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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第五話 谷三十郎の変死・其の壹

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 梅の香が色濃く漂う月明かりの下、沖田が自分の休息所に帰宅したのは宵五ツであった。精進落としに顔は出したが、他の幹部たちとともに島原へ繰り出す気にもなれず、一人屯所を後にしたのだ。ただ今日は休みではないので小夜は休息所に来ていないはずである。人肌に恋しさを感じないといえば嘘になるが、その一方こんなやさぐれた状態の自分の姿など小夜に見せたく無いという思いもある。

(頭を冷やすには一人寝も悪くないかもしれない・・・・・・)

 そんな強がりを心の中で反芻しながら休息所までやってきた沖田だが、そこでは思わぬことが起こっていた。

「あれ、何で灯りが・・・・・・?」

 本来灯っているはずのない灯り、それが休息所の中から漏れているのだ。しかも動きがないところを見ると賄所の小者が手にしている提灯や手燭のたぐいの灯りでないことは一目瞭然である。もしかしたら――――――嬉しさに顔を輝かせ、沖田は慌てて休息所へ走りより戸を力いっぱい開く。その瞬間、玄関の隅に揃えられている女物の草履が沖田の目に飛び込んできたのだ。

「小夜?来ているんですか?」

 嬉しさに弾んでしまう声を抑えつつ、沖田は部屋の奥に声をかけ草履を脱ぎ捨てる。そして向かって右側の襖を少々乱暴に開けた。

「あ、お帰りなさい、総司はん。今日は早う帰ってこれたんですね」

 そこには行灯の下、縫い物をしている小夜がいた。手にしているものの大きさからすると沖田の長着だろうか。独り者には許されないささやかな贅沢に少しのぼせつつ、沖田は後ろ手に襖を閉め、小夜に近づく。

「一体どうしたんですか?今日は来ないはずじゃ・・・・・・・」

 すると小夜は縫い物の手を止め、沖田の目をじっと見つめながら囁いた。

「今日、隊士はんのお仕置きがある言うてはりましたやろ?もしかして気疲れしてはるんやないかって」

 屯所ではそんな様子を一切見せることのない沖田だが、さすがに人を斬った後や隊士の切腹の日の後はいつもより少し疲れた様子を露わにする。さらに小夜としては山南の介錯後の沖田の焦燥振りを知っている。それだけに放って置けなかったと笑った。

「今、お茶を出しますえ。でもその前に総司はん、脱ぎ散らかすのやめておくれやす」

 小夜は手にしていた長着を置いて立ち上がると、沖田が脱ぎ散らかした羽織や袴をかき集め始める。普段はきちんと脱いだものを畳む沖田だが、小夜がいる時だけはわざと脱いだものを散らかすようになっていた。明らかに子供じみた甘えなのだが、小言を言いつつ小夜もそれに付き合ってくれるのが嬉しくてやめられない。そんな沖田だが、とある事を思い出して散らかった着物をかき集める小夜に告げた。

「ああ、小夜。今日はそれを水につけておいてください。返り血を浴びてしまったので。もし落ちないようでしたら雑巾にでもしちゃってください、さすがに古着屋には下ろせませんし」

 沖田の言葉に小夜は目を丸くする。

「珍しい。総司はんでもそんなことがあるんですね?」

 怪我人が多数出るような乱闘でも沖田が血で着物を汚すことは滅多にない。というか、小夜が見たのは池田屋の時位だろう。怪訝そうな表情を浮かべる小夜に対し、沖田は苦笑いを浮かべるる頭を掻く。

「う~ん、本当は私が介錯をするはずじゃなかったんでねぇ。とばっちり、かなぁ」

 少し不服そうに唇を尖らせつつ、沖田は自分が脱ぎ散らかした着物を抱える小夜を背後から抱きしめた。

「ちょっと大きな事件になりそうな懸案がありましてね・・・・・・土方さんが共犯者と思われる男に河合さんの介錯をさせたんですよ。そうしたら介錯を失敗しちゃって」

 小夜の首筋に顔を埋めながら沖田は話し続ける。その姿は母親に甘える五歳の子供さながらだ。ただ、幼子と決定的に違うのはその後の行動である。

「それを私が代わりに解釈したんですけど、さすがに動く相手だと返り血まで気にしていられなくて・・・・・・」

 小夜の細いうなじに沖田の唇が這い、大きな手が小夜の腰を撫で回す。そのくすぐったさに小夜は小さく身を捩ったが、沖田を拒絶するものでは無かった。気を良くした沖田は唇を耳朶に這わせつつ、甘ったれた声で小夜に囁く。

「ねぇ、今日は泊まっていけるんでしょう?だったら夕餉が終わったら・・・・・・・」

 その時である、不意にドンドンと戸を叩く音が響き渡ったのだ。こんな時間に声もかけずひたすら戸を叩く男はただ一人だけである。少なくとも何か急な事件があった時、休息所に来る平隊士達は戸を叩く前に沖田を呼ぶ。否、今玄関の前にいる人物と区別するために沖田が敢えて部下にそう頼み込んでいるのだ。

「全く・・・・・・島原だろうと祇園だろうと土方さんを待ち焦がれている娼妓や芸妓なんていくらでも居るじゃないですか!それなのに何でうちに来ますかねぇ!」

 折角訪れたと思った小夜との甘い夜を邪魔され、沖田はふくれっ面で小夜から離れた。



 沖田が不機嫌もあらわに戸を開けると、貧乏徳利を手にした土方がまるで我が家のようにふらりと入り込んできた。

「一体どうしたんですか、土方さん」

 あまりの我が物顔ぶりに呆気に取られつつも、沖田は来訪の理由を土方に尋ねる。

「どうもしねぇさ。ただの精進落としだ」

 そう返事をしながらながら勝手知ったる沖田の休息所、ずかずかと奥まで入り込み、小夜が裁縫箱を片付けている座敷まで入り込んだ。

「おう、お小夜さん。ちょいと総司を借りるぜ。なぁに、一応夜四ツまでにゃここを出るつもりだから安心してくれ」

 暗に沖田を冷やかしているその一言に沖田の顔は耳まで真っ赤になる。一方小夜はそんな事をおくびにも出さず、土方に対しにっこりと微笑む。

「お気になさらないでください。今日はうちも勝手に押しかけてきましたさかい」

 仮にも沖田の上司に対して女の我儘を露わにするような小夜ではない。嫌な顔ひとつせず小夜は茶を入れに部屋を下がった。それがまた面白くなくて、沖田はあからさまに頬を膨らます。

「土方さん・・・・・・確かに土方さんは黒谷に行っていて屯所での精進落としには参加できませんでしたけど、どこの花街に行ったって馴染みはいるでしょう?そっちで遊んでくればいいでしょうに」

 これからあったはずの甘い夜を邪魔され、あからさまに不機嫌を露わにする対し土方は分、と鼻を鳴らしてあぐらをかいた。

「遊ぶだけならな。だけど井関屋の酒を気兼ねなく飲むにはここが一番なんだよ」

「うちは居酒屋でも立場茶屋でも土方さんの別宅でもないんですよ?まったくやってられませんよ」

 沖田が土方の行動をぼやいたまさにその時、小夜が酒の肴――――――本来沖田の夕飯になる惣菜が土方の前に出した。それに気が付き、沖田は少し恨めしそうな表情を浮かべる。

「土方さん、それ私の夕飯・・・・・・」

「だったら賄いまでひとっ走り行っておめぇの夕飯と酒の肴になりそうなものを持ってこさせろ。だが、俺がいることは言うなよ。おめぇの女が来たからって事にしておいてくれ」

 意味深な土方のその一言に沖田は意味深に目を細める。

「賄方にも裏切り者が居るかも、ってことですか?」

「もしかしたらな。そもそもおかしいと思わねぇか?豚を余裕で五、六頭も育てられるほどの残飯が出るなんて・・・・・・俺が江戸から隊士を連れてきてから半年以上、いい加減作る量も落ち着くだろう。普通だったらもう少し無駄を無くすはずなのに」

「確かに日々の食料もうちくらいの大所帯、しかも毎日となれば扱う金額も大きくなりますしねぇ」

 沖田も腕組みしつつ頷いた。

「承知しました。取り敢えず様子見がてらひとっ走り行ってきます。で、そのことについてはまた後ほど」

 そう言い残すと、沖田は着流しのまま外に出て行った。沖田の足音が遠ざかるのを確認すると、土方は土間に居る小夜に声をかける。

「お小夜さん、すまねぇな。せっかくの水入らずのところを」

「いいえ、お気になさらんといてください」

 小夜は盆を手に土間から上がりつつ答えた。盆の上には先程土方預かった酒で作ったぬる燗の銚子が置かれている。

「うちは見ることさえ許されない夢の中にいさせてもろうているんです。これくらい当たり前どす」

 本来なら許されぬ身分違いの恋を黙認してもらっている――――――無邪気に言う小夜の言葉に、土方の胸は小さな痛みを覚えた。



 土方が沖田の休息所に足を運んでいた頃、谷三十郎は一人祇園で酒を煽っていた。屯所での精進落としの後、阿部らに誘われたがそれを断り、ひとりこの茶屋までやってきたのである。空の銚子は二十本以上になり、部屋には饐えた酒の匂いが充満していたが、谷は殆ど酔っていなかった。否、酔えないと言った方が正しいだろうか。

「畜生・・・・・・畜生っ・・・・・・畜生うっ!!」

 イライラとし、時に大声でがなりたてる谷に娼妓達も恐れおののき近寄ろうとしない。そんな女達には目もくれず、谷は全てを忘れるために手酌でひたすら酒を煽る。

(あれじゃあ絶対にばれている・・・・・・今度は、俺の番だ・・・・・・俺の!)

 昼間の河合の苦悶の表情がまざまざと思い出される。あれは自分が介錯に失敗してしまったからだが、あのように苦しみもがき死んでゆくのかもしれないと思うと、酒でも飲まずにはいられない。否、今は酒でさえ谷の救いにはなっていないのだ。それでも酒にすがることしか今の谷には思い浮かばなかった。

「酒だ!酒を持ってこい!」

 酒色に溺れればこの恐怖を忘れることができるかもしれない――――――空の銚子を逆さにしつつ、谷三十郎は言い知れる恐怖に苛まれ続けた。



UP DATE 2014.2.8

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河合耆三郎の切腹後、精進落としをするのは良いのですが、新婚さんの邪魔を毎回する副長って(^_^;)まぁ『夏虫』は全年齢対象なので『お目付け』ということで(^_^;)真面目な話、屯所で出来ないような話は沖田の休息所ですることにしている副長です。やはり屯所ではどこに諜報が居るか判りませんし、花街の女もイマイチ・・・・・となると必然的にそうならざるをえないでしょう。沖田としては不本意極まりないのですが、リア充だからいいでしょう(おいっ)

一方谷三十郎の方は恐怖を忘れるために飲み散らかしておりますが、全く効果は無いようで・・・・・・これからどんな風に谷さんが追い詰められていくのか宜しかったらお付き合いくださいませ( ̄ー ̄)ニヤリ
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