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「紅柊(R-15~大人向け)」
甲午・秋冬の章

清波の年季明け・其の貳~天保五年十二月の始末(★)

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 あの日も確か年末の忙しい日だった。大人たちが忙しく働く中、辰治郎と田舎娘の周囲だけまるで時が止まったようにゆっくりと時間が流れていく。辰治郎は田舎娘の近くにしゃがみこむと、その顔を覗き込みながら尋ねた。

「おめぇの名前はなんて言うんだ?まさか名無しの権兵衛じゃねぇだろう?」

 先ほどのぶっきらぼうな口調とは打って変わり、穏やかに尋ねる辰治郎の声音に安心したのか、少女は咲き誇る花のような笑みを浮かべながらその問に答えた。

「おれ、ひなって言うだ」

 田舎娘の名前とは思えぬ、意外と愛らしい名前に少しばかり驚きを覚えた辰治郎だったが、それはおくびにも出さず辰治郎としては珍しい笑顔をひなに向けた。

「そうか、おひなちゃんかい。俺は油差の辰治郎ってぇんだ。ま、これから長い付き合いになると思うが宜しくな」

 辰治郎がそう言ったその瞬間、がやがやとした話し声と共に女将と楼主、そしてひなを連れてきた女衒が賄処にやってきた。そして辰治郎を見た瞬間、楼主が辰治郎に怒鳴りつける。

「おい、辰治郎!仕事はどうした、仕事は!こんなところで何していやがる!」

 普段は女将や番頭に仕事を任せっきりのくせに、女衒など外の人間が居るときに限ってやたら威張りたがる楼主である。辰治郎は心のうちで舌打ちしつつも、仏頂面で返事をする。

「ちょっと空いたんで握り飯を腹の中に放り込みに来たんです。そうしたらこいつがいたんです。いくら田舎から出てきたばかりの小娘でも、見張りの一人も付けずにほったらかしはまずいでしょう」

 さり気なく楼主や女将の不手際を指摘しつつ、辰治郎は土間にしゃがんでいるひなを指さした。その瞬間、女将がものすごい形相で楼主を睨みつける。どうやらひなの世話は楼主が任されていたらしいが、それを放置して女将と女衒の話の輪に入り込んだのだろう。

「め、珍しいな。おめぇが女を相手にするなんて」

 自分の失態を誤魔化すようにあさっての方向を見つつ、楼主は辰治郎に話を振る。その動揺ぶりからすると、あとで女将にこっぴどく叱られるのだろう。だが、それは辰治郎の知ったことではない。

「仕方ないでしょう、放ったらかしの田舎娘をそのままにもして置けないし・・・・・・俺が普段女衆を相手にしないのは『商売道具に近づくな』と仰っている親父さんの教えです。俺はそれを守っているだけですから」

 大仰に剥れつつ、辰治郎は自分の正当性を主張した。それは同時に自分の中に芽生えつつあった恋心を大人達の目から隠すためであったかもしれない。そんな辰治郎に対し、女将は満足気な笑みを浮かべる。

「いい心がけだよ、辰治郎。じゃあ私はちょいとこの娘を連れて湯屋に行ってくるから、お前さん達、留守を頼んだよ。じゃあ松吉さん、またいい子がいたらよろしくね」

 女将はてきぱきと男達をあしらいつつ、ひなを伴って湯屋へと行ってしまった。



 もしかしたらあの時、女将や楼主は辰治郎の感情を本人以上に感じ取っていたのかもしれない。同じ屋根の下に居るはずなのに、それ以来辰治郎はひなの姿を全く見ることは無かった。
 そして次に辰治郎がひなに出会ったのは、最初の出会いから一ヶ月後の事だった。出会うことのなかった一ヶ月に及ぶ訓練の末、娼妓としての作法や手練手管を身につけ磨き上げられた雛鳥は、完全に恵比寿屋の娼妓という名の鳳凰になっていたのである。そこに田舎娘の面影はどこにもなく、辰治郎はただ眩しげに見つめることしか出来なかった。

「この娘の源氏名は清波だよ。今度伊勢屋のご隠居に水揚げされることになったから」

 男衆と水揚げ口上の担当をする花魁に対し、女将はひなの源氏名を告げる。それに対し驚きの声を上げたのは当時二階廻しだった達四郎だった。

「清波って・・・・・・うちの由緒ある名跡じゃないですか!」

 ひなのまえに『清波』を名乗っていた娼妓は四人、その全てが御職であったり、それに次ぐ売上を叩き出し、吉原にその名を知られた。それほどこの名前は恵比寿屋にとって重いものなのである。子供の頃から育て上げた引込み禿ではなく、一ヶ月前に来たばかりの田舎娘にその名を与えようというのだから、見世の者が驚くのも無理は無い。だが、女将は眉一つ動かざず言い放った。

「ああ、この子ならなれるだろうさ。それには男衆の頑張りもかかっているんだからね。辰治郎、あんたは歳も近いんだから頼んだよ!」

 いきなり振られた女将の言葉に辰治郎は思わず頷いてしまった。だが、その後それが守られる事は殆どなかった。勿論それは恋心による嫉妬心によるものである。
 適度な遊びをする客には辰治郎もそれ相応に丁重な対応をした。しかし清波と深い関係になろうとする客、清波が溺れそうになる手管に長けた客に対しては影に日向に嫌がらせをし客の脚を遠のかせていったのだ。その数は四十から五十人くらいになるだろうか。
 もし彼らが未だ清波の贔屓客だったら、間違いなく清波は恵比寿屋の御職、否、吉原一の花魁になっていただろう。
 清波を吉原一の花魁にしてやれなかったことに関しては残念だと思う一方、やはり他の男に抱かれる姿を見るのは耐え難いものがあった。だが、その苦しみもこのひと月だけなのだ。それまでの辛抱と、新たな油を補充するために再び清波の部屋に向かった。



 千住で今年最後のお仕置きを済ませた山田一門が恵比寿屋に上がったのは暮れも押し迫った二十九日だった。
 将軍家、御三家御三卿、そして高家への挨拶回りと忙しい吉昌に大名家へ挨拶回りに出向く高弟達、それぞれの藩の諸用や忘年会などに忙殺されるその他の弟子達が諸々を済ませ、ほぼ全員が顔を合わせることができるのが二十九日なのである。なのでこの日にまず道場に集合し、煤払いを終えた後に吉原に繰り出す――――――というのが例年の山田道場の習わしとなっていた。そしてこの日は山田一門の忘年会と共に年明けに年季明けとなる清波、そして芳太郎の敵娼である藤浪の送別会も行われることになった。

「後藤様、前畑様、年明けからはこちらの白波、雪波をご贔屓にお願い致します」

 清波の口上と共に背後に控えていた娼妓らが頭を下げた。五三郎の新たな敵娼・白波の年齢は二十歳前後だろうか、清波同様大きな目が印象的な座敷持の花魁である。一方の雪波はしっとりとした大人の雰囲気を持つ娼妓である。それぞれの好みを考慮した人選であることは間違いない。

「なるほど、おめぇさんが選んでくれただけあるな」

 五三郎は満足そうな笑みを浮かべる。予め清波本人から次の敵娼は清波が見立てると聞いていた五三郎だが、確かに白波の見た目は五三郎の好みだった。性格も穏やかそうだし、その点も厄介事が命取りになる立場の五三郎としてはありがたい。

「どうします?今日からお相手は・・・・・・」

 清波の流し目に五三郎は苦笑いを浮かべる。

「おいおい、冗談はやめてくれよ。明日を最後に年季明け、って花魁を前に何もなし、ってことはねぇだろう。他にも客がいるんだったら、そいつらの後にでもちょいと顔を見せてくれねぇか?」

 最後に清波を所望したいという五三郎の言葉に、清波は愛嬌のある笑みを見せた。

「それならこれからお相手をいたしますよ。明日は何人か入っているんですけど今日は珍しく後藤様お一人ですし」

「珍しく?」

 清波の言葉に、五三郎は小首を傾げる。

「ええ。昔のお馴染さんが名残を惜しんでくださってお陰様で盛況なんです。だけどさすがに今日は皆様控えていらっしゃるようで・・・・・・」

 清波は微笑みながら五三郎に近づき、五三郎に酌をした。

「そりゃそうだろう。『ならずの御職』の年季明けだ、名残を惜しむのも無理はねぇ」

 五三郎は注がれた酒で喉を潤した後、再び口を開く。

「幸からも祝儀を預かってきている。それなのに他の娼妓を抱いたとあっちゃあ洒落にもならねぇ。だから今夜は頼むぜ」

 どうやら六代目からの祝儀の他に、特に清波へ渡してくれと幸から祝儀を預かってきたらしい。幸と五三郎の関係の深さを感じさせるやり取りに、清波はまるで弟を見守る姉のような笑みを浮かべた。



 年忘れの宴を終えた後、五三郎と清波は部屋に引込み布団の中に潜り込んだ。

「夕波から引き継いでから一年半だけど、本当にありがとうよ」

 五三郎は慣れた手つきで清波の胸許に手を忍ばせながら礼を言う。時に自分でも抑えきれなくなる欲望を清波で吐き出すことが出来たからこそ、幸を傷つけること無く今まで過ごすことが出来た。できればあと一、二年敵娼になって貰いたかったがこればかりは仕方がない。

「何言っているんですか、水臭い。私達花魁は一夜の夢をご贔屓に提供するのが役目なんですから・・・・・・はぅん」

 五三郎が清波の乳首を指で転がした瞬間、清波は甘ったるい声を上げた。若い娼妓ほどの張りはないが、蕩ける柔らかさを持った小振りな乳房が五三郎の手でこねくり回されると、清波の口から五三郎を煽る嬌声が溢れ始める。

「いや、おめぇさんがいなかったら俺は幸に手を出しちまっていたかも知れねぇ。あいつに対して理性を保てたのは・・・・・・おめぇのお陰だ」

 そう言いつつ五三郎は清波の小振りな胸の頂きに舌を這わせた。コリコリと凝った小さな果実は五三郎の舌に嬲られ、さらに固く尖ってゆく。その刹那、五三郎は部屋の隅にある屏風の向こう側から息を殺してじっと自分達を見つめている気配を感じた。それは間違いなく辰治郎であろう。ただいつもと違うのは今日はやけに大人しく、なかなか出ていこうとしない。

(今日は清波が言っていたように客が少ねぇのか?なかなか出て行かねぇな)

 かと言って五三郎の昂ぶりを削ぐような真似をするわけでもない。もしかしたらあと二日の辛抱とじっと耐えているのかもしれないと五三郎は思い至った。

(だったら少し煽っておくか)

 悪戯心を覚えた五三郎は、わざと派手に清波の着物を脱がしてゆく。

「後藤・・・・・・様?」

 いつもと様子が違う五三郎に、清波は微かな戸惑いを見せるが、五三郎は気に留めることもなく、帯まで解いてしまう。

「いいじゃねぇか、清波。今日が最後なんだし、他に客もいないんだろ?」

 五三郎は半ば強引に清波に言い放つと、みるみるうちに緋色の襦袢一枚にしてしまった。さらに胸許を広げ、裾を捲り上げて隠れているのはほぼ腰回りだけ――――――辛うじて秘所だけが見えない状態にまで清波を剥いてしまったのである。『廻し』を行う普段なら絶対に出来ない行為だが、悪乗りをしている五三郎に罪悪感は微塵もない。

「年が明けたら二十八、とは思えねぇ肌だよな。特にこれくらいの行灯の灯だと、あんたの肌の白さがよく映える」

 五三郎は清波の耳許に唇を近づけ、熱っぽい息を吹きかける。

「この艶姿、油差の辰治郎が見たらどう思うだろうな。絶対にむしゃぶりつくと思うぜ」

 その声は屏風の背後に居る辰治郎にもはっきりと聞こえる声だった。それと同時に五三郎は清波の膝に手をかけ、両脚を大胆に開いたのである。
 辰治郎が清波の為に整えた行灯の灯り、その柔らかな灯りの前に顕になったのは、しっとりと濡れそぼった清波の花弁であった。



UP DATE 2013.12.11

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とうとう五三郎の敵娼としても最後の日がやってきた清波です。と同時に芳太郎の敵娼も年季明けを迎えるので、山田一門としてもちょっと派手に忘年会を・・・というところらしいです。いくら弟子の敵娼でもあまりケチると色々と言われちゃうので・・・男の見栄、ってやつですかねww

そして相変わらずピーピング辰治郎(爆)他の客と違って五三郎は若いだけに『清波の気持ちがそっちに行ってしまうのでは?』という心配があるのでしょう。ある意味可愛いっちゃ可愛いんですが(おいっ)
次回は今年最後の紅柊、五三郎との濡れ場を中心にお送りしま~す♪
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