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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十四話 三条制札事件・其の貳

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 それは中秋の名月を三日後に控えた九月十二日のことであった。三条大橋警備が始まってから三日目、この日も各所では芸妓や娼妓がいないだけましという派手な酒盛りが各所で繰り広げられていた。
 武器の準備も豊富な三条会所には原田隊の十二名、その会所とは橋を挟んで反対側にある町家には大石鍬次郎が率いる大石隊十名、そして会所からほど近い酒屋には新井忠雄が率いる新井隊十二名が配置されている。それとは別に制札場から近い場所で監視する為、斥候として隊士ながら品行不良で一時脱退扱いをされていた浅野薫とつい先月入隊したばかりの仮隊士・橋本会助が配置されていた。
 大仰過ぎる三十数人の警備だがこれらはあくまでも『張子の虎』、大勢の新選組隊士が警備に当たっているということを知らしめる目的の大人数であるため、その内容はお粗末なものだ。実質見張りは斥候の二人に押し付け、他の隊士はひたすら酒宴に明け暮れている。しかも何故か本来の当番ではない隊士も只酒飲みたさに混じっているという有り様だ。

「ほ~ら、飲みまくれ!あの鬼の副長のお許しだ!いくらでも飲んで構わねぇぞ!お、今日はおめぇも来ていたのか!まぁいいっていいって!」

 三条会所の原田は自ら柄杓を持ち、升を手にした平隊士に酒を注いでいる。あまり酒の呑めない者は会所の入り口脇で吐き散らかしたり、室内に戻ろうと土間に入ったもののそこで力尽きて倒れていたりした。

「はらだしぇんしぇ~、不逞浪士が来る前に中村が倒れていますが、こいつ、ろうしますかぁ~?」

 土間で倒れている隊士の頭を乱暴にひっぱたきながら、隊士の一人が原田に尋ねる。

「そいつは放っておけ!三十人以上の新選組隊士が張っているんだ。制札引っこ抜き野郎なんざ臆病風吹かせて来るわけがねぇ!」

「ははは~それもそうれすねぇ~!はらだしゃんしぇ~、おかわりくらさ~い!」

「おうよ!それにしてもいい飲みっぷりだな!気に入ったぜ!」

 泥酔している部下の肩をバンバンと叩きながら原田は升に酒を溢れさせ、自らは直接柄杓で酒を飲んだ。組長自ら部下に酒を勧める――――――これでもひどい有様だが、まだ『頭』である原田が起きていただけ三条会所はましだった。他はもっとひどい有様で、特に酒屋に陣取っていた新井隊に至ってはまとめ役である新井自らが泥酔し、寝込んでしまったほどである。
 このひどい有様の監視の中、酒を飲んでいなかったのは斥候として橋の下で張り込んでいた斥候の浅野と橋本だけだった。特に橋本は入隊したてで、いち早く手柄を立てたくて仕方ないとばかりにそわそわと制札場を見つめている。

「おい橋本、少し落ち着いたらどうだ?皆飲んだくれて酔いつぶれていると言っても新選組が見張っているんだ。後ろ暗い奴がそうそう近づこうとは思わないだろうし、制札を引っこ抜こうなんてあり得ないだろう」

 夜はまだまだ長い。気を張りすぎてしまっては元も子もないと浅野は橋本に忠告するが、橋本は頑なに首を横に振った。

「剣術もまともに習ったことがない俺ができることって言ったらこれくらいしか無いんです!だからせめて見張りぐらいはきっちりとやりたくて・・・・・・浅野さん、もし何でしたら今のうちに寝ていてください。俺は暫く起きていますから!」

 ともすると空回りしかねないほどのやる気を見せる橋本に半ば呆れつつ、そのやる気に水を差すことは無いだろうと橋本の申し出を素直に受けた。

「そうか。じゃあ遠慮無く寝かせてもらうぞ」

 浅野は橋本に後を任せると、早々に菰にくるまり横になった。

「さぁて、頑張って手柄を立てて、故郷に錦を飾るぞ!」

 鼻息も荒く橋本は再び制札場を覗きに行く。すっかりだらけきった隊士達の中、一人生真面目に任務を遂行する橋本だったが、夜半過ぎこのやる気が報われる事態が起こることになる。




 十二夜の月が西の空に少しだけ傾きかけた頃、闇の塊が蠢くのに橋本は気がついた。

「な、何だ、あれは?」

 ごしごしと目を擦りながら橋本は更に目を凝らす。すると月明かりに薄ぼんやりと人影らしきものが浮かび上がった。人数的には七、八人程度、提灯さえ持たないその集団は、濃い色の着物を身につけているらしく闇に紛れて見えづらい。息を詰めながら橋本が見つめる中、その集団の中の二人が制札場の石垣に足をかけ、よじ登り始める。

「引き抜きの下手人か!」

 橋本は慌てて三条大橋の下で眠っている浅野の傍に駆け寄り、制札場の集団に聞こえぬようその身体を揺すって起こそうとするが、浅野は深い眠りから覚めようともしない。

「浅野さん、起きてくださいよ・・・・・・仕方ないや、ここから一番近いのは新井先生の居る酒屋か・・・・・・」

 このままでは引き抜き犯に逃げられてしまう。橋本は浅野を起こすことを諦め、新井隊がいる酒屋へと走りだした。



 橋本が新井隊を呼びに走りだした丁度その頃、三条会所で飲んでいた原田は酔いを覚ますため川風に当たろうと鴨川の川縁まで出てきていた。そして偶然にも制札場の石垣をよじ登り、その上に立ちはだかる人影を見つけたのである。月明かりで影になり顔はよく見えないが、大小を腰に差しているところを見ると浪士ではなく仕官している武士のようである。

「ちっ、浪士だったら問答無用で斬り捨てられるのに。近藤さん、土方さん、後々の尻拭いは頼んだぜ!」

 幕府の制札を引き抜いたとはいえ、大名に使えている藩士に怪我でもさせたら厄介な責任問題に発展しかねない。取り敢えず殺さない程度には手加減するように部下に伝えなければならない。

「おい、野郎ども!制札引き抜きの下手人がようやくお目見えだぜ!起きている奴ぁ俺に続け!ただし二本差しなんで殺すなよ!」

 原田の怒鳴り声とともに三条会所にいた男達は雄叫びを上げ、一斉に三条制札場へと飛び出してゆく。そして男達が駆け寄ってくる新選組の存在に気づいた瞬間、原田が手にしていた『誠』と染め抜かれた提灯を高く掲げた。

「新選組だ!神妙にしやがれ!」

 原田のよく通る声が月夜に響き渡る。その声に反応した石垣の上の人物がすらり、と刀を引き抜ながらき石垣から飛び降りた。やけに長いその刀身は勤王刀だろう。

「なにくそ!新選組なぞ血祭りにしちゃるき!」

 いがらっぽいその声が発したのは土佐弁―――――ある程度予想はしていたが、厄介であることには何ら変わりがない。

「土佐者か!何度も何度も性懲りもなく下らねぇことやりやがって!とっととお縄に付きがやれ!」

 原田は舌打ちと共に男を一喝し、一気に間合いを縮めると石垣から飛び降りてきた男と切り結んだ。


カキン!


 耳障りな金属音が月夜に響き、それを合図に原田隊と石垣の周辺に屯していた男達が乱闘の形にもつれ込んだ。敵の人数は八人、それに対して原田隊は本来十二名居るはずが、泥酔して会所から出てこれないものが四名ほどいた。つまり人数的には全くの同数だ。
 しかし酒に酔っている分、原田隊は戦力が落ちている。相手に多少の怪我は負わせたものの、どちらかというと押され気味に戦いは続く。

「畜生!大石や新井をまだ来ねぇのかよ!」

 力任せに重たい勤王刀で押してくる相手に手こずりながら原田が悲鳴を上げた。その時である

「原田さん済まない、遅くなった!新井忠雄、参る!」

 酒に焼けた声でがなりたてたのは酒屋で待機していた新井達であった。しかしこちらも十人ほどいるはずなのに五名ほどしかやってこないばかりか、新井からして千鳥足だ。これでは戦力どころか足手まといにしかならない。

「おい、新井大丈夫か?それより大石隊はまだなのか!畜生、斥候は何をやっているんだ!」

 喚く原田に、加勢をし始めた新井が答える。

「今、俺達を呼びに来た橋本が大石隊を呼びに行っている!ていうか、原田さんのところに浅野が行ったんじゃないのか?」

 新井の思いがけない返事に、原田は闘いながら目を丸くする。

「いや・・・・・・俺が偶然酔いざましで表に出た時に、こいつらが石垣によじ登っていたんだ!ていうか、橋本があんたと大石を呼びに行ったってことは、浅野は何していやがる!戦いにも参加しねぇで・・・・・うおっ!」

 相手に踏み込まれ、原田は思わず仰け反る。普段ならそんな失態はしないのだが、酔っている上に喋りながらの戦いで刀の扱いが鈍くなってしまったようだ。そしてそれは他の隊士にも同じことはいえ、敵にうまくあしらわれては地べたに転がるという失態を犯していた。

「おまんら、逃げろ!」

 不意に原田と切り結んでいた男が仲間に叫ぶ。原田達の会話からまだ待機している新選組隊士がいることを悟ったらしい。今はまだしも、援軍が来たら勝ち目はないと叫んだ主犯格らしき男の言葉に、他の者達は一斉に原田たちとは反対側へと逃げ出した。

「逃すか!・・・・・・大石達はまだか!」

 せめて橋を渡り切る前に大石隊が来てくれれば逃げ道を塞ぐことは可能だ。だがしかしその様子は全くなく、八人のうち五人は橋を渡りきり、てんでんばらばらに逃げてゆく。本来なら挟み撃ちにして犯人を包囲する予定だったのが全て台無しである。

「畜生!逃すか!」

 原田や新井、そして新選組隊士達は逃げた男達を追いかけようとするが、先程原田と切り結んでいた男とあと二人、合計三人が仁王立ちになってその道を塞いだ。

「わしがいる限り、おんしらを通すわけには行かんきに」

 ぎらり、と刀に月明かりを反射させつつ男は唸る。どうやら仲間を守るためここで戦い、逃げる時間を稼ごうというのだろう。その侠気に原田はニヤリと笑う。

「言ってくれるじゃねぇか。新選組の原田左之助を相手に大口叩いたことを後悔させてやろうか?」

 だが男は原田の口上に怯むどころか、むしろ嬉しげな笑みさえ浮かべている。

「おんしこそ安藤鎌次を相手に刃を向けたことを後悔しなや!」

 不敵な笑みを浮かべて安藤と名乗った男は刀の柄を握り直す。冬の訪れを予感させる冷たい川風が吹き抜ける中、張り詰めた緊張感が夜を支配した。



UP DATE 2014.4.12

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新選組が見張りをはじめてから3日目、予想より早く制札引っこ抜き犯が登場いたしました♪これは絶対に新選組が真面目に警備なんてしていないと判っていたからでしょう。でなければこの1/3の人数の警備だって攘夷志士は近づかないと思われます。ええ、決して徳川家や幕府の権威が失墜したからではないはず(^_^;)
案の定泥酔状態の新選組は八人の内五人を取り逃がしてしまいますが・・・果たしてこの結末やいかに?

次回更新は4/19、原田vs安藤鎌次の対決をお送りします♪
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