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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第二十一話 再征勅許と将軍の辞職願・其の壹

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 松原の葬儀も一段落してようやく落ち着きを取り戻した慶応元年九月十一日、その知らせは会津藩公用方の広沢から近藤と土方に伝えられた。

「十六日に大樹公が・・・・・・上洛ですと?」

 確認をするように近藤が広沢に聞き返す。その近藤の問いかけに対し、いつにも増して渋い表情のまま広沢は答えた。

「ああ。征長の勅許を今上から得る為に、自ら上洛なされるとの事だ」

 広沢のその表情から、幕府上層部ではあまり芳しくない動きがあるらしいと近藤と土方は察する。

「何か・・・・・・問題があるのですか?」

 上層部の醜態を広沢がすんなり教えてくれるとは思わなかった。しかし念のためと土方が探りを入れる。すると広沢は、意外なほどあっさりと二人に現状を教えてくれた。

「あるも何も・・・・・・親長州側の動きによって征長の勅許が阻害されているのだ。そもそも大樹公が上洛するまでもなく長州討伐の勅令は出されるべきだろう。そうは思わぬか?」

 どうやら広沢もままならぬ現状に愚痴を零したかったらしい。苛立ちを含んだ広沢の言葉に、近藤も土方も頷かざるを得なかった。
 佐々木の報告、そしてその他会津や幕府にもたらされる数々の長州の動向は、すべてきな臭いものばかりである。
 長州が戦準備を整える前にこちらが動くことが出来るにも拘わらずそれが許されないもどかしさは、会津も新選組も同じだ。

「そこで大樹公御自ら上洛して・・・・・・ということになるのですね?」

 念を押すように近藤が広沢に尋ねる。その問いかけに広沢は溜息を吐きつつ低く唸った。

「ああ、その通り。警備の規模は前回と同じ・・・・・・時間もほぼ同じくらいと考えておいてくれ」

 将軍行列の規模と警備に割ける人員を考えた時、深夜の移動は致し方がないだろう。それだけ将軍行列は巨大で、警備も大変なのだ。

「承知!」

 要人警護の機会は多いが、さすがに将軍となると心構えも違ってくる。近藤と土方は緊張に唇を引き締め、深々と頭を下げた。



 黒谷から帰ってきた近藤や土方から将軍警備の話を聞いた沖田が眉を顰めた。

「朝敵討伐の勅令を頂戴するためにわざわざ大樹公が上洛?そんなに厄介なことになっているんですか?」

 昨年の蛤御門の変で長州は『朝敵』とみなされた。その討伐の勅令がこうも下りないということは、間違いなく水面下で妙な力が働いているのだろう。

「そうらしいな。大方親長州派の公家が暗躍しているか・・・・・・でなきゃ豚一公が能無しだから勅許一つ取れねぇか、そのどちらかだ」

 皮肉を込めて沖田に告げると、土方は早速煙管盆の前に座り込み、煙管を咥えた。

「おい歳、仮にも御三卿に対してそういう言い方はないだろう!」

 近藤は羽織を脱ぎつつ土方の悪態を窘めるが、土方はちらりと近藤を見上げたまま『構うもんか』とうそぶいた。

「近藤さん、あんただって思っているはずだ。京洛での警備も悪くねぇが、どうせなら派手な武功を立てられる長州討伐を、って」

「うっ・・・・・・」

 土方に図星を指された近藤はぐうの根も出ない。確かに地道な巡察も大事だが、やはり幕臣取り立てという夢を果たす為にはもう少し派手な武功を立てたい。それは近藤の夢を叶えてやりたいと願う土方や沖田にとっても同様だった。

「総司。大樹公の上洛は五日後の十六日で前回同様夜中、それまでに体調を整えておけと全員に伝えておけ」

「承知。しかし伝えるのは上洛が夜中になる、ってだけでいいんじゃないですか?皆ここ最近は風邪をひいてもすぐに治りますし」

「全くだ。これも松本法眼のお陰だな」

 沖田の言葉に近藤は満面の笑みを浮かべる。松本良順の指導に従い屯所の環境及び食生活の改善を試みた所、最初の検診から一ヶ月もしないうちにほとんど全員が回復したほどだ。それは現在も持続しており、今寝込んでいるのは身体を動かせない、重傷者のみであった。

「ま、飲み過ぎ食べ過ぎにだけ気をつけるように言えば問題ないでしょう」

「・・・・・・それもそうだな」

 土方も沖田の言葉に納得する。

「では、他の組長に伝えてきますね」

 沖田は笑顔で一礼すると、局長室を後にした。



 そして新選組が命を受けてから五日後の九月十六日、大坂から徳川家茂が入洛した。十六夜が照らし出す晩秋の行列の露払いは、今回も新選組である。

「しかしよぉ、一度でいいからお天道様の下で将軍行列を見てみてぇと思わねぇか、総司」

 『誠』と染め抜かれた提灯を手にした永倉が、小声で沖田に話しかけてきた。散々待たされ、さらに初めての将軍行列の露払いを努めた前回と違い、永倉はかなり気楽そうだ。

「そうですね。しかしそれだと私達は町人の整備に追われてしまって露払いを務めることはできなくなりますよ」

「それもそうか。前回も下阪の時、大変だったもんな」

 永倉の思い出したような一言に、沖田も思わず頷いてしまった。前回の将軍下阪の際、さすがに行列が通っている時は皆大人しいものの、通り過ぎた後から付いてくる町人が少なからずいたのである。
 勿論そんな事が許されるはずもなく、しんがりを務めた見廻組が追い払っていたが、しつこいものは伏見まで追っかけてきた。そして翌日には『見ることが許されない』筈の将軍行列が描かれた読売が、さらに数日後には極彩色の錦絵が販売されたのである。どうやら追いかけてきたのは読売や錦絵の版元や浮世絵師だったらしい。

「言ってはなんですが、長州浪士の方が遠慮なく斬り捨てられる分、気が楽ですよ」

 復路はともかく、往路で煩わされるのは堪らない。自分たちが将軍行列の露払いをすることが出来るのもこの時間帯故の恩恵だと、沖田は前を見据え、御所へ向かって進んでいった。



 この再征勅許の企ては一橋慶喜が起こしたものである。これは長州処分が不振を極める中で幕兵の士気が落ち、幕府の財政も悪化した為だ。このままでは将軍の畿内滞在態勢がいつ崩壊してもおかしくない。それを防ぐ為、慶喜は『再征勅許』という切り札によって態勢を立て直そうとしたのである。
 九月十六日に京都入りした徳川家茂は二十一日御所に入り、再征勅許をめぐる朝議が開かれた。だが、親長州派が大人しくしているはずもない。その一人・近衛忠房に至っては朝議を欠席するという有り様だ。

「どこまで幕府を虚仮にすれば気が済むんだ!」

 怒りも露わに慶喜自ら確認を取ると、何と薩摩藩の大久保一蔵が近衛を引き止めていたという事実が判明したのである。どうやら大久保が近衛を説得し朝議を欠席させたらしい。この件に薩摩藩全体が関わっているかは判然としないが、慶喜他、親幕派の薩摩藩に対する印象は極めて悪化した。


『匹夫の議に動かされて参内の時刻を移し、あまつさえ軽々しく朝議を変ぜんとするは奇怪至極せり、斯くては将軍を始め一同職を辞せんのみ』


 当時の慶喜が発したこのような言葉が残されている。慶喜のこの激怒、そして近衛らの朝議軽視の態度から一気に状況は動き、幕府側はめでたく再征勅許を獲得することに成功した。



 再征勅許の知らせは瞬く間に幕府関係者、そして京都の街中に広まった。沖田も会津から知らされたその報告を、自ら小夜に告げる。

「・・・・・・という訳なんです。何時に成るか判りませんが、もしかしたら新選組も長州討伐に出征するかもしれないんです。二年間、地道に京都の街を警備してきた努力がようやく認められたってところですかね」

 嬉しそうに小夜に報告する沖田だったが、小夜は何故か浮かない顔をしている。その表情に沖田が気がついたのは、ひと通り話を終えた後だった。

「どうしたんですか、小夜?浮かない顔をして」

 すると小夜は暫し躊躇いを見せたあと、遠慮がちに口を開く。

「・・・・・・総司はんの、お武家はんのお妾がこないなことを思うんはあかんことやと思います。せやけど・・・・・・危険な戦場に行ってほしゅうない、というのは正直な思いどす」

 目にいっぱい涙を溜めながら小夜は沖田に訴えた。その切なげな表情に沖田の胸はズキリ、と痛む。しかしそんな罪悪感を気取られないように、沖田は満面の笑みを小夜に見せた。

「小夜は心配症なんですから。戦で死ぬんだったらとっくの昔に・・・・・・そうそう、小夜に出会う前に池田屋で死んでいたでしょうね。私には戦の神様が付いているんですよ、きっと」

 小夜の心配は判らないでもないが、できれば快く戦場に送り出して欲しい。沖田は小夜の頬を撫でながら辛抱強く説得する。

「確かに長州討伐に出かけてしまったら一ヶ月以上会えなくなってしまうのは寂しいですけど、私は絶対にあなたの所へ帰ってきます。喩え手足をもがれようとね」

「手足って・・・・・・そんな縁起の悪いこと言わんといてください!」

 小夜はむくれるが、沖田は思わず大声で笑ってしまった。

「ははは!いいじゃないですか、手足をもがれたって絶対に生きて帰ってくるって言っているんですから。その代わり、帰ってきたら・・・・・・」

 沖田は微笑みを浮かべながら小夜を抱きしめ、その腕に力を込める。

「戦場に行っていた分だけ甘えさせてもらいますからね」

「もう、ふざけはって・・・・・・知りまへん!」

 小夜の気持ちを和ませようとする沖田の冗談に、心配そうな表情を崩さなかった小夜の顔にもようやく笑顔が戻った。


 だが、長州討伐の前に幕府にはもう一つ大きな問題が待ち構えていた。その問題を解決するため、家茂は九月二十三日、早々に大坂に戻る。
 その理由は外国船――――――英吉利、亜米利加、阿蘭陀、仏蘭西の船が兵庫開港要求をする為、摂津の近海に入ってきたのである。天皇のお膝元とも言える海域への外国船新入への対応の為下阪した家茂だが、この事が後にさらなる問題を引き起こす事になる。



UP DATE 2013.10.05

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前回の長州討伐からおよそ一年、再び長州討伐の勅許が下りました。親長州派が暗躍していたにも拘わらず、これが下りたということは、やはり当時の長州側の動きが相当怪しかったんでしょうねぇ(-_-;)
そしてこの勅許の知らせはすぐに広まったみたいです。日を置かずに井上源三郎が実兄にこの事を手紙で伝えているくらいですから、相当大きな決定だったのでしょうね。無論新選組も長州討伐に出陣する気満々でいます(^^)
しかし、長州討伐の勅許は貰えたものの、新たな問題が・・・それは次回書かせていただきます♪

そしておまけと言っては何ですが、幕末になるといわゆる『行列』を描いた錦絵が本当に多くなります。ニュース性も重要だったのでしょうが、大名行列や将軍の行列が通る時、庶民は頭を下げているんじゃないのか(・・?
(尤も江戸市中では葵の御紋意外の行列には頭を下げなかったそうです。数多くの大名が集結する江戸、いちいち頭を下げていたら仕事になりません^^;)
もしかしたら戦争の準備金を徴収しやすくするために、幕府がこういった錦絵の販売を大目に見たのかもしれません。新選組は自分たちで活動資金集めていましたが、幕末は幕府も大店から軍資金の徴収をしていましたし・・・だったらマスコミを利用して理解してもらおうというのが自然の成り行きではないでしょうか(^_^;)

次回夏虫更新予定は10/12、ちょっとだけ新選組を離れて兵庫港開港の諸外国との会談が中心となりそうです。
(できるだけそこいらへんは短く、そして新選組の描写を増やすよう努力しますv)
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