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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第十七話 やまい人、それぞれ・其の壹

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 梅雨明けした六月半ばのとある日の事である。眩い日差しの下、旅装をした佐々木蔵之介が今まさに屯所を旅立とうとしていた。彼を見送るのは一番隊の隊士達と近藤、土方の両人だけである。

「佐々木さん、心の臓の具合は大丈夫ですか?」

 佐々木の顔を覗き込んで心配そうに尋ねる沖田に、佐々木は笑顔で答えた。

「大丈夫です。松本法眼に余分に薬を処方してもらいましたし・・・・・・」

 印伝の合切袋をぽん、と叩いた次の瞬間、佐々木は真顔になる。

「土方副長に拾ってもらった命、無駄にするわけにはいきません。必ずや長州の動向を調べあげ、報告書を送らせていただきます」

 悲壮感さえ漂う佐々木の言葉に皆が押し黙る。夏の風に木漏れ日がざわり、と揺れる中、脱退という隠れ蓑を纏いつつ佐々木はある任務に旅立とうとしていた。



 何故佐々木が旅立つことになったのか――――――それは松本良順が帰宅した後の出来事に端を発する。

「不逞浪士との戦いに倒れるのならいざ知らず、病の為に新選組を去るなんて親兄弟、親族に顔向けできません・・・・・・近藤局長!どうか、切腹をお許しくださいませ!」

 激高した佐々木は近藤と土方の前で叫ぶが、次の瞬間発作を起こしたのか苦しげに胸を抑えて蹲る。

「佐々木さん!無理をしないでください!それこそ切腹さえ出来ずに死んでしまいますよ!」

 沖田を始め一番隊の同志達が佐々木の許に集まり、その背中を擦ったり心配そうに覗きこむ。だが、佐々木はそれらを振り払うように身体を揺すり、沖田に訴えた。

「いえ、沖田先生・・・・・・こんな身体じゃ、お役になんか立てません。いっそ死んでしまったほうが・・・・・・」

 目に涙を浮かべているのは発作の苦しさの為か、それとも病に武士の挟持を踏みにじられた為か。声を押し殺して男泣きに泣く佐々木に、沖田が掛ける言葉を探していたその時である。

「だったらその生命、貰おうか」

 不意に土方の低い声が頭の上から降り注ぐ。

「土方・・・・・・さん?」

 思わぬ土方の言葉に、沖田を始め一番隊の隊士達は思わず土方を見上げた。

「佐々木、長州が再び不穏な動きをし始めていることは知っているな?」

 土方の言葉に佐々木は頷く。長州の高杉晋作はグラバー、ラウダとの会見後、長府藩と清末藩から下関を取り上げて長州藩直轄として開港しようとしていた。この事はすぐに藩内に情報が洩れ、それが諜報によって幕府側にもたらされたのは言うまでもない。だが、新選組が知ることができたのはそこまでなのである。

「勿論幕府や会津の斥候が長州や長崎に出向いちゃいるが、本当に欲しい情報なんざこっちにゃ入ってこねぇ。そこでだ・・・・・・」

 土方はしゃがみ込み、佐々木の顔を覗き込む。

「おめぇには長州に入って情報を集めてきて欲しい」

 その土方の言葉に慌てたのは佐々木ではなく沖田だった。

「土方さん!佐々木さんは心臓を患っているんですよ!そんな危険な任務を・・・・・・!」

「だからだ。重病人であれば疑われることも少なくなる。尤も、見つかりゃ命がないのは病人だろうが健康だろうが同じだが・・・・・・どうする、佐々木?」

 土方が試すように佐々木に問いかける。そして勿論、佐々木の答えは決まっていた。

「その任務、やらせてください!お願いします!」

 佐々木は苦しげな表情のまま土下座をし、土方に懇願する。

「少しでも隊の為になるのなら・・・・・・この生命、喜んで差し出します!」

 命がけの佐々木の懇願に、土方もようやく柔らかな笑みを浮かべた。

「さすがに二年近くも隊にいただけはあるな・・・・・・大所帯になっちまった今こそ、おめぇのような隊士に屯所にいてもらいてぇもんだが」

 残念さを滲ませる土方の言葉に続き、今度は近藤が佐々木の肩に手を載せる。

「取り敢えず、長旅に耐えられる体力を付けることが先決だ。出立は一ヶ月後くらい・・・・・・早くても梅雨が明けるまで待ったほうがいいだろう。頼んだぞ、佐々木君」

 穏やかな近藤の言葉に佐々木の眼から新たな涙が溢れ出す。

「局長・・・・・・勿体無いお言葉、ありがとうございます!」

 近藤、土方の心遣いに感極まり、佐々木は畳の上に泣き崩れた。



 そして半月後、松本の治療の甲斐もあって予想より早く体力を回復した佐々木は、長州路へと旅立つことになった。

「指令は薬と共に送る。それと、あまり早く動こうとするな。いかにも病人らしくゆっくりと、を心がけるように」

 まるで我が子を心配するような口調で、近藤が佐々木に告げる。勿論佐々木の身体を慮っての命令であったが、歩き方で武士とバレてしまっては元も子もない。そういった意味では佐々木は優れた諜報になる可能性があった。その事を理解しているのか、佐々木も笑顔で頷く。

「承知しました。『身体に無理がかからぬよう』、じっくり長州の動向を探って参ります」

 佐々木は皆に一礼すると、振り返りもせずそのまま屯所を去っていった。

「無事に任務を終えてくれればいいんですけどね」

 思ったよりもしっかりしている佐々木の後ろ姿を、心配そうに沖田が見つめる。

「問題ねぇだろう。根が真面目な奴だ、任務を途中で放り出すような真似はしねぇさ」

 まるで決定事項でもあるかのように、土方は沖田に言い放つ。その確信じみた口調に、沖田はまさか、と目を見開いた。

「土方さん、もしかして佐々木さんの性格を見越して・・・・・」

「当たり前だろう!勤めができねぇからって腹を斬られてみろ!寝覚めが悪ぃったらありゃしねぇ!」

 何故か恥ずかしそうに顔を赤らめつつぶっきらぼうに言い捨てると、土方はさっさと屯所へと戻っていく。

「まったく、照れ屋のくせに格好を付けたがるんですから」

 肩を怒らせた土方の後ろ姿に、沖田は思わず苦笑いを浮かべてしまった。



 佐々木のように旅立つことが出来る者はまだ幸いである。もう一人の重病人、松原忠司は結核を患っていると診断されてしまったがために、自らの休息所にほぼ軟禁状態にあった。

「おい、お千代・・・・・・お前はいつまで俺につきまとう気だ?」

 苦しげに咳き込みながら松原忠司は目の前の女――――――千代を睨みつける。そんな松原に対し、千代は愉快そうに松原を見つめながら言い放った。

「貴方様が野垂れ死ぬまでに決っているでしょう・・・・・・私の良人を殺したんですから、せいぜい苦しみ抜くところをたっぷり拝ませて頂きます」

 嫣然と微笑む千代を前に、松原は唇を噛みしめることしか出来ない。

(畜生・・・・・・何故こんな事に!)

 千代は以前松原が斬った長州浪士の妻女だった女である。松原が斬った男に縋り付き、松原に対し『いつか殺してやる!』と言い放った事も松原は覚えている。だが、松原の病を聞きつけ、本当にやってくるとは思わなかった。
 勿論松原は断ろうとしたのだが、事情を知らない近藤や土方は『ばあさんよりは良いだろう』と口入れ屋に紹介された千代を松原の看病人にしてしまった。それ以来松原の地獄は続いている。

(いっそあからさまに俺を殺そうとしてくれれば、それを理由に追い出せるのに!)

 松原はそう願うが、千代はそう簡単に尻尾を掴ませなかった。なまじ給金の分だけ真面目に働くのがたちが悪い。松原の世話はきちんとするし、診察に来る医者や見舞いに来る近藤や土方への対応も悪く無い。
 だが、松原が発作を起こした時に見せる冷ややかな笑みは、得も言われぬ恐怖を覚える。むしろ発作を起こし喀血している最中に刀で一突きにして貰った方が遥かに楽だろう。
 しかし、そんな松原の心情を知っているのか、千代はまるで鼠を嬲る猫のように、苦しむ松原を見つめ続けた。もしかしたら献身的な看病も、松原を生きながらえさせ、より苦しみを長引かせるための手段なのかもしれない。

(女とは・・・・・・まこと恐ろしい生き物だな。まだ凶悪な不逞浪士の方が可愛げがあるというものだ)

 勿論松原とて手をこまねいている訳ではない。事あるごとに看病人を替えてくれと申し出ているのだが、病気が病気だけに新たな看護人を見つけ出すことは極めて難しい。かと言って千代が不逞浪士の妻だったというのも言いづらい。
 もしそれを口にしてしまったら女とはいえ無事ではいられないだろう。間者と疑われ尋問、下手をすれば拷問に合う可能性だってある。
 ならば自分が死ぬまでの短い間、黙っていればそれで済む。もし他に不審な動きをすれば他の隊士達が気がついてくれるだろう。

(あと半年・・・・・・長くて一年、というところだろうか。それまでの辛抱だ)

 喀血にきしむ胸を庇いつつ、松原は何時終わるともしれない苦しみに耐え続けることを覚悟した。


 だが、松原はまだ気がついていなかった。その胸の痛みが喀血によるものだけでは無いということに。そしてそれに気がついてしまった時、さらなる苦しみが松原を襲うという事実に・・・・・・己の想いに松原が気が付かない今、二人の間に妙な緊張感と冷たい憎悪だけが休息所には漂っていた。



UP DATE 2013.9.7

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なんとびっくり、松原の看病人は長州浪士の未亡人でした(@@;)互いに憎しみ合っているように表面上は思えるのですが、果たして今後どうなってしまうのか・・・・・松原の無意識下ではちょっと心が揺れ動いているようですが、今後をお楽しみに(*^_^*)

そして佐々木君は心臓病でありながら長州への偵察の旅に出かけてゆきました。死んで元々の命、それでも任務を与えればそう簡単には死なないだろうという土方、近藤の親心ですね~(*´∀`)任務が成功することを願います。

次回更新予定は9/14、二人の関係がどうなっていくのかを書いてゆきたいと思っています♪
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