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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十六話 名医来たる・其の肆

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「こいつは心臓病だ。こいつの――――――即時の除隊を求める!」

 隊士にとっては死ねと言わんばかりの松本の言葉に、その場の空気は凍りついた。

「ま、松本先生、冗談きついですよ。俺が、心臓病だなんて・・・・・・」

 佐々木は顔をひきつらせながら松本に異を唱える。だが松本は、首を横に振りながら佐々木に病状を告げた。

「気持ちは解るが、こいつばかりは冗談じゃ済まされねぇ。おめぇの心臓・・・・・・今まで死なずに持ちこたえていたのが信じられん」

 松本の口調、そして表情はどこまでも厳しい。それは佐々木の病状がかなり深刻な状況であることを如実に物語っていた。

「そ、そんな・・・・・・」

 事の深刻さに佐々木はがっくりと項垂れる。そこにやって来たのは、褌一丁のまま近藤を呼びに行った中村と、青ざめた顔をした近藤であった。

「松本法眼、うちの佐々木蔵之介に何があったのですか?」

 まさか隊士の健診で呼び出されるとは思っていなかったのだろう。心配そうに佐々木を見つめる近藤の、張りのある大きな声が心なしか声が震えている。

「残念だが・・・・・こいつは隊士としてこれ以上働かせることは医者として勧められねぇ。心臓病を患っている」

 そんな近藤に対し、松本は躊躇すること無く佐々木の病名を告げた。

「何ですって!」

 微塵も思いもしなかったその病名に、近藤は細い目をこれ以上大きくできないほど見開く。

「今まで心臓が破裂しなかったのが奇跡だ。即刻除隊させなけりゃ、いつ心臓が破裂しても文句は言えねぇ」

「ちょ、ちょっと待っていただけますか」

 松本の除隊勧告に近藤は慌てた。

「佐々木は新選組の中でも古参隊士なんです。並みの平隊士を除隊させるのとは訳が違うんです!」

 佐々木の除隊を勧める松本に対し。近藤は必死に食い下がる。

「新選組には勘定方も監察方も・・・・・・賄方だってあります。佐々木はそのような仕事にも就けないのですか?」

 近藤の必死の説得に感極まったのか、佐々木は涙ぐみ始める。だが、松本の答えはどこまでも非情だった。

「勘定方や賄方なら肉体的には問題ねぇだろう。だが、今まで第一線で活躍していた奴が屯所の隅で算盤を弾いてなんかいられると思うか?むしろ残酷だと俺は思うぜ。監察に関しちゃどんな仕事か詳細はわからねぇが・・・・・・いざとなったら刀を使う、ってぇんなら俺は反対だ」

 取り付く島もない松本の言葉に、近藤は項垂れる事しかできなかった。

「ところで土方はどうした?なかなか来ねぇじゃねぇか?」

 いつまでもやってこない土方に、松本が怪訝そうな表情を浮かべる。

「あ、申し訳ございません。副長の土方なら今ちょっと・・・・・・」

 近藤がそう言いかけたその時、少し疲労の色を滲ませた土方が部屋に入ってきた。

「すみません、今風呂と病室を整えてきましたので松本法眼に見ていただこうと・・・・・・法眼、何か問題があったのですか?」

 部屋に漂う剣呑な雰囲気にようやく気がついた土方が、松本に何事か尋ねる。

「ああ、大ありだ。こいつが心臓病を患っていてな、除隊を近藤に申し渡したところなんだが・・・・・・近藤は辞めさせたくないらしい」

 大きな目でぎろり、と睨みつけるその先には落ち込む佐々木と、それ以上にしょげている近藤がいた。古参で、まるで家族のように過ごしてきた佐々木の除隊勧告に近藤が心を痛めているのは火を見るよりも明らかだ。一番隊の仕事は無理でも他の仕事を続けられないか――――――土方は頭のなかで考える。だが、そう簡単に答えが出る種類の問題でもない。

「・・・・・・解りました。その件は本人とも相談し、今後を決定いたします」

 絶対におめぇは辞めさせない――――――内心でそう思いつつ、土方は佐々木の、小刻みに震えている肩に手を乗せた。



 一番隊の健診が終わった後、松本は土方に案内されて二十八日講の集会場に足を踏み入れた。その光景を見た瞬間、松本は感嘆の声を上げる。

「この短時間にここまでやるたぁ、さすが新撰組副長だな。恐れいった!」

 そこにはあまりにも壮観な光景が広がっていた。布団が敷き詰められ、既に病人が寝かされている。その数およそ七十名ほどだろうか。

「暫くの間は看病のための小者を雇ったほうが良さそうだな」

 布団の間を進みながら、松本は横にいる土方に告げた。

「これだけの人数だ。看病に隊士を割く訳にもいかねぇだろう・・・・・・まぁさっき診たところ、ほとんどが風邪か怪我だからひと月しねぇうちに治っちまう。食傷に至っては明日にゃ床を上げているだろうから、ひと月ほど雇えば問題ねぇ」

「承知しました。後ほど口入れ屋に手配します」

「そいつらが完治すれば残りは梅毒だが、こいつは少々厄介だ・・・・・あと、問題は心臓病と労咳の二人だな」

 松本は不意に渋い表情を浮かべる。

「佐々木とか言ったか、心臓病の奴は安静にしていりゃまだまだ生き長らえるだろう。問題は労咳の・・・・・・松原とか言ったか、四番隊の組長だ」

 松本の言葉に土方は頷き、口を開いた。

「松原に関しては休息所に待機させます。それ相応の立場の者ですし、労咳を患ったまま実家に返しても家族が困るでしょう。できればこのまま新選組で・・・・・・」

 看取りたい、という言葉を土方は呑み込んだ。それを理解した松本は深く頷く。

「となると、そっちの看護人も別個に雇った方がいいな。まぁ、労咳患者の世話なんざ、死にぞこないのばぁさんくらいしかなりてはいねぇだろうけどよ」

 苦笑いを浮かべつつ松本は土方に指示を出す。

「となると・・・・・・できるだけ給金は弾んだほうが良さそうですね」

 松本と同様の笑みを浮かべつつ、土方は冗談とも本気とも付かない言葉を吐き出した。そして集会場のすぐ隣に設置した仮説の風呂場に松本を案内する。

「こりゃたまげた!病室はともかく風呂場まで作っちまうとは!」

 突貫づくりの風呂場には二、三人は一緒に入浴できそうな湯船が三つ設置されていた。殆ど露天風呂状態の粗末な風呂場だったが、風呂の機能は充分に果たすだろう。

「兵は拙速を尊ぶ・・・・・・とでもいいましょうか。神速というにはおこがましいので」

 土方は満足そうな笑みを浮かべる。

「拙くはありますが無いよりはましだろうと・・・・・・後日、大工にきちんとした風呂場を作らせます」

「そうだな。実際使ってみねぇと使い勝手はわからねぇ。数日使ってみてから不具合を大工に告げてきちんとした風呂を作って貰ったほうがいいだろう。ところでこの風呂はどこから持ってきた?」

 幾ら何でもこの短時間に湯船を三つも調達するのは難しい。どんな手を使って湯船を調達したのか知りたくて、松本は土方に尋ねた。

「そりゃあ西本願寺の風呂場からですよ、勿論」

 土方は悪びれもせずに松本に告げる。

「あそこには湯船が十もありましたから、そのうちの三つばかりを拝借してきました。別にそれくらいどうって事はないでしょう。半分以上は残したんで」

 しれっ、と言い放つ土方に、松本は思わず大声で笑い出す。

「まったくヒデェやつだよ!ま、暫くの間は俺も見に来てやるから安心しろ」

 心強い松本の言葉に土方はホッとした表情を浮かべた。



 健診の翌日から松本の要請を受け、会津藩医師・南部精一らによる新選組隊士への回診が始まった。集会所という名の病室に集められているだけに、回診も極めて楽である。そして松本も責任を感じているのか、三日に一度は屯所に顔を覗かせた。

「いいんですか、松本先生?奥医師の仕事だってあるんじゃないんですか?」

 あまりにちょくちょく屯所を訪れる松本に対し、さすがに心配になった沖田が尋ねる。だが、松本は心配するなと言い切った。

「大丈夫大丈夫!上様からは一ヶ月ほど暇をもらってきているから安心しやがれ」

 どうやら松本にとって新選組隊士の診察は道楽に近いものがあるらしい。その甲斐があって隊士達は順調な回復を見せ、集会場いっぱいに広がっていた布団も一ヶ月後には集会所の四半分よりも少なくなった。

「ところで先生、松原さんの方は如何ですか?」

 さすがに病気が病気なだけに、沖田も松原の見舞いを禁じられている。そんな松原の現状を知りたくて沖田は松本に尋ねた。

「う~ん、病気の進行こそ遅めだが、寝こむことが多くなっている。あと、看病人がやけに若いのには吃驚したぜ・・・・・・よくあんな若い別嬪さんがやってきたな」

 松本は驚いた風に沖田に告げた。命を落としかねない労咳の看護人は、老い先短い老婆の仕事と相場が決まっている。それなのに口利き屋から斡旋されたのは想像以上に若い女だったのだ。

「そうなんですよ。てっきり年老いたおばあさんがやってくるものだとばかり思っていたら、二十五、六の美人ときましたからね。どうも旦那さんに先立たれたみたいで、生活費が必要だと言っていました。真面目そうなんてお願しましたが・・・・・・」

 旦那さんに先立たれて自棄を起こしているんですかねぇ、と沖田は松本にこっそり告げる。

「それも無きしもあらず、ってところだろうが・・・・・・ま、ばあさんよりは気晴らしになるだろうよ」

 その時二人はあまり深く考えていなかった。だが、この若い看病人が後に大きな事件を引き起こすことになる。



UP DATE 2013.8.31

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健康診断の結果、心臓病の佐々木と労咳の松原以外は皆大したこと無く済んだようです(梅毒はともかく^^;)
それでも七十名が寝こむってひどい状況ですよね~(>_<)ここまでの状況になっても素人では手の施しようがなかったのでしょう。近藤局長が松本良順に近づいたのもやむを得ない事情だったのかな、とも思います。

さて、今後佐々木はどうなってしまうのでしょうか?そしてそれ以上に松原は?史実では松原忠司はこの年の9月に亡くなっているとされています。一応病死だったらしいのですが、色々噂もあるようですし・・・・・・次回からは佐々木の今後&松原と、彼に近づいた若き未亡人についての話になりそうです。
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