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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十話 第二次長州討伐と将軍崩御・其の貳

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 第二次長州討伐が始まると同時に幕府や会津藩、そして新選組か監察方の山崎や独自の活動をしている佐々木蔵之介から続々と戦況報告が入ってきた。その報告は決して幕府側に有利なものではなく、幹部たちは眉を顰めざるを得ない。

「大島口はかなりひどい状況になっているようだな」

 大島口の偵察をしている佐々木からの報告書に近藤が唸る。

「六月八日の松山藩軍のやり方がいけませんよね。大島へ上陸したのはともかく、武器を持たない庶民に乱暴狼藉を加えるなんて・・・・・・武士の風上にも置けません」

 汚れ仕事を平然と引き受ける割に武士としての潔癖さを持つ沖田が露骨に嫌悪の表情を露わにした。そしてそれに同調したのが原田だ。

「俺が中間をやっていた頃はもう少しマシだったんだけどよ・・・・・・とことんまで性根が腐っちまっている。これだったら新選組のほうが統率が取れているんじゃねぇか?」

 何故自分達が長州討伐に参加できないのかと暗に示す原田だが、土方は一瞥しただけで話を続ける。

「九日には幕艦は島の北側である久賀へ砲撃、十一日には再び幕艦の砲撃の後で久賀村から幕府陸軍が上陸したそうだ。で、同日に島の南側の安下庄から松山藩軍が上陸、村上亀之助の兵と交戦したそうだ」

「そういやその戦いで富士山丸が初陣を飾ったんだって?さすが亜米利加から導入したてのスループ船は違うって、この前の佐々木の報告書にもあったっけ」

 永倉の横槍に土方は少しだけむっ、とした表情を浮かべたが、構わずまとめた話を続けてゆく。

「はしゃぐな永倉。俺達が乗るわけじゃねぇんだ。だが、その富士山丸の砲撃に晒されて長州藩の全軍は本州の遠崎へ撤退した。だがこれで大人しく引き下がる長州じゃ無かった・・・・・・大人しく大島を幕府に明け渡してりゃ被害も増えなかったものを」

 嘆息すると、土方は近藤から受け取った佐々木からの報告書を車座になった中央に置いた。

「ほう、またこれは・・・・・・長州側も必死だったと見えるね」

 参謀の伊東甲子太郎が口許を扇で隠しつつ報告書をじっと見つめる。その隣では篠原、そして伊東の弟である三木も報告書の文面を見つめた。

「ああ、あいつらの往生際の悪さは折り紙つきだ。どうやら最初は大島を放棄するつもりだったらしいが、大島の惨状が伝わるや否や山口藩庁は第二奇兵隊、浩武隊を大島へ派遣した。また高杉晋作が丙寅丸に乗り大島へ向かっているが、これも藩庁による命令だと思ってほぼ間違いないと思われる」

「確かに大島は要所ではありますが、そんなに力を入れるべき場所なんですか?」

 当たり前といえば当たり前だが、長州の土地勘の無い沖田は怪訝そうに近藤に尋ねる。

「ああ、かなり重要な拠点だ。ここを押さえられたら長州としては水運でかなり不利な状況に追い込まれるだろう。だからこその高杉出陣なんだろうな。確か六月十二日の砲撃は丙寅丸のものなんだろう、歳?」

「ああ。丙寅丸は瀬戸を抜けて島の北側に停泊していた幕府方の軍艦へ大砲を撃ちかけ撤退しそうだた。このとき富士山丸は大島の沖にいなくて、蒸気を落としていた八雲丸、翔鶴丸は丙寅丸を追跡したが見失ったそうだ」

「全く役に立たねぇな。本気で俺たちが出て行ったほうが役に立ったんじゃないですか、土方さん?」

 不満そうに唇を尖らせながら原田が文句を言う。そんな原田に土方は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

「仕方ねぇだろう、『御上』とやらのお達しだ。もしかしたら戦場に出ている奴らは捨て駒扱いかもしれねぇぜ――――――ま、そんな捨て駒達だから十五日に長州兵に大島上陸を許すとその二日後に大島を奪還されちまったんだ」

 そこまで一気に言い切ると、土方はぬるくなった茶をすすった。



 一息入れた後、今度は芸州口、そして小倉口を偵察している山崎らからの報告書を土方は取り出した。

「芸州口では、長州藩と岩国藩の合同軍と幕府歩兵隊、紀州藩兵らとの戦闘が行われそうだる。これは彦根藩と高田藩が小瀬川であっけなく壊滅した為らしい」

「情けねぇ」

 ぶっきらぼうに毒づく原田とは対照的に、沖田は少し心配そうな表情を浮かべる。

「確か彦根は先代が桜田門外で暗殺されてからケチがついていますよね。そういうところで幕府軍としての士気が下がらなければ良いと思うのですが」

 沖田の言葉に近藤や井上も深く頷いた。だが、土方は辛辣だ。

「・・・・・・で、幕府歩兵隊と紀州藩兵が腰抜けの両藩に代わって戦闘に入ると、幕府・紀州藩側が押し気味ながらも膠着状況に陥ったそうだ。しかも本来は幕府軍として戦うはずだった芸州藩は幕府の出兵命令を拒んだ」

 土方の冷えきった言葉に幹部達も黙りこくる。このような例は何も芸州藩に限ったことではない。薩摩など九州方面のいくつかの藩は同様に出兵を拒否しているし、出兵していても戦意に乏しい藩は少なくない。それだけに自分達が出兵できない現状がもどかしい。

「ま、芸州口はこんなところかな。次は石州口だ」

 土方は別の報告書を取り出しこちらも同様に車座になった幹部達の前に広げた。

「石見銀山を長州に押さえられたのはまずかったな・・・・・・石州口では津和野藩を通過して浜田藩へ侵攻、十八日に浜田城を陥落したそうだ。銀山と共に、な」

「むしろ石見銀山があったから長州はそこに力を入れた、ってことでしょうか?」

「それでほぼ間違いないだろう。戦に必要なのは資金力、銀山の一つでも制圧すればかなり大きい」

 逆を言えばそれは幕府側にとってかなりの痛手である。口をへの字に曲げつつ、土方はさらにもう一通の書状を広げた。

「最後は小倉口だ。流れの早い関門海峡に阻まれて幕府海軍は苦戦を強いられているらしい。まったく老中は何をやっているんだか・・・・・・幕府海軍は優秀とかほざいていたくせに」

 土方は九州藩をまとめるよう総督に任命された老中・小笠原長行に対して悪態をつく。

「関門海峡での合戦とは・・・・・・まるで源平合戦のようだね」

 伊東がまるで歌うように口にするが、土方は少し眉を顰めただけでそれを受け流す。

「関門海峡を挟んで行われた小倉戦争だが、壱岐守は熊本藩はじめ諸藩を束ねることができず連敗を重ねた。渡海侵攻を躊躇している間に六月十七日に長州勢の田野浦上陸を、七月二日には大里上陸を許して戦闘の主導権を奪われたそうだ」

 土方はそこまで告げると畳に広げた報告書を一つ一つ畳始めた。いつになく神経質に、丁寧にたたむその姿に沖田は土方の苛立ち、やるせなさを感じる。

「・・・・・・なんでやる気のねぇ奴らが戦線に出て、俺達が京都で燻っていなけりゃならねぇんだ」

 そんな土方の心情を代弁するかの如く、永倉が吐き捨てるように呟く。それはこの場にいる全員の思いそのものだった。確かに火器の扱いに不得手な新選組が戦場に出向いても足手まといになるだろう。自分達の得意分野は市中警備ということも重々理解している。だが、頭で解ることと感情はまた別のものだ。今にも鬱憤が爆発しそうな沈黙の中、不意に近藤が口を開く。

「そうだ。これはどうなるか判らないが、一応皆に伝えておく。目付の志賀殿から『新選組の警備変更の提言』が出ている」

 少し困ったように近藤は眉を下げ、さらにその話を続ける。

「あのお方は心の底から我々を目障りだと思っているのだろうな。市中警備から新選組を外し、淀川筋の通船改をさせろと言ってきたらしい」

 その瞬間、幹部達から失笑が漏れた。

「おいおい、冗談も大概にして欲しいぜ。ただでさえ手薄になっている市中警備がこれ以上薄くなったら、困るのは見廻組や奉行所だぜ」

「というか、幕府直属のあの人達が危険地域の警備なんて無理でしょう」

「見廻組の佐々木さん位だな、骨のあるやつぁ。ま、どっちにしろこの申し出は却下されるだろうな」

 土方の言葉に全員が大笑いをする。確かに幕府軍、そして各藩の軍が長州で戦っている中、新選組を閑職に追いやるのはあまりにも現実味に乏しい。

「しかし何でこの時期にそんなことを言い出すんだろうね?」

 藤堂が怪訝そうに小首を傾げる。

「さぁな。夏の暑さで頭をやられたんじゃねぇのか?」

 原田の混ぜっ返しに永倉が吹き出した。だが、近藤や土方はあまり浮かない表情をしている。それに気がついた沖田が近藤に声を掛けた。

「近藤先生どうなさったんですか?お顔の色が冴えないように思えるのですが・・・・・・」

「あ、いや何でもない。では今日のところはここで解散。ある程度報告書がたまったらまた今回のように報告会を開くのでそのつもりでいるように」

「承知」

 その言葉を合図として、幹部達はそれぞれの持場へと散っていった。



 組長達や伊東らが去っていった局長室で近藤と土方は向かい合っていた。その表情は先ほどと打って変わって沈鬱に満ちている。

「あのような話が浮上していうるとは・・・・・・やはり大樹公の御加減はあまりよろしくないんだろうか」

 近藤は先程こぼした警備範囲の変更の話題に触れ、声を落とす。その声音は今にも泣き出しそうに湿っている。

「まぁな・・・・・・でなけりゃ反新選組の言葉なんざ提言の体を成す前に蹴らているだろうよ」

 新たに淹れ直した茶をすすりながら土方もぽつり、と呟いた。将軍・家茂の病状悪化は会津藩を通じて近藤や土方の耳にも届いている。松本法眼も大阪城に籠り将軍につきっきりで看病をしていると南部からも告げられた。

「松本法眼がついていながら病状が回復しないとなると・・・・・・」

「縁起でもねぇことを言うな近藤さん。きっと・・・・・・ご回復なさるさ」

 そう近藤を力づけようとする土方の声も心なしか弱々しい。局長室に吹き込む風に秋の気配が交じる夕暮れ、寝待月が昇るにはまだまだ時間がかかるだろう。
 まさにこの時、将軍・家茂が危篤に陥っているとは思いもせず、新選組の局長と副長は静かな夕暮れを堪能していた。



UP DATE 2014.3.15

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今回は新選組幹部の会話の形を借りて長州討伐の戦況について書かせていただきました。戦力では圧倒的優位に立ちながらやる気のない幕府軍VS武器は幕府軍に劣るけど後がない長州軍では勢いが違うでしょう。しかも薩摩や佐賀など九州の大藩は様子見だったりしますし・・・この戦争、及び家茂の死が幕府瓦解へと直接つながるターニングポイントだったのではないでしょうか。

次回夏虫は3/22、将軍の崩御とそれに伴う長州討伐の結末を書かせていただきたいと思います(^^)
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