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「短編小説」
横浜恋釉

横浜恋釉~明治大帝の大喪と望まぬ再来者

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 大正元年九月十三日、今にも泣き出しそうな空の下、明治天皇の斂葬の儀が青山葬場殿にて執り行われた。

 殯宮か葬場殿にやってきた棺を見つめつつ、董子は涙ぐむ。その傍に影のように寄り添うのは虔太だ。本来平民である虔太が葬場殿に入る事も、董子と一緒にいることも許されない。しかし董子たっての希望と、董子の叔母・晶子の根回しによってこの場にいる。勿論虔太もそれ相応の袖の下を関係者に掴ませたのだが・・・・・・。

「あの子は兄に似て気難しいところがあるのよ」

 葬場殿に虔太が入れるよう手筈を整えてきた時、晶子は心配そうに虔太に告げた。

「確かに身分云々を煩く言う人もいるわ。だけど陛下がお隠れになって不安になっている董子を支えられるのはあなただけなの。だからお願い、葬場殿で付き添ってあげて」

 確かに気が強く、情緒不安定気味のところがある董子だが、晶子は心配し過ぎなんじゃないかと虔太は感じた。少なくとも董子も成人女性だ、そんな酷い取り乱し方はしないだろう。

「承知しました。なぁに、従者のふりをしていれば誰も煩く言わないでしょう」

 晶子の心配を大仰だと思いつつも、董子の傍にいることができるという理由だけで虔太は了承した。しかし、晶子の杞憂は現実のものとなったのである。

「陛下・・・・・・何故!」

 棺が祭壇に安置された瞬間、董子はわっ、と泣き出した。しかも声を押し殺してくれるのならともかく、かなりの大声で泣き出したのだ。

「董子さん、気を確かに・・・・・・」

 周囲の刺さるような視線に耐えつつ、虔太は董子を慰める。最初こそ胡散臭そうに虔太を見ていた華族の者達も、泣き喚く董子を慰めている虔太に視線が和らぎ始める。どうやら彼らにも虔太が参列している意味が解ったらしい。身分云々も大事だが、それ以上にこの厳粛な空気をたった一人の女性による喚き声で壊されたくないと思ったようだ。
 哀しみだけが満ち溢れる葬場殿、その厳粛な空気の中、明治天皇の斂葬の儀は粛々と進んでいった。



 斂葬の儀が終わった後、虔太と董子は晶子と別れ、旧九条邸へと馬車を走らせた。

「・・・・・・虔太さん」

 今まで泣き続けていた董子が、小さな声で虔太に声をかける。

「何でしょう?」

 どこまでも穏やかな虔太の声に促されるように、董子はぽつり、と呟いた。

「お願いがありますの・・・・・・これからも、ずっと私の傍にいてくださらない?その・・・・・・」

 一瞬躊躇した後、董子がさらに言葉を続けようとしたその時である。馬車馬が激しく嘶き、馬車が急に止まったのだ。

「おい!何が起こったんだ!」

 座席から転がり落ちそうになった董子を抱きしめ、虔弥は馬車の御者に怒鳴りつける。その瞬間、馬の嘶きよりさらに大きな銃声が轟いた。

「滝沢虔太、出てこい!」

 馬車の外から聞き覚えのある声が虔太を呼びつける。それを聞いた瞬間、董子の柳眉が跳ね上がった。

「あの声は・・・・・・西園寺!」

 怒りに満ち溢れる董子とは対照的に、虔太はあからさまにうんざりした表情を露わにする。

「・・・・・・の、ようですね。董子さん、先に表で喚いている蛆虫を片付けてから先程の質問に答えさせて――――――いいえ、こちらから聞いておきましょうか」

 虔太は馬車の扉に手をかけながら董子に笑顔を見せた。

「僕が生きて馬車の中に戻ってきたら――――――結婚して下さい、董子さん」

「えっ?」

 思わぬ言葉に驚く董子の唇に軽く接吻すると、虔太は馬車の扉を盾にしつつ表へと出る。

「まったく性懲りもなくのこのこと・・・・・・西園寺!貴様、陛下の大喪を汚す気か!」

 馬車の扉の影から虔太は西園寺を挑発する。馬車の扉の窓越しに伺うと、幽鬼のようにやつれた西園寺が大きめの短銃を手にしていた。コルト社製かS&W社製かは歪みのある硝子越しでは定かではないが、かなり破壊力はありそうだ。虔太は慎重に西園寺の動向を伺う。

「それはこっちの科白だ!董子さんをこっちによこせ!この平民がっ!」

 その瞬間、西園寺は虔太に向かって銃口を向け引き金を引いた。虔太は地面に転がり間一髪されを避けると、胸ポケットに忍ばせた護身用のデリンジャーを抜き、西園寺の太腿に撃ち放つ。

「うおっ!」

 虔太の撃ち放った銃弾は西園寺の太腿に命中し、西園寺は傷口を抑えて蹲った。その瞬間、銃声を聞いた警察官がどこからとも無くわらわらと集まってくる。

「何事だ!」

「襲撃犯です!その男はこの馬車が九条の姫君のものだと知って襲撃してきました!」

 西園寺が口を開く前に虔太が警察官に告げる。何だかんだ言っても虔太はそこは商人である。銃の扱いよりも話術のほうが断然得意だ。その話術を駆使して警察官を信用させる。

「しかもその男は詐欺まがいの商売で顧客に被害を与えています!」お亡くなりになった陛下の御為にもその悪人は捕らえるべきでしょう!」

「何だと?おい、そいつをひっ捕らえろ!」

 年かさの警官が部下らしい若者数人に命じて西園寺を捕縛する。そして警官たちは暴れる西園寺をそのままどこかへと引っ立てていった。

「では、何かありましたら明豊堂東京支社・・・・・・というより九条邸と言ったほうが通りがいいでしょうか?そちらにおりますので連絡を下さい。いくらでも証言はいたします」

 虔太は年かさの警官にそう告げると、馬車の中に入った。

「お待たせしました、董子さ・・・・・・!」

 馬車の扉を閉めた瞬間、虔太は面食らう。何と、董子が自ら抱きついてきたのである。あまりにも大胆な董子の行動に、虔太は動揺するが、董子はそれどころではなかった。

「何で、あんな危ないことを・・・・・・もう、大事な人が死ぬのは嫌ですの!」

 泣きじゃくりながら虔太に訴える。大事な人――――――董子の口からその一言が聞けただけで虔太は満足であったが、やはりあの答えを聞きたかった。虔太はそっと董子を抱きしめつつ、その耳許で囁く。

「じゃあ・・・・・・結婚してくれますか?」

 その優しい問いかけに、董子は黙ったまま頷いた。


 鉛色の空の隙間から日差しが差し込む。その一筋の光はまるで虔太と董子の未来を祝福しているようだ。御者が戻り、馬車が動き出すまでのほんのひと時、二人は互いのぬくもりを、そして想いを確かめ合ったのだった。



UP DATE 2013.8.28

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今まで必ず焼物&董子のファッションで当時のものを取り入れてきた横浜恋釉ですが、今回は明治天皇の大喪ということでそれらを控えさせていただきました。というか話の展開上それらを入れるのは今回ちょっと無理・・・ということでサービスと言うわけではありませんが、一気に虔太&董子の仲を進めちゃいました(^_^;)董子の方の唯一の肉親とも言える叔母の晶子(しょうこ)も許可していますしねぇ・・・というか、あのツンデレをうまくあしらえるのは虔太しかいないと諦めているんじゃないでしょうか(^_^;)

次回横浜恋釉は9/25、虔太と董子の婚約を聞いた虔弥の反応は?そして虔弥とお釉の仲の進展はあるのか否か、そこいらへんを取り上げたいと思いますv
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R様、初めてのご来訪ありがとうございます(*^_^*) 

初めまして、管理人の乾小路と申します(*^_^*)
『横浜恋釉』を楽しみにしてくださっているとのこと、本当にありがとうございますv
続きを楽しみにしてくださっているところ申し訳ないのですが、この話は一ヶ月に1話、第4水曜日の更新なのですよ(>_<)なので次回は9月25日、それを合わせて残り4回で最終回となります。
月ごとの拍手御礼としてUPしている作品なのでペースがゆっくりなのですが、宜しかったら気長にお付き合いしていただけたら幸いですv
コメント、ありがとうございましたm(_ _)m
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