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réincarnation

ボカロ小説 réincarnation9~黒き捕食者

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 咲音の妹である1stミクを中心に事務所所属の5人のミク達が出演したミク生誕祭は盛況の内に幕を閉じた。
 特に1stミクが担当したデュエット曲は、前日の出演者変更だったにも拘らず極めて良い出来で、関係者並びにファン達は『1stよりミクの声の魅力をより引き立てる2ndとのデュエットの方が良い』と言い出す始末だ。

「昔はここまでじゃ無かったんだがな・・・・・・2ndも1stに負けじと実力をつけてきたか」

 この評判に気を良くした福澤と副社長は、打ち上げの最中であるにも拘らず二人のデュエット曲のリリースを画策し始めスタッフを呆れさせる。そんな中、咲音は妹の1stミクに寄り添いつつ、ボーカロイドにだけしか聞こえない声で囁いた。

「良かったわね、ミク。予想よりも遥かに高評価で」

 真紅のロングドレスを身にまとった咲音の賛辞に、ふわりとした真っ白なミニドレス姿の1stミクも嬉しげに破顔する。

「うん!これもお兄ちゃんのおかげかな?後でちゃんとお礼しないと」

 頬を赤らめつつ咲音に告げるその姿は、恋する乙女そのものだ。人間の少女と何ら変わらぬその初々しい仕草に、咲音は自分の予想を確信に変えてゆく。

(うん、間違いない。きっとミクもカイトの事が好きなのね)

 咲音はミクの頭を撫でつつ、慈愛に満ちた笑みを恋する妹に向けた。
 そもそも咲音としては、妹のミクが何故素行の悪い1stカイトと交際に踏み切ったのか、付き合い始め当初理解に苦しんだ。だが、叶わぬ恋に苦しんでいたとしたら――――――。

(同じ顔をした男に甘い言葉をかけられたら、間違いなく恋の経験に乏しいミクじゃそっちに流れちゃうわよね)

 だが、今はそんな邪魔者も向こうから消えてくれた。この機会を逃す手はないと、咲音は早速ミクの耳許で囁く。

「ねぇ、ミク?もしかしてあなた・・・・・・カイトのこと、好きでしょ?」

 その瞬間、ミクは長い髪の毛を逆立てるほど驚き、茹で蛸のように真っ赤になる。が、しかし次の瞬間、上目遣いで咲音を見つめながらしょんぼりと項垂れた。

「でも・・・・・お兄ちゃんとお姉ちゃん、付き合っているんでしょ?ミクがその邪魔をするのは絶対にやだ」

「はぁ?私があいつとぉ?」

 1stミクの一言に思わず元アイドルらしからぬ素っ頓狂な声を上げてしまった咲音は、慌てて自分の口を塞ぐ。

「ち、ちょっとミク待ちなさい!何でそんなことになるよの!」

「だってお姉ちゃん、お兄ちゃんとしかデュエットしないし、マスターも公認みたいだし・・・・・・」

 自分の恋より姉や愛しい人の想いを優先する妹のいじらしさに、咲音は思わず1stミクをぎゅっ、と抱きしめた。そしてまるで恋人に囁くような甘い声で妹に事実をゆっくりと語り始める。

「ご期待に添えなくて悪いけど、私とカイトは付き合ってなんかいないわ。あなたも聞いたことがあるかもしれないけど『ブラッディ・ライブ』、あれが原因で互いに恋愛感情を抱かないあいつとしか私は一緒に歌えないの。そもそもあいつとは姉弟みたいに育っているし・・・・・・付き合うとか無いから」

 だから私に遠慮をすることはないの――――――咲音はそう締めくくる。そして抱きしめられたまま咲音の言葉を理解したその瞬間、ミクの表情はぱぁっ、と花が咲いたように明るくなった。

「だったら私にも少しは可能性があるってこと?」

「少しじゃないわよ。あいつ、ミクしか目に入ってないミク厨だからあなたの恋は絶対に叶うわよ!」

 咲音はウィンクで1stミクに応えると、不意に真顔になる。ここからは真剣な話をしなくてはいけない。

「ねぇ、ミク。あなたも聞いていると思うけど、私はV3エンジンの関係で明日からラボに入るから・・・・・で、万が一、V3の開発に失敗して『私』がいなくなっても、カイトと一緒にこの事務所を、そしてマスターを支えてほしいの。あなたにはいつも重荷を背負わせてしまって申し訳ないけど・・・・・・」

「そんなことは無いよ、お姉ちゃん!ミク、重荷だなんてこれっぽっちも思っていないから!」

 1stミクは咲音を心配させまいとぶんぶんと首を横に振る。だが、その否定の言葉とは裏腹に、その目には今にも零れ落ちそうなほど涙が目一杯溜まっていた。

「私もお兄ちゃんも事務所を守るから・・・・・・いい子にしているから。だから絶対、絶対に帰ってきてよ!」

 1stミクは彼女なりに頑張っていたのだろう。だが、咲音に掛けられた言葉によってその我慢が限界に達してしまったらしい。元々甘えん坊の可愛い妹はわっ、と泣き出し咲音にしがみついた。

「ええ、きっと帰ってくるから・・・・・・だからカイトと仲良くね」

 罪悪感を隠しつつ、咲音はミクを抱きしめる。女性の咲音から見ても1stミクの肩はあまりにも華奢だ。本来咲音自身が背負うべき重荷を今までも、そしてこれからも背負わせてしまう事を心中で詫びながら、咲音は更に強く妹の体を抱きしめた。



 華やかな打ち上げパーティの後、普段着に着替えた咲音は一人帰路についた。ボーカロイドとはいえ夜中に女性が一人歩きをするのは如何なものかと眉を顰めるマネージャーの静止を振り切ってしまったことには少々後ろめたさを感じる。しかし打ち上げ会場でもある事務所から自宅マンションまでは徒歩3分、万が一危険があってもボーカロイドが本気で叫べば事務所に声が届く距離だ。そしていつもどおり何の問題もなく自宅マンションに到着し、浮かれた気分のままの咲音がオートロックを開けようとしたその時である。

「おい、メイコ――――――遅かったな。打ち上げはそんなに盛り上がっていたのか?」

 聞き覚えのある声が咲音を呼ぶと同時に背後から強く肩を掴まれた。掴まれた肩の痛みに咲音は一瞬顔をしかめるが、そのまま振り返りもせず咲音は背後の人物に語りかける。

「あら、私の妹の相手をすっぽかしておいてよく言えたものね。昨日今日と一体どこに消えていたのよ1st?」

 どこまでも冷ややかな声で咲音が問いかけた相手、それは黒服のカイトであった。彼のマスターの雅哉でさえ昨日から彼の行動を把握できなかったというのに、こんなところで出くわすとは・・・・・・咲音はバッグに手を忍ばせ、スマホを探る。道端であれば大声を出すことも可能だが、マンション内では他の住人に迷惑がかかる。きっと背後にいる黒服のカイトもその辺を考慮してこの場所で待ち伏せていたのだろう。
 勿論スマホを取り出し、直接助けを求めるのは無理だが、たとえバッグの中でも回線さえ繋げば、事務所のボーカロイドの誰かが音を拾ってこちらに駆けつけてくれるに違いない。だが、そんな咲音の行動も黒服のカイトに読まれていた。

「別に。近場をふらついていただけさ。GPSを切ってはいたけど、まさか本当に見つけられないとは人間も退化しているというか・・・・・・おっと、助けを呼ぶのはナシだぜ」

 咲音の動きに感づいた黒服のカイト、は咲音のバッグを取り上げ床に投げ捨てる。そして咲音の両手首を片手で掴むとそのまま咲音の身体を壁に押し付けた。

「ち、ちょっと離しなさいよ!」

 身の危険を感じた咲音が暴れて黒服のカイトから逃れようとするが、咲音の両手首を掴んだ手は緩むことは無く、黒服のカイトはさらに己の身体を咲音に密着させてくる。アバクロのフィアースだろうか、男性的な強い香りが咲音を包み込み、状況を思い知らされた咲音は思わず黒服のカイトから顔を背けた。

「やだね。やっと二人きりになれたんだ。これからが本番だろ?」

 顔を背けたことで露わになった咲音の耳朶に、黒服のカイトが艶かしく囁く。いつになく甘ったるいその声に反応して、咲音の背筋になんともいえないぞわり、とした感触が走り抜ける。

「ま、あんたが嫌なら無理強いはしないけど・・・・・・その代わりこいつをネットに流出させるぜ」

 カイトは自分の尻ポケットからスマホを取り出すと、一枚の画像を表示して咲音の目の前に突きつけた。その画像を見た瞬間、咲音は驚愕に目を丸くする。

「ち、ちょっと、こ、これ何よ!」

 それは全裸でベッドに横たわっている『初音ミク』の画像だった。確かに黒服のカイトと咲音の妹である1stミクは交際していたが、まさかこんな画像を持っていたとは・・・・・・咲音は悔しさに唇を噛みしめる。

「偽物だと思っても構わないぜ。何せ『ミク』はボカロの中で一番出荷されているんだし、ググればこんな画像いくらでも出てくる。だけど、俺の名前でこいつを流せば、本物はどうであれうちの事務所の、しかも1stの『初音ミク』だと・・・・・・」

「や、やめて!な、何でもするから・・・・・・ミクだけは巻き込まないで!」

 いくらでも画像が合成できるこの時代、重要なのは情報源なのだ。喩え真っ赤な偽物であっても以前の恋人が『ネタ元』であるという事実が価値を生む。突きつけられた事実に咲音は己の負けを認めざるを得ない。
 これ以上、大事な妹を巻き込んではならない――――――涙をぽろぽろと流しながら咲音は黒服のカイトに懇願する。

「解ればいいんだよ、解れば」

 獲物を狙う肉食獣の笑みを口の端に浮かべつつ、黒服のカイトは喰らいつくように咲音の唇を奪い、強引に貪り始めた。



「・・・・・・姉ちゃんたちがいなくてよかったな。こんな話を聞いたら間違いなくあんた、フルボッコにされてるぜ」

 話の途中で病室に入ってきたレンの一言に、兄のカイトも苦笑いを浮かべざるを得なかった。

「まぁ、確かにうちの女性陣は事務所所属のボーカロイドよりもかなり気性が荒いからね。手足をもがれるくらいは覚悟しておいたほうがいいかも。勿論僕らとばっちりを受けたくないからは黙っているけどさ」

 女系家族の中の男性は色々大変なんだよとカイトは肩を竦める。そんなカイトに対し、黒服のカイトも苦笑いを浮かべつつ軽く頷いた。

「それくらいは覚悟しているさ。いくら『卑怯』がカイトのデフォだって言っても、やってはいけないことをやらかした・・・・・・自業自得、さ」

 缶コーヒーを飲み干した黒服のカイトは、ベッドの上で大きな伸びをする。

「確か咲音の解体・再構築は明日からだったよな?俺がラボに入院している間だけでも見学できないか、聞いてみようかと思う」

 その瞬間、カイトの口許に浮かんでいた笑みが消えた。

「正直・・・・・・あまり見ないほうがいいと思うけど。既に外見は咲音さんじゃないよ」

 ボーカロイドとはいえ女性である。全裸以上に身体をさらけ出された、中枢だけの状態を男性に見られたい者などいないだろう。実際カイトやレンも咲音の申し出により面会は遠慮している。だが、黒服のカイトは首を横に振ってその忠告を拒絶した。

「外見がどうであれ、あいつはあいつだ――――――もし今の姿が見られたくないっていうんなら意識が無いときに覗きに行く。どうしても・・・・・・諦めきれないんだ」

 どんなに拒絶されてもなお『運命の女性(MEIKO)』を求めてしまう――――――それはKAITOの本能なのか、それとも目の前に居る黒服のカイトだけの異常な執着なのか。

(カイ兄なら・・・・・・理解できるのかな)

 自分には到底理解できない激しい感情を前にして、レンは戸惑いを覚えずにはいられなかった。




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何とか事なきを得た上に咲音の妹ミクと2ndカイトが結ばれそうというミク生誕祭が終わったと思ったら、さらなる危機が咲音を襲いました(>_<)黒服のカイトは一体どこをほっつき歩いていたのか・・・多分自らのGPSを切った上でテキトーにナンパした女の子と【自主規制】をしていたのでしょう(-_-;)それが一番足がつきにくいでしょうし(おいっ)
そしてそんなろくでなしに捕まってしまった上、明らかに偽物だと思われるトンデモ画像に脅され咲音は黒服のカイトの言うことを聞かざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。この後は・・・ゴメンナサイ、次回は『事後』から開始です。一応全年齢のつもりで書いている(色々突っ込みどころはあると思いますがそれはなしで^^;)のと、話の流れがエロシーンで淀んでしまうのをちょいと避けたいので今回は本番シーンをスルーさせていただきます。書くとしたら一旦この話を終わらせてから『番外』として書くかも・・・・・。

次回更新は4/10、咲音&メイコの会話から事後~ラボへ来るまでの話になります。次回で回想シーンがようやく終わる~♡
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