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ボカロ小説 réincarnation6~咲音メイコの回想

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 黒服のカイトが待合室に飛び込んでくるというアクシデントはあったものの、咲音メイコのデータバックアップは24時間かけて無事終えることが出来た。これから末端の解体、そして中枢のオーバーホールが行われる。

「咲音さん、おはよう。昨日は少し緊張していたみたいだけど調子はどう?」

 インターフェイスを通じてメイコが咲音に朝の挨拶をした。人工羊水に浸り、声を出すことは叶わないが、この方法で咲音は自分の状況を研究所員に逐一報告することになっている。ただ、それを私用の会話に使ってしまうのはMEIKO同士ならではのお目こぼしだ。人間には話せないこともボーカロイド同士ならば話すかもしれないという研究員達、特に北堀の考えによる。

「おはよう、メイコさん。ねぇ、昨日は何があったの?私からはあまり良く見えなかったんだけど・・・・・・」

「・・・・・・さすがに気がついちゃった?」

 一瞬の沈黙の後、メイコはちょっと言いにくそうに口を開いた。

「うん。ガラスにヒビが入る音と衝撃波がボーカロイド・プールにまで届いたから。こっちまで衝撃波が来るってことは待合室はめちゃくちゃになっちゃったんじゃないかな~って」

 その声にはかなり不安が滲んでいる。このまま黙っているよりは真実をありのまま話した方が咲音の心労を減らすことができるだろう。メイコは意を決して語り始める。

「あのね、あなたの事務所のボーカロイドがここに来てね、少々・・・・・・というか、かなりあちこちを壊してくれちゃったの。社長の福澤さんまでこっちに来て大変だったのよ」

 具体的な被害と自分が黒服のカイトに与えたダメージはきっちり端折ってメイコは咲音に起こった事をかいつまんで話した。それを聞いて咲音はメイコに尋ねる。

「もしかしてうちの事務所の1stKAITOかな?V3エンジンのKAITOで少し悪ぶってて・・・・・・KAITOなのに黒い服を好んできているんだけど」

 それはまさしく黒服のカイトそのものだった。そしてその名前がすぐに出てくるということは咲音と黒服のカイトとの間に『何か』があるのだろう。

「もしかして、身に覚えがあったりして?」

 冗談めかして尋ねるメイコに咲音も笑いながら答える。

「ふふっ、それはご想像にお任せするわ・・・・・・でも、こんな山奥まで来るとはね。遊び人だからもうちょっとドライな子かと思ったんだけど」

「さすが咲音メイコ、伝説のアイドルは遊び人さえ夢中にさせちゃうのね」

 お世辞抜きの事実を告げるメイコの言葉に対し、咲音は少し悲しげに微笑んだ。

「KAITO限定で、というのを付け加えておいてね。私の声とマスターの調音はKAITO達を狂わせてしまうから・・・・・・」

 声、を強調した咲音の言葉にメイコは違和感を覚えた。そういえば昨日の晩、黒服のカイトは咲音と福澤のレコーディングにやけに執着していた。しかも『あの声は絶対に忘れない』とも・・・・・・。

「ねぇ、咲音さん。ここに来る前に何があったの?いくら恋に落ちたからといってラボを破壊してあなたを奪い取ろうとするなんてちょっと執着が過ぎるような気がするの」

 メイコの言葉に咲音からは困ったような雰囲気が漂ってくる。

「う~ん、これってMEIKO全体に言えることなのか、それとも私と社長のペアだけに言えることなのかわからないんだけど・・・・・・今回の事とも『ブラッディ・ライブ』と原因は同じだと思うの。もし良かったら、話に付き合ってもらえる?末端解体の間って暇でしょうがないし」

「ええ、勿論」

 そもそもメイコはその為に――――――咲音の不安定要素になりそうな話をすべて聞き出し、安定した状態にさせるためにいるのだ。断る理由などひとつもない。

「ありがとう。そうね・・・・・・私が『あれ?』って思ったのは7月の終わりくらい、V1メイコの記念に、ってマスターが私の声をレコーディングし始めた頃かな。その頃から彼の様子がはっきり変わりだしたの」

 ひび割れたガラス窓を挟みつつ、インターフェイス越しに咲音は黒服のカイトとの間に起こった出来事を語り始めた。



 まだ朝早いレコーディング・スタジオにはスタジオスタッフの他、福澤と咲音だけしかいなかった。否、この時間しかスタジオが空いていないから朝早くに来ているといったほうが正しいだろう。朝一番に本調子が出ない人間の歌手と違い、起動直後に最高レベルにまで声を持って行けるボーカロイドのレコーディングだからこそ許される、早朝のレコーディングである。

「OK・・・・・・じゃあ次いこうか。メイコ、読み込み頼む」

「イエス、マスター」

 Tシャツにデニムというラフなスタイルの咲音が福澤の言葉に頷き、手描きのスコアを広げる。ボカロマスターの殆どはシンセサイザーで直接スコアをPCに打ち込むが、この男は未だアナログ方式、アコースティックギター片手に手書きで作曲する。そしてその手描きスコアを読み込み、デジタル化するのが咲音の役割だ。

「スコアスキャニング、開始します。マスター、エディターを開いてください」

 福澤への指示とともに咲音の紅茶色の目の奥が緑色に光り、虹彩に刻印されたナンバリングが浮かび上がる。そして微かな電子音と共にスコアのスキャニングが始まった。

「本当にこの機能は便利だよなぁ」

 次々とエディターやピアノロールに表示されるスコアに福澤はニコニコと笑う。

「多分プロでこの機能を使っているのはマスターくらいだと思いますよ」

 咲音もつられて笑いながらスキャニングモードを終了し、歌唱モードへと自身を変換した。
 ボーカロイドが開発された当時、PC操作が苦手な作曲家が多いだろうとアンドロイド型のみに搭載されたスコア読み込み機能だが、意外と使われていないのが現状だ。
 一応V2、V3エンジンにも搭載されているが、スキャニングに慣れなボーカロイドがこの方法でスコアを読み込むとデータに酔っ払うような症状が現れてしまうので、この機能を使用するボカロPは極めて少ない。
 なお、MEIKO型がアルコールにやたら惹かれるのは咲音のこの経験がフィードバックされ、それに限りなく近い『酒による酩酊』を求めるようになったのでは?というのが一部研究者の憶測である。

「・・・・・・よし、調音終了。いくぞ、メイコ!」

「イエス、マスター!」

 元気よく返事をすると、咲音は早速歌い始めた。たった一種類の声とは思えぬ豊かな表現力と哀愁ただよう歌声がスタジオに響き渡る。まるで人間のようなその声、そして込められた感情はメイコのボーカロイドとしての性能と福澤の調音を超えたものがあった。

(これがV1の私の形見になる・・・・・・)

 V1として歌うのはこれが最後になる。デビュー3年で公の歌声を封じられたメイコだが、歌を歌うこと――――――マスターが作った歌を歌う事に最高の幸せを感じる事に変わりはない。
 小さなレコーディング・スタジオではあるが、忙しい社長がメイコの為に時間を割いてくれた。それが何よりも嬉しい。そんな幸せな雰囲気の中、咲音はひと通り福澤の新曲を通しで歌った。

「う~ん、やっぱり鈍ってるなぁ」

 今しがた録音した音を通しで聞いた福澤が渋い表情を浮かべる。

「え、私の歌・・・・・・」

 自分の歌い方に何か問題があったのだろうか――――――不安に顔を曇らせる咲音に、福澤は笑いながら首を横に振った。

「違う、俺の調音の問題だ。ここ最近お前の調音も若手に任せちまっていたから、微妙なところがな・・・・・・すぐに直すから少し外に出て待っていてくれ」

 福澤の指示で咲音はヘッドフォンを取り、レコーディング・ブースから出た。福澤は早速ディターと睨めっこだ。

(さて、どこでアイドリングをしようかな・・・・・・)

 自分自身にも厳しい福澤だが、こと音楽に対しては同じレベルを咲音にも求めてくる。建前上起動直後でも最高レベルの『音』を出せるボーカロイドであるが、福澤はそれでは駄目だと容赦なくダメ出ししてくるのだ。さらに調声と言っても社長のことだ、15分、長くても30分しないうちに直してくるだろう。待つには少々長いが、一旦ピークから落ちてしまった喉を再び同じレベルにまで戻すには短すぎる時間、どこかでこの状態を維持しておかないと仕事にならない。
 取り敢えず、どこか空いている部屋を探しに行こうと、咲音がふらりと廊下に出るとスタジオスタッフらしい女性3人が談笑していた。咲音は彼女らに声を掛け、空いてる部屋がないか尋ねる。

「ああ、だったらスタッフルームでいいじゃない」

「でも、お休みの所・・・・・・」

「ただで『咲音メイコ』の生歌が聞けて不満を漏らす馬鹿はいないもの。アイドリング大歓迎!さぁさぁ、遠慮なんかしないで!」

 女性スタッフ達は強引に咲音をスタッフ・ルームに連れ込み、中にいた仲間に嬉しげに宣言した。

「咲音ちゃんがここでちょっと練習したいっていうんだけどいいよね?」

 その瞬間、歓声と拍手が沸き起こる。皆咲音の現役時代を知っているベテランばかりだ。そんな連中が練習とはいえ、咲音の『生歌』を逃すわけがない。

「あ、あの・・・・・・すぐに終わりますから。あと、社長に・・・・・・」

「それなら私が行ってくるから!でも一曲くらいは残しておいてよね!」

 女性スタッフの一人が部屋の外に飛び出す。咲音は苦笑を浮かべつつ、先ほどインプットしたばかりの――――――社長が調音を不服としていた曲を歌い出した。



 いつもならギリギリにスタジオ入りする黒服のカイトだが、その日に限って予定よりも2時間も早くスタジオ入りした。

(畜生・・・・・・昨日の女はマジハズレだった)

 数合わせの合コンで『お持ち帰り』したはいいが、いわゆる『グルーピー』、性欲以外の欲望をちらつかせ、黒服のカイトを幻滅させた。その女から一分一秒でも早く別れたいという切実な事情と、数日前から社長とメイコがこっそりレコーディングをしているという噂が気になり、予定より早くレコーディング・スタジオにやってきたのだ。

(仕事が始まる朝10時には社長もメイコも事務所にいるし、いるならこの時間だろう)

 起動直後でも歌うことが可能なボーカロイドのレコーディングは午前中であることが多い。だからもしかしたら咲音に逢えるかもしれない。あわよくば封印されたその『声』も聞くことができるかも――――――そう思いカイトはスタジオに入った。その瞬間、彼の鋭敏な聴覚は天使の声をとらえたのである。

(あの声は・・・・・・メイコ?何でブースで歌っていないんだ?)

 その声に向かってカイトは走りだしていた。



 そこはスタジオの隅にあるスタッフルームだった。決して大きくないその部屋で咲音メイコのミニライブは催されていたのである。
 プロのギタリストか、それともスタジオ・スタッフなのかは判然としないが、ギター伴奏に合わせて流れてくるその歌はカイトの脳髄に戦慄を走らせる。

(ま、まじかよ・・・・・・)

 普段の気丈な発言からは想像がつかない甘い歌声にカイトはその場に立ち尽くす。既に社長の調音が済んでいるのだろうか、初めて聞く咲音メイコの歌声に黒服のカイトは魔性さえ感じてしまう。

(やべぇ、勃ってきた)

 昨夜のグルーピー相手ではなかなか役に立たなかった黒服のカイトのものが興奮のためか力を漲らせ始めている。『ブラッディ・ライブ』では興奮したKAITOや人間達の暴動により死者も出たと言われるが、今の彼にならその理由がいやというほど判る。

(あいつが・・・・・・欲しい!)

 歌うために作られた機械であるボーカロイドの欲望は、耳から飛び込んでくる刺激に一番強く反応する。それはV1であろうともV3であろうとも変わりない。だが、ここで欲望の赴くままに咲音に襲いかかるわけにはいかない。
 黒服のカイトは自分を落ち着かせるため大きく深呼吸をすると、歌声の邪魔にならぬよう、静かにスタッフルームへ近づき部屋に入った。




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前回の黒服のカイトの回想に引き続き、今回は咲音メイコの回想になりますvメインは『V1メイコの形見』とも言える声のレコーディングですね。やっぱりマスターの福澤にとっても思い入れがあるのでしょう。もしV3への移行が失敗したら咲音の全てが無くなるわけですし・・・・・・全てが手探りの中、せめて残せるものだけはと福澤は考えていたのかもしれません。
そしてそれを嗅ぎつけた黒服のカイト・・・こ~ゆ~ところで『KAITO』っぽい粘着気質が出てきております(^_^;)あまりKAITOっぽくない黒服カイトですが、徐々に本性が出てくるのかなぁ・・・。

次回更新は3/31、続けてレコーディングの話になりますv
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