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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第十話 浅葱の羽織・其の貳

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壬生浪士組が下阪した次の日から浪士組の主立った者達は将軍警護の合間をぬって隊士募集に奔走した。というよりむしろ隊士募集の合間に将軍警護の列に加わることが出来た、と言った方が適切かも知れない。
 壬生浪士組が参加できたのはたった数度、会津藩と共に警護の末席に連なっただけで後はほとんどお呼びがかからない状況だったのだ。そもそも将軍直属の軍から一橋、会津、桑名の三藩による警護、果ては八王子千人同心までわざわざ出張ってきているのである。吹けば飛ぶようなできたてほやほやの部隊に重要な警護など回ってくるはずもない。

「良いではないか、暇がある内に大阪の町を知っておくのも悪くはないぞ。万が一敵に出くわした時迷子になりましたじゃものの役にも立たぬ!」

 暇なのを良いことに芹沢は、花街である大阪新町に毎日のように繰り出していた。しかも一人ではなく近藤や平山、山南、平間など隊士募集の中心を成している土方以外の誰かを引き連れ、会津や一橋、桑名などと酒宴という名の会談をこなし、壬生浪士組を売り込みを始めたのである。
 栄えある将軍警護の仕事も、将軍の上洛が済み江戸へ帰還してしまえば終わってしまう。引き続きの仕事があれば良いのだろうがその目処も立たない今、会津だけに己の身の行く先を任せておくには危険すぎる。今現在在籍している十五人、そしてこれから雇う隊士------------少なくともさらに十人ほどの再就職先の算段を今の内に付けておかねばならないのだ。しかし、この二日の会談では条件が折り合わず物別れに終わっている。

「いやはや・・・・・武士の会談というものがこれほど気を遣うものだとは・・・・。」

 芹沢と共に会談に同席した近藤は二日目にして胃の腑の辺りを押さえながら土方や沖田にぼやいた。ただでさえ慣れない藩の役人との会談の上に酒の入った芹沢の宥め役と二重、三重の苦労を強いられるのだ。壬生浪士組のこれからの生活がかかっているだけに芹沢が激高するのは判るが、もう少し妥協しても良いのではないかと近藤のぼやきは止まらない。

「そんなに大変なら芹沢さんに頼んで休ませて貰えばいいじゃないですか。必ず誰かが付いていくんですから・・・・・。」

「そうは言ってもな・・・・・新見君がふらりとどこかに行ってしまう中、局長級の者がいなければ話にならないだろう。」

 新見の職場放棄--------------それも近藤の頭痛の種の一つであった。平野屋で資金調達をし、まとまった金が入るようになった頃からその金を持ってふらりとどこかへ行ってしまうことが少なからずあり、試衛館派だけでなく水戸派までその行動には怒りを覚えていた。そして新見が居ない分その分の仕事は他に-------------特に近藤に回ってくる。それだけに近藤の気苦労は並大抵では無く、ここ最近胃痛まで覚えるようになってしまっていたのである。

「でも、明日は御堂筋で松五郎さんとの会談だろ?何かあったら松五郎さんが『がつん』とやってくれるさ。芹沢の野郎も松五郎さんには一目置いているみたいだし・・・・・明日は少し休め。」

 一度近藤と芹沢が『会津に対して心からの忠誠を誓うべきか否か』という点で大喧嘩になった際、それを止めに入ったのが八王子千人同心の井上松五郎であった。その時の出会い以来、井上松五郎を前に芹沢が荒れることは無い。松五郎がかなり年配だと言うこともあるのだろうが松五郎を前にすると芹沢自身が背負っている重たい荷物を感じずに済むのだろう。まるで大好きな父親を前にした子供のように素直で明るい酒だという。

「しかし何で松五郎さんの前だけ・・・・・私達や水戸派の人達にも鉄扇を振るうのに不思議ですよねぇ。まぁ、万が一芹沢さんが鉄扇を振るうことがあっても松五郎さんの一喝で事は収まるでしょうから近藤先生は少し休んでください。お願いします。」

 こう二人に引き留められては無理をするわけにもいかない。事情を話すと芹沢も近藤の体調を理解し、無理をすることはないと嬉々として山南と平山を引き連れて出かけていったのである。

「ありゃ潰れるまで呑むな。」

「近藤先生って言う引き留め役がいませんものねぇ。松五郎さんもうわばみですし。」

 三人の後ろ姿を見送りながら土方と沖田はこれから起こるであろう酒宴のすさまじさを想像せずにはいられなかった。
 さすがに松五郎に挨拶もしないというのはあまりにも非礼だということで、近藤は芹沢を迎えに夕刻御堂筋に出向くことになった。しかし、こういう時に限って大きな事件というのは起こるのである。



 大阪滞在三日目、胃痛で寝込んでいる近藤を宿に残し、芹沢、山南、平山の三人は川井、後藤、菱山そして井上松五郎等八王子同心との酒宴に意気揚々と出向いた。試衛館派の身内同然の八王子同心だが水戸派の芹沢達にも分け隔て無く接してくれて、現状において唯一心を許せる相手と言えよう。

「いや~雑魚とは言え、食い倒れの街のものは違いますな。」

「そりゃそうじゃろう!米倉に運び込まれる際にこぼれ落ちた各藩の米を喰らって育った雑魚じゃ。まずいはずは無かろう!」

 先の二日間とは一転、楽しげな芹沢と八王子同心達の和気あいあいとした様子に同伴した平山、山南は内心胸をなで下ろした。その時である。

「おい、平山!山南!あれを見ろ!あれは家里ではないか!」

 不意に芹沢が窓の外を指し示したのである、そこには旅装の家里次郎が歩いているではないか。

「家里ってぇと・・・・浪士組を脱走しやがった家里って奴か?」

 近藤や土方、そして弟の源三郎から話を聞いている松五郎が刀を握りしめ腰を浮かす。どうやら大阪警護で色んな部隊が集まっている所に行けば仕事にありつけると思ったらしい。この場に浪士組だけしかいなければ見なかったことにすればいいが、千人組同心とは言え他人の目があったことも家里には災いした。この状態で脱走者として捕まることはすなわち詰め腹を切って貰わねばならないということである。

「家里次郎!見つけたり!」

 芹沢の図太い声が御堂筋に響き渡る。家里は瞬く間に芹沢らに捕縛され、常安橋会所にて切腹を迫られその場で詰め腹を切らされたのである。この捕縛劇の少し後に松五郎の許へやって来た近藤と共に常安橋会所にやってきた井上松五郎は自身の日記に『家里次郎殿少々切腹いたし、浅きつ』と記録に残している。



 上層部の会合の気苦労、そして血なまぐさい粛正をよそに土方以下若手は物見遊山を兼ねながらほとんどの時間を隊士募集に当てた。しかし、ほとんど名の知られていない小さな部隊の募集にやってくる者などたかが知れている。自称浪士と言いながらも竹刀もろくに扱えない者もざらである中、募集四日目にしてようやく一人だけ何とかものになりそうだったのが佐々木愛次郎という十九歳の青年であった。

「錺職人の息子ではありますが、道場でそれなりに鍛錬を積んでいるつもりでございます。誠忠浪士組は身分を問わないとお伺いしましたので是非入隊試験を受けさせて下さい。」

 武士身分を偽るものが多い中、佐々木は唯一正直に自分の身分を明かした。そしてその心根そのままの一途な剣裁きを見せたのである。決して技術的に優れているというわけではないが、その気迫で次々に対戦相手を打ち負かしてゆく。その様子を見ていた壬生浪士組の面々は感嘆の声を上げた。

「悪くねぇな。」

 ここ三日不機嫌だった土方の口からようやくこの言葉が漏れる。他人が聞いたら大したことがないように思える一言であるが、隊士募集の中において『馬鹿野郎』、『おととい来やがれ』、『てめぇ誠忠浪士組を舐めてんのか!』など罵詈雑言を吐き続けていただけに、沖田達にはこの一言は最大の賛辞に思えた。

「先程佐々木さんと一緒に入隊試験を受けに来た人に聞いたんですけど、佐々木さんって『女子みたいだ』と見目を馬鹿にされて道場に通い出したみたいです。それだけに強さに対する思い入れは人一倍あるみたいですよ、誰かさんみたいに。」

 次々に対戦相手を倒していく佐々木にやはり興味をかき立てられたのだろう。いつの間にか情報を引きずり出していた沖田の余計な一言に土方はすさまじい形相で睨み付ける。

「それは俺に対する嫌みか、ええ?簀巻きにして淀川の魚の餌にされてぇらしいな。」

 土方自身も同様の経験をしていただけに佐々木の気持ちは判らなくもない。後は身元だがそれも先程斎藤を使いにやらせて確認を取ってきた。代々大阪新町の遊女を相手にしている大店に品物を入れている錺職人の息子で、長州の息がかかっている様子は微塵もなさそうである。

「見た目は優男だが・・・・・うぃっく・・・・・なかなかどうして・・・・・どうだ、土方。あの佐々木という男くらいは・・・・・・がふっ・・・入隊させても良いのではないか?」

 すでに酔っぱらっていた芹沢が酒臭い息を吐きながら土方に提案したが、そう言われなくても土方は佐々木を採用する気でいた。だが、さすがに初めての新入隊士の採用となると土方も少々及び腰になる。できれば素面の芹沢の判断を仰ぎたい--------------土方はそう思い、佐々木に対して採用の保留を申し出た。

「・・・・もう一度、明日の朝一番に来てくれないか。筆頭局長があの状態じゃ正しい判断ができない。だが、俺も山南さんもお前さんの腕と度胸は買っている。」

 その言葉に佐々木はほっとした表情を浮かべた。

「承知しました。では明朝よろしくお願いいたします。」

 佐々木は嫌な顔ひとつ見せず、一礼をしてその場を去った。

「・・・・・腕は良いんだが、気になるのはあの容貌だな。」

 佐々木は非常に整った容姿をしていた。悪く言えば男好きのする-------------つまり男色関係に持ち込んで幹部から情報を盗み出すことも可能な容姿なのである。試衛館の面々には男色を好む者は居ないが、水戸派はどうだか判らない。少なくとも芹沢に酒の入っていない時にその点を聞かない限り佐々木を入隊させるわけにはいかない。

「・・・・・土方、もしかしてあの坊主・・・・・ひっく・・・・が色仕掛けで俺たちをたぶらかそうとしているとでも思っているのか。」

 芹沢が土方の心の中を指摘する。

「・・・・・判っているんじゃないですか。腕は良いが身体の線は華奢だし、その気になれば男色関係に持ち込んで、と言うことも可能でしょう。」

「残念だが・・・・・あれでは俺たちをたぶらかすことはできねぇな。水戸の田舎武士にゃ”武士のたしなみ”なんざ無縁だし・・・・・・・うぃっ、あれを抱くくらいなら四十の辻君や田舎の飯盛の方がはるかにましだ。」

 ついでに小娘も勘弁だ、と芹沢は酒をあおる。

「ま・・・・俺が素面の時にもう一度確認させるたぁ良い考えだな。本気で命を預けてくれる男だったら明日も来るだろうし・・・・・ありがてぇ。」

 そして期待通り佐々木は朝もまだ明けきらぬ中やって来たのである。そしてそこに待っていたのは土方と近藤、そして素面の芹沢であった。

「良く来た。だが、最後にもう一つ受けて貰いたい試験がある。こいつを持て!」

 芹沢は一本の棒きれのようなものを佐々木に投げつける。それを手にするとかなり重く、佐々木は一瞬その棒きれを取り落としそうになった。

「そいつはこの男の道場で稽古に使っていた木刀だ。実際の刀と重さがほぼ同じと来ている。そいつが扱えねぇようじゃ入隊は諦めろ!」

 その瞬間、芹沢は目にも止まらぬ速さで佐々木に襲いかかり鉄扇を振り下ろしたのである。

「お・・・・・おい!芹沢さん!」

 酔っている時の鉄扇の攻撃でも怪我をすると言うのに、素面の状態の芹沢の攻撃をまともに受けたら打ち所によっては死んでしまう。土方が慌てて止めに入ろうとしたその時である。

ミシッ!

嫌な、鈍い音と共に佐々木が芹沢の攻撃をかろうじて受け止めたのである。その衝撃に手首から腕の辺りがぶるぶると震えているのが近藤や土方の目にも明らかであったが、それでも佐々木は木刀を取りこぼしたりせず、そのまま芹沢の鉄扇を受け止めている。

「よし、合格!これならどんな強敵の攻撃も躱すことができるだろう。鍛え甲斐があるぞ、土方!はっはっはっ!」

 高笑いをしながら芹沢はその場を離れていった。その直後、とうとう耐えきれなくなったのか佐々木が持っていた木刀が地面にごろり、と落ちる。否-------------折れた木刀の先が地面に転がったのである。折れて短くなってしまった木刀を握りしめ、佐々木は肩で息をする。

「・・・・・錺職人の息子とは思えねぇ度胸と腕だ・・・・・本当に誠忠浪士組に入ってくれるんだね、佐々木君?」

 押し出すような近藤の声に、佐々木はまだあどけなさの残る笑顔を浮かべた。

「よろしくお願いします!」

 沖田より若い青年は短くなった木刀を手にしたまま近藤と土方に一礼した。


 後に美男五人衆の一人に数えられる佐々木愛次郎だが、同時に彼は創立時以後に入った初めての隊士だった。この後彼は短い命を壬生浪士隊士として燃やすことになる。



UP DATE 2010.04.09


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『浅葱の羽織・其の貳』です。ようやく創設時メンバー以外のメンツが出て参りました。ご存じの方はご存じの新選組・美男五人衆の一人、佐々木愛次郎クンです。何故彼を新入隊士の一人目にしたか・・・・・イケメンだからじゃありません(笑)。大阪での将軍警護直後に出される『鎖港についてに上申書』の署名において後に組長になる松原忠司や伍長の島田魁よりも先、創設時メンバーの次に名前が書かれているんですよ。たぶん隊士になった順に名前が書かれているのかな~と勝手に妄想しまして、新入隊士一番乗りになってもらいました。
この後彼には悲劇が待っておりますが、やはり王道の子母澤新選組とは違う解釈で話を展開していく予定です。今に始まったことではありませんが(笑)。一応八月十七日の政変がらみにしたいんですけどね~。


次回は4/16、島田入隊を予定しておりますv
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