FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・外伝

夏虫外伝~失われた師走・其の参

 ←烏のがらくた箱~その百九十四・ぽんこつプリンター(# ゚Д゚) →砂漠の星の物語~ケパロスの死神2
 北風吹きすさぶ十一月の終わりとはいえ、海に近い横浜は他所に比べたら暖かい。さらに市場に群がる女達のむせ返るような熱気もある。昼間なら薄い綿入に襟巻きの一つでもすれば街中を歩くのに不自由はしない。
 だが、自分にかけられたその声を聞いた瞬間、沖田は忘れていた極寒を思い出した。あれは京都の底冷えのする冬だろうか。それとも蝦夷の吹雪の中、進軍した冬だろうか――――――そんな厳しい清冽さを覚える懐かしい声に、沖田は微笑みを浮かべつつ背後にいる人間に声をかける。

「お久しぶりですね、斉藤さん。それともこの名前はまずいですか?」

 その瞬間、沖田の肩にかかった手の力がわずかに緩む。

「いいや、別に構わん」

 そこにいたのは新選組時代の同志・斎藤一だった。幾分痩せたように見えるが、それ以外特に変わったところは無さそうだ。

「相変わらず食えない男だな、あんたは」

 斉藤は沖田の肩から手を退けると、ゆっくりと沖田の前に回り込む。

「そういうあんたは?わざわざ俺にそんな事を聞くということはあんたの方が偽名を名乗っているんだろう」

 斉藤はにこりともせずに指摘する。昔と変わらぬその鋭さに、沖田はぷっ、と吹き出した。

「あはは、斉藤さんこそ相変わらず『食えない男』じゃないですか!何でばれるかなぁ」

 沖田は子供のように大声で笑った後、ちょっと照れくさそうに散切り頭をぽりぽりと掻いた。それは断髪してからの沖田の癖であり、函館戦争以来のものである。

「いくつかあるんですよ。井上宗次郎とか・・・・・・あ、あと娘には藤堂平助、って言ってます」

 沖田が昔の同志の名前を告げたその瞬間、斉藤はあからさまな渋面を作る。

「沖田さん、よりによってその名を名乗るか?まさかその娘、っていうのは・・・・・・」

「ええ、藤堂さんと小夜の間に出来た娘です。今は身の安全を考えて知人に預けているんですが・・・・・・あと、四、五年もしたら一緒に暮らせますかねぇ」

 言い難そうに尋ねようとした斉藤の言葉尻を奪うように、沖田は事情を告げた。色々曰くのある事案だが、少なくとも今現在はつつがなく暮らしているらしい。穏やかな暮らしを垣間見せる沖田に、斉藤は少しばかりほっとした表情を浮かべる。だが、それをそのまま表現できるほど斉藤は素直ではない。

「引き取ってもすぐに嫁に行ってしまうだろう。馬鹿馬鹿しい」

 ぶっきらぼうに言い放つと、斉藤は市場の騒動の方に視線をやった。

「・・・・・・それにしてもあの騒動は何なんだ?東京まで出てきたついでに横浜見物にと足を伸ばしたんだが」

 どうやら斉藤は旧暦から新暦に変わる勅令を知らないらしい。怪訝そうに市場をじっと見つめる斉藤に沖田は事情を説明する。

「ああ、あれですか。あと十日もしない内に新年が来てしまうんでその買い出しですよ。何せ師走が無くなってしまうんですから皆殺気立っちゃって」

 その一言に、斉藤は吃驚したように目を見開いた。



 二人の男の周囲をカラカラに乾いた落ち葉が舞ってゆく。雰囲気だけならまるで果たし合いでもしているかのようだが、二人の会話はあまりにも俗なものだった。

「し、師走が無くなるだって?」

「あれ?東京では騒ぎになっていなかったんですか?」

 怪訝そうに尋ねる沖田に、斉藤は何か記憶をたぐり寄せるように腕組みをする。

「・・・・・・そういえば時折街道で人だかりができていたな。あれがそうだったのかのか」

「多分そうでしょうね。私も知ったのは昨日の晩、小夜が仕事帰りに読売を持ってきてくれたので」

 やはり各地で騒動になっているのだ――――――沖田は肩をすくめながら呟いた。

「世の流れは西欧風に向かっていますから、そのうち暦も西洋暦になるんじゃないかと踏んではいたんですがまさかこんなに早いとはね」

「・・・・・新選組の連中が恩赦になったと喜んでいたらこんなことになるとは。全く新政府のやることはろくなことがない」

 渋面を崩さぬ斉藤に対し、沖田が基本的な疑問を投げかける。

「ところで斉藤さん、何故東京や横浜に来たんですか?」

 沖田の問いかけに、斉藤は感情の一欠片も入れずに返事をする。

「東京へは会津公への歳暮の挨拶に来たんだ。斗南藩の代表者としてな。横浜はついでだ。東京より栄えていると聞いてどんなものか見に来たんだが、まさかあんたに出くわすとはな。もしかして・・・・・・」

「ええ、函館から逃げ出してず~っと横浜に潜伏していますよ」

 あっさり答える沖田だったが、斉藤には一つの大きな疑問が湧き上がる。

「逃げおおせたのはいいが、一体どうやって暮らしているんだ?元新選組幹部に金銭援助をしてくれる支援者なんて・・・・・・」

「ああ、それは小夜がもぐり医者として稼いでくれているんです、私はいうなればヒモですよ」

 後ろめたさどころか、まるで惚気話を話すかのようにデレデレと鼻の下を伸ばしながら話す沖田を、斉藤はぎろりと睨む。

「・・・・・・新選組一番隊隊長も地に落ちたものだな」

「え、そうですか?別に悪くはないですよ。小夜は家のことより外で働くほうが好きみたいですし、私もひと通りは試衛館の内弟子時代に鍛えられましたからねぇ。あと・・・・・」

 沖田は一呼吸置いて自嘲気味に呟く。

「内面に脆さのある私が外に出ていくのを小夜が心配するんですよ。また労咳が・・・・・・というより、ぶらぶら病が再発するんじゃないかって」

「確かに当時のあんたはひどかったものな。骨と皮ばかりにやつれて・・・・・・」

 懐かしそうな目をする斉藤に沖田が声を掛けた。

「斉藤さん、ここで立ち話はなんですから私の家に来て話しませんか?あ、その前に・・・・・・」

 沖田は市場にちらりと視線を投げかけ、両手を合わせる。

「あそこの市場で食料を調達するのを手伝って欲しいんです。あそこに突っ込んでいくの、結構勇気が要ると思いませんか?ね、新選組三番隊組長の力量を頼んでのお願いです!」

 情けないといえばあまりにも情けない元・新選組一番隊組長の懇願に、斉藤は大きな溜息とともに悲しげに首を横に振った。



UP DATE 2013.12.21

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





何とビックリ、沖田の肩に手を置いたのは斗南にいるはずの斎藤一でした(>_<)
どうやら斗南からのお使いのついでに横浜まで足を伸ばしたようですが・・・この時期鉄道はまだ開通しておりませんので、歩きで横浜まで来たことになります。彼としては東京に先駆けて出来たガス灯やら本格的な西洋建築、西欧諸国の軍備などを見に来たのでしょうが、まさかそこでヒモに成り下がった元・同志に会うとは思っても見なかったでしょう(^_^;)

どちらにしろ積もる話もあるようですので、次回(最終話)は場所を変え沖田と小夜の家で語り合うことになりそうです♪
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その百九十四・ぽんこつプリンター(# ゚Д゚)】へ  【砂漠の星の物語~ケパロスの死神2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その百九十四・ぽんこつプリンター(# ゚Д゚)】へ
  • 【砂漠の星の物語~ケパロスの死神2】へ