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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第六話 谷三十郎の変死・其の貳

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「なるほど・・・・・・河合君に引き続き小川君も処断されたんだね。まぁ、半分は自業自得だろうけども」

 春の日差しが差し込む旅籠の部屋は少し油断をすれば微睡みを覚えそうなほど心地よい。そんな柔らかなぬくもりを彷彿とさせる蕩けるような声で伊東甲子太郎は呟くと、阿部十郎からの報告を篠原に預けた。ひと二人が死んだとの報告にも眉一つ動かさないところは豪胆なのか冷酷なのか篠原には図りかねるが、伊東派にとって喉から手が出るほど欲しかった人物、とは言いがたい部分もあるのでこの反応は当然とも思われる。そんな篠原の腹の中を察知したのか、伊東は微笑みながら口を開く。

「案の定、と言ったところだろうね。そもそも志ではなく私利私欲でこちら側に寝返ろうとしたその心根が気に食わなかったんだ。尊皇攘夷の志を持ってさえいれば僕は小者だって喜んで受け入れるよ」

「・・・・・・その割には勘定方の河合に対してやけに愛想が良かったように記憶しますが」

 嫌味を含ませつつ篠原が伊東に尋ねる。そんな篠原の嫌味にも全く動じるところを見せず、伊東は歌うように機嫌よく答えた。

「勘定方が味方に付くのは決して悪いことじゃない。現に今日の会談だってどれほどの心づけを必要としたか・・・・・・」

 伊東は扇子で口許を隠しながら、篠原に流し目をくれる。

「小笠原、柳川、唐津・・・・・・身分では軽んじながら、金を積めば尻尾を振り、話を聞く。そこまで持って行くにはやはり先立つものがないとね。だけど僕らが自由にできる隊費には限度がある。もう少しうまくやってくれていれば、もっと会談を多く重ねることができたのに」

 扇子を下ろしたその口許は、少し不満げに歪んでいた。それを見て篠原もつられて苦笑いを浮かべる。

「仕方ありません。そこは地道にやっていきましょう」

 篠原らしくない諦観の言葉に、伊東は思わず吹き出した。

「短気なお前らしくないね、篠原」

「伊東さんに言われたくはありません。さ、そろそろ茶屋に出向かないとあちらさんがしびれを切らしますよ、伊東さん」

 今日も唐津藩の要人との会談が控えている。それに遅刻するわけにも行かない。いそいそと準備をする二人の頭の中から既に二人の新選組隊士の死の報告は消え去っていた。



 再び不調に終わってしまった広島出張から近藤が帰ってきたのは、三月も半ば近くなっていた十二日だった。隊士達の熱烈な歓迎に近藤は照れくさそうに頭を掻きつつ、土方と友に局長室に入る。

「歳、俺の留守中変わったことは?河合くんの切腹と小川くんの件以外で」

 早速旅装を解きながら、近藤は土方に留守中のことを尋ねた。その性急さに苦笑いを浮かべつつ、土方は近況の報告を始める。

「特に変わったことはないかな。長州や土佐の浪士どもがちょこまかと動き出している事以外は」

 土方の返事に近藤は口を真一文字に結んで頷く。幕府と長州の交渉が決裂し、再びの長州討伐という気運も高まりつつある。そんな中、尊王攘夷派の志士たちが動き出すのは当然の成り行きだろう。むしろ近藤が想像していたよりも動きが地味である分、水面下での動きが活発になってきているように近藤には思えた。

「相変わらずだな。でも何事も無くて良かったよ」

「あ、そうそう近藤さん。ちょいと話がある」

 土方は今までと打って変わりにやりと笑うと、近藤の耳許に口を近づける。土方のその仕草に一瞬怪訝そうな表情を浮かべた近藤だが、次の瞬間、何故土方が内緒話のように耳に口をつけてきたのか理解した。

「御幸太夫を身請しておいた。どうやら本当は『おこう』というらしいけどよ」

 その瞬間、近藤の顔がゆでダコのように真っ赤になる。

「お、おい歳・・・・・・!」

 大阪新地で『深雪太夫』が身請けされたという話を小耳に挟んでいたが、まさか土方が自分のために身請話を進めていてくれていたとは思いもしなかった。近藤は真っ赤な顔のまましどろもどろになる。

「広島出張で頑張ったんだからそれくらいの褒美がなけりゃやっていられないだろう」

「・・・・・・結果は出せなかったけどな」

 広島出張――――――その言葉は今の近藤にとって一番の冷水かもしれない。愛しい人の身請に浮かれていた心が一気に覚め、新撰組局長の顔に戻った。

「別に近藤さんが悩むことじゃねぇだろう、それは。誰が行ったとしても結果は同じだったろうさ」

 土方は冷静になった近藤を促しつつ、自分も近藤の前に座る。

「間違いなく長州討伐はもう一度あるだろう。その時俺達が参加できるか否かは解らねぇが・・・・・・もし参加できたとしたら、心残りは少ねぇ方がいいだろう?」

「・・・・・・歳、恩に着る」

 土方の心遣いが嬉しくて、近藤は思わず涙ぐみ、心の底から礼を述べる。すると今度は土方のほうがゆでダコのように耳まで真っ赤になる。

「こ、これぐらいどうってことねぇだろう。俺がやらなくても近藤さんが自分で身請けしていたかもしれねぇしよ」

 礼を繰り返す近藤に対し、土方はまるで子供のような、少しはにかんだ笑みを浮かべたのは余談である。



 近藤に遅れること半月あまり、伊東甲子太郎及び篠原泰之進が屯所に帰還したのは三月も末のことだった。すっかり桜も散り、葉桜からこぼれ落ちる木漏れ日が夏を予感させる強さを見せる。

「だいぶ調査に念を入れられたようで・・・・・・大阪でどなたかと会談でもなされましたかな?」

 帰還した伊東らに対し、土方はさり気なく嫌味を言い放つ。

「大阪に三日も滞在なさるとは・・・・・・よほどこちらへ脚を向けるのが億劫だったのでしょう」

 だが、この程度の嫌味に動じる伊東では勿論無い。むしろ華が咲くような華麗な笑みを浮かべつつ土方に対応する。

「そんなことはないよ、土方くん。一日も早くこちらに戻りたくて仕方なかったというのに。実は大阪に昔馴染みが来ていてね、僕の広島出張が終わったら会おうって前々から約束していたんだ。ただなかなか日にちが合わなくてこちらが三日も待たされてしまったけどね」

 勿論昔なじみというのは嘘で、やはり大阪でもつてを頼って会談にこぎつけた藩の要人たちと会談を行っていたのである。だが、そこは簡単に尻尾を掴ませないのが伊東を伊東たらしめんとしているところである。
 卒のない答えに表情ひとつ変えない伊東に、土方は不満気な表情を見せる。だがこんなところで子供のように突っかかっても仕方がない。あらゆる思いを飲み込んで土方は伊東田を迎え入れた。



 重たい綿入れから軽やかな袷に着るものが変わった日も、谷三十郎は相変わらず茶屋に入り浸り酒を煽っていた。

「畜生!どいつもこいつも・・・・・・俺だって好きでこんな立場に甘んじてるんじゃねぇ!

 くだを巻いて怒鳴り散らす谷を、年増の芸妓が宥めすかす。谷の酒乱振りに皆呆れ、相手をしてくれるのは既にこの芸妓しかいない。そんな芸妓に空になった盃を押し出し、酒を注げと無言の圧力を掛ける。

「あの馬鹿のせいでなんでこんなに苦しまなきゃならねぇんだ!」

 酒を注がれながらも谷の愚痴は収まらない。伊東が帰ってきた事により、谷三十郎はさらに追い詰められていた。小川というもう一人の共犯者もあっさり見つかり処断されてしまっており、伊東派への子が入りを画策していたのは既に谷三十郎だけになってしまっている。その事を忘れたくて酒色に溺れようとするが、飲んでも飲んでも酔うことが出来ないのだ。
 谷の酒の量はますます増えてゆき、時には隊の仕事にまで影響を及ぼし始めている。近藤や土方には休暇という名の脱隊勧告を受けていた。そして伊東が帰ってきた時、最後のよすがと伊東の休息所までお仕掛けていったがすげなく面会を断られてしまった。それは自分は伊東派からも不必要とみなされたことに他ならない。

「畜生、こんな事ならあの馬鹿の誘いに乗るんじゃなかった」

 谷を誘った阿部もここ最近疎遠になっている。重圧と孤独に耐えながら、酒に逃げる日が続くのだろうか――――――谷はふらりと立ち上がる。

「谷センセ、お帰りどすか?」

 酌をしていた芸妓が小首を傾げながら谷に尋ねる。

「ああ、ちょいと八坂さんまで行って頭を冷やしてくるよ。お題はいつもどおり新選組につけておいてくれ」

 その程度の嫌がらせしかできない自分が情けなくもあるが、これが現実なのだ。ならば、少しでも爪を立ててやろうと谷は小さな悪あがきをする。

「承知しました。お気をつけてお帰りやす。今日はぎょうさん飲んではりますから」

 心配する芸妓の言葉に見送られ、谷はおぼつかない足取りで祇園の茶屋を後にした。


 闇の中、その後をつけてくるものが居るとも知らずに――――――。



UP DATE 2014.2.15

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昨日の雪で鼻水ぐずぐずものの風邪を引いてしまい、いつもよりびみょ~に短めの『夏虫』です。てかこの場面、書きようがない・・・(^_^;)

広島出張組が帰還して、谷三十郎の立場はますます悪くなってきております。試衛館派は勿論、伊東派からも邪険にされているようで・・・これでは酒に溺れたくもなりますよね。
いっそ潔くやめてしまうことができればこれほど苦しい目にあわずに済むのでしょうが、一度手にした権力を手放す事も彼にとって難しいようで・・・本当に実力がある人間ならば潔く辞めちゃうのでしょうか、悲しいかな谷三十郎は権力にすがりつくことしか出来ないようです。

さて、酔いを覚ますために茶屋を出た谷三十郎ですが、どうやらその後をつけている者がいるらしいようで・・・・・・次回をお楽しみくださいませ♪
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