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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第ニ話 深雪と御幸・其の貳

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 梅の香りが濃密に漂う宵闇を、島原田圃に向かって提灯明かりが流れてゆく。そんな提灯行列の中に、隊務を終えた河合はいた。

「ますいなぁ。まさかこんなに遅くなるなんて」

 夕焼けの名残が微かに残る西の空を見つめつつ、河合は憂鬱そうに溜息を吐く。自分より先に島原の桔梗屋で待っている男達は酒癖が悪い上に短気だ。茶屋に到着したら間違いなく河合の遅刻を詰るだろう。下手をしたら手が飛ぶかもしれないのだ。商家に生まれ、暴力とは無縁だった河合にとって腕に物を言わせるこの環境はいつまでたっても馴染めないし、出来ることなら縁を切りたいのだが、自分の野望を叶えるためには致し方がない。

「はぁっ・・・・・・」

 日が暮れて急に寒くなった夜気に再び溜息を吐くと、河合はさらに足を早め、大きくなってきた島原大門へ進んでいった。



 河合が桔梗屋の近くまでやってくると、二階の奥の部屋に居るはずの先客の騒ぎ声が、入り口まではっきりと聞こえてきた。その様子からすると既に出来上がっているらしい。河合は出迎えた男衆に自らの名前を告げ、先客が待っている部屋に通してくれるよう告げる。

「へぇ、承知しました」

 島原の男衆らしく愛想よく河合を部屋に案内するが、その表情にちらりとよぎった同情の色を河合は見逃さなかった。

(確かにあれはひどすぎるよな)

 だんだんと近づいてくるがなり声に河合は首を横に振る。だが、あの男らを手懐けなければ『本命』との繋がりは途絶えてしまうのだ。河合は自分を押し殺し、無理やり笑顔を作る。そして男衆が部屋の唐紙を明けた瞬間、不自然に明るい声で中にいる酔客に非礼を詫びた。

「お待たせしました、谷さん、阿部さん。副長につかまってすっかり遅くなってしまいました!」

 河合の目の前にいたその人物、それは七番組組長・谷三十郎と伍長で砲術師範のる阿部十郎だった。河合の顔を見た瞬間、一瞬険しい表情を見せた二人だったが、土方に捉まっていたという河合の一言に、二人は急に不安げに顔を曇らせる。

「おい河合、副長につかまっていたって・・・・・・例の件、バレちゃいねぇだろうな?」

 今まで大声で騒いでいたくせに、谷は不意に小声になり河合に尋ねる。そんな谷を内心で嘲笑いながら河合は笑顔を崩さず心配するなと告げた。

「大丈夫ですよ。今日つかまったのは新たな武器調達の件についてです。会津から大砲を譲って貰うのですが、さすがにお礼の一つもしなければなりませんので」

 河合は邪悪な笑みを浮かべつつ、本題に切り込む。

「何せあれだけお忙しい副長です。娼妓の身請の際に百両、二百両くらいくすねたって気付きはしませんよ。しかも太夫二人を身請けするとあってはかなりの大金が動くと思い込んでいる筈・・・・・・帳簿にもしっかり細工をしてありますので問題ありません」

 計算高い河合の言葉に、谷も阿部も酒に掠れた声で高笑いをした。

「お前も本当に悪い奴だよな!半年前に死んだ『深雪太夫』の身請まで局長にさせるとは!」

 そんな二人に対し、河合は作り笑顔で応対する。

「何をおっしゃいます。そもそも伊東参謀の尊王攘夷思想を具現化するにあたって資金が必要だと私を強請ったのは貴方方じゃないですか。私なんて金をくすねることしか出来ない小者ですよ」

 表情を変えないよう細心の注意を払いつつ、河合は自分を卑下する振りをした。

「まぁ既に墓の中にいる『深雪太夫』に関しては、季節柄、身請け準備の途中で流行病にかかったとでも言っておけば問題ないでしょう。実際半年前に流行病で亡くなっているんですから・・・・・・問題はもうひとりのみゆき太夫――――――御幸太夫から嘘がばれる可能性です。しかし、副長と御幸太夫が顔を合わせることなんてまず無いでしょうからこの心配もする必要は皆無だと」

 ぺらぺらとこれからの計画を口にする河合に対し、谷は酒に充血した目を細めて笑う。

「河合よ。お前は本当に・・・・・・恐ろしい男だな」

 まるで河合一人が悪者のような言い方をする谷に対し、河合は少しむっとした表情を浮かべ反論した。

「貴方様がそれを言いますか?試衛館の者達がいる間は自分は頭を押さえつけられたままだと、阿部様を通じて伊東参謀に近づいておきながら」

「それはお互い様だろう」

 谷三十郎は燗酒を手酌で注ぐとぐいっ、と一飲みにする。

「新選組の勘定方如きに収まっていたくない、もっと大きな仕事をやりたいと伊東参謀におべっかを使って近づいたのはお前だろう。ま、同じ穴の狢だがな」

 谷は高笑いをしつつ、阿部に声をかける。

「おい阿部、伊東参謀の首尾はうまく行っているのか?攘夷派の志士と交渉をするとの事だったが」

 谷の質問に、こちらもかなり酒に酔っている阿部が返事をした。

「ええ、今回は近藤と別行動ですからかなり動きやすいようですよ。しかも今回の千二百両――――――実際こちらの手に入るのは七百両ですけど、それだけの資金があれば行動の幅が広がります。きっと伊東さんも喜んでくれますよ」

 阿部はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて谷に注がれた酒を口にする。まだ冷めぬ燗酒は阿倍の喉元を転がり、胃の腑に広がっていった。その熱さを感じつつ、阿部は谷と河合の顔を見比べる。

(試衛館の輩と比べると物足りないが、七番隊組長と勘定方責任者、この二人がこちらに付けばだいぶ力になるだろう)

 阿部は新たな酒を喉に流しこみつつ、伊東の再出張を労う会合を思い出していた。



 それはほんの十日前の事だった。

「ほう、近藤くんがまた娼妓を身請するとのか」

 初めて伊東派の会合に顔を見せた河合が告げた言葉に、伊東は見下した笑みを口の端に浮かべた。その笑みは近藤の女好きに対してもだが、そんな話を伊東派の宴に持ち出す河合の無粋さにも向けられたものだ。その気配を敏感に察知した河合は、その理由を口にする。

「その際、あちら側との交渉にもよりますが多少なりとも浮いた資金をこちらに回せると思うのです。まぁ、百両、二百両ほどではありますが」

 百両から二百両――――――軽くそのような大金を口にする河合に、伊東の隣にいた内海が疑わしげに眉を顰めた。

「おい、身請金をくすねてその金を回すなんて・・・・・・そんな危ない橋をわたって大丈夫なのか?」

 あからさまな疑いの言葉に、河合は笑みさえ浮かべ内情を暴露する。

「ええ、いつものことですから。毎回身請話が出るときは多少色をつけて・・・・・まぁ五十両から百両くらいですが、申請をしております。やはりいざというとき隊の資金が無いというのも不安ですから。だけど、毎回そんな事を気にするのも嫌になったんですよ」

 積もりに積もった不満をぶちまけると、河合は腹に一物を含んだような邪悪な笑みを浮かべた。

「人格的にも優れた伊東参謀なら娼妓を手当たり次第見受けするという馬鹿げた真似はしないでしょう。私はそういうお方の下で働きたいのです」

「それだけではないだろう?」

 ちらりと流し目をくれる伊東に、河合は暫く沈黙する。そして脱力したように軽い溜息を吐いた。

「・・・・・・伊東参謀には敵いませんな」

 河合は頬に笑いを張り付かせながら答えるが、その目は笑っていなかった。

「私はもっと大きな金を動かしたいのですよ。新選組の知名度があればそれも可能です。実際多くの商家が献金をするほどです。それを元手に相場で資金を増やせばもっと大きなことができるのに、近藤局長や土方副長は局中法度を盾にそれをやらせてはくれない・・・・・・歴史に名を残すには先立つ物が必要なはずです。多摩の田舎者にはそこのところがわかっていないのですよ!」

 最後は声を荒らげ、上目遣いで睨みつけるように伊東の顔をじっと見つめる。

「あなたは人の使い方をご存じの方だと思います。絶対に損は・・・・・・させません!」

「大きく出たね、河合くん」

 扇子で口許を隠しながら伊東は薄笑いを浮かべた。

「ではお手並み拝見といこうか。どちらにしても僕達が留守の間に事は済むのだろう?」

「ええ、勿論です。任せてください!」

 酒の力もあり大きく出た河合だったが、同時に伊東は冷ややかな目で自分を見つめていたことには全く気が付かなかった。



 河合による深雪太夫の身請交渉は順調に進んでいた。その順調さには土方や沖田も舌を巻いたほどだ。

「法度の上限を出すとはいえ、ずいぶんと順調ですね」

 驚愕する沖田に、土方は腕組みしつつ面白くなさそうに応える。

「これも新選組の知名度なのか、それとも近藤さんの色男ぶりのせいなのか」

「両方じゃないですか?少なくとも本命に振られるということは無いんじゃないかと・・・・・・」

 その瞬間、土方はあからさまに怒りを露わにした。

「総司、それは俺に対する嫌味か?」

 ぎろりと睨みつける土方に、沖田はケラケラと笑い出した。

「やだなぁ、それは穿ち過ぎですよ!誰も土方さんがお琴さんに振られたなんて言ってないじゃ・・・・・・」

「言っているだろうが!」

 土方が怒り心頭とばかりに沖田の首根っこを捕まえようとしたその時である。

「土方副長、大阪から早飛脚が届きました!」

 隊士の一人が息を切らせて副長室に飛び込んできた。その手にはいつもの無粋な書状とは明らかに違う、梅の透かしが入った和紙に包まれた書状が握られている。

「大阪から?判った、よこせ」

 土方は隊士から書状を受け取ると直ぐに退出させた。

「大阪って・・・・・・今、万太郎さんとその配下数人しか置いていませんよね」

 沖田は土方の手で広げられた書状を見つめながら問う。

「阿呆か、おめぇは。そもそも諜報をやっている奴が派手な早飛脚で手紙を寄越す訳無いだろうが。それに・・・・・・」

 土方は手紙に付けられた天紅を指し示しながら言葉を続けた。

「野郎が天紅を付けた手紙なんざ送ってくるわけねぇだろう、気色の悪ぃ!どうやら深雪太夫直々のご挨拶と来たらしい」

「しかし早飛脚って・・・・・・」

 沖田が言いかけた時、土方が不意に険しい表情を浮かべ、沖田に黙れと短く告げる。

「・・・・・・ちょっくら大阪まで行ってくる。おめぇは河合を見張っていろ。いや、どこか見張りのつけやすい部屋で謹慎させておいたほうが良さそうだな」

 そう言いながら土方は沖田に手紙を見せた。

「こ、これは・・・・・・!」

 型通りの挨拶とともに書かれていたこと、それは身請に際し交渉人の河合から姉・深雪太夫の死について口止めされた旨だった。自分の身請に何故姉の死が関わってくるのか全く理解できず、身請けそのものを躊躇していると書かれていたのである。

「近藤さんの相手はみゆき太夫はみゆき太夫でも『御幸太夫』の方だったらしいな。さすがに近藤さんが振られちゃあ話にならねぇから、身請を受けてくれるように交渉してくる!」

 慌てて衣紋掛けに掛けてあった紋付きを羽織る土方に、沖田は小さな声で呟く。

「特に土方さんの所為とあっちゃまずいですよね」

 土方には聞こえないよう呟いたつもりだったが、土方はそれを聞き逃さなかった。

「違う、河合の所為だ!それよりさっさと河合を謹慎させろ!」

 その瞬間、沖田の表情もきりりと引き締まる。

「承知!では土方さんが帰ってくる前に全部吐かせておきます!」

 土方の怒声とともに沖田は即座に動き出した。



UP DATE 2014.1.18

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『深雪と御幸』第二話でいきなり河合の悪事発覚です(>_<)どうやら試衛館派に見切りをつけた河合が伊東派に取り入るため、横領した金を横流ししようとしているようです。
きっと最初は支度金の百両くらいを考えていたのでしょう。しかし交渉途中で御幸太夫に姉がいて、しかも既に死んでいると知った時、河合の悪事は更に大胆になっていったようです。いくらなんでも死人の身請金までくすねようとは・・・勿論そんな悪事がばれないはずもなく、河合の口止めを疑問に思った御幸太夫からの手紙でそれが発覚しました。
(太夫にもなるくらいですから、それくらいの頭は回らないと^^;)

次回更新は1/25、河合の悪事に対し、土方がどんな処罰を下すのか・・・・・・本来だったら即刻切腹、事と次第によっては会津に申請をし、斬罪にされてもおかしくない罪を犯している河合がどんな処罰をくだされるのかお待ちくださいませv
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