にもね・・・・・・」

 何故かバツの悪そうな表情を浮かべつつ、沖田は佐々木を抱えるようにして立ち上がらせる。

「二町ほどですが、歩けますか?」

「ええ・・・・・・何とか」

 だが、顔色はかなり悪く足許はふらついている。

「じゃあ行きましょう!」

 早くしないと命にかかわるかもしれない。沖田は佐々木を支えつつ、小夜が待つ休息所へと向かい始めた。



UP DATE 2013.8.17

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松本法眼の激怒は泣く子も黙る新選組をもひるませる迫力を持っておりました(爆)確かに局長や副長が見回っているのに寝転がったままとかフル◯ン状態とかってありえませんよねぇ・・・・・と言うか、客が来ているのに全裸って(爆)男所帯ならではの気楽さなのでしょうか?男子校なんかもこんな感じなんですかねぇ・・・(研究室で脱ぎ魔は一人いましたが。そういえば唯一の女子である私がいない時の家呑みでは全裸で宴会とか言っていたかも)
さすがに見るに見かねた法眼、歳に改善策を指示したあと、自ら隊士の健康診断に打って出ます。というか襷まで持参してやる気満々(^_^;)きっと上品な奥医師よりも、本当の意味で自分を必要としている患者さんを診るほうが好きだったに違いないと勝手に妄想しておりますv

そんな動きが屯所で起こっている最中、一番隊は不逞浪士に襲われ、佐々木蔵之介が怪我を負います。屯所より近い沖田の休息所に運び込む事になったようですが・・・・・・次回はもう一人の名医・小夜が腕をふるいますv
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