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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第二十五話 長州訊問使・其の壹

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 将軍の辞意撤回にほっとしたのもつかの間、十月の中旬過ぎにその任命は近藤勇にもたらされた。

「はぁ?長州尋問使の随行を許されただぁ?」

 黒谷から帰ってきた近藤から思いがけない話を聞かされ、土方は素っ頓狂な声を上げる。

「ああ。会津を通じて申請はしていたが、希望者が多いだけにまさか選ばれるとは思っていなかった。いやぁこれも先日の出来事が影響しているんだろうなぁ」

 唖然とする土方とは対照的に、随行員に任命された近藤はどこまでも晴れやかな表情である。

「会津公から聞いた話なんだが、今回の任命は大樹公直々のお声がかりだそうだ。池田屋の英雄に是非とも長州の説得を願いたいと」

 顔中を口にする、とはまさにこの事だろう。人生最高とも思える極上の笑顔で近藤は高笑いをした。
 長州尋問使とは広島の国泰寺で長州側の代表と謁見し、幕府側の要求をなかなか実行しない長州側を尋問するために編成されたものである。大目付・永井尚志らを中心として選ばれた尋問使だが、その護衛を兼ねて近藤が大抜擢されたのだ。

「さすがに俺だけじゃ心許ないんでな。新選組から数人、論客を連れて行こうかと思うんだ。伊東さんや武田さん、あと尾形君なんかどうだろうか」

 浮かれた状態のまま近藤は新選組きっての弁論の達人の名を挙げていくが、それを聞いた瞬間、土方の表情は険しくなる。

「・・・・・・まぁ、論客、っちゃあ論客だけどよ。気に食わねぇ奴らばっかりだな」

 できることなら試衛館組を近藤の護衛として入れたいところだが、如何せん皆腕っ節は強いが説得工作には不向きな連中ばかりである。
 斎藤を参加させるという手もあるが、それならば会津から何かしらの連絡があるだろう。今夜中にそれがなければ斎藤は京都に居残らせねばならない。

「歳、何を心配している?もしかして・・・・・・」

 どきり、と土方の胸が高鳴る。近藤に何某かの思惑を読み取られたのかと一瞬焦るが、続けて発せられた近藤の言葉はあまりにも呑気なものだった。

「俺が長州に行ったら、向こうで殺されるとでも思っているんだろう?」

 獅子身中の虫には全く目もくれないその発言に、土方は近藤の豪胆さ、否、鈍感さを痛感した。確かにそれも心配だが、さすがに幕府の正式な使者としてやってきている者に危害を加えて大義名分を与えるような愚かな真似を長州がするとは思えない。

(ま、これくらいじゃなけりゃあ局長なんざ務まらないんだろうけどよ)

 人を信じすぎるきらいはあるが、上に立つものはある程度おおらかな位でないと部下がついていかない。その分自分が近藤の周囲を気にすればいいのだ――――――土方は開き直る。だが、その開き直りさえ覆す発言が近藤の口から飛び出したのだ。

「敵の懐に飛び込むんだ、勿論その覚悟はできているさ。だからこそお前に新選組を、そして総司には・・・・・・」

 近藤は一旦言葉を切ってから重々しく口を開く。

「・・・・・・天然理心流の後継者を任せたい。お前達ならその力があるだろう」

 まるで遺言のような近藤のその一言に、土方は凍りついた。



――――――総司には天然理心流を任せたい

 沖田がその言葉を聞いたのは局長室の前の廊下、巡察から帰ってきた挨拶をしようと襖に手をかけた時だった。

(近藤先生?一体何を・・・・・・!)

 盗み聞きはいけないと思いつつ、ついつい耳をそばだててしまう。その襖の向こう側では静かに、しかし深刻な会話が訥々と続いていた。

「新選組は事実上お前が采配を振るっているから問題はないだろう。局中法度も浸透してきているし、頭の俺が居なくなっても役目を果たせる」

「いい加減にしろよ、近藤さん!まぁ百歩譲って新選組は良いとしよう。だけど総司はまだ・・・・・・」

 若すぎる、そう言いかけた土方だが近藤はその言葉を遮り持論を口にした。

「確かに若いが、既に塾頭だって務めている。技能をとやかく言う者はいないだろう。この件は俺から江戸に知らせるつもりだから歳も心してくれ」

 既に決定事項のように近藤は言い放った。こうなると土方でさえ近藤を止める事は難しい。土方は諦観の溜息を吐くと、重い口を開いた。

「となると、総司にはもうちっと丸くなってもらわねぇとな。あいつの稽古は手加減がなさ過ぎる。『新選組』としてはともかく、試衛館を引き継がせたらあっという間に天然理心流は潰れるぞ」

 冗談とも本気とも付かない土方の言葉に、近藤も思わず苦笑いを浮かべる。

「それは確かに言えるな。嫁でも娶らせれば少しは丸くなるかもしれないが」

 天然理心流を引き継がせるといった深刻な話から、何故か沖田の結婚へと妙な流れに話が転がり始めた。沖田はそのまま挨拶もせず局長室を離れてゆく。

(ああなると近藤先生の随行は無理ですよね・・・・・・)

 いざとなったら近藤の護衛で随行を、と一瞬考えたが、天然理心流を継がせる継がせないの話が出てしまってはそれも難しいだろう。万が一試衛館から人を出すにしてもそれはまず沖田ではない。
 さらに沖田の嫁取りまで話が及ぶとは思いもしなかっただけに、沖田は戸惑いを覚える。

(嫁取り、ですか・・・・・・そっちのほうは土方さんにも頼んで阻止してもらわないと。私には小夜がいれば充分ですし、いつ死ぬか判らない今の務めに付いている間は無責任ですよ。それにおみつ姉さんにだって・・・・・・)

 自分に言い訳するように、沖田は結婚の断りの理由を考える。近藤の気持ちはありがたいが、今の沖田には受け入れることが出来ないものだ。
 親心を示す師匠と求道とささやかな幸せを望む弟子とのささやかな気持ちのすれ違い―――――芥子粒よりなお小さい、近藤の思いやりに対する煩わしさが沖田の心の隅に刻まれる。
 だが小さな芥子粒も育てば毒々しい花を咲かせ、麻薬の原料となってゆく。後にこの煩わしさの種が沖田を蝕むことになるとは思いもせず、沖田は稽古着に着替えるため隊士部屋へと足を向けた。



 長州尋問使の準備は急ぎ足で行われ、五日後には出立の宴が繰り広げられていた。今生の別れになるかもしれないだけにその宴は盛大で、巡察の隊士たちもこの時だけは休みになり宴に参加している。
 特にここ最近伊東の存在に影が薄くなっていた武田は、近藤に擦り寄りおべっかを並べ立てまくっている。

「弁は立つけど、役に立つとは思えねぇんだよな」

 自分用に調合された井関屋の酒をちびりちびりと舐めながら、土方は隣にいる沖田に呟いた。

「だけど近藤先生が随行員に選んでしまった、ってところですか?」

 沖田は沖田で熱燗の銚子を手酌する。冬も深まりつつあるこの時期、やはり温かいものが恋しくなるものだ。ほんのりと酔いに頬を染めつつ、沖田は小声で土方に尋ねる。

「ああ。昔っからああいうおべっかに弱ぇからな、勝っちゃんは」

 昔の呼び方で近藤を呼ぶと、土方は盃の底に残っていた酒を飲み干した。

「むしろ伊東のほうが使える・・・・・・どっちにしても気に食わねぇのは一緒だが」

 確かにこの点に関しては独自の調査を行い、近藤に提言をしている伊東の方が武田より遥かに有能だし、近藤の役に立つだろう。そこが組長止まりと参謀の違いなのかもしれない。

「土方さんにとって近藤先生に擦り寄る相手は全員『気に食わねぇ』んじゃないんですか」

 笑いながら沖田が図星を指す。それに対し土方はなんとも言えない苦い表情を浮かべた。

「それだったらどんなにありがてぇか。だが、一歩間違えばどいつもこいつも近藤さんの寝首を掻きかねないような奴らばかりだ。頼りは山崎と・・・・・・」

「向こうにいる佐々木さんくらいですね。一昨日、佐々木さんには手紙を出しておきましたけど、もしかしたら近藤先生のほうが先に長州に到着してしまうかも」

「最近の飛脚共はなってねぇからな」

 唇を尖らせながら土方はここ最近の飛脚仕事に対する愚痴を吐き出した。尤も飛脚たちにもそれ相応の理由がある。

「仕方ないですよ。あそこまで長州がきな臭くなれば、まともな飛脚は近寄りたがりませんし、盗賊にも狙われやすくなるでしょう。あ、それと・・・・・・」

 沖田は肩をすくめると自らの盃を空にした。

「私の結婚は土方さんの後にしてくださいね。順番は守らないと」

 その瞬間、土方は口に含んだ酒を吹きそうになり、反射的におきたを睨みつける。

「結婚って・・・・・・さてはオメェ、あの時盗み聞きをしてやがったな!」

「人聞きの悪い。巡察から帰ってきたら二人がその話をしていたんじゃないですか。さすがにあの場所に顔を出して欲しくも無い妻を押し付けられたんじゃたまりません」

「確かにな・・・・・・お小夜とはどうなんだ?」

「順調ですよ。ただ、子供は作らないよう気をつけていますけど」

 沖田はふと暗い目をした。

「私に子供ができたら、姉夫婦が絶対に家督を押し付けてくると思うんです。沖田家の株は養父が正当な方法で購入したものなんですから、そのまま持っていてくれればいいのに・・・・・・小夜にもその事は話して理解してもらっています。本当は今すぐにでも三人くらい欲しいところですけどね」

 八木家の子供たちともよく遊んでいた子供好きの沖田である。自分の子が欲しいと願うのは当然だろう。だが、周囲の事情がそれを許してくれなかった。

「色々・・・・・・あるんだな」

「ええ」

「ま、それでも命を粗末にしなくなった事とだけはお小夜に御の字だな」

 土方は再び手酌で酒を注ぐ。

「本当に・・・・・・あの娘がおめぇと同じ身分だったら、と思う。総司、いつまでも近藤さんのおせっかいからおめぇを守りきれると思うなよ、総司」

 土方が沖田と小夜の仲を黙認してくれているのは仕事の為、沖田がより良い仕事をする為の手段であるからだ。だが、それ以外の正当性はなく、近藤の決定次第では沖田と小夜は別れなければならない。

「承知。その辺は理解してます。でも・・・・・・できる限りのらりくらりと躱してみますよ」

 部屋の中央で近藤が豪快に笑っている。そんな師匠を見つめつつ、沖田は微かな笑みを浮かべた。



UP DATE 2013.11.2

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前回の将軍辞意撤回事件の流れから、近藤局長が長州尋問使の一員に選ばれてしまいました(@@;)この決定はかなり急だったらしく、資料でもそのドタバタ感が取り上げられているのですが・・・・・・やっぱり将軍辞意のこの時に何かしらの活躍があったのでしょう(*^_^*)
ただ、新選組の論客たちって試衛館側とはちょっと・・・・・ねぇ(^_^;)不本意ながら参加させていますが、ただでは起きない新撰組副長、近藤を護るためのお付に色々工夫をこらしています

次回更新は11/9 ,長州尋問使出立と居残り組の要素をかけたらな~と思いますv
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