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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第五章

夏虫~新選組異聞~ 第五章 第二十八話 長州訊問使・其の肆

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 近藤から京都へ帰還する旨が書かれた手紙が西本願寺の屯所に届いたのは、年も押し迫った十二月二十日だった。文面こそ威勢のよい言葉が書き連ねられていたが、山崎他監察からの報告で、長州側との交渉が失敗に終わった事は土方にも伝わっている。間違いなく土方を心配させない為の近藤なりの気遣いだろう。

「意気揚々と出立しただけに、近藤さんも落ち込んでいるだろうな」

 近藤からの手紙を畳みながら、土方は小さく溜息を吐いた。池田屋にしろ、この前の将軍東帰阻止の件にしろ自分達は恵まれすぎていた。その運に甘えて長州に乗り込もうとしても、世の中はそう甘くはない。否、むしろ華々しい活躍があったからこそ長州側は近藤らを拒絶したと言っても過言ではない。

「・・・・・・明日は大阪城での報告だろうし、こっちに帰ってきてからも黒谷にまず行かなきゃならねぇから、屯所に帰ってくるのは夕刻あたりか」

 近藤の帰還時刻を鑑みながら土方は頭の中で出迎えの算段を始める。せわしない年の瀬の帰還は正直大変ではあるが、ある意味この時期の帰還は望ましいかもしれない。年明けの勢いと共に失敗した今回の交渉、潜入捜査の失敗を吹っ切ることができる可能性があるからだ。
 特に見た目より繊細な部分のある近藤の事だ、間違いなく暫くはこの事を引きずるだろう。ならば年明けと共に半ば強引に忘れさせるのも悪くない。

「おい、組長で誰か居るか!」

 出迎え準備の算段が付いた土方は、大声で廊下に声を掛けた。するとその声に沖田と斉藤が反応して副長室にやってくる。

「何でしょうか、土方さん」

 土方の声音から、そう深刻な内容ではないと判断したらしい。ニコニコ笑いながら沖田がひょいっ、と副長室に首だけ覗かせた。その様子を斉藤が呆れたように沖田の背後から見つめている。同い年の筈なのに斉藤のほうが老成しているように見えるのはこの行動の違い故だなと、土方は苦笑を浮かべた。

「総司、お前さんにとって良い知らせだ。近藤さんが明後日京都に帰ってくる。それまでに屯所を磨き上げておけ」

 その言葉を聞いた瞬間、沖田は少しだけ不服そうに眉を寄せる。

「え?だって七日前に煤払いを終えたばかりじゃないですか。それに毎日ちゃんと掃除もしていますし・・・・・」

「うるせぇ!死を覚悟して出張した局長を出迎えるのにその程度の掃除で済むと思っているのか!四の五の言わずとっとと平隊士を動員して掃除をしやがれ!」

 文句を言おうとした沖田の言葉を遮り、土方の雷が落ちる。その剣幕に思わず背筋を伸ばしてしまった沖田と斉藤は、そそくさとその場を後にした。



 西本願寺の屯所が小さな騒動に巻き込まれているとはつゆ知らず、失意の近藤以下八人の隊士は十二月二十二日、黒谷にて国泰寺会談の報告を行った。

「・・・・・・ということになります。残念ながら長州藩は武備恭順の姿勢であること、広島に滞陣中の幕府方の士気は落ちているため勝目が薄いことから、表向き長州藩が恭順ならば寛典な処置で対応していく方針が望ましいかと。それが長州訊問使の総括意見にございます」

 無念さを滲ませながら、近藤は完結に報告を終えた。できることなら一つでも幕府側に有利な報告をもたらしたかったというのが本音である。だが、一ヶ月にも及ぶ交渉の結果、何も得ることができなかったのもまた事実だ。

「そうか。それほどまでに幕府軍が低下しているとは・・・・・・」

 病をおして近藤の報告を全て聞いた松平容保は、無念さも顕わに渋面を作る。

「折角長州再討伐の勅許をもぎ取ったというのに、これでは迂闊に戦端も開けぬな」

 容保の呟きに近藤も申し訳無さそうに瞼を伏せる。

「できることなら長州領内の状況を調べられれば良かったのですが・・・・・・折角お口添え頂いたのに申し訳ございません」

「いや、それは仕方ないだろう。新選組単独での任務と違い、幕府方の使者もいたことだ、勝手な行動はできまい」

 傍に控えていた広沢が近藤を労った。新選組単独、または会津の命令ならば多少の無理をしても潜入を試みることができただろう。だが、幕府の使者として出向いたからには幕閣のやり方に従わなくてはならない。

「とにかく、今回の長州訊問使の役、ご苦労であった。いつ戦になるや解らぬが、暫時ゆるりとするがよい」

「ははっ!」

 松平容保の労いの言葉に、近藤以下八人は平伏した。



 寒風吹きすさぶ中、屯所への帰路についた近藤は、今回の長州訊問使の意味合いを改めて反芻していた。

(長州側の頑なさは想像していたとおりだったし、大目付殿の手前あまり強引な手段に出る事が難しかったのも仕方なかった。しかし・・・・・・)

 近藤は小さく息を吐きながら唇を噛みしめる。その瞬間、乾燥した唇が割れたのか微かに血の味が滲んだ。

(前線に陣している幕府軍の士気があれほどまでに低かったとは・・・・・・)

 いつ戦になるか判らない緊張感が続き過ぎた為なのか、はたまた別の理由からなのか、近藤からしてみたら信じられないほど幕府軍の兵士達の士気は低かった。

(あれが、長州側の武備によるものだったら、やはり潜入を試みるべきだったかもしれない)

 終わってしまった事とはいえ、後悔の念ばかりが近藤を襲う。その一方、悄気げている近藤の背中を見つめつつ、内心ほくそ笑んでいたのは伊東甲子太郎であった。

(近藤くん、残念ながら幕府の中で無駄なやる気を見せているのは会津と新選組くらいなものなんだよ。今回の旅で思い知っただろう)

 こみ上げてくる嘲笑いを必死に押し殺しつつ、伊東は心の中で近藤に語りかける。

(既に幕府には以前のような求心力は無い。これからは今上を頂きに国を治めていく時代なんだよ。長州だって主上に歯向かう気は無いんだから・・・・・・無駄な戦で国力を疲弊させるより、大政をさっさと朝廷に渡してしまったほうが日本の為になるだろう?)

 できることならこの場で――――――屯所に帰る前に近藤の耳許でこの言葉を囁きたかった。今の落ち込んでいる近藤であれば、間違いなく伊東の思惑に嵌まり、伊東の思うままに動く操り人形になるだろう。だが、屯所に帰ってしまえば手強い男が近藤の右腕として控え、伊東を寄せ付けない。

(土方歳三――――――味方にすればあれほど心強い男はいないけど、敵にすれば本当に厄介だ)

 近藤だけならいざ知らず、土方をどう懐柔するか、そこが難しいところである。

(所詮は壬生狼、犬ならともかく野生の狼を飼いならず事は不可能か)

 食うか食われるか――――――土方と自分はどこまで行っても相容れないのだろう。ならば己の力で新選組内の権力を掌握し、尊皇攘夷集団にするまでだ。弱々しい西日を正面から受けつつ、伊東は新選組乗っ取りの覚悟を新たにした。



 冬の弱々しい西日が茜色に変化する頃、待ちに待った先触れが屯所に飛び込んできた。

「近藤局長がじきこちらに戻られますので、ご支度の方宜しくお願いします!」

 柔らかい上方訛りのその声は、山崎のものであった。

「山崎さんお帰りなさい!お疲れ様でした」

 たすき掛けで玄関を掃き清めていた沖田が、笑顔で山崎を出迎える。

「沖田はん、ご無沙汰してます」

 沖田の顔を見た瞬間、山崎の顔に安堵の笑みが浮かぶ。

「ところで佐々木はんは?」

 心臓の悪い監察仲間の体調が気になっていたのだろう。山崎は真っ先に佐々木蔵之介の様子を沖田に伺う。その問に対して沖田は苦笑交じりに奥を指さした。

「奥で土方さんの手伝いを。病を理由に諸々の雑用を押し付けられていますよ。むしろあちらのほうが心臓に負担が掛かりそうですけどね」

「そうですか。ほんま佐々木はんには礼を言わなあかんと・・・・・・わてらが得たなけなしの長州側の情報は、佐々木はんが足で稼いでくれたもんが殆どやし」

 照れくさそうに頭を掻きながら、山崎は佐々木への感謝を口にする。

「となると、また長州に行ってもらわないといけませんかね。しかし土方さんが手放すかな」

 冗談交じりの軽口を交わしながら、沖田は山崎とともに副長室に向かった。

「土方さん、近藤局長が・・・・・・」

 襖を開けつつ沖田が副長室の中に声を掛けた瞬間、待ちくたびれたような欠伸とともに土方の嬉しそうな声が飛び出した。

「ようやくか!全く待たせやがって・・・・・・宴の準備は滞り無く済んでいるんだろうな?」

 紋付きではないものの、一張羅を身につけた土方が沖田に尋ねる。

「勿論じゃないですか。この日の為に屯所の忘年会を待たされていたんですから」

「ほんまですか?煤払いの打ち上げくらいはやらはったんでしょう?」

 意外な言葉に山崎が驚きの表情を浮かべた。

「それがやっていないんですよ。煤払いを終えて、いざ胴上げ!となったら土方さんが『近藤さんより先に胴上げされるわけにはいかねぇ!』って、変な意地を張っちゃって」

 そこは土方の意地なのだろう。沖田は肩をすくめてくすり、と笑う。そんな沖田を睨みつけながら土方は唇を尖らせた。

「当たり前だろう!新選組局長を差し置いて胴上げされるわけにゃいかねぇよ。その代わり今日は無礼講だ!」

「待ってました!永倉さ~ん!原田さ~ん!今日は無礼講ですって!」

 沖田の声が屯所に響き、それを聞いた平隊士達の雄叫びがそれに続く。冬の夕暮れ、主の帰還を目前にした新選組屯所は晴れやかな緊張感に包まれたのだった。




UP DATE 2013.11.23

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一ヶ月以上に渡る長期出張からようやく帰ってまいりました、近藤局長♪しかし交渉の方は正直うまく行きませんでしたし、潜入捜査もできなかった状況・・・失意のうちの帰京だったでしょう。
そんな近藤に対し、妙にごきげんなのは伊東甲子太郎です( ̄ー ̄)ニヤリこの出張で幕府の権威が落ちていることを目の当たりにした伊東は徐々に自分の思想を活動にしていくでしょう。ただ、手強い相手もいますから、そこは慎重にならざるを得ませんが・・・(^_^;)

第五章本編はこれにて終了です。次回は大正時代のジジイ総司&中越の会話シーンに戻りますv
(第六章を今年中に始めるか、話の内容にあわせて新年から始めるか迷い中。来週には結論を出せると思います^^)
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