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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十五話 名医来たる・其の参

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 およそ二町ほどの距離をゆっくりと歩きながら、沖田と佐々木は小夜が待つ沖田の休息所に到着した。

「小夜!傷の縫合を頼みます!佐々木さんが怪我をしたんです!」

 沖田は玄関の引き戸を開くなり、開口一番小夜に佐々木の傷の縫合を頼む。

「へ、へぇ!」

 小夜は佐々木の怪我を確認すると、慌てて縫合道具が入っている道具箱を水屋箪笥から取り出した。そして傷口を焼酎で丁寧に洗うと縫合を開始する。

「ふぅ・・・・・・早めの虫干しがとんでもないことになってしまいましたね」

 沖田は小夜の手許を見つめつつ安堵の溜息を吐いた。本当は沖田の仕事が入っている今日、小夜は来る予定ではなかった。しかし少し早めの衣替えをしてもらおうと、来てもらっていたのである。おかげで素早い処置ができたが、小夜には少々心配なことがあった。

「せやさけ、ええんですか?新選組にかてお抱えのお医者はんの一人や二人、いらはるんやないですか?」

 そんな小夜の疑問に答えたのは、沖田ではなく佐々木であった。

「そいつらが信用できればお小夜さんの所に素直にやってきませんって」

 そもそもお抱え医師は庶民の病に疎い上に、外科に弱いものも少なくない。会津の南部を始めその弟子達はまだましな方だが、それだけになかなか新選組まで手が回らないというのが実情だった。
 そんな中、一番隊の隊士だけは沖田の配下ということで小夜の手当を受けることができていた。大して技術もない強面の男医者より、若くて愛らしく、外科の技術もそこそこある小夜に頼ってしまうのは自然のなりゆきである。

「全く奴らときたら大した技量もない癖に金ばかりふんだくって・・・・・・いてて!」

「もう、動かんといてください・・・・・・はい、できましたえ」

 縫合を終え、傷口を晒で丁寧に巻くと、小夜は治療の終わりを告げた。

「それにしても、本当にうまいですよね。申し訳ないけど屯所に来てくれる前之先生とはえらい違いですよ」

 沖田が感心したように呟く。まるで布を縫うようにすいすいと、しかも傷がきちんと塞がるように丁寧に縫合してゆくその手の鮮やかさは見事である。少なくとも小夜ほどの縫合技術を持った医者を沖田は知らない。そんな沖田の褒め言葉に、小夜は頬を染めつつその理由を口にした。

「これはほんまに慣れどす。やんちゃな子供らや・・・・・・土木作業での怪我人の手当を父の代わりにしていたら、いつの間にか出来るようになってました」

 小夜が微かに言い淀んだのを沖田は聞き逃さなかった。きっと差別による理不尽な怪我も少なくないのだろう。仲間の命を守るため、身についてしまった技術に自分達が助けられている罪悪感を沖田は感じた。が、しかし、沖田の横にいる佐々木はそれを全く感じていないようである。

「ありがとうございます。いや~本当に助かりましたよ」

 脳天気に佐々木は礼を言うが、何故か小夜の表情は晴れない。そして意を決したように重々しく口を開いた。

「傷は大丈夫やと思うんですけど、胸の方はどないですか?そっちのほうはまだ父に習っていないんで判らへんのですけど・・・・・」

 どうやら小夜としては腕の傷よりも、佐々木の呼吸の粗さが相当気になるようである。それは沖田や他の仲間も気にしていた事だけに、沖田としては小夜の見立てを聞いておきたいと水を向けた。

「佐々木さんは喘息だって言い張っているんですけど、小夜はどう思います?」

 そんな沖田の問いかけに、小夜は首を横に振りながら答えた。

「・・・・・・少なくとも喘息やあらへんと思います。かわた村にも何人か喘息持ちがおるんですけど、明らかに佐々木さんとは症状が違います。もしかしたら心の臓や肺に何らかの問題があるかもしれまへんので、やはり一度きちんとしたお医者様に診ていただいたほうがええんやないかとうちは思います」

 何時にない小夜の真剣な口調は一刻の猶予も許さないことを示している。やはりこの機会に医者に診てもらった方が良いのかもしれない。

「・・・・・・ですって、佐々木さん。諦めて南部先生に診てもらいましょう」

 ここは組長として部下の健康を守らねばならない。嫌そうな表情を露骨に浮かべる佐々木に対して沖田は悪戯っぽく笑いながら宥めすかした。



 沖田と佐々木が屯所に戻った時、松本良順の健康診断を終えた三番隊が巡察に出るところだった。佐々木の怪我を目ざとく見つけた斎藤、傍に付き添っている沖田に声をかける。

「沖田さん、どうしたんだ?佐々木のその怪我は?」

「ははは、巡察でちょっと遅れを取ってしまいました。私の休息所で傷口を縫ってきたんですが、一応南部先生に診てもらったほうがいいですかねぇ」

 佐々木の腕をちらりと見ながら沖田は肩を竦めた。

「だったら松本法眼に頼めばいい。今、隊士全員が診てもらっている。」

 斎藤のその一言に、沖田は目を丸くする。

「法眼が?まさかお一人で診ている訳じゃありませんよね?幾ら何でも一人で百人を超える隊士を診るのは・・・・・・」

 無茶だろう、沖田が言いかけたその言葉を斎藤が遮った。

「いや、弟子はいるが診ているのは法眼一人だ。あれはなかなかの見ものだぞ。しかも法眼が喜々としている」

「嬉々として?」

 少なくとも百人を超える隊士達の診断に使うような言葉ではない。だが、斎藤はその通りだと言葉を続けた。

「ああ、よっぽど奥医師の仕事が退屈きわまり無かったんだろう。病の市場のような新選組隊士を前に診断を下しては適切な処置をしていくんだが、それが早いこと早いこと!」

 さも愉快そうに斎藤は含み笑いを浮かべる。

「だったら佐々木さんの傷も診てもらえますかね」

 こんな機会は二度と来ないかもしれない。沖田は淡い期待を口にする。

「ああ、きっと診てもらえるだろう・・・・・・そろそろ先に帰ってきているあんたの配下が診てもらっている筈だ。行けば先に診てもらえると思うぞ」

「そうですか。じゃあちょっと行ってきます」

 沖田は斎藤に礼を述べると、佐々木を支えながら奥の部屋へと向かった。



 松本良順が診察をしている座敷に沖田と佐々木がやって来た時、すでに一足先に屯所に帰ってきていた一番隊の隊士達が診察を受けていた。だが、佐々木の姿を見た松本は、中村の診察を途中で止め、沖田を手招きする。

「怪我をしたんだってな。ちょいと見せてみろ」

 どうやら先に帰っていた他の部下達が事情を話していたらしい。

「すみません。お願いします」

 沖田は安堵の表情を浮かべつつ一礼すると、佐々木を松本の前に座らせた。すると松本は佐々木の腕に巻かれた晒をすぐさま外し、傷の様子を観察する。

「へぇ、なかなかきちんとした縫合をしているじゃねぇか。こっちは俺の手直しは必要ねぇな・・・・・・この手当、誰がやった?」

 探るような松本の言葉に、普段はのらりくらりとこの手の問をはぐらかしてしまう沖田でさえ怯んでしまう。

「え、あの・・・・・・私の休息所の・・・・・・」

 消え入りそうな沖田に代わり、口を挟んだのは診察の途中で放り出された中村であった。

「松本先生、実は沖田先生のレコがかわた医者の娘でして、怪我をした時手当をしてもらえるんですよ。尤も沖田先生立ち会いの下ですけど・・・・・・あ、これは他の隊には内緒にしておいてくださいね。でないと他の組の奴らに文句を言われちまうんで」

「ほぉ・・・・・なるほどねぇ」

 中村の暴露と、頬を染めている沖田の表情に思うところがあったのか、松本は意味深な笑みを浮かべた。

「この前、俺の後ろに積んであった医学書に色目を使っていたのはその為か。ま、これだけの腕を持っているんなら簪より医学書だろうな・・・・・・・ところで沖田」

「何でしょうか?」

 不意に真剣味を帯びた松本の言葉に、沖田は背筋を伸ばして何事か尋ねる。

「おめぇの女はこの男の症状について何か言っていなかったか?」

 小夜の力量を探ろうというのか、それとも何か別の思惑があるのだろうか――――――沖田がそう思いかけたその時、沖田は不意に小夜の言葉を思い出した。

「ええ・・・・・この胸の苦しさは喘息からくるものではない。ただ小夜もそこまでは父親から習得していないので原因は判らない。きちんとした医者にみせるべきだと申しておりました」

 その返答に、松本は満面の笑みを浮かべる。

「おめぇの女の見立ては間違いねぇな・・・・・さらにその父親という男もなかなかの腕の持ち主と見た。かわた医者にもなかなかの腕前を持つものが少なくねぇと聞いた事があるが、一度顔を拝みてぇもんだ」

 冗談とも本気ともつかないことを言う、松本は棒状のもの――――――聴診器を取り出し佐々木の胸に当てた。だが、暫く佐々木の胸の音を聞いていた松本の表情は徐々に厳しいものに変わってゆく

「・・・・・・こりゃ、思ったよりもまずいな」

 聴診器を外しつつ、松本は深い溜息を吐く。

「松本先生、一体佐々木さんの身に何が?」

 心配そうに尋ねる沖田に対し、松本はあまりにも厳しすぎる返事を返した。

「沖田、近藤か土方をここに呼んできてくれねぇか。こいつは・・・・・・心臓病だ」

「何ですって!」

 沖田を始め、その場にいた一番隊の隊士達が色めき立つ。今までの診断でも見立て違いは一切なかった。それだけに松本のこの診断は極めて重い。

「このまま新選組として仕事をしていたら間違いなく三ヶ月とは保たねぇ。俺からも口添えしてやる。こいつの身分の保証と――――――即時の除隊を求める!」

 死刑宣告にも似た松本良順の言葉に、その場の空気は凍りついた。



UP DATE 2013.8.24

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怪我の方は小夜の縫合で大事には至らなかった佐々木ですが、松本法眼の診断によって心臓病であることが判明いたしました(>_<)現在に当てはめるなら舛ノ山関みたいな感じなんでしょうかね・・・心臓病の疑惑があり、20秒しか全力で相撲が取れないながら関取まで上り詰めた舛ノ山ですが、佐々木もきっとそんなハンデを乗り越えて剣術を極め、新選組に入隊したのかもしれません。でも法眼に見つかってしまった・・・orzちなみにこの健康診断ではその他労咳の患者が一人見つかっております。

次回は佐々木の除隊勧告、そして歳の『兵は神速を貴ぶ』のパロディ『兵は拙速を尊ぶ』の風呂場&病室準備の話が中心となります(*^_^*)
(多分『神速』とは言い難いと卑下していたのかもしれない・・・)
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