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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第一話 深雪と御幸・其の壹

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 近藤らが広島から帰ってきて、腰を落ち着ける間もなく年が明けた。失敗に終わってしまったとはいえ長州訊問使の一人として広島まで赴いた近藤である。その人気は尋常ではなく、年始回りに行く先々で広島で起こった出来事を聞きたがる者達が跡を絶たない。中にはいつまでも近藤を屋敷に引き止める大名もおり、そこから沖田や井上が近藤を連れ戻しに出向くなんて騒動もあった位だ。
 そんな多忙を極めた年始挨拶もひと通り終えて松の内が明けた頃、何故か近藤は切なげな溜息を付くようになった。それも日に日に多くなってゆく。

「どうしたんでしょう、近藤先生。やはり長州訊問使の不調が引っかかっているんでしょうか?」

 気がつけば溜息ばかりをついている近藤を見かね、沖田はこっそり土方に尋ねる。すると土方は苦虫でも噛み潰したような渋い表情を露わにし、吐き捨てるように言い放った。

「それはねぇよ。そもそも今月の二十七日にまた広島に出張なんだ。むしろ前回の失敗を挽回してやろうとやる気に満ち溢れているさ。あの溜息はな・・・・・・」

 土方が渋い表情を崩さぬまま声を潜める。

「・・・・・・妓だよ。どうやら大阪新地の折屋に籍を置く深雪太夫、って妓にころりと参っちまったようだ」

 忌々しげな土方の一言に、沖田も苦笑いを浮かべた。

「またですかぁ。三本木の駒野に上七軒の植野、島原の金太夫に・・・・・・他にもいましたよね?しかも身請しておいて親元に返している妾もいるでしょう。手に入れてしまえばそこで満足してしまうんですから、近藤先生は」

 沖田の的を射た指摘に土方も黙って頷くことしかできない。どうやら近藤は自分のものではない娼妓を手に入れるまでは夢中になるのだが、身請して手に入れてしまうと熱が冷めてしまうらしい。これまでも次々と馴染みの娼妓を手に入れては次に目移りし、他の娼妓を身請するということを繰り返していた。
 遊ぶ金を考えたら妾にしてしまったほうが安上がりだが、それが三人、四人となればまた違う。しかも今度は見世の御職かもしれない太夫格の娼妓だ。法度で定められている五百両の上限は確実だろう。
 だが深雪太夫に恋焦がれている近藤の想いを、そのままにしておく土方では無いことも沖田は知っていた。

「・・・・・・で、土方さん。身請の交渉はいつから始めるんですか?」

 沖田の問に土方は暫く考えた後、口を開く。

「近藤さんが広島に行った後だな。さすがに局長が留守中に俺が動くことはままならねぇから、河合に交渉をさせておいてくれ」

「承知」

「あ、くれぐれも近藤さんには内緒だぞ。広島から帰還した時に驚かすんだから」

 まるで悪戯でも企んでいるかのような土方の物言いに、沖田は思わず吹き出してしまう。この二人はきっと昔からこんな風にじゃれあっていたのだろう。

「あはは、解りました!じゃあ河合さんにも『内密に』と伝えておきますね」

 沖田は土方に言い残すと、土方の前から立ち去っていった。



 土方との会話の後、沖田はそのまま勘定方へ顔を出した。年末年始の殺気立った雰囲気とは一転、小正月過ぎの穏やかな空気が勘定方の部屋に流れている。沖田はその中央で帳簿をつけている河合耆三郎に近づくと、深雪太夫の身請についての話を手短にに告げた。

「・・・・・・という理由で、折屋の深雪太夫の身請を進めて欲しいんです。勘定方としては費用の捻出に頭が痛いでしょうけど宜しくお願いします」

 広島出張とも重なり、近藤に関しては度重なる大きな出費である。きっと河合は嫌な顔をするだろうと沖田は思い込んでいた。そもそも深雪太夫の前、上七軒の植野の身請に関してもあからさまに渋い表情を浮かべた河合である。小言の一つや二つは覚悟していたのだが、河合の反応は沖田の予想とはだいぶ違っていた。

「はい、承知しました。年末には報奨金も入ってきましたし、年始の付け届けもかなり多かったですし・・・・・・何とかなるでしょう。交渉は局長が広島に出立されてからで宜しいのですね。では早速折屋にその旨を伝えておきます」

 にこにこと機嫌の良さそうな笑みを見せ、河合は深雪太夫の身請を二つ返事で承諾したのである。

「・・・・・・では、お任せしますね。あと、これは近藤先生にもばれないよう、秘密裏に事を進めてください」

「勿論です。任せておいてください」

 自信あり気な河合の返事に何か引っかかるものを感じる。だが、その違和感がどこから来るのか沖田自信にもよく解らない。

(締まり屋の河合さんが気前のいい返事をするから、なのかな?)

 もやもやした思いを抱えつつもその事を河合に指摘できず、沖田はその場を後にした。



 一番隊の巡察の時間が迫っていたが、沖田は先程の河合の言動に違和感を抜いきれずにいた。

(こんな違和感を抱えたまま坂本の捜索なんて、まずいですよねぇ)

 去る二十三日、伏見の寺田屋で坂本龍馬を捕縛する為の大捕物があったが、伏見奉行所は坂本龍馬逃げられてしまっている。今日はその捜索も兼ねての巡察なだけに特に集中力を要するのだが、河合に対する違和感によってその集中力が削がれてしまうのだ。
 ささくれがチクチクと痛むような嫌な違和感を感じつつ、沖田は副長室の土方の許へ再び顔を出した。

「おう、どうした総司。例の件は河合に伝えたんだろうな?」

 会津藩へ提出する書類を認めながら、土方は顔も上げずに沖田に声をかける。

「さすが土方さん、気配だけで私が判りますか。そうそう、身請の件なんですが・・・・・・」

 沖田は声を潜めながら土方の背後に胡座をかいた。

「河合さん、妙に機嫌よく二つ返事で了承してくれたんです。植野や金太夫の身請の際には散々小言を言っていた人が」

 不満の色を微かに滲ませ沖田は告げたが、土方は振り向きもせずに返事をする。

「別にいいじゃねぇか。多分年末年始の実入りの所為で機嫌が良いんだろう。将軍直々のお声がかりで長州訊問使に取り立てられたんだ。それにおもねる輩も少なくなかったし、あいつの予想以上に収入が多かったんだろう、多分?」

 さっさと巡察に行って来いとばかりに気のない返事をする土方だったが、沖田はしつこく食い下がる。

「でも、それとは何かが違うんですよ。具体的には言い表せないんですが。何か後ろ暗いことがあって、それを探られないようにする為に、こちらの無理難題をあっさり飲み込んでいるような・・・・・・」

 いつもならあっさり引き下がる沖田が、珍しく土方に訴え続ける。そのしつこさに土方は感じるものがあったのか、不意に沖田の言葉を止めた。

「ああ解った、解った。おめぇがそれほどまで言うんなら何かあるのかもしれねぇな。俺の方でもそれとなく探っておくが、まだ他の奴らには言うなよ。尤も・・・・・・」

 土方は更に声を潜める。

「もし、おめぇの勘が正しけりゃ別の方面から尻尾が出るかもしれねぇ」

「・・・・・・ですね。できれば私の勘が外れていることを願いたいものですけど」

 土方の力強い言葉にようやく納得した沖田は、冗談めかしつつ安心したように口の端で笑った。



 一月二十七日、近藤と伊東は篠原、尾形らを引き連れて再び広島へ向かって出立した。 今回は長州に対する領土十万石の削封、藩主父子の蟄居などの処分を通達する役目を担った老中・小笠原長行らに先発する形である。なお、今回は武田の代わりに篠原が入ったため、近藤と尾形、そして伊東と篠原はそれぞれ別行動を取ることが多くなるのは余談である。
 そして近藤らが大阪を出立してから五日後、土方は河合に深雪太夫の身請交渉がどこまで進んでいるか尋ねた。

「それが・・・・・・」

 土方の質問に河合が口ごもる。

「一体どうした?な何か厄介事でも持ち上がっているのか?」

 なかなか核心を言い出さない河合に対し、土方は苛立ちも顕わに言葉を促す。

「・・・・・・実は身請けをするのなら妹の御幸太夫も一緒に身請してくれ、でなければ今回の身請には応じないと」

 その瞬間、土方は素っ頓狂な声を上げた。

「何だって、妹も一緒だと!で、いくら掛かるんだ?」

 土方は河合ににじり寄りながら問い詰める。その威圧感に気圧されつつも河合はとんでもない金額を口にした。

「一人御定法の五百両ずつ、さらに支度金として一人百両、合計千二百両になります」

 先程の言い淀みが嘘のように、すらすらと口を動かす河合に、土方は目を剥く。

「はぁ?冗談も大概にしろ!まったく妓楼ってやつは人の足元を見やがって!」

 土方は子供のように頬を膨らませ剥れるが、それと同時に年末年始に新選組にもたらされた報奨金やら付け届けの計算を頭の中で行う。

「・・・・・・確か年末年始の収入だけで千両は超えているはずだ。ちょっと帳簿と千両箱を見せてみろ」

 土方は河合に帳簿を出させる。するとそこには二千両ほどの残高があった。千両箱の中身も確認するが、帳簿の額面と同じだけの金子が残っている。辛うじて支払いはできるが、姉妹二人の落籍代に支度金と合わせて千二百両はいくらなんでも多すぎる。
 いっそ自分で交渉したいくらいだが、壬生にいた頃から勘定方を任せてきた河合の顔もある。何よりも大阪は京都と違って勝手がわからず、大阪の商家に嫁いだ河合の妹やその夫に助けられている向きもある。

(まぁここ最近急激に物価も上がってきているしな。そんな中、娼妓の身請代だけ変わらねぇ、っていうのも・・・・・・?)

 その時、土方は河合の微かな表情の変化を感じ取った。口の端に笑みを浮かべているのはいつもの事だが、そのいつもの笑みとは微妙に何かが違うのだ。

(もしかしたら、総司が感じていた違和感はこれの事か?否、違和感なんてもんじゃねぇ)

 喩えるならば人を嘲笑うかのような、邪悪さを滲ませているというべきか。土方の神経を逆なでする、笑みの形に歪んだ河合の口許はどこどなく伊東甲子太郎を彷彿とさせた。

(こりゃ、本格的にこいつの周辺を洗う必要があるかもしれねぇ)

 土方は帳簿を閉じながら、邪悪な笑みの形に歪んだ河合の顔を睨みつけた。



UP DATE 2014.1.11

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第六章本編初っ端はかの有名な深雪太夫の身請話にさせていただきましたv実際は元治元年に身請されたとのことですが、まぁ調べれば調べるほど謎が多い人で・・・(^_^;)
身請けされた後一年後に亡くなり、その後で妹の御幸太夫(お孝)が近藤局長の妾になったとか、前後して身請けされたけど、お孝と近藤がデキちゃって手切れ金として200両ふんだくって別れたとか・・・(>_<)
ならばいっそ大胆な妄想を繰り広げてしまおうと拙作では普通のエピソードとは違った展開で深雪太夫の身請→河合耆三郎の切腹→谷三十郎の変死とを一つの糸で繋いでいく所存でおります。何せ『異聞』ですから♪
更にもう一つ、『深雪』と『御幸』、どちらも『みゆき』と読めるところからこちらのネタでもひとつ咬ませていこうかと( ̄ー ̄)ニヤリどんな無茶な展開になるか、宜しかったらお付き合いのほど宜しくお願いしますm(_ _)m

次回更新は1/18、河合耆三郎が金の動きに関してとある人物と密会いたします。
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