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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第十三話 誠の恋、偽りの恋・其の壹

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それは鎖港の上申書を提出した四日後のことであった。一人の女が供の下男を引き連れて壬生の屯所にやってきたのだ。

「すんまへんそこのお侍様・・・・・こちらに壬生浪士組の芹沢局長はんはいらっしゃいますやろか?」

 これから巡察に出ようとしていた安藤早太郎に艶然と微笑みかけたその女は二十二、三歳くらいだろうか。つぶし島田に刺さった仇な簪や、深縹の地に葡萄色(えびいろ)の味噌漉縞の着物の着崩し方からすると、どこかの大店に囲われている妾らしい。

「あぁ、たぶんあっちで酒を飲んでいると思うが・・・・・。」

 局長達による押し借りや容赦のない浪士取締ゆえここ最近さらに悪評が高くなりつつある新選組である。噂によると昼間であっても壬生には近づくなと京の街中では囁かれているらしい。それなのに供こそ連れているものの、実質女一人で壬生に乗り込んできた目の前の妖艶な女に対し、安藤は毒気を抜かれつつ八木家を指し示す。

「そうですか。ほな、おおきに。」

 女は安藤に深々と一礼すると、八木家に向かい歩き始めた。その姿にむしろ安藤の方が慌てる。

「おい、何の用事で来たのか知らんが、酒を飲んでいる芹沢局長の前に出るのは止めておけ。身の安全は保証できんぞ!」

 隊士である自分でさえ酔っぱらった芹沢の前へは出たくないと思うのだ。いくら女であっても芹沢の鉄扇が振り下ろされないと保証できない状況では、用事があるにしても芹沢に会わせる訳にはいかない。しかし、女はちらりと安藤に流し目をくれただけで怯えた様子どころか驚いた表情さえ微塵も見せない。

「お気遣い、おおきに。せやさけ、うちも主から使いを頼まれてますさかい。その用が済まへんかったらうちかておめおめ帰れまへん。」

 あくまで柔らかい物腰ながら、その発言は大の男でさえ太刀打ちできない強さを含んでおり安藤は言葉に詰まってしまう。それを確認した後、口の端をきゅっ、と吊り上げた妖艶な笑みを浮かべた女は、そのままするりと八木家の門をくぐり、安藤の視界から消えていてしまった。



 芹沢を訪ねに来た女が八木家へ入り込んだ丁度その時間、黒谷の京都守護職本陣に出向いていた沖田が部下の佐々木と共に土方の部屋にやって来た。

「おお、総司か。近藤さんはどうした?」

 黒谷には近藤や永倉と共に出向いていたはずである。それなのに沖田一人で黒谷から帰ってきたことを訝しく思い土方はその事を尋ねた。

「先にこれを屯所に届けてくれと先に返されてしまいました。はい、来月分の給金です。」

 沖田は懐から百両分の切餅を取り出した。三十五人分のひと月の運営費としては甚だ心許ないが、全く支払いの無かった今までを考えれば御の字だろう。芹沢や近藤の押し借りやその他新選組の悪評に会津藩が根負けし、ようやく六月から給金を出すようになったのである。こればかりは芹沢の作戦勝ちと言っていいだろう。これで近藤も苦手な押し借りをしなくても良くなると、土方は内心ほっと胸をなで下ろす。

「ご苦労・・・・・と言いてぇところだが、何故佐々木が付いてきた?」

 土方は切餅をしまいながら沖田に付いてきた佐々木をぎろり、と睨み付ける。だが、その視線に臆したのは佐々木本人よりもむしろ沖田の方であった。

「あの・・・・・土方さん、ちょっとお時間いただけますでしょうか。佐々木さんが土方さんに聞きたいことがあるんだそうです。」

 沖田はちらりと佐々木に視線を送る。その視線に頷くと佐々木は土方の前に膝を進めた。

「土方副長、お手数おかけいたします。」

 沖田に促されながら一礼をした佐々木であったが、どう切り出そうか考えあぐねているのかなかなか言葉が出てこない。先程の沖田の様子からしてもどうやら土方に対して言いにくい事なのだろう。

「どうした?俺にゃ神通力はねぇんだから言って貰わなきゃ何も判らねぇぞ。」

 できるだけ穏やかな口調で土方は佐々木の言葉を促す。その穏やかさにようやく覚悟を決めたのか、佐々木は思いきって口を開いた。

「あの・・・・・誠忠浪士組の隊士は町人の娘と情を通わせることは許されるのでしょうか?」

 あまりにも突拍子もない一言に沖田はしまった、と渋い顔をし、土方は一瞬呆けた表情を浮かべたが、次の瞬間土方は怒りを露わにする。

「はぁ?佐々木!何寝ぼけた事をいってやがる!総司も総司だ!何でこんなくだらねぇ事に付き合って・・・・・!」

 土方は言いかけた言葉を飲み込んだ。そう、個人の色恋沙汰のような些末なことに対し何故わざわざ副長の許しを請いに来たのか、しかも直属の上司である沖田同伴である。言葉足らずの佐々木の一言の裏に何があるのか-------------土方は沖田に対し、詳細を話せと視線で威嚇する。

「相手の名前はあぐりさん--------------二条法衣棚にある八百藤の娘だそうです。八百藤は時に長州藩邸に出入りをして、あぐりさんもその中に入る事があるとか・・・・・もしかしたら不逞浪士の潜伏先にも品物を入れている可能性があるかも知れません。」

 土方の視線に促されるように沖田は佐々木の発言の補足をする。

「いつまでも不逞浪士といたちごっこをしているよりはもう少し踏み込んだ動きというのも悪くないと思うんですが。」

 本来、自分達は将軍警護の為に京都まで来たはずなのに、実際は長州系不逞浪士の取締という不本意な仕事に日々追われてしまっている。いつまでもこんな事をしていたくはないという思いが総司の言葉の端々からこぼれ落ちるような発言だが、その思いは土方も同じであった。

「・・・・・佐々木。その女、信用できるのか?」

 土方は思わず声を潜める。もしかしたらこれは壬生浪士組にとって大きな転機になるかも知れない。土方は頭の中であらゆる算段を考え始める。

「判りません。ただ、この様な付け文を貰いました。これが本物なら隊の活動に役立つのではないかと。ただ、逆に私が利用されようとしているのかも知れませんが。」

 佐々木は土方に自分があぐりから貰ったという付け文を見せる。女性らしい、可愛らしい文字で想いを綴ったその手紙に裏があるようには見えない。

「安心しろ。長州にとって俺たちはまだ雑魚扱いだ。つまり、やるなら今-------------佐々木、この話受けてみろ。ダメで元々だ。危なくなったらその女と手を切ればいいだろう。指示は沖田を通じて俺が出す・・・・・誠忠浪士組の将来がかかるかも知れねぇから心してかかれ。」

 今でこそ会津藩の下で京都の街の見廻りに甘んじているが、じき将軍が江戸に帰ることも考えると独自の活動も考えた方が良いだろう。その一つとして長州への間者というのは悪くない。しかも佐々木は大阪の出だ。言葉のこともあり、出入りの商人として入り込んでも怪しまれないであろう。

「------------承知!」

 土方の言葉の重さに一瞬強張った佐々木の表情だったが、すぐにその強ばりは解け、人を魅了する笑顔を見せた。



「いいんですか、土方さんあんな事を・・・・・彼はまだ若いんですよ?」

 佐々木が部屋から出た後、沖田は土方ににじり寄る。沖田にとって佐々木は数少ない年下の部下である。それだけに心配もひとしおだ。しかし、土方はそんな沖田の甘い感情を突っぱねる。

「大丈夫だ-------------少なくともおめぇよりよっぽど遊び慣れているぜ、奴は。」

 土方の意味深な言葉に沖田は頬を赤らめた。確かに沖田は強制されなければ遊郭に足を伸ばすこともなければ、特定の相手もいない。

「あれくらいの年齢ならば、普通あんな恋文を貰えば浮き足立つだろうが。それなのにおめえや俺に相談し、あまつさえ隊務に役立てようとしている。問題はその娘の出方だな-------------おめぇ、できるだけ佐々木の話を聞いておけよ。」

「何で人ののろけ話なんか・・・・。」

 土方の言葉に沖田がむくれたが、それに水をかけるような冷たい言葉が沖田に浴びせられる。

「・・・・・のろけじゃねぇ。聞くのは長州の動向だ。もし八百藤が信用できるようだったらもっと突っ込んだ仕事もさせようかと考えている。佐々木は大阪の出だから手代に化けさせて藩邸に潜り込ませるのも悪くはねぇな・・・・・あわよくばもう二、三人くらい間者を増やすのも良いかもしれねぇ。」

 土方は先程から考えていた構想を、沖田相手にぺらぺらと話し出す。

「ち・・・・ちょっと、そこまでやらせるんですか?佐々木さんはまだ新入りなのに?」

 あまりに突き進みすぎる土方の構想に沖田は目を白黒させることしかできない。

「三日もすれば古参隊士と変わらねぇんだ。甘やかすんじゃねぇ。いいか、俺たちはいつまでも定廻り同心の真似事をしている訳にゃいけねぇんだ。俺はな・・・・・近藤さんを旗本に、いや、あわよくば大名にするつもりでいる。その為には多少の犠牲は付き物だ。それが俺自身だとしてもな。」

 土方は沖田をぎろり、と睨む。

「少なくとも佐々木は俺たちよりは密偵に向いているだろう。今回もしうまくいけば壬生浪士組に監察方を別個に組織するのも悪くはねぇ。ま、俺たちが生き残れたらの話だけどな。とりあえずしばらく様子を・・・・・。」

 そう土方が言いかけたまさにその時である。


バキーーーーーーッ!


 突如八木家の方から木が割れるような音がしたかと思うと、男と女の怒声が土方と沖田の耳に飛び込んできた。続いてそれを宥めるような騒ぎも聞こえてくる。

「なっ・・・・・芹沢さんか?」

 土方は思わず腰を浮かした。黒谷に近藤を出向かせ、自分は留守番とばかり酒を飲んでいたはずだ。それが一体どうしたというのか皆目見当が付かない。

「にしても相手はどうやら女子のようですよ。さすがにあれはまずいんじゃ?」

 沖田も顔面蒼白である。二人は慌てて前川邸の部屋を飛び出し、八木家へと飛び込む。

「おい、一体何があったんだ!」

 土方が飛び込んだその場には、粉々に粉砕された夏物の戸板が転がっていた。どうやら芹沢が鉄扇を叩き付けたらしい。そして当の芹沢は平間や佐伯、野口らに取り押さえられ、客人と思われる女も供の男になだめすかされながら押さえつけられていた。



 ようやく喧嘩の本人達が落ち着き、奥の間には芹沢と女、そして立会人として土方、沖田、さらに黒谷から帰ってきた近藤と隊の会計を担当している平間と山南が顔を揃えた。そのうち山南と平間は証拠品となる帳簿や借用書を取りに席を外している。

「うちは梅と申します。店の使いでやってきたんですけどええ加減お品の代金支払うてもらわな困ります。」

 乱れた髪を整えながら、梅と名乗った女はものすごい形相で芹沢を睨み付ける。京都の女はたおやかだと聞いていただけに、江戸の女も顔負けのこの負けん気に周囲の者は呆気に囚われるしかない。

「だからそんな話はしらねぇと言っているだろうが!呉服はすべて大丸と高島屋に発注している。長州の息がかかっているかもしれねぇ店になんぞ注文できる理由がないだろう!それくらい判らんのか!」

 売り言葉に買い言葉、芹沢も鉄扇片手に女に怒鳴りつける。その声に周囲の者が首を竦めてしまうくらいだが、当の梅は涼しい顔で芹沢の酒焼けした顔を睨み付けている。睨み合う二人の間で沖田や土方、そして近藤はただ見比べることしかできない。

「お待たせしました。こちらが私達が注文した商品の控えになります。何せ田舎者ゆえ店そのものを知らないのですよ。なので江戸にも出店している大丸や高島屋に品物を頼むことになります。」

 ようやく山南と平間が帳簿を持ってきてウメの前に差し出した。そこには梅の主の店である太物問屋、菱屋の名前は一つも載っていない。それを見て、梅の形の良い眉がぴくん、と跳ね上がる。

「せやったらこれはどう説明つけてくれますのん!」

 梅は借用書を芹沢の前に叩き付ける。そこにははっきりと壬生浪士組の名が記されている。

「おおかた俺たちの名前を名乗った偽物に決まっている!そんな奴に騙される方が悪いんだ!」

 その借用書を見ても芹沢は全く動じなかった。

「・・・・・お梅さん、もしかしてその男、新見とかって名乗りませんでしたか?」

 もしかしたら、と恐る恐る山南が発した一言に梅が反応する。

「へぇ。確かにそんなお人やったと。」

 芹沢以外の相手に対しては梅も穏やかに接する余裕があるのか、にっこり笑って山南の言葉に返答する。

「・・・・・どうします?」

 確かに新見はいまだ壬生浪士組に在籍している形になっているが、実際五月半ば大阪から帰ってきてから一度も壬生に寄りついておらずすでに二十日近くが経過しようとしている。たぶん金に困って芹沢の名で押し借りをしたのだろう。

「・・・・・とりあえず今日はお引き取り下さいませんか。給金も月初めに入ってくるもので今ここには僅かしかお金がないんですよ。」

 そう言いだしたのは黒谷から給金を壬生に運んできた本人であった。そんな沖田の発言に面白くなさそうな表情を浮かべたウメだったが、金がないと言うならば仕方がないと立ち上がる。

「ほな、今日の所は帰らせていただきます。せやけどお品代きっちり二十両、耳を揃えて払うてもらいますから。公方様もじき江戸にお帰りにならはるいいますからなぁ・・・・・あんさんがたも江戸に帰りはるんやろ?その前に払ってもらわなならんもんはきっちり払っておくれやす!」

 梅はそう捨て台詞を残し、芹沢の前から立ち去っていった。



UP DATE 2010.05.07


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『誠の恋、偽りの恋』其の壹です。ようやく夏虫においても恋愛を扱えるようになりました(^^;
タイトルからするとどちらかが誠の恋でどちらかが偽りの恋、って感じがしますがそこまで単純ではないかも(笑)誠と偽りの間をゆらゆら揺れる恋が書けたらいいな~とは思っておりますがさてどうなることでしょう(爆)。
特に佐々木愛次郎とあぐりの恋は八月十八日の政変とも絡んでゆきますので焦らず丁寧に書いてゆきたいと思います。芹沢とお梅は・・・・・この二人は勝手に動き回って困ります。そもそも主に頼まれたからって女一人で壬生浪士組の屯所に乗り込んでゆくなんて相当な胆力がなければできないでしょう(笑)。なので京女の愛嬌よりはその剛胆さをこの小説では出していきたいですv
(彼女のファッションに関しては京都の女性にしては少々渋すぎかも・・・・・どこまで派手にして良いものやら判りませんでした・笑)

次回は5/14、23:00~に更新、佐々木とあぐりの恋を中心に、芹沢とお梅のバトルをちょこっと扱う予定でおります。


《参考文献》
◆Wikipedia お梅
◆新選組日誌コンパクト版(上)


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