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「VOCALOID小説」
réincarnation

ボカロ小説 réincarnation7~過ちの歌

 ←拍手お返事&確かに夫婦揃って酒好きですが・・・ →拍手お返事&エイプリルフールの嘘だったらどんなにいいか・・・orz
 人の気配が殆ど無い朝のレコーディングスタジオに、黒服のカイトの足音だけがやけに響く。それを極力抑えながら黒服のカイトは天使の声――――――咲音メイコの歌声が聞こえてくる方へと歩を進めていた

(メイコを・・・・・・あの声を絶対にモノにする!)

 『KAITO』の本能が黒服のカイトを突き動かす。

(あの声は俺の為の声だ。他の誰にも渡さない――――――)

 まるで獲物の喉笛に喰らいつこうとしている黒豹のような獰猛さを漂わせ、黒服のカイトは声が漏れてくる部屋の前に辿り着いた。そして一呼吸置いた後、邪魔をしないようにそっとドアを開く。

「お、雅哉カイトおはよう。今日は珍しく早いじゃんか」

 スタッフの一人が入ってきたカイトに声をかけてきた。音楽事務所内では『1st』『2nd』と売り上げ順で呼ばれることが多いボーカロイドだが、多くの事務所のボーカロイド達が出入りするTV局やスタジオでは、マスターの名前や名字をボーカロイド達の頭にくっつけるのが習慣になっている。
 因みに黒服のカイトの場合、マスターの苗字が『鈴木』とありふれたものなので名前の方を頭に付けられ呼ばれていた。ごく稀に咲音のような特別な名前を付けられたボーカロイドもいるが、それは『名誉称号』のようなものであり、咲音メイコも本来なら『福澤メイコ』と呼ばれるところである。

「お早うございます」

 黒服のカイトは軽く会釈をしながらそのスタッフの横に近づく。

「ちょっと早く起きちゃったんですよ。だけど二度寝したら遅刻しそうだったし・・・・・・それにしても『咲音メイコ』のレコーディングの噂は本当だったんですね」

 そう言いながら黒服のカイトは咲音をちらりと盗み見た。黒服のカイトが入ってきた事に気がついた咲音は少し驚いたように目を丸くしたが、特に声を止めること無くそのまま歌い続けている。そんな咲音を黒服のカイトは熱っぽく見つめ続けた。

(せめてこの一曲くらいは・・・・・聞きたい)

 もし、この場に誰もいなかったら黒服のカイトは迷わず咲音を押し倒していただろう。それを防いだのはスタジオスタッフの目とV3カイトに幾重にも掛けられたマインド・コントロールの賜物だ。さらに言えば散々遊びまくって女性慣れしている彼だからこそ性欲にも似た『本能』をコントロールできているのかもしれない。
 そんな己の欲望と戦っているうちに、いつしか咲音の歌は終わってしまった。その瞬間、今にも爆発しそうだった欲望がみるみるうちに鎮まってゆくのを黒服のカイトは感じる。

「おい雅哉カイト、お前も歌いたくてウズウズしている、って顔してるな?本格的な調音はできてないけど、喉慣らしに咲音と一緒に歌ったらどうだ?同じ事務所なんだしさ」

 よっぽどがっかりした表情を浮かべていたのだろう、ギター伴奏していたスタジオミュージシャンが黒服のカイトに声をかけてきた。その申し出に黒服のカイトは微かな同様を露わにする。

「え、ええ。咲音さんさえ良ければ・・・・・・」

 何せ『ブラッディ・ライブ』を引き起こした咲音である。ジャムセッションとはいえそんな簡単にKAITOと声を合わせることは許されるものではないだろう。それは咲音も同様に感じたらしく、少し困ったような笑みを浮かべつつ口を開いた。

「う~ん。魅力的な申し出なんですけど、そろそろマスターの調音が終わる頃だから・・・・・」

 その時である。不意に扉が開き、福澤が顔を覗かせた。どうやら調音が終わり咲音を迎えに来たらしい。

「おい、メイコ。調音終わったからすぐにレコーディングに入るぞ?お前のことだからアイドリングは・・・・・・」

「社長、お早うございます」

 福澤の立っている部屋の入口からだと死角になる部分から黒服のカイトが声をかける。その声に福澤は驚きの表情を見せ、声の主の顔を見ようと部屋に一歩踏み込んだ。

「何だ1stか・・・・・・今日はやけに早いな。雅哉は?」

 福澤は黒服のカイトのマスターの名前を出す。

「うちのマスターは10時きっかりにこっちへ来ると思います。俺は・・・・・・少し早く起きてしまって時間を持て余してしまったので」

 その口調から福澤は何かを察したらしい。渋い表情を浮かべると、黒服のカイトに忠告する。

「感情育成の為の『付き合い』も必要だが、相手を選べよ。遊びが悪いとは言わんが、特にお前は目立ちすぎる」

 それだけ言い残すと、咲音を連れて福澤が部屋を出ようとする。しかし黒服のカイトはそれを阻止しようと福澤と咲音の前に立ち塞がり、深々と頭を下げた。

「社長、お願いします!レコーディングに立ち会わせてください!絶対に邪魔はしませんから!」

 普段の生活で黒服のカイトは滅多に人に頭を下げない。そんな男が頭を下げたのだ。その『異変』に福澤は気が付き、低い声で黒服のカイトに尋ねた。

「お前・・・・・・メイコの歌を聞いちまったな?」

 その声に含まれていたのは怒りではなく憐憫だった。思いもしなかった感情が含まれた福澤の声に、黒服のカイトは驚きも顕に顔を上げ、福澤の表情を覗きこむ。

「二度とあんな事が起こらないように、『KAITO』にだけは気をつけていたつもりだったんだが」

 さらに含まれる後悔と自責の念――――――幾人もの被害者を出した『ブラッディ・ライブ』が福澤に残した傷の深さを黒服のカイとはまざまざと感じた。だが、ここで引き下がるつもりは毛頭ない。

「勿論、咲音さんの声を直接聞かせてくれとは言いません。ですが、せめてスピーカーを通した・・・・・・それが駄目ならミキシング後の声だけでも聞かせてもらえないでしょうか」

 それは恋に盲目になった男そのものの真摯な訴えだった。それをあからさまに見せつけられた福澤は諦観の溜息を吐く。

「俺は『ブラッディ・メイコ』のマスターだぞ?そんな風に言い出して満足するKAITOなんて一人もいやしねぇことは嫌というほど知っている」

 『ブラッディ・メイコ』――――――事件後に付けられた、咲音メイコの忌まわしい二つ名を出しながら福澤は黒服のカイトを睨みつける。

(駄目か―――――)

 福澤の事だ。一度決めたことは覆さないだろう。特に咲音に関わることならば――――――黒服のカイトが諦めた次の瞬間、社長が意外な言葉を吐き出した。

「仕方がない。本当は2ndとデュエットをさせようと思っていたが変更だ。お前もブースに入れ。メイコ、スコアデータをこいつに」

 2ndカイトとは副社長が所持しているカイトの事で、咲音とは幼馴染の間柄である。起動当初から一緒にいる為に互いに姉弟としての認識しかない分色気に欠けるが、咲音と組んでも暴走しないというメリットがある。
 だが、それを覆してまで目の前にいる黒服のカイトに歌わせる、というのはひとえに彼の真摯な眼差し故だろう。

「あ、ありがとうございます!絶対に期待に応えてみせます!」

 予想だにしなかった福澤の許可に、黒服のカイトは弾む声で深々と礼を述べた。



 静かなモーター音の中に時折人工羊水がぴちゃん、と跳ねる音だけが響く。インターフェイスから聞こえていた咲音の声が一瞬途切れ、メイコの耳にも現実の音がようやく入り込んできた。既に咲音の手足は殆ど無くなっており、作業もじきに終わるだろう。

「・・・・・・それにしてもそこまで強引にレコーディングに持ち込んじゃうとはねぇ。ヘタレがデフォのKAITOとは思えないんだけど」

「あら、粘着系と卑怯もKAITOの持ち味でしょ?」

 くすくすと笑い声がインターフェイス越しに響く。

「ボーカロイドの中でKAOTO型が一番自分の欲求に忠実よ。それはもう羨ましい限り・・・・・・人間に絶対服従の『いい子』のMEIKO型には出来ない真似だわ」

 咲音の呟きにメイコも苦笑いを浮かべる。

「確かにね。マスターや弟妹達に気を使って自分を殺してしまう『偽善者』が見習うべきものなのかもしれないけど・・・・・・ところでレコーディングは上手く行ったの?」

 メイコの質問に、咲音が今までとは明らかに違う声――――――まるでその名の通り花が咲くような弾んだ声でメイコに答えた。

「ええ。マスターが1stの調音に手間取って雅哉さんに手伝ってはもらったんだけど・・・・・・想像以上の出来に、本当は1曲だけの予定が3曲に増えちゃった」

 その結果にメイコは唖然とする。

「な、何で3曲に増えちゃったの?咲音さんのマスター、最初は渋っていたはずよね?」

「う~ん、どうなんだろう。それはマスターに聞かないと何とも言えないんだけど・・・・・・やっぱり何か感じるものがあったのかもしれない。それに私もね」

 少し言い淀みつつ、咲音は語り続ける。

「同じ『KAITO』でもこうも違うのかなぁ、って。エンジンの違いとか、マスターの調声の違いとかもあるのかもしれないけど・・・・・・幼馴染の2ndより、1stと合わせたほうが遥かに歌いやすかったの」

「あ、それはあるかもしれないわね」

 咲音の言葉にメイコは深く頷く。

「全部同じように作られているKAITOでもやっぱり違うしね。個体同志の相性は絶対にあるでしょう。それが『咲音メイコ』となれば・・・・・・相手を選ぶと思うな」

 メイコの言葉に咲音も同調する。

「やっぱりそうなのかな。もし運命のパートナーという存在が居るのならば、私にとっては1stなのかもしれない・・・・・・できればヘタレくらいのKAITOの方が好みなんだけどな」

「・・・・・・その点は大丈夫だと思う。新品のうちはどんなに格好良くてイケメンでも、そのうち勝手にヘタれていくから」

 何故か遠い目をしてメイコが呟いたその時である。

「末端解体終了、これから中枢部オーバーホールに入ります」

 終了ブザーと共にボーカロイドよりも遥かに機械的な音声がオペ室と待合室に流れた。

「じゃあ私はこれで失礼するわね。オーバーホールが終わった頃にまたこっちに来るから」

 オーバーホールの間は咲音の意識がシャットダウンされてしまう。管理は研究員が行うのでメイコがここにいる必要もない。メイコは咲音にお休みなさい、と告げると待合室を後にし、黒服のカイトがいる病室へと向かった。




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本当は前作『咲音メイコの回想』と一つだった筈の話なんですが、長くなりすぎて結局2回に分けてしまいました(^_^;)
もしpixivに掲載できるようなら『咲音メイコの回想』と『過ちの歌』は一話にまとめちゃうつもり・・・そんな感じで読んでいただけたらと思っております。

狙っていたとはいえ、咲音の生歌を聞いてしまった黒服のカイト、やはりただ聞くだけでは我慢できなかったようです。因みに拙宅のボカロ設定では『一緒に歌いたい=やりてぇ(おいっ)』的なノリですので・・・。
(ボカロ小説を目的にいらしている方に対しては下品で申し訳なく思っております。拙宅は一応『大人のための小説ブログ』ですのでエロやシモネタ平気で出てきます。お許しを><)
そんな黒服のカイトに対して一緒に歌うことを許してしまった福澤ですが、果たして彼がこれで満足できるのか否か・・・次回更新は4/3を予定しております♪

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