FC2ブログ

「VOCALOID小説」
réincarnation

ボカロ小説 réincarnation12~最後の挑戦

 ←烏のまかない処~其の百四十七・モエ・エ・シャンドン →烏のがらくた箱~その二百十一・休みが欲しけりゃ・・・orz
 成功まであともう少しだったにも拘らず、3回めのエンジン構築も失敗に終わった。有機部分と無機部分の接続は成功したのだが、その直後に接続部分から原因不明の壊死が起こってしまったのである。そこで飛び出したのが次回の構築手術の際、黒服のカイトを咲音の本体が残っているボーカロイドプールの傍に立ち会わせるという話であった。

「しかし、あいつは色々と問題行動が・・・・・・」

 何せ咲音を追いかけ研究室の施設を破壊した張本人である。本来なら廃棄処分にされても文句は言えない個体だが、『貴重なデータ』ということで生かされているに他ならない。だが、渋る研究員達の反対を押し切ったのはチームリーダーである北堀だった。

「これは咲音メイコ本人からの要請である。そして彼女や福澤のカイトからヒヤリングを行った私のボーカロイド達からの進言でもある。既に3回の失敗を重ねている。できることはなりふり構わずやるべきだと思うが」

 確かにこの3回連続の失敗の前には黒服のカイトの問題行動云々とは言っていられない。結局この一言が押す形となり、黒服のカイトは4回目のV3エンジン構築手術に立ち会うことになった。



 手術準備室に呼び出され、北堀本人から事情を聞かされた黒服のカイトは勿論二つ返事でその事を承諾した。

「で、俺は一体何をすればいいんでしょうか?」

 立ち会うとはいってもきっと何もすることが出来ない――――――手渡された手術着に着替えつつそんな疑問を投げかけた黒服のカイトに、北堀は丁寧に説明する。

「今回を入れてあと2回手術は可能だが、できることなら今回で成功させたい。そこでだ・・・・・・君には手術の初めからオペ室に入ってもらい、咲音君のフォローを頼みたいんだ」

 北堀は黒服のカイトに向かい合い、穏やかに、しかし有無を言わせぬ強い口調で告げた。

「人間ではうかがい知れない、ボーカロイドだけに判る事象もあるかもしれない。それを咲音君の傍で監視して欲しい。手術の阻害にならないものであれば自分の判断で行動を起こしても構わないし、手術そのものでも咲音君に悪影響があるようならすぐに我々に知らせて欲しい」

「悪影響・・・・・・とは?」

 不意に黒服のカイトの表情が厳しくなる。

「これは私の憶測だが、もしかしたら無意識の恐怖が共鳴を起こして無機部分との接合を拒絶している可能性があるんだ。ただ、既に頭部中枢だけしか残っていない咲音君から我々がそれを汲み取るのは不可能だ。だからその点を君にお願いしたい」

「判りました。出来る限りのことはします」

 強張った顔のままオペ室に入る為の着替えを済ませた黒服のカイトは、北堀に続いてオペ室へと入室した。そしてそのまま真っ直ぐに咲音が浮かぶボーカロイド・プールへと近づく。
 北堀の言葉通り既に脊髄の部分は無く、今は頭部中枢だけになっていた。黒服のカイトは人工羊水で手が濡れるのも構わずボーカロイド・プールに手を突っ込むと、咲音の額部分を撫でながら穏やかな声で囁きかける。

「メイコ。起きているか?俺達の頼みが聞いてもらえたぞ」

 すると黒服のカイトの指を伝って咲音の声が聞こえてきた。否、声らしき振動を感じたといったほうが正しいかもしれない。

(うん、ありがとう・・・・・)

 その振動は弱々しく、さすがに黒服のカイトも不安を感じてしまう。だが、それを咲音に気取られてはいけないと無理に笑顔を作った。

「会話はインターフェイスの方がいいか?オペ室にもコネクターは用意されているけど?」

(そうだね。幾らAIでも人工羊水に手を突っ込んだままじゃ、ね。でもたまにおでこを撫でてくれると嬉しいかも)

「判った」

 咲音の言葉に頷くと、黒服のカイトは一旦人工羊水から手を引き抜き、通話用インターフェイスの準備をする。そして傍に用意されていた椅子に座ると再び人工羊水の中にいる咲音を覗きこんだ。

「これからオペが始まるけど、このまま話をしていたほうがいいか?それとも・・・・・・なにか歌おうか?」

 ボーカロイドの歌は軽い治癒能力を持つ。いわゆる『猫の喉鳴らし』と同じ効果と言えばいいだろうか。音波による刺激で表皮などの有機部分の擦り傷などは自分達で治すことができるのだ。そんな黒服のカイトの提案に咲音は歌を希望する。

(レコーディングの時、気持良かったもの。オペの邪魔にならない程度でいいから歌ってほしいな)

 ささやかな咲音のおねだりに、黒服のカイトは勿論、と答える。そして北堀の手術開始の声と共に黒服のカイトの歌もまた始まった。



 微かな機械音と息苦しくなるような緊迫した気配。ミクロン単位の精密さを強いられる手術の中、黒服のカイトの穏やかなテノールがオペ室に響く。
 不安に駆られる咲音の心を癒やすように、そしてオペ室の緊張を和らげるように―――――どちらかと言うと激しい曲調の持ち歌が多い黒服のカイトの口から溢れるのは、自分の持ち歌ではなく民族調やバラード系の名曲の数々だ。一体どれほどの曲を覚えているのだろうか、彼の口からは同じ曲は一切出てこず次々と新たな歌が紡ぎだされてゆく。

「・・・・・・さすが巧がスカウトしただけのことはあるな」

 人間の手で行える部分を終えた北堀は、黒服のカイトを見つめながら呟いた。AI型ボーカロイドはマスターの手を借りなくてもある程度曲を覚えることができるし、歌うことも可能である。だがここまできっちり、そして感情を込めた歌い方となると普通は人間の入力が必要だ。それを目の前にいるボーカロイドは人間の入力なしにやってのけているのだ。

「やはりあいつは『規格外』なんだろうな。量産型のはずなのに」

 咲音のように製造ラインができていない初期に製造されたAI型ボーカロイドであれば、特殊能力を加える事は可能だが、量産型はそうは行かない。もしかしたら人間の想像を超えた何かがV3には、否、黒服のカイトにはあるのか・・・・・・北堀はそう思わずに入られない。
 そんな北堀の思惑を知ってか知らずか黒服のカイトはただひたすら歌い続ける。そしてある歌に差し掛かった時、不意に彼の目から涙が溢れだしたのだ。



もしもまた、名前を呼んでくれるのならば…  

それでもまた、名前を呼べる日がくるならば…

次こそ最後まで一緒にいたい



 名曲『深海月』のワンフレーズか・・・・・北堀がそう認識したその時である。不意に北堀の背後から歓声が沸き上がったのだ。

「リーダー!接合が成功しました!今まで起こっていた拒絶反応も一切起こっていません!」

 その声に北堀は思わず振り返り、声をかけてきた部下の両腕を掴む。

「何?それは本当か!」

「ええ、本当です!ほら見て下さいよ、ちゃんと脈動しています!」

 部下の弾む声に促され北堀はV3エンジンが製造されている水槽を覗きこむ。そこには微かに脈を打ち始めたV3エンジンがあった。そしてそのエンジンの鼓動は徐々に力強いものに変わってゆく。

「よし、成功だ!だが前回の失敗のこともあるから油断するな。これから24時間、壊死しないようにさらなる培養を続ける!」

 北堀の言葉に研究員達は雄叫びを上げる。だが人間が騒ぐ中、黒服のカイトだけはまだ緊張の表情を崩さぬまま歌い続けていた。

(24時間か・・・・・・ぶっ倒れるのは覚悟しておかなきゃならないな)

 生まれたてのV3エンジンがまだ脆弱なことを黒服のカイトは本能で感じ取っていた。そしてそれは咲音も同じである。

(ごめんね、カイト君・・・・・・生まれたての『あの子』はまだまだか弱いの)

 出来立てのV3エンジンが完全に自立できるまでまだ時間がかかるだろう。それまでさらに黒服のカイトに負担を翔けてしまうと申し訳無さそうに咲音が謝る。

「気にするな。エンジンが完全に出来上がるまで歌っていてやるよ。そもそも俺達はAIなんだ。途中強制スリープが入るかもしれないが、5分もあれば・・・・・・」

 黒服のカイトがそう言いかけたその時である。

「カイト、ちょっといいか?」

 はしゃぐ部下たちから離れて、北堀がカイトに近づいてきた。

「強制スリープ云々とか話していたようだが・・・・・・V3エンジンは君達から見てまだ不安定な状態なのか?」

 疑問形の形を取っていたが、それはあくまでも確認の問いかけであることを黒服のカイトは感じ取った。

「・・・・・・はい。多分、生まれたての人間の赤ん坊よりも遥かに脆弱です」

 むしろ胎内にいる赤ん坊に近い存在だと黒服のカイトは北堀に告げる。

「なるほどね。それとボーカロイドの歌だが、何かエンジンに作用するのか?さっきからずっと歌い続けていたが?」

 この問い掛けに関しては黒服のカイトも少し困ったような表情を浮かべる。

「はっきりとは解りません。メイコに頼まれ、本能のまま思いつく曲を歌っていましたから・・・・・・だけど咲音の身体と俺の声が共鳴しているのだけは判ります。これが他のボーカロイドでも同じ作用があるかは解らないのですが、もしかしたら元々あるボーカロイドの声の治癒力も関係しているかもしれません」

 黒服のカイトの推測に、北堀はうむ、と深く頷いた。

「ならば私の『子供たち』に君の手伝いをさせる。もし効果があるのなら君には少し休んでもらい、本当に必要なときに歌ってもらうようにしたいから」

「判りました」

 すると北堀はガラス張りになっている待合室の方へ手を振り手招きをした。その時、黒服のカイトは北堀のボーカロイド達が待合室から見つめていたのにようやく気がついた。彼らは北堀の手招きで手術準備室へ回り、手術着に着替えてからオペ室に入ってくる。

「マスター、どういうことになっているんでしょうか?」

 先陣を切ってオペ室に入ってきたメイコが北堀に尋ねる。

「ああ、どうやらボーカロイドの歌が微妙な振動を起こしてV3エンジンの融合が上手く行ったみたいなんだ。これがKAITO型のみの特徴なのか、この二人の間だけに起こる現象なのか、それともボーカロイドの歌声全てで起こる現象なのかは定かではないが・・・・・・少しずつ確かめてみたいと思っている」

 北堀の言葉に6人全員が頷いた。

「判りました。じゃあまず有力候補のカイトからやってみる?」

「うん、そうだね。やっぱりバラードとかの方がいいかな?」

 そう言いながら、カイトは早速歌い出す。その歌を聞きながら北堀や他の研究員はモニターに映し出される育成情報の数値を確認してゆく。

「・・・・・・さすがに巧のところのカイトほどとは行かないか。でも育成の進行はまぁまぁ、ってところだな。人間だけの時とはぜんぜん違う。じゃあ次、メイコ歌ってくれ」

「イエス、マスター」

 そうやって一曲ずつ歌っていくうちにある法則が見いだされる。黒服のカイトには敵わないものの、どのボーカロイドの曲でもある程度の育成効果はあった。しかもそれは一人より二人、さらに三人と人数が多いほうが効果的らしい。

「面白い結果が出ましたね。やはりボーカロイドの歌の治癒能力が関係してくるんでしょうか?」

 結果を見てカイトが感心する。

「多分な。だがそうなると巧のところのカイトの数値だけずば抜けているのが説明できない。ま、それはおいおいの研究対象とするとして・・・・・・」

 北堀は七人のボーカロイド達に『命令』を下す。

「咲音君の状態は気になるだろうが、巧のところのカイトは暫く休憩だ。で、一番神経を使う夜間を担当してもらう。これは君のマスターからの命令だと捉えて欲しい」

「――――――承知しました」

「その間、皆で1時間交代で歌を繋いでくれ。内容はできるだけ巧のところのボカロの持ち歌で。三交代で2回のローテーション、6時間は何とかなるだろう。もしそれで不都合が出たら巧のところのカイトに助けてもらう」

「イエス、マスター」

 北堀のボーカロイド達がそれに応え、早速カイトとメイコの二人が歌い始める。その歌はこれからの長い戦いの幕開けの歌であった。



参考楽曲:深海月 sm16635301



Back   Next


にほんブログ村 小説ブログへ
INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。



こちらは画像表示型ランキングですv




とうとう黒服のカイト立ち会いのもとでのオペが行われました。ここまで長かった~ε-(´∀`*)ホッ
辛うじて繊細な手術そのものは成功しましたが、まだまだ出来立てのAI用V3エンジンは不安定な状態・・・このまま24時間の培養を経て完全な完成と相成ります。
そして俺設定なボカロの歌=ぬこのゴロゴロ(爆)確かこれを使って骨折が早く治る的な話を聞いたことがあるんですよ~ガセなのかマジなのか解りませんが(おいっ)なのでAI型に限りぬこのゴロゴロが使えるとしてしまいました(^_^;)

次回更新は4/21、V3エンジンの完成&咲音の退所あたりを・・・そして4/24の最終話には咲音のコンサートで幕を引きたいと願っております。うん、頑張る!
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のまかない処~其の百四十七・モエ・エ・シャンドン】へ  【烏のがらくた箱~その二百十一・休みが欲しけりゃ・・・orz】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のまかない処~其の百四十七・モエ・エ・シャンドン】へ
  • 【烏のがらくた箱~その二百十一・休みが欲しけりゃ・・・orz】へ