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「短編小説」
明治美味草紙

明治美味草紙 其の伍・ビスケット(藤田五郎&時尾)

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四月も終わりに近づいてきたある日、いつもきっかり時間通りに帰ってくる藤田五郎--------------以前、新選組で斉藤一と名乗っていた男が珍しく土産物を手に十分ほど遅く帰ってきた。

「お帰りなさいませ・・・・・。」

 いつも通りに出迎える時尾だったが、目は藤田が手にしているものに釘付けだ。その包みは明らかに風味堂-------------甘味屋のものであった。酒好きで辛党の藤田に一番縁のない場所と言ってもいいだろう。その包みを何故手にしているのか時尾には皆目見当が付かない。

「一体・・・・・何を頂いてきたのですか?」

 てっきり職場の上司に押しつけられたとばかり思った時尾はそう尋ねたが、藤田は頭を振った。

「ああ、これは自分で買ってきた。今度・・・・・九州に出兵することになってな。志願していた別働第三旅団に配属された。」

 藤田は手にした包みを時尾に渡しながら話を続ける。

「あの、西南の役の・・・・・西郷が謀反を起したというあれですか?」

 とうとうこの時が来たか--------------時尾の脳裏に会津の惨劇が甦り、柔和な顔が強張った。



 明治十年二月十五日に勃発した西南戦争は、九州各地で西郷隆盛率いる薩摩軍と明治政府軍との間で激しい戦闘が繰り広げられていた。特に三月一日から始まった田原坂・吉次峠では薩摩軍の白兵抜刀攻撃によって官軍はかなりの苦戦を強いられ、苦境に立たされていた。
 ここが最後の砦とばかり死にものぐるいの抵抗を見せる士族を中心とした薩摩軍側の抜刀攻撃に対し、徴兵制による農民・商人出身兵士を中心に構成された軍隊は対応出来なかったのである。

「これでは埒が開かん。あの抜刀攻撃に対抗できるのは士族だけではないのか?」

 誰が言い出したか定かではないがこうした状況下による事態を打開すべく、士族出身者が多かった警視庁の警視隊から特に剣術に秀でた者を選抜し、三月十四日に田原坂攻撃を再会した。
 最終的に横平山を占領することはできなかったが、思った以上に軽視抜刀隊は善戦し薩軍と対等に戦えることが判明したのである。明治政府はここに勝機を見いだし、直ちに抜刀隊の人員を増やすことにした。
 危険は伴うがそれなりの報奨は出るし、それ以上に薩摩藩によって辛酸を舐めることになった旧幕軍の者達--------------特に会津藩出身者がここで積年の恨みをはらさんとばかりに数多くの希望者が殺到したのである。
 この年警部補に昇格したばかりの藤田五郎もまたそんな志望者の一人であった。募集がかけられた直後、すぐさま豊後口警視徴募隊に抜刀隊参加を希望、五月に戦闘参加する事となる。



「--------------その出兵の軍事食がそれだ。ビスケットとか言う西洋菓子なんだそうだ。」

 包みを開きながら藤田は時尾に説明した。その紙包みから出てきたのは煎餅のような、平たい焼き菓子で、微かに甘い香りが漂った。

「お・・・・・菓子?」

 藤田が包みを開いたその瞬間、時尾は思わず吹き出してしまった。

「まるで子供みたい・・・・・武士の兵糧がお菓子って・・・・・。」

 兵糧と言えば干飯のような味気ないものという概念しか持っていなかった時尾は、その意外性に目を白黒させる。

「さすがに俺も驚いてな・・・・同僚が風月堂に同じ物が売られているというものだから、どんなものなのか確かめたくて買ってきた。食事の後、皆で食べるのも悪くはないだろう。」

 だが、藤田の提言は叶わなかった。去年産まれたばかりの息子・勉がビスケットに興味を示し、握りしめたまま離そうとしなかったのである。

「時尾、何かこの焼き菓子を湿らせるものはないか?このままでは喉に詰まらせる!」

 硬く焼き締められたビスケットを頬張ろうとする息子からビスケットを取り上げ、藤田は時尾に湯冷ましを持ってくるように頼んだ。



 藤田と時尾は初めて感じるその食感、そして味に何とも言えない表情を浮かべた。

「斗南や南部の煎餅に近いんでしょうか・・・・・。」

 ビスケットを口に入れながら時尾が呟く。軍事食に推薦されるだけあって水分が少なく、お茶がないとなかなか食べ進めることができないのが難点だが、味は決して悪くない。むしろ時尾の好みの味である。それは息子の勉も同様らしかったがただ一人、この味に難色を示す男がいた。

「こちらの方が少し甘いがな・・・・・どうせならしょっぱい方が酒に合うのに。」

 上戸の藤田としてはその甘さにやや不満があるらしい。

「俺は勘弁だ。」

 藤田は一つ食べたきりビスケットに手を出さなかった。

「こいつは平和なところでお前達が食べているのを見るに限る。いつ敵に襲われるか判らない場所で甘味なんて勘弁して欲しいものだ。島田じゃあるまいし・・・・・本当に長州の奴等はろくなことを考えん。」

 藤田は美味しそうにビスケットを口に運ぶ息子の顔を見ながら渋い顔で呟いた。



UP DATE 2010.04.25


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明治美味草紙も第五弾になりました。本当にこれはメモ書きみたいな話ですからねぇ(笑)。この中からひとつでももう少し長めの中編や長編に育つ話が出てくれば御の字なんですが・・・・・とりあえず『葡萄酒』はいつか別巻で中編~長編に焼き直そうかと思っておりますが、その他は書き捨てになりそうな(苦笑)。

今回のビスケット、日本では西南戦争の軍隊食(レーション、って奴ですねv)としてあんパンで有名な木村屋やこの話で出た風月堂が注文を受けたそうです。それまでも少しは販売していたらしいのですが、西南戦争以後急速に販売量を伸ばしていったとか・・・・・カレーなんかもそうですけど、もともと軍で食していた物が民間に・・・・・って結構多いですよね。昔の日本人にとって軍隊食って斬新で魅力的なものだったのでしょうかね~。あと、それを食べた旦那さんが奥さんに『軍隊でこういうものを食べて、美味しかった。』という話をしていたというのも大きいのでしょう。うちの旦那は外で食べたものを言うひとではないので。(嫁の料理の腕に諦観を持っているだけかもしれない・爆)

現在でも各国のレーション(宇宙に持っていく物を含めて)は食品業界の最先端技術を使って作られております。今でこそ珍しくないフリーズドライもそうですしね~。もし興味があるようでしたら是非レーションや宇宙食を取り扱った特集など読んでみて下さいませv


次回はサイダー、横浜悲恋の一つ『おはなさんの恋』をベースに考えておりますv

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