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réincarnation

ボカロ小説 réincarnation5~黒服のカイトの回想

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 昔話に花を咲かせていた北堀と福澤だったが『そろそろ事務所に戻らないといけないから』と福澤は咲音のマネージャーに後を託してラボを後にした。本当ならば咲音に付き添っていたいが、と福澤は零したがどうしてもキャンセルできない会合があるとのことだ。
 そもそも黒服のカイトの件がなければマネージャーに任せてラボに来る予定は無かったのだ。それだけにスケジュールはかなり過酷になってしまっているらしかったが、こればかりは助けることもできない。
 ちなみに破壊された扉や窓ガラスは福澤の事務所名義で弁償することになり、今回の件におけるデータの全提出を条件に黒服のカイトの廃棄は免れた。とはいえ。あくまでも『執行猶予』には変わりないが・・・・・・。
 そん事とはつゆ知らず、未だ昏睡状態の黒服のカイトに付き添っているのはラボに残ったカイトとメイコだった。万が一黒服のカイトが起き抜けに攻撃してきた時、人間では対応できないからだ。勿論メイコのリミッターは外されており、福澤にも万が一の時の破壊承諾を文章の形で取り付けてある。

「しかしなかなか起きそうもないね」

 メイコに鎮静剤を打たれてから既に6時間以上経過しているのに起きる気配さえ見せない黒服のカイトの顔を、心配そうにカイトが覗き込む。

「でしょうね。象でも24時間眠り続ける強烈な鎮静剤を渡されたから」

 しれっ、と爆弾発言を返してきたメイコにカイトがぎょっとした表情を浮かべた。

「え?ちょっと、それってまずくない?それでエラーでも起こしたらそれこそ権利問題とか絡んでくるんじゃ・・・・・・」

「大丈夫でしょ。ラボ破壊して不法侵入してたし。万が一何かあってもラボがどうにかしてくれるわよ」

 度胸があるといえば聞こえはいいが、かなり大雑把なメイコの発言にカイトは頭痛を覚えた。

(まぁ、あの状態だったら仕方ないかもしれないけど・・・・・・あ、マスターが直接めーちゃんに『シメろ』っていうよりはましか。『MEIKO』は『KAITO』相手だと容赦無いからなぁ)

 とカイトは思ったが、そんなことを口に出せば確実に裏拳が飛んでくるだろう。昔はしおらしくて可愛かったのに、と心の中で呟いたその時、カイトの耳は微かな異変をとらえた。

「どうやらお目覚めのようだね」

 少し崩していた姿勢を正し、カイトは身構える。

「取り敢えず私が対応するわね。咲音さんと同じ『MEIKO』なら少しは心を開いて事情を話してくれるかもしれないし」

 メイコの言葉にカイトは頷いた。その瞬間、横たわっていた黒服のカイトの瞼が開く。

「お目覚めのようね。気分は如何?」

 ぼんやりと、焦点の合っていない視線で周囲を見渡す黒服のカイトにメイコが語りかけた。その声に導かれるようにメイコの方へ視線を動かした黒服のカイトだが、メイコを認識した瞬間その目が大きく見開かれる。

「・・・・・・メイコ?メイコなのか!」

 今まで昏睡状態だったのが嘘だったかのようにいきなり身体を起こすと、メイコの肩を強く掴んだ。その強さに痛みを感じたのか、メイコが小さな声で呻き声を上げる。

「おいっ、その手を離せ!」

 さすがにカイトが気色ばむが、メイコはちらりと目配せして今にも殴りかからんばかりのカイトの動きを牽制する。確かにここで殴り合いをしては元も子もない。思うところは多々あったが、カイトは大きく息を吐いて渋々座り直す。

「ごめんなさい、メイコはメイコでも咲音さんじゃないの。私は製造メーカー所属の研究用ボーカロイドのメイコ」

 メイコの説明に黒服のカイトの激昂が徐々に鎮まってゆく。

「咲音さんならオペ室でデータのバックアップを取っている最中よ。多分明日の朝までかかるんじゃないかしら。その後でV3エンジンへの再構築が始まる事になっているの」

 相手を興奮させないよう、メイコは低く穏やかな声で黒服のカイトに説明をする。そんなメイコの言葉を聞くうちに、黒服のカイトは徐々に打ちひしがれてゆく。

「間に合わなかった・・・・・・のか」

 黒服のカイトの肩が震え始め、ぽたり、と涙が布団の上に落ちて小さな染みを作った。その小さな染みは徐々に大きくなってゆく。

「もし良かったら教えてもらえないか?咲音さんと君の関係や、何故君ががここに来たのかを」

 今までメイコの横で口を閉ざしていたカイトが言葉を促す。

「咲音さんがV3エンジンのベースになる事になった理由の一つに特定のパートナーがいないことが挙げられていた。もし君の存在をラボが知っていたら・・・・・・」

「それは無いと思う。そもそも俺は、あいつと恋人同士だった訳でもないし・・・・・・むしろ傷つけてばかりいたんだから」

 黒服のカイトはメイコの肩からようやく自分の手を離すと、ぽつりぽつりと事情を話し始めた。



「何だ、まだクビになっていなかったのかよ、オバさん!」

 PV撮影用の衣装打ち合わせをしていた黒服のカイトは、3日振りに見かけた咲音メイコを目ざとく見つけると罵声を浴びせかけた。その毒舌に顔色を失ったのは周囲の方で、咲音は眉一つ動かすことなく自身のマネージャーである新田の近くへと歩み寄る。

「新田さん、明日の雑誌収録の事なんだけど・・・・・・」

「ボカロの癖にまた着せ替え人形の真似事かよ」

 咲音の一言一言にやけに突っ掛かる黒服のカイトに周囲は諦めモードだ。何が気に入らないのか、予備を含めて事務所に4体いるKAITOの内、咲音に突っかかるのはこの男だけである。
 これは彼がマスターと共に入社した翌日からの態度であり、事務所内では『昔MEIKOにこっぴどく振られたんだろうな』ということで話はまとまっていた。だが、それにしてもひどすぎる。業を煮やした咲音のマネージャーがカイトに注意を促す。

「いい加減にそっちの仕事に集中したら?歌だろうがモデルだろうがあんたには関係ないでしょう!歌は歌えなくても結果は残しているんだから!」

 マネージャーの新田の言葉には一理あった。歌手を引退し、モデルに職種替えをした咲音だったが『普通の女の子よりほんの少しだけ理想的な体型』という見た目と生来の負けず嫌いから徐々に仕事を増やし、今ではトップモデルの一人である。
 さらに咲音が開拓した分野は他の成人女性形ボーカロイドも進出を始め、ファッション業界ではいっそモデル専門のアンドロイドを制作したらという話まで浮上しているらしい。だが、それも黒服のカイトにとっては面白く無い。

「どっちにしろミズモノじゃねーか。社長も社長だよな。元々商才なんてねぇのに手ぇ広げやがって」

「・・・・・・いい加減にして」

 低い声で唸ったのは咲音のマネージャーではなかった。

「私のことは別に何を言われても構わない。だけど社長を・・・・・・マスターを悪く言う奴は許さない!」

 激しい怒りを押さえ込んだ震える声の主は咲音のものだった。MEIKOの初期型だけあって咲音の感情の起伏は穏やかな方だが、一度怒るとマスターである福澤さえ宥めるのに手こずる程激しい怒りを露わにする。
 そんな咲音の変化と同時に、周囲の人間達の視線も冷たいものに変わった。言ってみればボーカロイドの立場で人間、しかも自分のマスターの雇い主である事務所社長の批判など許されるはずもないのだ。

「ちっ」

 分が悪くなったと察知した黒服のカイトはひとつ舌打ちをすると、打ち合わせの途中だったにも拘らず部屋から出て行ってしまった。

「・・・・・・あいつは仕事に関しては完璧なんだけどな」

「どうも天狗になっているというか・・・・・・V3っていうのはああいうものなのか?」

「いや、あいつはV1エンジンの頃からあんな性格だったらしい。この前もあいつのマスターの雅哉が謝り倒してた」

「そもそもめーちゃんだってモデル部門の稼ぎ頭なんだしさ。歌だけじゃなくてモデルの仕事への道も切り開いてくれてありがたいと俺達は思っているから気にすること無いよ」

 人間スタッフの慰めに咲音は曖昧な笑みを浮かべた。確かに自分はモデルとしてはそこそこ成功しているがボーカロイドとしては終わっている。というより『封印されている』と言ったほうが近いかもしれない。
 自分のライブで死者まで出してしまった『ブラッディ・ライブ』―――――咲音の声によって我を失った人間やボーカロイド達が起こした血まみれライブを二度と起こしてはならないのだ。

(そのせいで社長からも音楽を奪ってしまった・・・・・・)

 有名ボカロPとして名を馳せていた福澤も、それ以来活動を休止している。所持している他のボーカロイド――――――ミクやリン、レンなども人に貸してしまっているのだ。

(V3は使いにくいって言われているけど・・・・・・私もV3エンジンにバージョンUPしてもらえるのかな?また歌えるように、マスターにもう一度音楽をやってもらえたら嬉しいんだけど)

 そんな時、ボーカロイド研究所から『咲音のエンジンをベースに新たなV3エンジンを制作したい』という連絡が入ったのである。社長室に呼び出された咲音が真っ先に見たのは沈痛な面持ちの福澤の顔だった。

「新しいV3エンジンを作るのに『人身御供』が必要なんだとさ」

 吐き捨てるようにそう告げると、福澤は咲音に一束の書類を渡した。それは『V3MEIKOプロジェクト』の概要だった。それにひと通り目を通した後、咲音は苗字通り花の咲くような笑みを福澤に向ける。

「良いじゃないですか。このままの状態でもこのエンジンは寿命が近づいています。それに私自身もあちらこちら小さなバグが積み重なっていますし・・・・・・そもそも歌も歌えないんですよ、このままじゃ」

 咲音は福澤の目をじっと見据え、はっきりとした口調で自らの意思を伝えた。

「私、もう一度社長の作った歌を思いっきり歌いたいんです。モデルのお仕事も嫌いじゃありませんけど・・・・・・この話、受けてください。お願いします」

 咲音の言葉に福澤は泣き出しそうに顔を歪める。そして咲音に対して深々とあたまを下げたのだ。

「済まない・・・・・・」

 その声は明らかに湿っていた。だが、咲音は聞かないふりをしてあえて明るく返事をする。

「やだなぁ、謝らないでくださいよ。だって全世界のMEIKOが再び生まれ変われるんでしょ?さらに私の中枢がマスターマシーンになるんですよね?名誉だと思うんですけど」

 娘のように自分を愛してくれている福澤の気持ちも解らなくはない。だが自分はあくまでも機械なのだ。人間にとっては『死』に見える今回の解体・再構築の話だが、MEIKO達にとっては生き残る為の最後の手段なのである。その為には父親のような愛情を注いでくれる福澤を咲音自身が納得させなければならない。

「だから笑って送り出してください。もっと美人になって・・・・・・必ずマスターのところへ帰ってきますから」

 その言葉に福澤もようやく顔を上げ、真っ赤になった目を細めた。



「つまり・・・・・・咲音さんに片思いをしていたけど上手く想いが伝えられなくて意地悪をしていたってこと?小学校低学年の男の子みたいに」

「・・・・・・否定はしない」

 呆れ果てたようなメイコの言葉に黒服のカイトは苦笑した。

「まぁまぁ、それはともかく・・・・・・ところで君は咲音さんの再構築の話をどこで聞いたんですか?」

 何気ないカイトの質問だったが、黒服のカイトはちょっと困ったように口籠る。

「いや、まぁ・・・・・・蛇の道は蛇、ということで」

 どうやらあまり褒められた方法ではないやり方で咲音の解体・再構築の話を知り得たらしい。

「その件に関しても順を追って説明させてほしい。最初は咲音のスケジュールに違和感を感じたところから何かがおかしい、と思ったんだ」

 黒服のカイトは順を追うようにひとつひとつ語り始める。

「その気になれば事務所所属ボーカロイドのスケジュールは全部把握できるんだ。そんな中、ミクの誕生日コンサート以降、咲音のスケジュールは全くの白紙だった。あと、最大の違和感は・・・・・・」

 そう口にした瞬間、今までとは明らかに違う、うっとりとした目を中空に向けて黒服のカイトは口を開いた。

「歌を封じられた筈のあいつが・・・・・・レコーディングをしていたんだ。社長と二人で、レコーディングスタジオの一番小さなブースを使ってさ・・・・・・あの歌声は絶対に忘れない」

 その眼の色の意味に真っ先に気がついたのはカイトだった。愛しい人を想う、情熱が溢れんばかりの色――――――その色を深い青色に湛えながら黒服のカイトは微笑みを浮かべた。




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話5話目にしてようやく核心部分に到着した感があります・・・スミマセン、ヲタクの妄想が止まらない~♪
自業自得と言ってしまえばそれまでなんですが、何気にめーちゃん黒服のカイトにひどい仕打ちをしております。象でも24時間眠り続ける鎮静剤って・・・(^_^;)ラボの研究者に渡された、と言っておりますがほぼ間違いなくいくつかの鎮静剤の中から自分でひったくったと思われます(さらに急所の首にも手刀を打ち込んでいるし・・・まぁね、拙宅のMEIKO達には『人間の命を守るためには仲間をも破壊する』っていうプログラミングがなされていますので仕方ないんです^^;)
で、そんな酷い目にあいつつも目覚めた黒服のカイトが事情を説明し始めますが、案の定咲音に片思いをしていたようでして・・・・・・果たしてこいつの想いはどうなるのか、宜しかったら生暖かい目で見守ってやってくださいませ♪

次回ボカロ小説更新は27日の木曜日を予定しておりま~す♪
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