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「短編小説」
横浜恋釉

横浜恋釉~出戻り子鬼と我儘姫

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 この冬初めての木枯らしが、帝都の大通りを吹き抜ける。色づいた紅葉が初冬の空に舞い上がるこの日、九条邸本宅の二階はやけに賑やかだった。

「その箱はお茶器だから台所に持って行って。そっちは夏物のお着物ね。じゃあ北の納戸に持って行ってちょうだい」

 銀鼠色の地味な結城紬に蝙蝠をあしらった丸帯は彼女なりの作業着らしい。いつもの董子らしくないが、熟練主婦よろしくてきぱきと使用人たちに指示を出す董子は水を得た魚のように活き活きとしている。その声を一階の仕事場で聞きながら、虔太はついつい微笑んでしまった。


 この騒ぎの原因は『引っ越し』である。来年の桜の咲く頃に祝言を挙げる予定の虔太と董子だったが、その前に必要な荷物を持ち込もうと董子は使用人たちと引っ越しの片づけをしているのである。
 数カ月前に一旦別宅へ引っ越しをしたばかりの董子だけに二度手間の引っ越しは大変だっただろう。しかし愛しい相手と一緒に暮らせる嬉しさからか、気紛れで我儘な彼女にしては珍しく文句一つ零すことなく引っ越しの片づけをしていた。そんな最中である。

「きゃぁぁぁ!」

 突如二階から董子の悲鳴が聞こえてきた。それに引き続き使用人たちのざわめきも聞こえてくる。その声に虔太を始め、仕事の打ち合わせを一緒にしていた部下達の手が止まってしまった。

「董子さん!一体何があったんですか!」

 鼠でも紛れ込んでいたというのなら笑い話で済むが、引越し荷物が崩れて怪我でもされてしまっては堪らない。虔太は仕事を放り出し、慌てて二階に駆け上がる。すると開いた木箱を指差しながら董子がわなわなと震えていた。

「董子さん・・・・・・一体どうしたんですか?」

 どうやら鼠でも荷物が崩れたのでもなさそうだ。それだけに悲鳴の原因が理解できず、怪訝そうに董子に声をかけながら虔太は近づく。その足音に気がついた董子は不意に虔太の方に振り向き、眦を吊り上げて虔太を睨みつけた。

「虔太さん!何故未だにこんなものを残しているんですの!さっさと売り払って、って言ったはずよ!」

 わなわなと震える董子が指差す『それ』を見た瞬間、虔太は思わず苦笑いを浮かべる。

「ああ、それですか・・・・・・懐かしいなぁ。あれからもう一年になるんですよね」

 虔太は『それ』に近づき思わず手に取る。董子が悲鳴を上げ、虔太が懐かしむ『それ』は董子と初めて出会った時、虔太が買い取った小鬼の壺だった。



 風神、雷神を立体的にあしらった高浮彫の壺は、あの時同様細かな細工が目を引いた。風神が背負っている破れ袋の中から小鬼達がこちらを見つめているのも相変わらずだ。
 当時、この壺を前に気丈に振る舞いつつも小鬼の気味悪さに怯えていた董子を可愛らしく感じたものだ。あれから約一年、思えば色々な事があったものである。だが、虔太の回顧を董子は理解できないらしい。

「懐かしいって・・・・・・いい加減にしてくださらない!こんな気味の悪いもの、いつまでも手許に置いておくなんて!お父様と言い虔太さんといい、男の人ってなんでこんなものを好みますの!」

 気味の悪さ甚だしいと眉を吊り上げ、董子は虔太に食ってかかる。間違いなく結婚してからの夫婦喧嘩も董子が強いだろう――――――そんな勢いを感じさせる剣幕である。

「別に好むって訳じゃないんですけどねぇ」

 困惑の表情を浮かべつつ、虔太が肩を竦めた。確かに悪趣味極まりない小鬼の壺は虔太の趣味ではない。それを手許に置いていたのはなかなかこの壺の買い手が付かなかったというのと、董子との出会いのきっかけを与えてくれた壺だからだろうか。董子がどんなに嫌がろうともその思い出の品まで手放したくはない。

「・・・・・・この壺を手放してしまったら、董子さんとの思い出まで手放してしまうようで嫌なんです。奥まった納戸にしまっておきますから許してもらえますか?」

 背後からギュッ、と抱きしめ虔太は耳許で甘く囁く。その瞬間、董子は首筋まで顔を真赤にしてしまった。

「や、やめてくださらない?し、使用人達が・・・・・」

「気を使って、というか董子さんの剣幕に慄いてとっくに部屋から出ていますよ。ね、許して下さいよ。でないといつまでもこのままですよ」

 そう言いながら虔太はさらに董子を抱きしめる腕の力を強め、頬をすり寄せる。このままでは接吻どころか押し倒されかねない。虔太の愛情は嬉しいが、さすがに昼日中からいちゃいちゃするのは恥ずかしすぎる。

「わ、解りましたから!もう離れてくださいませ!」

 董子は虔太の腕を振りほどくと、ぷっ、と膨れてそっぽを向いてしまった。その子供っぽい仕草は出会った時のままだが、一年の歳月の分大人っぽく、綺麗になったかもしれない。そんな董子の横顔に、虔太は軽く接吻をして囁く。

「相変わらず向こうっ気が強いんですから・・・・・そんな董子さんが大好きですよ」

 その一言に董子の顔はさらに赤くなる。そんな董子を残し、虔太は再び仕事場のある一階へと降りていった。



UP DATE 2013.10.30

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結婚準備の引っ越し時点で、すでに『カカァ天下』な虔太&董子夫婦でございます(^_^;)まぁ最初から解っていたところもありますけどね(おいっ)董子の向こうっ気の強さを包み込んでくれる虔太の優しさあってこそ、この夫婦は続いていくんだろうな~。そしていざ虔太の危機になったら董子が先陣を切って虔太を助けそうな気がする・・・・・・落ちぶれ華族の娘でもそれくらいはやりかねません(^_^;)

虔太と董子のCPはこんな感じで続いていきそうですが、残りは虔弥と釉のCPですね。次回『横浜恋釉』最終回にて虔弥と釉の恋行く末も書かせていただきます♪
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