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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第三話 深雪と御幸・其の参

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 濃密な梅の香が、昼なお暗い土蔵に漂ってくる。忍び寄る肌寒さの中、土蔵の中央には河合耆三郎が縄で縛られ正座させられていた。それを取り囲むように三人の組長――――――沖田、斉藤、そして谷が彼を取り囲み見下ろしている。

「河合さん、一体どういうことですか?あなた、御幸太夫に姉が死んだ事を黙っているよう口止めをしたそうですね」

 沖田が土方から預かった御幸太夫からの手紙を河合に見せつけ、問い詰める。その文面を見た瞬間、河合は表情を強張らせた。

「あ、あの、そ、それは・・・・・御幸太夫の勘違いやと・・・・・・」

 その瞬間、沖田の平手が河合の左頬に飛んだ。平手とはいえ新選組組長のもの、その勢いに河合は床に倒される。その頬はみるみるうちに腫れ上がり、赤紫色に変色してゆく。

「勘違いでこんな手紙を出すか!貴様の名前も書いてあるだろうが!一体何のために身請代を横領しようとしたのか、洗いざらい全部吐け!」

 倒れこんだ河合の胸座を掴み、怒鳴りつけたのは斉藤だった。普段無口な斉藤の脅しに、河合は涙をポロポロと零しながら許しを請い始める。

(・・・・・・ん?)

 斉藤が河合を激しく尋問している最中、沖田は谷の異変に気がついた。いつもなら率先して責問に参加する谷が後ろに下がり、沖田や斉藤の責問を見つめているのだ。その顔は心なしか強張っているように見受けられる。

「谷さん、どうしたんですか?ちょっと顔色が悪いようですが」

 沖田は御幸太夫からの手紙を懐にしまいつつ、谷に近づく。

「い、いや、そんなことは・・・・・・きっと土蔵の中にいるからだろう」

 谷はそう言って沖田に笑いかけたが、その笑顔は明らかに引きつっていた。しかも沖田が近づいた瞬間、無意識に後ろに一歩、後退っている。その様子から沖田は一つのことを確信した。

(ふぅん・・・・・・どうやら隠し事をしているのは河合さんだけじゃないようですね)

 谷に対しても疑惑を深める沖田だったが、その一方、斉藤は河合に対する責問を続けていた。

「貴様の他に加担したものは?七百百両もの横領、一人で使うにしては多すぎるだろうが!」

「い、いえ・・・・・・本当に私一人で・・・・・・実家の方で金が必要で、工面してほしいと・・・・・・」

 容赦無い斉藤の責問に、頬を赤紫色に腫れ上がらせつつも河合が必死で自分の言い分をまくしたてようとしたその時である。

「それはねぇな、河合。大阪に行ったついでにおめぇの実家に寄ったが盛況もいいところだったぜ」

 ぎぎぎ・・・・・・と軋んだ音と共に土蔵に入ってきたのは土方だった。紋付袴のその姿からすると、どうやら大阪から帰ってきて着替えもせずにこちらにやってきたらしい。

「どうだ、斉藤。河合はどこまで吐いた?」

 土蔵に響く『鬼の副長』の声はいつも以上に美しく皆の耳に吸い込まれる。だが、その美声に酔いしれるものは誰もおらず、返ってきたのは斉藤の怜悧な声だった。

「いいえ、横領しようとした事は認めましたが、共犯者に関しては口を割ろうとしません」

 芳しくない斉藤の答えに土方は微かに眉を顰めたが、想定の範囲だったらしい。特にがっかりする様子もなく腕組みをする。

「ところで土方さん、御幸太夫の身請の首尾はどうなりました?」

 沖田は懐から借りていた手紙を取り出しながら土方に近づく。

「ああ、なんとか考えなおしてくれたよ。まぁ、今回のことに気がつくくれぇ頭の良い女だ。時折抜けたところがある近藤さんが選んだにしちゃあ上出来だな」

「へぇ、土方さんが近藤先生の敵娼を褒めるなんて珍しい」

 沖田はニコニコ笑いながら土方に借りた手紙を返す振りで、素早く耳打ちした。

(谷さんの様子が変なんです。もしかしたら谷さんも・・・・・・)

 一枚噛んでいるのかも――――――と沖田が発現する前に土方は沖田の言葉をさり気なく止め、沖田の目をじっと見つめる。それは『今は余計な事をしゃべるな』という、強い命令を含んだ視線であった。その視線に沖田は頷き、唇を引き結ぶ。

「おい、河合」

 土方は河合の傍にしゃがみ込むと、まるで恋人に睦言でも囁くかのような優しい声音で尋ね始めた。

「局長や参謀もいないことだ。本来なら即刻切腹だが、今まで新選組の為に働いてくれたおめぇにゃ特別に十日間の猶予をやる。千二百両の内、あっちに行ったのは五百両だってな?残り七百両を十日のうちに返せばお咎め無し、だが・・・・・・」

 土方の甘い囁きには一撃必殺の毒がある。それは今回も例外ではなかった。

「七百両、揃えられなかったら即刻切腹だ。横領の上切腹とあっちゃあ親類縁者にも類は及ぶだろうなぁ、河合よ?」

 つまりはこの件を隊内の揉め事ではなく、公にするというのである。その言葉は単なる切腹宣告より遥かに重い。これだけの大金と慣れば間違いなく連座制が適応され、河合の家族も責任を取らされるだろう。少なくとも店が取り潰しになるくらいは覚悟をし無くてはならない。甘く、毒々しい土方の言葉に河合は恨めしそうな表情を浮かべるが、抵抗することはできない。

「さすがに十日もありゃ問題ねぇだろうが、万が一切腹となった際は――――――谷、おめぇが介錯をやれ」

 その瞬間、今度は谷の目が大きく見開かれた。唇はわなわなと震え、僅かに差し込む陽光に額の汗が光る。その汗を見つめながら、沖田は疑念を確信に変えた。

(汗なんてかく陽気じゃないのに。やっぱり谷さんはこの件に関して何か知っているのか。それとも・・・・・・谷さん自身がこの件に深く関わっているか、ってところでしょうか)

 あくまでもそれは沖田の想像だったが、同様のことを斉藤も感じているらしい。感情を露わにしない冷たい視線で谷を見つめている。それに気がついたのか、谷はようやく口を開いた。

「し、承知!と、滞り無く、つ、つ、務めさせて頂きます!」

 しゃちほこばった谷の返事に軽く頷くと、土方は改めて河合に告げる。

「解ったな、河合。どんな手を使っても構わねぇが、十日後の正午までに七百両きっちり耳を揃えて俺の眼の前に持ってこい!いいな!」

「へ、へぇ!承知しました!か、必ず七百両、耳を揃えて・・・・・・」

 自分だけならともかく、家族に累を及ぼす訳にはいかない。涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、河合は身体を折りたたみ平伏した。



「『鬼の副長』にしてはずいぶんと甘い処分ですねぇ、土方さん」

 土蔵から出た後、沖田は土方を咎めるように尋ねた。河合の実家に工面を頼むとしても往復で三日もあれば余裕だ。万が一金策をしたとしても五日もあれば確実に七百両を揃えることができるだろう。それに対して十日もの猶予を与えるとはあまりにも甘い処分ではないか――――――そんな沖田の言葉に、土方は悪戯っ子のような笑みを浮かべつつ答えた。

「ふん、おめぇだって解っているだろうが」

 土方は鼻を鳴らして沖田を一瞥する。

「・・・・・・河合の後ろにいる大きな『鼠』を断定するためですか?」

 沖田に代わり、背後を歩いていた斉藤が答えた。

「ああ、その通り。少なくともあれだけの大金、遊興で使う為の金額じゃねぇ。そもそも商人の息子の河合がそんな死に金を使うとは思えねぇ。となると・・・・・・」

「七百両で買える、それ以上価値のあるもの・・・・・・ですか」

 確かに河合だったら遊興で金を湯水のように使うより、それを元手にその金を増やすか、それ以上価値のある物を手に入れるだろう。そうなると目的は限られてくる。

「まぁな。しかし今のところは・・・・・・」

「谷さんだけです、か。判明している共犯者は」

 斉藤の指摘に土方は苦笑いを浮かべた。

「ああ、その通り・・・・・・あと何人噛んでいるのか皆目見当も付きやしねぇ。総司、斉藤、悪いがおめぇ達でそれとなく探ってくれ。組長格の谷や勘定方責任者の河合が噛んでいるとなると迂闊に組長にも助けは求められねぇ」

 土方のその一言に二人は頷く。沖田は近藤の一番弟子であり、斉藤は会津からの密偵という名のお目付け役だ。少なくとも安心してこの件を任せられるのはこの二人だけだろう。後は少々口が軽すぎたり試衛館派では無かったりで安心できない。

「ま、長くても七日、早けりゃ三日しか猶予はねぇ。その間に怪しい奴らを片っ端から洗い出せ」

 土方の極秘命令に、二人は黙ったまま頷いた。



 切腹の宣告はしたものの、土方には河合を殺すつもりは毛頭なかった。むしろ生かしたまま『鼠』を探り出し、一網打尽にしたいと思っていたのだ。だが、土方の思惑とは裏腹に河合の実家からは五日を過ぎても何ら連絡は無かった。

「一体どういうことだ?あいつの親父は我が子の命が惜しくねぇのか?」

 煙管の吸口を噛みながら、土方は苛立たしげに呟く。

「確かにおかしいですよね・・・・・・あ、それと今のところ谷さん以外特別な行動をしている人物はいません」

 沖田の報告に、とうとう土方の堪忍袋の緒が切れる。

「息を潜めやがって・・・・・・絶対に見つけ出してやる!」

「まぁまぁ。しかしそうなると切腹の際の行動を観察して『仲間』を見つけ出しませんとね」

 沖田の言葉に土方は眉を顰めた。

「もう、それしか方法はねぇんだろうな。となると、金は届かない方がいいって事か」

 あまりにも物騒な土方の発言に血相を変えたのは沖田である。

「やめてくださいよ、土方さん。あまりにも物騒すぎるし、七百両は惜しいでしょう」

 七百両といえばひと月十両かかる平隊士七十人分の経費だ。さすがにそれを棒に振るのは新選組としても痛い。切実な沖田の指摘に土方も頷かざるを得なかった。

「それもそうだな・・・・・・全くうまく行かねぇもんだよ」

 苦笑いを浮かべた土方だったが、土方の言葉が最悪の形で現実のものとなる事を、この時の二人はまだ知らなかった。



UP DATE 2014.1.25

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河合への責問の中、谷三十郎が迂闊にも尻尾を出してしまいました(^_^;)まぁ、いつ河合の口から『共犯者』の名前が飛び出してもおかしくありませんからねぇ・・・そしてそれにあっさり気がついてしまうのが新選組の幹部です。総司は勿論斉藤さんも気がついたようで・・・さらにそれを総司から聞かされた歳のあまい囁き・・・この人が男に甘言を言う時はろくなもんじゃないのです(-_-;)
『鼠を見つけ出すため』とは言いつつ十日の猶予を貰った河合、果たして無事七百両を揃えることができるのでしょうか?そして河合の口から共犯者の名前が飛び出すのか否か・・・次回2/1の更新をお待ちくださいませ(*^_^*)
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