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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十三話 三条制札事件・其の壹

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 将軍崩御の告知による不穏な動きは新選組内の事だけではなかった。否、むしろ徳川の御代を好ましく思わない輩にとってはまたとない機会とも言える将軍崩御は、不穏分子の活動を活発にさせるまたとない呼び水であるといえるかもしれない。
 そんな呼び水に誘われたかのような、ささやかながら許されざる事件が起こったのは秋も深まりつつ日の事だった。



「何・・・・・・だって?また制札が引き抜かれた、だぁ?」

 不機嫌そのものの土方の声音に、報告に来た平隊士が怯えて肩を竦めてしまう。だが、ここで逃げ出すわけにも行かず、若い平隊士は怯えた様子を見せつつも事の次第を土方に報告した。

「は、はい。三日前に改めて建てられた三条大橋西詰の制札が再び打ち捨てられておりました。近隣に聞き込みを行った所、四人の浪士らしき男どもが周囲の石垣を乗り越え、制札を抜き取ったと・・・・・・」

 その瞬間、土方は思わず舌打ちをする。

「・・・・・・畜生、俺達や見廻組の監視の隙を突きやがって!判った、下がれ」

 人死にが出ているわけではないが、幕臣を志している者にとっては甚だ腹立たしい。土方は忌々しげに唸ると、報告に来た若い平隊士を下がらせた。



 最初に制札が引きぬかれ、三条小橋の下に隠すように捨てられていたのは八月二十八日の事である。将軍崩御が公になり、京洛が騒然としている中で起こってしまったその出来事は、幕府関係者に多大な衝撃を与えたのは言うまでもない。
 幕府が盤石であればこのような不埒な行動に走る輩は絶対にいない。だが、普通なら将軍崩御と同時に言い渡される次期将軍の名前は未だ上がらず、将軍職は空席のままだ。
 そんな不安定な幕府を揺さぶるかのような今回の事件、犯人の見当がつかないだけに苛立たしい。

「・・・・・・制札じゃなければ、呑めないお酒に酔った挙句、案山子を引っこ抜いてお兄さんに怒られてた土方さんとそう変わらないんですけどねぇ」

 会津から知らせが来たと副長室にやってきた沖田がのほほんとした口調で呟いた。その影には酔客とそう変わらぬ下らない真似で幕府側を翻弄する犯人に対しての苛立ちが見え隠れする。

「総司、てめぇ殴られてぇのか?」

 沖田の口調にかいま見える苛立ちに気づいているのかいないのか、道化にされた土方はぎろり、と沖田を睨んだ。だが、そんな睨みに慣れっこの沖田は相変わらずののほほんとした口調で切り返す。

「いいえ滅相もない。事実を述べただけですよ。今の不逞浪士達にとって制札は案山子ほどの意味しか持たない。むしろ自分達の気分を逆なでする鬱陶しいものとしか思っていないんじゃないでしょうか。でなければやらないでしょう、あんな馬鹿馬鹿しいこと」

 のんびりとした口調ながら、痛いところを突いてくる沖田の言葉に、土方は頷かざるをえない。

「・・・・・・まぁ、酔っぱらいが乗り越えていくには高すぎる石垣だしな」

 眉間に皺を寄せたまま、土方は腕組みをする。

「しかし次期大樹公も未だ決まらず、制札も引っこ抜かれる。長州討伐は不調と・・・・・・これではますます新選組の幕臣取り立ては遠のきそうですね」

 今まで同様緊張感のない、のほほんとした口調ながら、沖田の声の響きに嬉しさが滲み出した事に土方はすぐさま気がついた。

「嬉しそうに言うな、総司。確かに幕臣取り立てがなければお小夜さんと別れずに済むが・・・・・・近藤さんにバレたら事だぞ?」

 窘めるような口調の土方に、沖田は少し寂しげな笑みを浮かべる。

「勿論解っています。でも・・・・・・私にとっては今のままの立場がありがたいんです」

 総司は切なげに呟くと、不意に真顔になった。

「それよりも制札の件です。先程会津から知らせがありその旨について話があると」

 沖田の言葉に土方の表情も真剣味を帯び、心なしか声も低くなる。

「俺だけでいいのか?」

「・・・・・・というか、副長御自ら足を運ばずとも、ってところでしょうか。多分組長格の者でも構わないと思いますが、一応幕府の威信もかかっている事件ですのでねぇ」

 むしろ制札事件そのものより他の話のほうが重要かもしれないと、冗談半分に沖田は告げる。

「解った。お前も来い、総司。巡察は伍長に任せておけばいいだろう」

「承知。では下の者に伝えてきます」

 沖田は一礼すると部屋を後にした。



 土方と沖田が連れ立って黒谷に赴いた頃には昼間近となっていた。折角だからと簡単な昼餉を出されたあと、広沢と面会する。その事から鑑みても、伝達は必要だが火急のものではないということだろう。

「土方、沖田。実は誠に申し訳ないのだが・・・・・・」

 妙な低姿勢に奥歯に物が挟まったような物言いは、いつもの広沢らしくもない。その事にいち早く気がついた沖田がすかさず広沢に尋ねる。

「広沢さん、一体どうなさったのですか?三条の件でしたら今捜索を・・・・・・」

 そう言いかけた沖田の言葉を、広沢が遮る。

「いや、捜索もしてもらうんだが、幕府からの命令で新選組には『待ち伏せ』をしてもらうことになってしまって・・・・・・」

 言葉尻が尻すぼみに小さくなってゆく広沢に、土方は嫌な予感を覚えた。

「待ちぶせ・・・・・・とは?」

「う、うむ・・・・・・確かに捜索も大事ではあるが、このままではいたちごっこだ。そこで京都の警備にあたっている見廻組か奉行所か、新選組に高札場を見張ってもらうという形になったのだが・・・・・・」

「つまり、他の面々に押し切られて我々が見張りに就くことになったということですね?」

 沖田にしては珍しくきつい口調で広沢を責め立てた。いつ来るか判らない者を、否、見張りがいたらまずやってくることは無いであろう犯人をただひたすら待ち続けるだけの無意味な仕事――――――沖田にはそう思えたのだ。だが、土方の捉え方は沖田とはまるで違っていた。

「何だ、そんなことで宜しいのでしたらいくらでも。では制札が再び立ってから、ということで宜しいですね?」

 あっさりと広沢の提言を受けてしまい、具体的な話に踏み込み始めたのだ。それに驚いたのは沖田である。

「ち、ちょっと土方さん、何考えているんですか!そんなことをしたら絶対に犯人は来ないでしょう?」

 咎めるような口調で土方に迫る沖田だが、土方はにやりと意味深な笑みを浮かべて沖田をいなした。

「どうせ巡察で回るんだ。休憩がてら酒盛りでもしてりゃ時間なんて過ぎるだろ?」

 広沢も広沢なら土方も土方である。見張りを巡察のついで、しかも酒盛りまでさせかねない発言に沖田は目を白黒させる。しかも広沢はそれを咎めるような素振りさえ見せないのだ。

「まぁ、十日ほど見張りを付けておいてくれ。待っている間、酒盛りでも何でも構わない。要は『幕府の威信』だけ損なわぬようにしてくれれば問題ないのだから」

 どうやら制札への見張りは幕府の矜持のため、犯人なんて捕まるとは広沢も思っていないらしい。そもそも見張りが就いているところへわざわざ制札を抜きに来る大馬鹿もそういない。
 あくまでも『新選組が見張っている』という体裁が重要であって、酒を飲んでいようが寝ていようが構わないのであろう。

「・・・・・・判りました。お勤め果たさせていただきます」

 納得しかねるところは多々あったが、沖田も仕方なく了承した。



 制札警備を命じられた新選組は、いつでも包囲体制をとれるよう三条大橋を中心とした三拠点に隊士を配置した。普通なら一つの組が対応すれば充分な仕事、三隊もの配置は大仰過ぎるが、あくまでも幕府の威信を見せつけるためのものなのでこればかりは仕方がない。
 初日は三条会所に井上隊が、町屋に斉藤隊、そして酒屋に沖田隊が配置された上に、さらに斥候として名が配置されて犯人の出現を待ち構えている。

「は~い、これは副長からの差し入れです。泥酔しない程度に飲んでも構わないとのことですので、節度をわきまえて飲んでくださいね~」

 気の抜けた組長の言葉と、持ちだされた酒樽に隊士達は目を白黒させる。

「い、良いんですか、沖田先生?見張りの最中に飲んじまったら・・・・・・」

「大丈夫ですよ、ていうか、物々しい見張りをしていたら犯人は来ないじゃないですか~」

 既に酒が入っているのか、沖田の声はやけに間延びしている。否、全くやる気を見せていないのだ。沖田の部下達もようやくそれに気がつく。

「そもそもこんだけ見張りがへばりついている中、制札を引っこ抜きに来る物好きはいないでしょう。今日は私も飲みますよ。全く馬鹿馬鹿しい」

 そう言いつつ部下から盃を受け取ると、沖田は率先して酒を飲み始めた。それに追随する形で一番隊の面々も酒を飲み始める。

「沖田先生、本当に大丈夫ですか?」

 やはり不安に思ったのか、若い隊士の一人が恐る恐る沖田に尋ねた。だが沖田はへらへらした笑いを浮かべつつ事情を説明する。

「大丈夫ですよ。少なくとも今日はね・・・・・・もし来るとしたら三日三晩こ~んな調子で酒盛りを続けていたら、ってところでしょうか。隙がなけりゃわざわざ見張りがいる中、制札なんて引っこ抜きはしないでしょう」

 沖田の推測に、部下たちも思わず納得し、深く頷いた。

「まぁ確かに今までも人気のない時間帯に引っこ抜かれたりしていますしね。きっと気の小さいやつなんでしょう」

「で、酒を飲むとやたら気分がでかくなって、ってところかな?」

「間違いねぇ。こうなったら徹底的に飲みまくるぞ!」

 誰かの声にその場にいた全員が賛同四、大笑いが沸き起こる。かくして見張りという名の宴会は三箇所全てで三日三晩行われる事になった。



UP DATE 2014.4.5

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将軍崩御、長州討伐の終戦と大きな事件が相次ぐ中、起こってしまいました三条制札事件!しかし新選組の面々はあまりやる気を見せておりません。ていうか、制札を抜かれるのは問題がありますが、やっていることは酔っぱらいの悪戯とほぼ変わらず・・・昔酔っ払うとペコちゃんとかバス停とかポストなんて移動させちゃう酔っぱらいのおじさんがよくいましたが、多分そんな感じなんだろうと踏んでいたのでしょう。詳細は割愛しますが、三条制札事件の結末にもそんな空気がにじみ出ているような気がしまして、今回こんな展開にさせてもらいました。てか、あれだけ大勢の隊士を見張りに当たらせておきながら犯人に逃げられるとかあり得ないでしょ・・・池田屋のやる気はどこへ言った(T_T)

次回更新は4/12、三条制札事件当日、というかサノを中心とした捕物を書きたいと思っておりますv
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