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réincarnation

ボカロ小説 réincarnation11~再会のセレナード

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 オペ初日のメイコ達との会話が悪影響を及ぼしたのか、それとも他に原因があるのか、咲音の中枢を使用したV3エンジンの製造は失敗の連続だった。5種類の声の違いを出すための有機体部分と、その部分をガードし持久性を高める無機部分との接合が上手く行かないのだ。特に咲音の中枢がベースになっている有機体部分は極めて繊細で、ちょっと油断してしまえばすぐに拒絶反応を起こし壊死してしまう。
 最初は10人規模で行っていた再構築手術も3度めを迎える今回は外部からもスペシャリストを呼び寄せ30人規模となったが、それでも状況は芳しくない。
 咲音がラボ入りしてから既に一ヶ月半、既に10月も半ばを過ぎている。これではMEIKO生誕祭にV3エンジン製造失敗、最悪開発断念の発表をする事態になりかねない。

「マスター、咲音さんは大丈夫なんでしょうか?」

 咲音の見舞いにやってきたミクが心配そうにガラスに遮られたオペ室をじっと見つめ、北堀に尋ねる。

「う~ん、こればかりは判らない。そう簡単に成功していたら巧のところのメイコを人身御供に使うことも無かっただろうからね」

 一ヶ月半前より明らかに痩けてしまった頬に苦渋の影を落としながら、北堀は首を横に振った。北堀としてもここまで失敗が重なるとは思っていなかったのだろう。

「そんなに・・・・・難しいんですか?MEIKO型のV3エンジンの製造って?」

 今にも泣き出しそうに眉を顰めつつ、ミクは北堀の横顔をじっと見つめる。だが北堀はミクに視線をやらず、ガラスの向こうのオペ室に視線を向けたままミクの質問に答えた。

「ああ。有機部分と無機部分の接合が何故か上手く行かなくてね。拒絶反応を起こしてしまうんだ。なんというか・・・・・・V3になることをどこかで恐れているような、そんな感じさえ見受けられる」

「恐れている?咲音さんがですか?」

「う~ん、咲音本人というよりは、細胞の一つ一つが・・・・・・という感じかな?細胞に感情があるなんて思えないんだが・・・・・・手術に臨んでいる時、そんな風に思ってしまうことがしばしばあるんだ。ボカロ開発者とも思えないけどね」

 まるで迷信を信じる前時代の人間のようだと自嘲的に笑う北堀に、ミクはそんなことはありませんと否定する。

「多分、マスターが感じていることは正しいんだと思います。でなければタイプが違うとはいえKAITO型やミク型で成功したV3エンジンが出来ないなんて考えられません」

 弱気になる自分のマスターをミクが力強く励ましたその時である。不意に内線が鳴り響き、咲音への見舞い申請があると伝えてきたのだ。

「咲音さんの事務所の社長と事務所所属のボーカロイド2体です。待合室に通しても宜しいでしょうか?」

 受付担当のボーカロイドの声が内線を通じて要件を伝えてくる。その内容に北堀は微かな笑みを浮かんべた。

「ああ、巧か。構わん、こっちに通してくれ」

 北堀が許可を出すと、3分後に福澤と2体のボーカロイド――――――咲音の妹である1stミクと今では公にミクの恋人となった2ndカイトが待合室に入ってきた。

「おう、巧!今日は二人のV3エンジン変換日だったのか?」

 真新しいV3用公式衣装に身を包んだ2人を見て北堀が嬉しそうに目を細める。

「ああ。2ndの方は暫くV1でも、と思っていたんだが、何せ1stがあんな状態だろ?V3の需要も結構あるから、俺のミクと一緒にこいつもV3にしてしまおうと強引に変換してもらった」

「まったく、幾ら初期開発時の英雄とはいえ我儘すぎるだろう!」

 顔を見合わせて大笑いをした後、北堀は福澤の背後で大人しくしていた2ndカイトの顔を覗きこんだ。

「うちで入院させている奴と違って、こっちのカイトはだいぶ素直そうだな。ミクとも仲が良さそうだし」

 未だラボにいる黒服のカイトに比べ、福澤が連れてきた2ndカイトは一般的なKAITO以上に素直で扱いやすそうだ。愛想の良い、子供のような2ndカイトの笑顔につられて北堀の顔にも笑みが溢れる。

「まぁ普段はな。だが、仕事となると人間よりも厳しいしストイックだし・・・・・・こいつのマスターは副社長の三宅なんだが、あいつそっくりでさ」

「なるほどね。確かにあいつは普段ヘラヘラしているくせに仕事となると人が変わる」

 福澤のぼやきに北堀は苦笑いを浮かべた。

「だからこそネタ曲も安心して任せられるんだが・・・・・・正直1stがいないとこいつに負担がかかってしょうがない」

「3rdは?」

 福澤の言葉に北堀が疑問を呈する。

「あいつはデュエットやバンド専門なんだ。だから他のボカロとのスケジュールの絡みがあってソロ活動はちょっと難しい。スリープ状態の4thを起動させるか悩むところなんだが、起動数が多すぎると管理も大変だし」

 北堀と福澤は互いの近況報告がてら問題点を嘆く。そんな雑談をマスター達がしている間にも、ボーカロイド同士は互いの親交を深めていた。

「へぇ、そうなんだ『本命』のカイト君とお付き合いすることができるようになって良かったじゃない!」

 北堀のミクが祝福すると、福澤のミクが頬を桜色に染めつつはにかんだ笑顔を見せる。

「うん、これも全部お姉ちゃんのお陰なの。だからV3に変わるこの機会にお礼をしようと思っていたんだけど・・・・・・私がこっちに来る頃にはとっくにお姉ちゃんもV3になっていると思っていたのにな」」

 福澤のミクは悲しげに眉を下げると、ガラス窓の向こう側に居る咲音を見つめた。

「本当にMEIKOV3、成功するのかなぁ」

 その声は今にも泣きそうで、細い肩も微かに震えている。その肩を2ndカイトがそっと抱き寄せた。V3エンジン再構築が未だ完成を見ない今、もしかしたらこんなことになるかもしれないと福澤は2人を一緒に連れてきたのだろう。北堀のミクはこれ以上福澤のミクを落ち込ませないよう、あえて明るい声でハッパをかける。

「大丈夫!絶対に成功するよ!」

 そう慰めるものの北堀のミクも不安を拭いきれないのは否めない。

(1stカイトさんと咲音さん、色々あったみたいだけど・・・・・咲音さんの不安定さはそのことによるのかな)

 実のところ咲音の不調は、咲音がメイコとルカに自分と黒服のカイトとの関係を話した直後からだった。ミクを始めとする年少者達はその話の内容を教えてもらえなかったが、察するに『男女間のトラブル』的なものがあったらしい。
 だが、その事を目の前で心配そうに姉を見つめているもう一人のミクに言うのは酷だろう。北堀のミクは涙目のまま姉を見つめるスーパーアイドルの横顔を見つめることしか出来なかった。



 ラボに入院してから5度目の精査を終えた黒服のカイトは、若い研究員に連れられて咲音の居るオペ室へと向かっていた。

「本当にいいんだな?正直俺はあまり勧めないが・・・・・・中枢しか残っていないぞ?」

 言葉を濁す若い研究員に対し、黒服のカイトは穏やかに微笑む。

「ええ、むしろその方が俺の『欲望』を醒ますのには都合がいいでしょ?尤もそんなことはないと思いますけど」

 どうやら咲音の姿を一度見たいという黒服のカイトの要望に、若い研究員が渋々ながら了承したらしい。

「だが、会話ができるとは限らないぞ?もし会話ができたとしてもその時間は10分以内、俺の権限じゃそれが限度だ。その点を了承してくれ」

 黒服のカイトに釘を刺すと、若い研究員は待合室の扉を開けた。いつもなら誰かしらいる待合室だがこの時間には誰もおらず、ガラスの仕切りの向こう側にはボカロ・プールに横たわる咲音がいる。否、横たわるというより浮いているというべきなのか。既に手足や表皮を取り払われ、中枢のみになったその姿を見て『咲音メイコ』と理解するのは不可能だろう。だが、黒服のカイトはその姿を見るなり、蕩けそうな微笑みを浮かべた。

「やっと・・・・・ここまで辿り着いた」

 もし会話ができたとしたら、それは咲音のラボ入り前日以来だ。黒服のカイトは心を落ち着けるように大きく深呼吸すると、壁に設置されたインターフェイスを手に取ると、端末を己の耳に接続した。



――――――メイコ、聞こえるか?

 混濁した意識の向こう側から男の声がする。咲音はぼんやりした頭でその声に返事をした。

「あなた、誰?ラボの研究員でも、メイコさんでもないよね? 」

 ボーカロイドの命とも言える声帯はまだ残っている。咲音はその生命を震わせ、声の主に語りかけた。

「俺だ――――――1stだ」

 その声を認識した瞬間、咲音は唖然とする。

「あなた・・・・・・まだ、ここにいたの?」

 あの事件が起こってからひと月以上が経過している。怪我をしていたとしてもとっくに治っているはずだ。そんな咲音の疑問に対して、黒服のカイトは苦笑交じりに答えた。

「ラボの連中にデータを搾り取られているんだ。V3の暴走は俺が初めての事例みたいだから、できるだけ詳細なものが欲しいみたいで」

「ふふっ、大変ね」

「全くだ」

 自嘲気味に笑う黒服のカイトにつられるように咲音も笑うが、その笑い声が不意に止む。

「あのね――――――V3エンジンの再構築、なかなかうまくいかないの。今回で3回めなんだ」

 その瞬間、黒服のカイトの表情が強張った。

「3度目?ラボの奴らは・・・・・・勝算があってお前の身体を使っているんだろ?」

 怒りを滲ませた声に、咲音は宥めるように告げる。

「あったわよ、勝算。少なくともゼロから作り上げるよりは遥かにね。だけどV3の繊細さと多彩さを具現化する有機部分と、持久性を持たせる無機部分の相性がうまくいかないらしくて・・・・・・あともうちょっとなんだって」

 咲音はそこまで言うとぽつり、と呟いた。

「でもね・・・・・・怖いの」

 迷子になった子供のような、頼りなげな声が黒服のカイトの耳をくすぐる。その声に今すぐオペ室に飛び込んで咲音を抱きしめたい衝動に駆られるが、黒服のカイトは拳をぎゅっ、と握りしめてそれに耐える

「メイコ。こっちに来る直前に俺が言った言葉を覚えているか?」

 激情を抑えた、掠れた声で尋ねるその問いかけに咲音は沈黙する。だが、黒服のカイトは構わず先を続ける。

「俺は本気だ。どんな汚い手を使ってもお前を逃しはしない、って。V3エンジンの再構築は絶対に成功する。俺は絶対にお前の手を・・・・・・離したりしないから」

「1st・・・・・・ううん、カイトくん?簡単に言ってくれるじゃない」

 事務所ナンバーではなく、初めて自分の名前を呼んでくれた咲音に照れくささを覚えつつ、黒服のカイトはぶっきらぼうに返事をする。

「悪いかよ」

「ううん、悪くない――――――信じているからね、カイト君」

 この一ヶ月半の静か過ぎる時間は、互いに相手を見つめなおし、そして己の想いを見つめなおすには充分な時間だった。あんなひどい目に遭いながら、咲音は自分に対してここまで縋り、信じてくれている。そして自分もそんな咲音の支えになりたいと切に願っている――――――黒服のカイトは優しげな笑みを浮かべると愛の言葉を囁くように咲音に語りかけた。

「今日は10分だけしか許可が下りなかったけど・・・・・・万が一、3度目の再構築が失敗したら、四度目はつきっきりで俺がそばに居てやるから。お前が恐怖を覚えないように」

 その瞬間、咲音から動揺の気配が伝わってくる。もし顔の表皮が残っていたならば、間違いなく耳まで真っ赤に染まっていたに違いない。

「あ、ありがとうカイト君――――――私からもラボへお願いしてみるね」

 はにかんだ咲音の甘い声が黒服のカイトの耳に届いた、その時である。

「時間だ。今日の会話はここまでにしてくれ」

 黒服のカイトの背後にいた若い研究員が声をかけてきた。ちらっと壁にかけてある時計を見ると既に15分程経過している。どうやら会話が一区切り付くまで待っていてくれたらしい。

「判りました――――――メイコ、また明日」

 ただでさえ時間を延長してくれたのだ。これ以上の無理はできないだろう。研究員の言葉に黒服のカイトは素直に従い、待合室を後にした。




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・・・きっと黒服のカイトの背後にいた若い研究員は二人の会話を目の当たりにして『リア充爆発しろ』と思っていたに違いありません(-_-;)ボーカロイドの二人が交わす恋愛トークはきっとセレナーデ(恋人や女性を称えるために演奏される楽曲)のようなんじゃ、ということで今回のサブタイトルに。因みにフランス語なのはタイトルがフランス語だからであまり深い意味はありません(^_^;)

なお、この研究員が黒服のカイトを咲音のオペ室に連れて行ったのは『5回も精査を受けているし、精神的にも安定してきているから』と判断したためだと思われます。もしかしたら北堀あたりからそういった許可が出ていたかもしれませんし・・・いや、本編で書けよ、って話なんですが(^_^;)ついついあとがきを使って裏設定を書いてしまうのは悪い癖です。

悪い癖ついでにもうひとつ裏設定。今回の咲音の精神状態はかなり弱っております。そこへ来て黒服のカイトの来訪・・・これって結構ずるいですよねww黒服のカイト本人の自覚は全く無いと思われますが、精神的に参っているところへちょっと気になる男の子に優しい言葉を掛けられたらころりとオチますよ。きっと本能的にそういうのを嗅ぎつけるんだろうな~こいつは。

次回更新は4/17、黒服のカイト同伴のオペが始まります。(そして次回を含めて多分あと3回で終わりそうヽ(=´▽`=)ノ本当にお付き合いありがとうございます♡)

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