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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十五話 三条制札事件・其の参

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 冴え渡る秋の夜空に十二夜の月が輝く。その月明かりに照らされた三条大橋で、二人の男が対峙していた。否、正確には対峙する二人の男を十数人の男達が固唾を呑んで見守っている、といったところか。

「おんしこそ安藤鎌次を相手に刃を向けたこと、後悔しなや!」

 張り詰めた緊張感の中、安藤と名乗った男は刀の柄を握り直し、じりじりと原田との間合いを詰めてゆく。そんな原田から視線を外さず、原田は背後にいる新井に命じた。

「新井、こいつは俺に任せろ!その代わり残りの二人を頼む!」

 原田その一言で、二人の対峙に見入っていた新井は我に返る。

「し、承知!皆、残りの奴らを捕縛するぞ!」

 泥酔状態とはいえ、そこはさすがに新選組である。新井の掛け声と共に十数人の新選組隊士達が残りの二人を取り囲み始めた。
 だが相手は死を覚悟した武士である。文字通り『死に物狂い』の男をは捕まって堪るかと型もへったくれもなく無茶苦茶に無駄に長い勤王刀を振り回し反撃し始めたのである。
 さすがにそうなると素面の状態でもなかなか捕縛できなくなるのだが、さらに新選組側には酒が入っているだけに足元がおぼつかない。長い勤王刀に襲われ尻餅をついたり、酔いで目を回して地べたに蹲るものが現れる始末だ。
 そんな膠着状態の中、新井が相手の間合いに入り込むと勤王刀の攻撃ををくぐり抜け、鳩尾を刀で刺し貫いた。

「ぐおっ!」

 直前まで暴れていた男は信じられないとばかりに目を見開き、最後の力を振り絞りながら刀を振り上げようとする。だが腹を刺し貫かれ、意識が朦朧とする中で重たすぎる勤王刀を振り上げることは不可能だった。
 男は新井に倒れこむが新井はその身体に足をかけ、蹴りだす力で男の身体から自分の刀を引き抜く。すると抜いた刀と共に鮮血が吹き出し、生臭い血の匂いが清冽な夜の空気に充満する。

「ありゃ即死だろうな・・・・・・苦しまずに死ねたことだけは感謝してくれよ!」

 新井の手柄を横目で確認しつつ、刃を交えながら原田が安藤を挑発する。だが安藤は原田の挑発には乗ってこず、ただひたすら力で押してきた。否、力で押さざるを得なかった。
 土佐者が持つ勤王刀は見栄えこそ良いが重たく、俊敏性を求められる接近戦では不利に働く。その点新選組の現場組が手にするのはごく普通の中尺の刀だ。この長さが重さ的にも長さ的にもどんな戦い方にも対応できるのだ。酒に酔っている原田が安藤と互角に戦えているのはそれ故である。
 案の定刃を交えている内に安藤に疲労の色が見え始め、徐々に身体が刀に振り回され始める。その隙を逃す原田ではなく、ぐらりと安藤の身体の均衡が崩れたところを狙って原田が腰に切りつけた。

「うおっ!」

 原田が手応えを感じた瞬間、安藤はよろめき、二、三歩後退る。その勢いに乗じ、原田はさらに利き腕とは反対側の左腕に刀を下ろす。

「ぐえっ!」

 蛙が潰されるような声を出しながら安藤は大刀を取り落とし、原田の足許に蹲った。その時である。

「原田先生!一人捕縛に成功しました!」

 弾む部下の声に原田がそちらを見やると、縄でグルグル巻きにされた男が地面に転がされていた。そして部下の一人が縄を手に近づいてきたが原田はそれを止める。

「おい、安藤さんとやらよ」

 原田は蹲る安藤の傍にしゃがみ込み、顔を覗き込む。

「確かに若造五人はうまく逃すことが出来ただろうが、あんたら三人はこのザマだ。この後の事は解ってるよな・・・・・・利き腕は使えるようにしてやっておいたから、土佐の藩邸にこの事を伝えにさっさと帰りな」

「!!」

「は、原田先生?」

 原田の思わぬ言葉に語りかけられた安藤は勿論、周囲にいた部下達も驚愕するが、原田は構わず安藤に語りかける。

「仲間を庇い、不利を承知で俺達に立ち向かった侠気に免じてやる。武士には武士の・・・・・・てめぇの始末の仕方があるだろう」

 特に凄みもせず、淡々と告げる原田の言葉に安藤よりもむしろ周囲にいた新選組隊士の方が騒然とする。だが原田の『思い遣り』の意味に気がついた当の本人は至って穏やかに、口の端にかすかな笑みを滲ませた。

「・・・・・・かたじけない。しからば御免!」

 ふらふらと立ち上がると安藤は原田に一礼し、そのまま原田に背を向ける。そして血止めもろくにせぬままよろよろと土佐藩邸へ向かって歩き始めた。

「い、いいんですか、原田さん?どう見ても首謀者でしょ、あの男!絶対にお縄にした方がいいですよ!」

 部下の一人が咎めるように原田に詰め寄るが、原田は安堵の後ろ姿を眺めたままその部下に答えた。

「いいんだよ、別に。どっちにしろ明日中には土佐からの知らせが西本願寺に届くだろうから、その時におめぇにも判るだろうよ」

 捕物現場とは思えぬ穏やかな原田のその声は、心なしか寂しげに部下には聞こえた。だがそれも一瞬の事、すぐさまいつもの威勢のいい原田に戻る。

「それよりも片付けと掃除だ!日が昇る前に片付けて置かねぇと町人共はいちいちうるせぇからな!新井はこいつを先に西本願寺へ連れて行ってくれ」

 てきぱきと指示を出し始めた正にその時、こちらも酔っ払った大石隊がようやく原田の元へやって来た。

「すみません、原田さん!本当に面目無い・・・・・・」

 大石は平謝りに謝るが、原田は豪快に笑い飛ばしてそれを許す。

「いいってことよ。そもそも酒を飲んでもいいって言っていたのは副長の土方さんだ。文句は言わせねぇよ!それでもちっとは悪いな~と思っているんだったらここの掃除をやっておいてくれ。暴れすぎて橋の欄干まで血しぶきが飛んじまってよぉ」

「・・・・・・承知」

 橋の欄干にかかった派手な血しぶきに苦笑いを浮かべつつ、大石は部下に橋を洗うための水を取って来いと命じた。それを確認すると、原田は大石隊の後ろに所在なげに佇んでいる橋本へ近づく。

「橋本、だっけか?今回はおめぇの手柄で何とか下手人を捕縛することが出来た。これで正隊士確実だな・・・・・・ところで浅野はどうした?」

 橋本に対しては朗らかだった原田だが、最後の一言にはあからさまな怒気が含まれていた。その声音に慄きながら橋本は震える声で事実を伝える。

「こ、この橋の下で眠って・・・・・・」

「案内しろ」

 有無をいわさぬ物言いに橋本は怯えながらも、原田を橋の下へ案内する。するとそこにいたのは菰を被って震えている浅野の姿だった。眠っていたのならまだしも、起きていながら援軍にも出てこないとは――――――浅野の情けない姿を目の当たりにした原田はあからさまな怒りを露わにする。

「浅野!おめぇは自分が何をしでかしたか解っているんだろうな!」

 原田は浅野に近寄ると襟を掴み、拳でその頬を殴った。その勢いに浅野は耐え切れず河川敷に転がる。原田に殴られた左頬は月明かりの下でもはっきり判るほど腫れ上がり、変色していった。

「ひ、ひぇぇ・・・・・・お、お許し下さい、原田先生!」

 原田の剣幕に浅野は転がったまま這いつくばって逃げようとするが、近寄ってきた原田に背中を踏みつけられ動けなくなる。

「橋本!こいつに縄をかけろ!」

 原田の命令に橋本は一瞬だけ躊躇したが、それでも上司の命令は絶対だと腰縄を取り出し浅野を後ろ手に縛り上げた。その縛り具合に満足そうに頷くと、橋本に橋の上に戻るように命じる。そして橋本が橋の上に上がったのを確認すると、地を這うような声で浅野に囁いた。

「追って沙汰があるだろうが、それまでは逃げることは許さねぇ・・・・・・何ならこの場で切腹するか?」

 その声には普段感じる朗らかさはなく、どこまでも凍てついた氷の刃にように浅野の心に突き刺さる。その冷ややかさに浅野は原田の本気を嫌というほど思い知らされる。

「お、お許し下さい・・・・・・さ、沙汰を待たせていただきます!」

 原田に押さえつけられたまま、浅野は必死に命乞いをする。泣きじゃくり、鼻水と涙でぐしゃぐしゃにした顔を見つめつつ、原田は呆れたように呟いた。

「全くよぉ・・・・・・あの安藤とか言う男の爪の垢でも煎じて飲ませてぇや」

 方や仲間を助けようと自らの命も顧みずしんがりをつとめた猛者。かたや仕事を後輩に押し付け、自分の頭上で起こっている戦いにさえ参加しなかった臆病者――――――武士として、男としてどちらが優れているか一目瞭然だろう。

「やっぱり・・・・・・安藤って男は殺すにゃ惜しい男だな」

 遅くとも一両日中には安藤の切腹の報が新選組屯所にまで届くだろう。きっと普段の安藤は統率力があり、藩の中でも有望株だったに違いない。少なくとも制札引き抜きなどという子どもじみた犯罪で命を散らすべき男ではないはずだ。

「きっと酔った勢いで仲間の暴走を止められなかったんだろうな」

 ようやく西に傾き始めた月を眺めつつ、原田は寂しげに呟いた。


 そして安藤鎌次が藩邸において自刀したとの知らせを原田が聞いたのはこの翌日、夕刻の幹部会議の席でのことだった。



UP DATE 2014.4.19

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原田VS安藤の対決は原田の勝利に終わりました。ただその勝利の味は少々苦いもののようでして・・・原田がその気になればそのまま『犯罪者』として安藤を切り捨てることも出来たでしょう。しかしあえて藩邸に返し、『武士』としての最後を遂げさせた―――仲間を逃し、自分はしんがりを務めたほどの男に史実の新選組も敬意を払ったのかもしれません(T_T)
そして安藤の死を知らされた原田はどんな反応をするのか・・・それは次回のお楽しみということで♪

次回更新は帰省と重なるためUPがちょっと微妙なんですが・・・可能だったら4/26、もし出来なかったら5/3に更新いたします。(前日のがらくた箱にてお知らせいたします)
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