FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第九話 第二次長州討伐と将軍崩御・其の壹

 ←烏のがらくた箱~その二百五・水戸大洗旅行記 →砂漠の星の物語~ゲノム精査1
 近藤が広島から帰ってきた頃から幕府と長州藩の水面下の攻防はさらに激しさを増していた。というよりは近藤達の報告を元に幕府が行動を始めた、と言ったほうが正しいかもしれない。新選組とは直接関係しないが、近藤帰還直後から長州討伐に至るまでのおおまかな流れは以下のようになる。



 谷三十郎が八坂神社の前で亡くなる少し前の三月二十六日、老中・小笠原長行は広島藩を通じて四月十五日までに藩主親子と孫の興丸、三支藩藩主・吉川経幹、そして二家老を出頭させるように命令を出し、長州藩側の応接役・宍戸備後助には帰国して幕命を伝えるよう告げた。
 小笠原の命を受けた宍戸は山口政庁へ急使を送り、自らは四月五日に広島を出立、六日に高森に入り同地で留まり事前の打ち合わせ通り出番を待つことになる。

 だが、四月十五日までに、と命じられた幕命はなかなか実行されなかった。五月一日、国泰寺において小笠原は改めて四家名の名代に対して幕命を伝えたが、宍戸は病気として旅館から出なかった。ここへ来て幕府は末家名代をして宗家名代を兼ねさせて長州藩へも幕命を伝えることにしたのである。

 五月三日、幕府は四家名の名代に対しては速やかに帰国して主人へ伝え、二十日までに請書を出すように命令を下す。その一方、広島へ滞在するように命じられた宍戸と小田村素太郎は五月八日に拘束され広島藩に預けられた。
 請書の提出は五月二十九日を期限としたが、この日までに命令に従わなければ六月五日を以て諸方面より進撃すると幕府は一方的に告げた。事実上の宣戦布告と言っていいだろう。

 勿論長州側がこの命令に従う筈もなく、六月七日に幕府艦隊の周防大島への砲撃が始まり、十三日には芸州口・小瀬川口、十六日には石州口、十七日には小倉口でそれぞれ戦闘が開始される。



 長州討伐がとうとう始まった。新選組にその一報がもたらされたのは会津藩を通じてではなく、未だ広島に潜伏させている監察方からの報告によってだった。

「とうとう始まったみたいだな。いや、むしろ遅いくらいだったかもしれない」

 山崎からの報告書を読みながら近藤が渋面を作った。

「結局今回も我々は参加することが出来なかったか・・・・・・幕府軍は大丈夫だろうか」

 幕府軍や周辺藩の士気の低下ぶりを目の当たりにしてきた近藤は弱々しい声で呟く。明らかに落胆している近藤の様子に、土方も一瞬言葉を詰まらせる程だ。だが、ここで土方まで引きずられてしまったら元も子もない。土方はわざと明るい声音で近藤に語りかけた。

「そう落ち込むなって、近藤さん・・・・・・俺達が京にへばりついている、って事ぁ万が一の時の京の護り、って思っておけば良いじゃねぇか。勿論そんなことはねぇだろうけど、長州から一気に京都に攻められた時には誰かが御所を守らなけりゃならねぇし」

 だが、その言葉が気休めであることは近藤も、そして口にした土方も知っていた。近藤は苦笑を浮かべつつぽつり、と呟く。

「もしかしたら・・・・・・俺が長州尋問使に選ばれなければ新選組は今回の討伐に参加できたかもしれないな」

「おい、何をいきなり・・・・・・!」

 弱音とも取れる近藤の言葉に土方は気色ばむが、近藤は力のない笑みを浮かべつつホンの少しだけ声を潜めた。

「歳。幕府目付の志賀又四郎、という男を知っているか?」

「まぁ・・・・・・一応顔だけは」

 その男とは一度だけ大阪城で顔を合わせたことがある。その時は挨拶程度しか交わしていないが、好意的とはお世辞にも言えない蔑みの視線を投げかけられたのだけは覚えていた。だが、それは視線だけではないと近藤は続ける。

「どうも新選組を、というか俺個人を快く思っていないらしくてな。事あるごとに突っかかってくるんだ」

 ぽつり、と土方にそう告げると近藤は大きな溜息を吐いた。そんな近藤に対し土方も気になっていた事を告げる。

「確かに大樹公からお声がかりがあった後、妬む奴らは確かに多くなっている気がする。いちいち気にしていたらやってらんねぇ、って無視を決め込んでいたが・・・・・・ここへ来てちょいと厄介な事になっているのかもしれない」

 近藤の広島行きまでは新選組に追い風が吹いていたのは確かである。それこそ長州討伐にも参加させてもらえるのではないかと土方も本気で思ったくらいだ。だが、二度の広島遠征で長州訊問使が長州側の説得に失敗したのを機に、新選組に対する風向きがやや変わりつつあるように思える。尤も結成当時に比べたら恵まれすぎるほどに恵まれてはいるが・・・・・・。

「ま、幕臣共が俺達の事を快く思っていないことなんざ端から判りきっていることだけどな。そうしょげるなよ、近藤さん。これからも俺達の名を上げる機会はいくらでもあるさ。」

 ただそれがいつになるかは判らないが――――――責任を感じて肩を落とす近藤を、土方はひたすら慰めるしかなかった。



 長州討伐に参加出来なかったと嘆く者がいる一方、表情にこそ出さないが洛中待機を喜んだ幹部も少なくなかった。特に所帯を持っている原田や永倉、そして沖田などは時折目配せをして安堵の表情を浮かべるという不届きさである。勿論土方にばれるようなへまはしないし、日常の隊務も卒なくこなすのは前提だ。そんな仕事を終えた沖田は、自らの休息所で小夜を相手に晩酌をしていた。

「本当にほっとしますよ。こうやって小夜を相手に晩酌ができるなんて・・・・・・一時は長州出張を覚悟しましたからねぇ」

 小夜にも小さめの猪口をすすめつつ、沖田は上機嫌に笑う。非番とはいえ、いつ捕物があるか解らない状態で沖田がここまで飲むのは珍しいし、小夜にまで半ば強引に晩酌に付き合わせるのも稀である。怪訝そうに小首を傾げる小夜に沖田はその理由を告げた。

「なんかねぇ・・・・・・文字通りお目付けに目をつけられちゃったみたいで、今回は京都でお留守番なんですよ。小夜の顔を見れるのは嬉しいんですけど、近藤先生がしょげちゃって」

 何ともいえない複雑な笑みを浮かべながら沖田は盃を空けてゆく。山崎からの報告を土方の口から知らされたのはつい二刻程前である。近藤には申し訳ないと思うが、その凄まじい戦闘振りを想像するにつけ、このささやかな幸せをありがたく思う。だが小夜は少々違い捉え方をしていた。

「・・・・・・総司はん、ほんま大丈夫なんどすか?」

 酒のせいか妙に浮かれている沖田とは対照的に小夜は心配げに沖田の顔を覗き込んだ。盃を空ける速度もいつもより早い気がするのは、近藤の事以外にも何か問題があるからではないのだろうか。また、小夜自身も街中であまり芳しくない噂を聞いている。沖田の盃に酒を注ぎつつ、小夜は自らが聞いたことを口にした。

「広島での説得に近藤局長が失敗しはったという噂がうちらの村にまで届いてます。街中やったらもっと悪意のある噂が流れてはるかと。それに・・・・・・」

 ここまで喋りながらも、小夜が言い難そうに口籠る。それに気がついた沖田は酒を飲む手を止めて小夜の顔を覗きこんだ。

「どうしたんですか?そんなに言いにくいことを聞いてしまったんですか?」

 かわた村や街中での新選組の噂や気になった事など、小夜は私情を挟まず良い噂も悪い噂も冷静に沖田に語ってくれる。それは監察とは又違った視点での情報であり、沖田は重宝していた。そんな小夜が言いづらそうに口籠る理由が解らない。沖田は詰問口調にならぬよう、できるだけ穏やかに小夜に語りかける。

「実は・・・・・・その噂を流しているのが、幕府らしいんどす」

 迷った挙句小夜は口を開いたが、沖田は別段驚くような素振りも見せず、むしろへらへらと笑うばかりだった。

「総司はん?」

 あまりにも不謹慎な沖田の態度に小夜は柳眉を逆立てるが、沖田は頭を掻きながら相変わらず笑い続けた。そしてひとしきり笑った後で小夜に詫びる。

「ああ、すみません。でもね、やっぱりな~って思って」

 あまりにもあっさりと沖田が認めてしまったことに小夜は目を丸くした。

「やっぱり・・・・・・って、近藤局長は何か恨まれてはるんですか?」

「そりゃあ恨まれますよ、むしろ恨んだり妬んだりしない人を探すほうが難しいかもしれませんね」

 沖田は小夜に注いでもらった酒をくいっ、と飲み干すとおかわりとばかりに小夜に盃を差し出した。そして注がれた酒で唇を湿らせた後、今までとは打って変わって真剣な表情で話し始めた。

「元々浪士組は無宿者やあぶれた浪士の寄せ集めですよ。そんな人間が池田屋事変で武功を立て、大樹公のお声をかけていただいた上に長州訊問使に抜擢されたんです。そりゃ幕臣は面白く無いでしょうね 」

 その輝かしい経歴を妬むものは数知れない。そこへ来て今回の訊問による説得の失敗である。ここぞとばかりに新選組を攻め立てる者も少なくないのだ。

「そんな中で戦場に放り出されても見殺しにされるのが関の山でしょう。私としては今の時点で近藤先生のお命に関わるような戦場に行ってほしくないんです」

 沖田は空になった盃を見つめながら呟く。

「・・・・・・京都は京都で厄介ではあるんですけど。ま、どちらにしても大砲の使い方さえおぼつかない我々が戦場に出張っても足手まといになるのは目に見えてますけどね。あ、そうか!」

 沖田は何かを思い出したのか、気まずい表情で口許を手で隠した。

「何か、問題でも?」

「ええ、大有りです。土方さんのことだから明日から大砲鍛錬の時間を増やすなんて言い出しかねない・・・・・・苦手なんですよねぇ、砲術って。だって鍛錬の時、そろばんでいちいち弾道を計算してから撃たなきゃならないんですよ。実際の戦場じゃそんな事しないのに・・・・・・」

 しかもその弾道計算に幹部は立ち会わねばならないとぼやく沖田に、小夜は思わず笑い出した。



 長州を舞台に繰り広げられている戦の緊迫感は多少はあったかもしれない。だが所詮戦場から離れた京都でのこと、緊張感を持ち続けろというのは酷だろう。だが、そんな日常の中、長州近辺の戦闘はますます激化し、幕府崩壊の足音が徐々に大きくなり始めていた。




UP DATE 2014.3.8

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





前回の話から一転、今回から4話は幕府というか長州討伐&将軍崩御がメインとなります。新選組本体からは少し話が離れてしまうのですが、やはりこの二つは幕府崩壊の直接的な原因でもありますし、どうしても触れておかないとならない事件ですし(流し読みでも大丈夫だとは思いますが)・・・・・・ちなみに長州討伐関連はウィキ先生を参考にしております(^_^;)

今回の討伐にもお声がかりの無かった新選組、さらに二度の説得工作失敗で近藤に吹いていた追い風はやや向かい風になろうとしております。これが再びの追い風になるのは三条札差事件を待たないと行けませんかねぇ(´・ω・`)
そんな師匠への向かい風さえも『小夜の近くに居られる』と堪能してしまうリア充沖田、この後どんなしっぺ返しが来るのか・・・それを書くのは年末くらいになるのかなぁ。平助との三角関係もそのころに顕在化する予定ですがまだまだ先は長いです(^_^;)

次回更新予定は3/15、激戦繰り広げられる討伐の様子&それを京都で聞く新選組を取り上げる予定ですv
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その二百五・水戸大洗旅行記】へ  【砂漠の星の物語~ゲノム精査1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その二百五・水戸大洗旅行記】へ
  • 【砂漠の星の物語~ゲノム精査1】へ