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「紅柊(R-15~大人向け)」
甲午・秋冬の章

鮫ヶ橋の残暑・其の参~天保五年八月の房事(★)

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 山田浅右衛門吉昌にその知らせがもたらされたのは小伝馬町の牢屋敷、死罪の執行を行い、そのまま試し切りの稽古を行おうとしていた矢先の事だった。

「山田さん、ちょっと宜しいでしょうか」

 囚獄・石出帯刀が弟子達を見守っていた吉昌に声をかける。その視線は穏やかな彼にしてはかなり厳しいものだった。

「江戸城から・・・・・・加賀守からの言伝です。今し方、牢屋敷に使いの者がやって来ました」

 その一言に吉昌は怪訝そうに眉根に皺を寄せる。紅葉山への月例報告は三日前済ませたばかりだ。それにも関わらず呼び出される理由が思い浮かばない。

「老中・・・・・・から?」

「死罪執行のところ申し訳ないが、至急、紅葉山に来られたしと」

 帯刀は周囲に聞かれないようさらに声を潜めた。石出帯刀は吉昌が紅葉山掃除者出身である事実を知る数少ない人物の一人である。年に一、二度ではあるが帯刀を通じて幕府からの命令が下ることさえあるのだ。
 今回もその一つだろう。吉昌は小さく頷くと、弟子達が稽古を始めている刑場の土壇場へと降りていった。



 小伝馬町での勤めが終わった後、吉昌は若い弟子達の面倒を為右衛門に任せ、自らはそのまま江戸城・紅葉山の紅葉山文庫へと向かった。月例報告以外でここに呼び出されるのは極めて珍しい。もしかしたら行方知れずになっている新實の消息が掴めたのかもしれない――――――そんな淡い期待を抱きながら御文庫へと足を踏み入れた。

「加賀守様、お待たせしました。山田浅右衛門、ただ今参上いたしました」

 夏の深緑からやや錆色を含んだ秋色の紅葉の下、吉昌は座敷で茶を飲んでいる大久保に一礼した。

「済まぬな、今日は仕置があったというのに・・・・・・まぁ、上がれ」

 鍋島焼の茶碗を置き、誰も居ないはずの周囲を気にする素振りを示しながら大久保は吉昌を促す。それに応じて吉昌は庭先から部屋に上がり、大久保の前に正座した。

「・・・・・新實が江戸に戻っているのを掃除者が見つけた。どうやら鮫ヶ橋を根城にしているらしい」

 吉昌に茶を勧めながら、大久保はとんでもない事を口にした。。

「それは・・・・・・誠ですか!」

 鮫ヶ橋と言ったら平河町の目と鼻の先である。まさかそんな近くにいたとは思いもしなかったと、吉昌は愕然とする。

「同様の報告を南町奉行所の幾田という同心もしている。だが、問題は潜伏場所ではない」

 大久保の表情が更に厳しくなる。

「どうやら奴は抜荷に加担しているらしいのだ。これがの報告書だ」

 大久保は横においてあった書状を吉昌に見せながら忌々しげに吐き出した。

「大阪に密貿易の船が入ってきたそうだ。その取り締まりの際、関東訛りの浪士風の男に大阪奉行所の同心一人と手下三人が斬られたとの報告が入っている」

「しかし・・・・・・それだけの報告で何故新實だと判ったのでしょうか?」

 関東訛りの浪士など掃いて捨てるほどいるだろう。それなのに何故それを新實と特定できたのか。吉昌は怪訝そうに尋ねる。

「・・・・・お前も出石藩のお家騒動の噂は聞き及んでいるだろう。その関係で多くの掃除者があちらに出張っている」

 吉昌の質問に、大久保は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ答えた。

「掃除者だけではない。他の幕府の諜報が上方に出張っている今、むしろ上方で動いて貰ったほうがこちらとしても捕まえやすいのだが・・・・・・我らの気配を感じたのか、それとも別の理由があるのか江戸に舞い戻ってきた。しかも鮫ヶ橋となると奉行所の同心や手下も迂闊には近寄れない」

 大久保の一言に吉昌も深く頷いた。今は諜報として幾多の下で働いている不動の恭四郎が鮫ヶ橋に入り込んだ際大怪我を負っている。

「いつ尻尾を出すか解らぬが、山田家に恨みを持っている男だ。平河町に現れるかもしれぬし、刑場近くに現れるかもしれぬ。その時は・・・・・・」

 大久保の声が更に低く、毒を含んだものになる。

「確実に殺せ。たとえ相打ちになろうともな」

 ざわり――――――全てを凍りつかせる大久保の冷徹な言葉に、吉昌は紅葉達が震えたように思えた。



 新實が夕波の許に転がりこんでから十日ほど経った頃、新實は再び旅支度を始めていた。一か所に腰を落ち着ける、安穏とした生活はこの男の性に合わないらしい。

「益次郎・・・・・・今度は何処に行くんだい?」

 寝煙草をふかしながら、夕波は新實に尋ねる。肩まで露わにした緋色の長襦袢姿に後れ毛の目立つ潰し島田がやけに色っぽい。

「長崎にでも足を伸ばすさ。上方は出石のお家騒動で役人どもがうろついていて仕事にならねぇ」

 そうぼやきながら新實は外をちらりと見やった。その視線の先にはこちらを覗きこんでいる男がいる。どうやら私娼を買いに鮫ヶ橋に迷い込んできたらしい。

「あいつは『おのぼり』だな。こんな物騒なとことにたった一人で迷いこみやがって」

 新實の言葉に興味をそそられたのか夕波はだるそうに身体を起こすと、新實を押しのけ外を覗く。そこには股引を履き、鰹縞を尻っ端折りにした若い男がきょろきょろと辺りを見回していた。

「初めて見る顔だねぇ。しかしなかなかいい男じゃないか。百姓らしく身体も頑丈そうだし・・・・・・あれなら丸一日は保つかねぇ」

 まるで涎を垂らしそうな表情で夕波はその男を見つめた。横に新實がいなかったら間違いなく夕波はその若者を局見世に引きずり込んでいただろう。

「本当に何処まで淫蕩なんだ、おめぇは・・・・・・明日の夕方くらいには、あの若造の最後の一滴まで搾り取るつもりなんだろう?」

 少し嫉妬を含んだ声で夕波をなじると、新實は夕波の唇を強引に貪った。荒々しく夕波の口腔を犯し、歯で夕波の舌を扱く。淫猥で乱暴過ぎる接吻に、夕波の口の端からは涎が滴り落ち、首筋や胸元まで濡らしてゆく。

「・・・・・・そんな、判り切った事を」

 激しい接吻から解放された夕波は、唾液に濡れた唇をきゅっ、と吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

「だったらおめぇの淫乱ぶりを見せつけてやろうか、あの若造に」

 新實は夕波を引き寄せ、耳朶を甘噛みしながら夕波の懐に手を突っ込んだ。跳ね返すような張りと蕩けるような柔らかさが同居した乳房の感触が新實の掌いっぱいに溢れてゆく。

「別に構わないけどさ、あの坊やが逃げ出さない程度にしておくれよ。あんたがいなくなった後、わっちを満足させてくれる男なんていないんだから」

 夕波は新實に媚びながら、折角準備した新實の旅装を解き始め、半裸に剥いてゆく。

「あんたが何処に行こうと勝手だけど、ここにいる間はわっちを満足させてもらわないと」

 どうやら今回最後の情事を堪能するつもりらしい。いつの間にか夕波は新實の逸物を下帯から引っ張り出し、白魚のような細い指で新實の逸物を嬲り始めた。軽く爪を立てながらの、少し乱暴な愛撫に新實の逸物はむくむくと頭をもたげ、夕波の掌の中で力を漲らせてゆく。

「あの若造で丸一日か・・・・・・ここの町名主はよく死なずにいられるな。

 夕波の乳房を弄びつつ、新實が呆れたように尋ねた。

「そこは加減ってもんさ。あの男も馬鹿じゃない。一回、二回やってそそくさと逃げてゆくよ。しかもあんたが顔を出してから一度もこっちに顔を見せに来やしない・・・・・・今頃女房の股ぐらに頭を突っ込んでブルブル震えているんだろ」

「おめぇにかかっちゃあ、泣く子も黙る鮫ヶ橋の町名主も形無しだな」

 新實は下卑た笑みを浮かべつつ、夕波を自分の膝の上に跨がらせた。

「これが今回の最後だ。好きなだけ動いていいぞ」

 新實は天を向いてそそり立つ己の逸物を指し示し、夕波を促した。

「・・・・・・だから好きさ」

 夕波は新實に跨ると、そそり立った逸物にゆっくりと腰を落としていく。並の男より一回りは大きく、鋼のような硬さと熱を帯びる新實の逸物は、夕波の蜜壺から滴り落ちる蜜に濡れつつ、夕波の肉襞を割りさいた。そして夕波の蜜壺が新實の逸物を完全に呑み込んだ瞬間、ぐちゅっ、と淫猥な濡音が局見世に響く。

「まるで・・・・・・脳天まで串刺しにされたみたいだよ!」

 獣のような咆哮を上げながら、夕波は新實を犯し始めた。新實が旅立ってしまったら今度いつ逢えるか判らない。それゆえに全てを身体に刻み込もうとするのか、夕波の腰は激しく新實を喰らってゆく。

「勿体ぶっていないで幾らでも気を遣っていいからね。あんたが満足するまで、とことん付き合ってやるからさ」

 快楽の呻き声を上げる新實を見下ろし、夕波は獲物を喰らう肉食獣のような舌舐めずりをした。



 翌日―――――

「ふん、若造のくせにすぐにへばりやがって!おととい来やがれ!」

 夕波の罵声が鮫ヶ橋に響く。

「も、もう勘弁してくれよ、姐さん!」

 夕波の局見世から若者が転がり出てくる。鰹縞の長着を辛うじて羽織ったその姿は惨めとしか言いようがない。
 いつもと変わらぬ風景にいつもと変わらぬ出来事――――――だがそこに新實だけがいない。ほんの少しだけ寂しさを覚えるが、二、三日したら寂しさも薄らぐだろう。
 夕波はふん、と鼻を鳴らし煙草盆に近づくと、手慣れた仕草で安煙草を煙管に詰め始めた。



UP DATE 2013.8.21

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鮫ヶ橋に一旦戻ってきた新實は十日ほどで再び旅立ってしまいました。元々の性分なのか、それとも犯罪者の身の保身ゆえの本能なのかは定かではありませんが、一か所にじっとしているのは好きじゃないらしい・・・・・いや、もしかしたら夕波に付き合っていたら、さすがの新實も最後の一滴まで搾り取られると恐怖を感じて・・・(以下自粛・笑)

丁度この頃、出石藩のお家騒動(興味のある方は『仙石騒動』でぐぐってみてくださいv)も重なり、どうも物騒な世情だったようです。新實もそういったものを利用して生き延びていたのかも。まだまだのさばりそうな新實、そして毒婦・夕波・・・・・・この二人がどうなるのか、作者も全く読めません(^_^;)

次週28日は『横浜恋釉』(明治天皇の大喪を絡めて虔太vs西園寺の恋のバトルの予定)、紅柊9月話は9/4から開始します。実はこの月、夕波にも負けず劣らずの三つ又女が獄門にあったという記録がございまして・・・その話を書かせていただきますね♪
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