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「紅柊(R-15~大人向け)」
乙未・春夏の章

桜葬・其の参~天保六年三月の思い出(★)

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 暑くもなく寒くもない、肌に心地良い春闇の中、佳奈の息遣いが心なしか荒くなっていることに悠馬は気づいた。それは初めて経験する快楽のためなのか、それとも負担がかかっている心臓によるものなのかは定かではない。
 欲望に突っ走りそうになる己を叱咤しながら、悠馬は掠れた声で佳奈の耳元で囁いた。

「佳奈・・・・・今日はお互い手でしようか。俺とおまえの仲なんだから、見栄を張ることもないだろう?」

 確かに佳奈を我が物にしたい気持ちはある。だが、それはあくまでも佳奈が生きていてこその望みだ。心臓に負担をかけ、佳奈を殺してしまっては何の意味も持たない。悠馬は佳奈への愛撫の手を一端休め、佳奈の様子を伺う。すると佳奈は恥ずかしそうに頬を染めながら、小さな声で答えた。

「うん。でも・・・・・・私あまりよく知らないから、教えてね?」

 上目遣いに悠馬を見つめる佳奈の愛らしさに、悠馬は目眩に似た衝動を感じた。だがそれを強靭な精神力で抑えこむと佳奈に向かって微笑む。

「じゃあ、さっきと同じように俺のものを擦ってくれないか?あ、でもあまり強く掴まないでね」

 冗談めかしながらそう言うと、悠馬は己の逸物をそっと握っている佳奈の手に重ねるように己の手を重ねた。するとその手に促されたのか佳奈の手が再び動き始める。
 決して上手とは言えない動きだが、愛しい女に触れられているという実感が悠馬を昂らせてゆく。悠馬の怒張は佳奈の拙い愛撫に反応し、先走りを滲ませながら激しく脈打つ。

「じゃあ、こっちもまた動かすからね」

 悠馬は佳奈が驚かぬようそっと告げると、泥濘んだ蜜壺に差し込んだ中指をそっと出し入れする。その瞬間、佳奈の蜜壺は悠馬の指に絡みつくように蠢き、新たな蜜を滴らせ始めた。命を削りながらなお、新たな生命を繋ごうとする女の性の貪欲さに驚きつつも、その身体の貪欲さについていくことが出来ない佳奈の心臓の弱さを嘆き、詛わずにはいられない。
 心臓に負担をかけぬよう、しかし佳奈の中に眠る『女』を引きずり出すように悠馬は蜜壺を、そして膨らみ始めた花芽をそっと愛撫し続ける。

(もう一本くらい増やしても・・・・・大丈夫か?)

 どれだけ刺激し続けただろうか。先程に比べだいぶ解れてきた佳奈の様子を伺いつつ、悠馬は佳奈の耳許に唇を寄せた。

「もう一本、指を増やしてみるけど・・・・・大丈夫そうか?」

 もう一歩だけ先へ進もうとする悠馬の言葉に、佳奈はじっと耳を傾ける。だがその顔には先程よりも濃く不安の色が滲んでいた。。

「多分・・・・・・でも、ちょっと怖い」

 今の状態でも精一杯なのだろう。だが悠馬を少しでも受け入れたいという想いから悠馬の申し出を受け入れようとしている――――――悠馬はそう感じた。

「怖いか・・・・・・じゃあ、今日は一本だけにしておこうか」

 佳奈の額に自らの額をくっつけながら悠馬は微笑んだ。幼いころ、彼女が怯えたり泣いたりするとそうやって慰めたものである。まさかこの歳になってやるとは思わなかったが、佳奈の不安を取り除くにはこれしか思い浮かばなかった。

「だけど悠馬は・・・・・・」

 自らの掌の中で脈打つ悠馬の逸物は、今にも爆発しそうなほど熱を帯び脈打っている。このままでは悠馬に辛い目をあわせてしまうのでは、と佳奈は心配そうに尋ねた。だが悠馬は額をくっつけたままくすり、と笑う。

「俺の事は気にしなくていいよ。だって・・・・・・」

 悠馬は逸物を弄っている佳奈の手に己の手を重ねる。

「俺は気持よくしてもらっているからさ。だけど佳奈は心の臓の負担も考えなきゃならない。また体調を整えて、次回にもう少し進めばいいよ」

 そうは言うものの、その『二度目』ができるかどうかは判らない。この拙すぎる情交でさえも佳奈の命を確実に削っているのだ。その事は佳奈自身も理解しているに違いない。そんな悠馬の優しさを理解したのか、佳奈は悠馬の言葉に素直に頷いた。

「ありがとう・・・・・・悠馬」

 いつの間にか元の呼び名に戻ってしまったが、その方が佳奈らしい。悠馬は軽く接吻をしつつぺろり、と唇を舐めた。
 決して激しくはない、むしろ焦れる程の緩やかな愛撫だったが、それでも徐々に性感は高められてゆく。佳奈の頬はほんのりと上気し、甘い声が漏れだし始める。絶頂は間近なのだろう。その一方で悠馬の逸物も限界に近づいていた。

「佳奈・・・・・・も、いく・・・・・・!」

 悠馬が呻き声を上げた瞬間、悠馬の逸物は精を放ち、佳奈の手をどろりと汚した。そして一瞬後に佳奈がびくん、と身体を跳ね上げる。どうやら軽く絶頂を迎えたらしい。経験の豊富な女であれば気を遣ったうちにも入らないようなささやかなものだったが、それでも心臓の弱い佳奈にとっては負担に違いない。悠馬は即座に佳奈に楽な姿勢を取らせると、枕元にあったみす紙で手早く後始末をし始める。
 そして始末を終えた後、改めて佳奈の身体を包み込むように抱きしめ、その華奢な肩に顔を埋めた。

「佳奈・・・・・・俺達は、夫婦だからな」

 その声は鼻にかかり、まるで涙声にように佳奈の耳をくすぐる。だが、佳奈の肩に顔を埋めてしまった悠馬の顔を、佳奈は確認することが出来なかった。




 佳奈があっけなく逝ってしまったのはままごとのような祝言から十日後の事だった。祝言の翌日から佳奈は体調を崩し、十日後に大きな発作を起こしてしまったのである。だが、最期の最期まで佳奈は悠馬に対して微笑んでいた。

「ありがとう悠馬・・・・・・お嫁さんに、して、くれて・・・・・・」

 悠馬の手を握りしめる手にも既に力は入らない。すっかり細く、小さくなってしまった手を悠馬は強く握り返す。

「佳奈、気をしっかり持て!今俺の師匠が来てくれるから!」

 ひどい発作に自分では手を打つことが出来ないと判断した悠馬はすぐに師匠である大槻玄沢を呼びにやらせた。老齢の師匠を引っ張り出すことに抵抗を感じないわけではなかったが、佳奈の命を救えるかもしれない唯一の方法を諦めることは出来なかったのだ。

「師匠が来るまで・・・・・・あともうちょっとだけ耐えてくれ、佳奈!」

 人目も憚らず泣きじゃくりながら、悠馬は佳奈に訴える。だが佳奈は微笑みながらも弱々しく首を横に振った。

「もう、だめなの・・・・・・自分の、身体だも・・・・・・・の。判る、よ」

 苦しげに息を吸うと、佳奈は涙に潤んだ瞳でじっと悠馬を見つめる。

「だから、最後のお願い・・・・・・立派な、お医者様になって・・・・・・素敵な、お嫁様を・・・・・・娶って・・・・・・」

 その瞬間悠馬が握っていた佳奈の手から力が抜ける。

「か・・・・・な?おい、しっかりしろ!佳奈!」

 悠馬は佳奈の肩を掴み、身体を揺するがまるで木偶人形のように佳奈は揺すられるままである。続けて悠馬は佳奈の寝間着の胸をはだけ、聴診器を当てて心音を確かめた。だが本来聞こえてくるはずの微かな鼓動は悠馬の耳に届かない。

「佳奈!いい加減にしろ!祝言からまだ十日しか経っていないんだぞ!」

 悠馬は咄嗟に枕元にあった薬を佳奈の口に流し込み、その鼻をつまむ。そして自ら湯冷ましを口に含むと、口移しに佳奈の唇に流し込んだ。心臓の発作を抑える薬は劇薬であり、多く与えすぎても患者を殺してしまう。それでも弱り果てた佳奈の心臓をもう一度だけ動かすことができるのではないかという一縷の望みに悠馬は賭ける。
 しかし悠馬の願いとは裏腹に佳奈は薬を飲み込まず、口移しに流し込んだ湯冷ましは薬と共に佳奈の口の端から流れ落ちた。その時である

「おい、悠馬!」

 悠馬の師匠である大槻が部屋に飛び込んできた。羽織袴も身につけず、作務衣姿のところを見ると何かの作業中に呼び出され、そのまま来てくれたのだろう。だが、悠馬は佳奈の顔を見つめたまま動かない。否、動けないと言ったほうが正しいだろうか。

「悠馬・・・・・・そなたの妻の容態は・・・・・・」

 そなたの妻――――――それが佳奈の事だと気づくのに、悠馬は暫くの時間を要した。

「お師匠様。佳奈は・・・・・・私の妻は今しがた、身罷りました。ご足労、申し訳ございません」

 大槻の方に振り向いたその顔は涙に濡れている。だが、悠馬は礼を失することなく深々と大槻に頭を下げた。



 あれから十年、師匠である大槻玄沢もその翌年に亡くなった。それと同時に悠馬は家を出て町医者となり、澄庵と名乗るようになった。父親や兄からすれば思うところがあるのだろうが、佳奈の事が心の傷になっているのだろうとワラ店でのやくざな暮らしも黙認してくれている。

「ま、葬儀の後ろくに食事も摂らずにひと月も寝込んじまったら・・・・・・親父も兄貴も腫れ物扱いするしかねぇか」

 きっと世を儚んで自害されるよりはマシだと思っているに違いない。確かにそんな時期はあったが、既に十年。少しずつではあるが時間が傷を癒してくれている。だがいくら時間が過ぎようとも癒せない傷があるのもまた事実である。
 小さな墓石を綺麗に磨き上げた後に花を活け、生前佳奈が大好きだった長命寺の桜餅を墓前に供える。

「佳奈、ごめんな・・・・・・遺言、ってものはちゃんと聞いてやるべきなんだろうけどさ」

 澄庵は悠馬の頃の口調に戻ると、小さな墓石の前に跪くと額をその墓石にくっつけた。

「立派な医者にもなれそうもないし、嫁なんて娶る気さえおきない・・・・・・お前以外要らないんだ、佳奈」

 今でも思い出すのは自分に笑いかけてくれた微笑みばかりである。澄庵は声も出さずに暫く泣き続けると、ようやく立ち上がる。

「・・・・・立派とは言えねぇかもしれねぇが、少しはマシな医者になるように努力はするさ。で、俺がそっちに逝った時、ちゃ~んと出迎えてくれよ。俺の嫁はおめぇしかいねぇんだからよ」

 泣きはらした目で吐いた言葉は、酒癖の悪い町医者のものだ。澄庵は桶を手にすると小さな墓を背に、歩き始める。

(頑張ってね、悠馬――――――)

 春の風が今は亡き愛しい人の声のように聞こえる。はらはらと舞い散る桜の中、若い町医者は愛しい人の面影を胸に自宅のあるワラ店へと戻り始めた。



UP DATE 2014.3.19

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『桜葬』、最終話です・・・自分で書いた癖に泣きそうに(T_T)やっぱり”これから”という若者が亡くなってしまうシーンは悲しい物がありますね。以前だったら感情が先走って書くことが出来なかったであろう『十代の死ネタ』ですが、ヲタク歴を加えて小説執筆歴8年、ようやくここまで辿り着くことが出来ました。
(さんざん活躍して名を残した20代(沖田)やがっつりリア充30代(盛姫)なら全く問題なく死ネタを書けるのですが(おいっ)登場人物に対してとことんドSになっていくような気がする今日このごろ・・・)

結局拙い情交で終わってしまった悠馬と佳奈ですが、それだけに悠馬の心の傷は深かったのでしょう。佳奈の死から十年が経過していますが未だにうじうじと未練がましく佳奈を想い続けております。こ~ゆ~タイプはまず再婚は無理でしょうが、多分澄庵は何でもかんでも自分でこなせるでしょうから問題はないと思われます。その気になれば近場に岡場所はありますし(え゛)
メインの登場人物のリア充率高めをモットーにしております拙宅ですが、たまにはこんなキャラもありですよね(^^)というわけで澄庵には以後も独り身を貫いてもらおうかと思いますv

来週は『鶴蔵てまえ味噌』(これも一応死ネタになるんですが・・・鶴蔵だから罰当たりな事をしでかしそう^^;)来月の『紅柊』は4/2から開始します(芳太郎のCPか為右衛門夫婦か・・・そろそろ為右衛門のところも第二子を作らないといけないしなぁ)
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