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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第二十六話 長州訊問使・其の貳

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 十一月四日、近藤を始め伊東甲子太郎、武田観柳斎ら隊士八名は長州訊問使の随行員として長州に西下することになった。その際一旦二条城へと上がり、大目付・永井尚志らと共に出立の口上を述べる事となり、今まさに近藤は出立の挨拶を幕閣らに向けて行っていた。

「決死の覚悟、っつうのは解るが、仰々しいよな」

 こんな風に永倉が呆れるほど、今回の『出立の儀』は大々的なものだった。新選組にとって長州と対峙するのは日常茶飯事、確かに局長自ら長州に乗り込むのにはそれなりの覚悟がいるが、それでも前日に盃を交わし、そのまま出立すれば良いという新選組的な考え方は幕府ではあり得ないらしい。
 一人ひとりの名前を読み上げながら、退屈過ぎる行事は粛々と進んでゆく。

「まぁ、確かに・・・・・・近藤先生達だけならとっくに伏見から三十石船に乗り込んで、淀川を下り始めていると思います」

 湧き出てくるあくびを噛み殺しつつ、沖田が永倉のボヤキに答えた。今回の長州訊問使に合わせ、論客を揃えてはいるが、新選組側は健脚揃いである。普通の成人男性が一日に八里から十里を歩く中、それこそ一日十二里、それ以上は軽く踏破するだろう。
 それだけに新選組幹部らにとってこの一連の行事がまだろっこしくてしょうがない。だが、沖田や永倉はまだ良い方である。ここには沖田や永倉以上に、この退屈で無意味な挨拶に苛立っている人間がいるのだ。

「おい・・・・・・お前たちが飽きてどうする。近藤さん達は大阪でも同様の挨拶をしなきゃいけねぇんだぞ」

 明らかに怒りを抑えた口調で土方が二人の会話に加わってくる。松本法眼の忠告に従い風呂や病室を半日で設置したほど機敏な、悪く言えばせっかちな土方だ。それだけにこの一連の無駄な儀式に一番苛立たしさを感じているに違いない。

「仕方ありませんね。もう暫く幕府のお偉方にお付き合いしましょう」

 組長達は土方の背後でお互いかおを見合わせながら苦笑いを浮かべた。



 近藤達が長州の手前・広島に入るのは十一月十六日の予定である。ただ、内二日は大阪城での挨拶その他諸々の行事で潰れてしまうのだが・・・・・・。そんな先の思いやられる二条城での挨拶を終え、屯所に帰ってきたのは昼過ぎであった。
 若い幹部たちは空腹と屯所に帰還した安心から、思わず大きな伸びをする。その瞬間、屯所中が揺れるような大音響が響き渡った。

「てめぇら!近藤さんがいねぇからってだれているんじゃねぇぞ!」

 耳を聾する土方の怒鳴り声に幹部たちは思わず縮み上がる。近藤が留守の時、いつにも増して部下達に厳しくなる土方だが、今回は特にそれがひどい。やはり近藤が敵地へ乗り込もうとしているのが関係しているのかもしれない。

「あ、当たり前じゃないですか、土方さん。むしろ近藤先生が留守の時ほど屯所の護りをしっかりしないと・・・・・・」

 引きつり笑顔を浮かべた沖田が土方を宥めすかそうとするが、土方はぎろり、と不機嫌そうに沖田を睨みつけると低い声で言い放った。

「だったらさっさと着替えて巡察に行って来い!一番隊の番なのに、おめぇの部下はまだ居座っていたぞ!」

「え・・・・・・は、はいっ!では行ってきます!!」

 どうやら土方の不機嫌さの半分近くは、一番隊隊士達の怠けぶりが原因だったらしい。土方の剣幕に、沖田は慌てて部下を呼びに走りだした。



 近藤がいない新選組の屯所は、土方の引き締めによって冬の空気のようにきりりと引き締まった雰囲気を漂わせていた。だが、それは最初の十日間程である。
 土方とて新選組隊内ばかりにかまけていられる訳でもない。普段は近藤が行っている各所との折衝などの仕事は増えるし、師走に入れば歳暮の挨拶もしに行かねばならない。
 それは居残り組の幹部達も同様だ。普段の仕事に加えさらに年末特有の仕事や普段近藤や土方が行っている仕事を割り振られてしまえば、どうしても部下への目配りは疎かになってしまう。そんな緩みがほんの僅かずつ出始めた十二月十日の事である。

「沖田先生!早く玄関に行ってやってください!懐かしい男が屯所にやって来ましたよ!」

 稽古着のままの蟻通勘吾が、けに嬉しそうに沖田に声をかけてきた。

「懐かしい?」

 時期が時期であるだけに来訪者も多い屯所だが、蟻通がわざわざ『懐かしい』と沖田を呼びに来るほどの人物となると限られてくる。だが、それが誰なのか沖田には全く見当もつかなかったのだが、それを教えれくれたのも蟻通であった。

「ええ、佐々木蔵之介です。どうやら近藤局長にあったようですね。手紙を預かって来たと玄関に・・・・・・」

「それを最初に言ってください!」

 何と長州に偵察にやっていた佐々木が帰ってきたというではないか。沖田は蟻通の言葉が終わる前に玄関へと走りだす。そして長い廊下の先に、足を洗っている佐々木の姿を確認した。

「佐々木さん!お久しぶりです!」

 沖田の声に気がついた佐々木はくるりと向き直ると、顔を綻ばせる。

「沖田先生、ご無沙汰しております!」

 にこやかな佐々木の顔色はすこぶる良くて、心臓病の影響を感じさせないものだった。それを確認すると沖田はようやく安堵の表情を浮かべる。

「どうしたんですか、わざわざあなたが近藤先生からの手紙を運んでくるなんて」

「近藤局長のお気遣いです。たまには松本先生に診てもらえと」

 佐々木は笑いながらそう言うが、その目は笑っていなかった。どうやら沖田が睨んだ通り、手紙では連絡しきれない『何か』を携えて、佐々木は屯所に戻ってきたに違いない。

「そうですか・・・・・・じゃあ副長室に一緒に来てください」

 勿論その事が他の平隊士にバレてしまってま元も子もない。沖田は笑顔を作りながら佐々木とともに副長室へと向かった。



「おう、佐々木、久しぶりだな!思ったより元気そうで何よりだ」

 佐々木の顔を見た瞬間、土方は気さくな笑顔を見せた。しかし次の瞬間厳しい表情を浮かべる。

「報告の手紙だったら山崎がひっきりなしに送ってきている。長州の動向を調査しているおめぇがわざわざ戻ってくる道理が解らねぇ・・・・・・向こうで何があった?」

 まるで訊問のような土方の迫り方に多少怯みつつも、佐々木は携えてきた話を一つずつ丁寧に語り始めた。

「土方副長、重要な話はは二つあります。一つは局長達ですが・・・・・・もしかしたらかなり無謀な潜入をするかもしれません」

 佐々木の言葉に土方、そして沖田も一瞬怪訝そうな表情を浮かべる。そもそも長州訊問使への同行そのものが命懸けの長州行だ。にも拘わらず敢えて『無謀な潜入』と佐々木は言うのだろうか。

「佐々木さん、『無謀』とは・・・・・・一体どういうことですか?」

「実は長州訊問使の御役目があまり果たせていないらしくて・・・・・・俺が近藤局長達と袂を分かつ寸前、局長や伊東参謀は日夜長州側の使者の宿舎を訪ねては『長州帰藩に同行させてくれ』と働きかけをしていたんです。このまま手ぶらのままおめおめと京都には帰れないと」

「そこまで・・・・・・近藤さんは思いつめているのか?」

 佐々木の報告に土方は絶句する。意外と繊細なところがある近藤にとって、幕府から与えられた役目を果たせない事実はかなり苦しいところがあるだろう。むしろ長州側の兵士と戦って凶刃に倒れるほうが楽かもしれない。役目を果たそうとする使命感と長州側の拒絶との板挟みに、近藤の神経や胃の腑はかなり参っているだろう。

「近藤先生は、本気で死ぬおつもりなんでしょうか・・・・・・」

 沖田も佐々木の話に唇を噛みしめる。できることなら今からでも近藤の傍に馳せ参じ、近藤を守りたい――――――そんな想いに駆られる。なまじ近藤の気概が判るだけに、沖田にとってもこの報告は辛いものであった。だが、佐々木の話はこれで終わりという訳では無い。

「近藤局長関係の話は以上となります。そしてあともう一つですが・・・・・・屯所に不逞浪士側の間者が入り込んでいます。どうやら江戸で行われた夏の隊士募集の際、紛れ込んだらしいのですが」

 その瞬間、土方の表情が更に険しくなった。夏の隊士募集は土方自らが人選を行っている。否、それだけでなく参謀の伊東や会津の名代でもある斎藤も関わっているのだ。その三人が立ち会いながら、間者を隊内に引き入れてしまう間抜けを犯したとは思いたくない。

「・・・・・・誰だ?」

 どちらにしろ佐々木の話を聞いてからだと土方は佐々木の言葉を促す。すると佐々木の口から思わぬ人物の言葉が飛び出した。

「平隊士の桜井勇之進です」

「え?だって彼は江戸の出ですよ?」

 まさか江戸出身の者までが間者とは思いもせず、沖田は驚愕する。だが、その点に関しては土方は別段驚かなかった。

「江戸者だって関係ねぇ。その話、どこで仕入れてきた?」

「心臓病の発作の際、偶然助けてくれた武家屋敷で。主の話によると、側室の妹の子供が桜井なんだそうです。またその嫁ぎ先が厄介でして・・・・・・」

 佐々木は更に声を潜めながら話を続ける。

「長州藩江戸藩邸付きの御庭番の息子らしいんですよ」

 その一言で土方も沖田も納得した。江戸藩邸に生まれた時から住んでいれば、言葉は自然と江戸言葉に近くなる。さらに俄仕立ての間者と違い、子供の頃から英才教育を受けている諜報なら敵に気づかれる危険性も格段に少なくなる。佐々木の心臓病発作という偶然がなければさらに先まで桜井をのさばらせていたかもしれない。

「なるほどな・・・・・・どうやらそろそろ動き出さないと行けねぇ、って事なんだろう」

 土方は腕組みをしたまま沖田と佐々木を睨めつける。

「ちょいと隊内の雰囲気もだれてきているし、ここでひとつ締めるか」

「まったく・・・・・・こんな時の土方さんは楽しそうなんですから。で、切腹ですか?それとも暗殺?」

「暗殺だ。他の鼠がいるかどうかも調べたいんでな。切腹だと潜り込んじまう。で、暗殺決行の人員は、おめぇと・・・・・・」

 と、土方が言いかけたその時である。不意に玄関の方が騒々しくなった。どうやらどこかの隊が巡察から帰ってきたらしい。

「八番隊、ただ今帰還しました!」

 よく通る、藤堂平助の声が副長室まで届いた。その声に土方はニヤリ、と笑う。

「・・・・・・平助、だな」

 暗殺要員はこれで決まった――――――土方の呟きに、沖田と佐々木も静かに頷いた。



UP DATE 2013.11.9

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長々とした行事の後に、近藤局長らも含めた長州訊問使は西へ旅立ってゆきました♪いわゆる国絡みの行事がムダに長いのは『威光』のためには仕方ないんでしょうねぇ。近藤局長はそれでも良いのかもしれませんが、他のメンツは果たしてどう思っていたのか・・・少なくとも近藤局長らの見送りがてら参加していた新選組幹部からは不評だったようです(^_^;)
そして長州の一歩手前、広島にまで到着した近藤局長らですが、そこで足止めを食ってしまっています。色々手をつくして長州に侵入を試みているようではありますが・・・これは難しいでしょう。
一方、京都側にもちょっとしたトラブルが起こっております。この間者退治、果たしてうまくいくのでしょうか?次回をお楽しみくださいませ♪
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