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「VOCALOID小説」
réincarnation

ボカロ小説 réincarnation13~静寂の歌声

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 黒服のカイトを引き継ぎ、北堀のボーカロイド達が本格的に歌い始めた。最初に歌い始めたのは『できるだけ早い時間のほうが良いだろう』ということでリンとレン。若い彼ららしく溌剌とした明るい歌を中心に歌い続ける。
 その次はミクとルカ。繊細で美しい声の持ち主である二人は,咲音に安らぎを与えるような穏やかなバラードを中心に歌い続けた。
 そして最後はカイトとメイコ。二人はあえて恋愛の歌を中心に――――――しかもいつもの歌い方ではなく、咲音と黒服のカイトの調音に合わせた歌い方で歌う。レンタルされることも多い研究開発用ボーカロイドならではの技術だ。V1とV3、そして個体差はあるものの、この歌い方によって培養はかなり黒服のカイトが歌うときに近い状態まで進行している。
 その歌を聞きながら黒服のカイトは部屋の隅で毛布にくるまり微睡んでいた。今のうちに休んでおけと北堀に忠告を受けたものの、やはり咲音が心配で眠れない。いっそタイマーを掛けて強制スリープモードにしてしまおうかとも思ったが、その強制スリープの間に何かあったらと落ち着かないのだ。

「なかなか眠れないようね」

 そう言って黒服のカイトに近づいてきたのは歌い終わり、リンとレンにバトンタッチしたメイコだった。手には妙に長いケーブルを持っている。

「咲音さんが心配なんでしょ?だったらこれを付けているといいわ」

 メイコが黒服のカイトに手渡したもの、それは咲音の脳波を直接読み込む為のコネクターだった。これを接続しておけば、喩え強制スリープ中でも咲音の脳波を読み込み、何が起こったか知ることが可能だ。

「よく許してくれたな、北堀さん」

 普通なら研究員、しかもチームリーダーレベルの人間の許可がなければ許されない行為だ。黒服のカイトはてっきり北堀が許可を出し、メイコに指示したものだとばかり思ったのだが、メイコは『違う』と首を横に振った。

「これは私達6人の判断なの。ちなみにこのオペ室の中ではボーカロイドと人間は平等だから、私達がマスターの指示で動くことは滅多に無いわ」

 メイコはコネクターを黒服のカイトに渡しながら説明する。

「私達がこの中に入っているということは、人間がボーカロイドならではの感性を必要としているからなの。ボーカロイドの事はボーカロイドが一番良くわかるからって・・・・・・私達開発用ボーカロイドはその為の要員でもあるの。だからこのコネクターもボーカロイドある『私達』全員が必要とみなしたからあなたに渡すのよ。あとできることなら可能な限り咲音さんの近く・・・・・・理想はボカロ・プールに寄りかかって寝て欲しいんだけど」

「・・・・・・やりたい放題だな。ボカロ・プールに寄りかかって寝るなんて前代未聞だぞ?」

 ボーカロイド・プールは中に寝かされているボーカロイドにとっていわゆる『子宮』、命を守る最後の砦なのだ。それを枕代わりにするとは――――――黒服のカイトはメイコからコネクターを受け取りながら呆れたように苦笑する。

「当然じゃない。咲音さんには『生きて』欲しいし、V3エンジンだって成功させてほしいわ。その為には私達も人間も手段を選んでいられないのよ」

 立ち上がった黒服のカイトをボーカロイド・プールの横へ導きながらメイコは笑顔を見せた。

「とにかく今はできることを頑張りましょう。私達もあなたに繋ぐまで、頑張って歌い続けるから」

「ああ、頼んだ。じゃあ3時間後にタイマーを掛けておく」

 言葉少なに礼を言うと、黒服のカイトはボーカロイド・プールに寄りかかる。そしてコネクターを耳に接続すると、そのまま強制スリープモードへ入っていった。



 黒服のカイトが目覚めたのはそれから3時間後の事だった。二度目のローテーションの終盤なのか、咲音の傍で歌っていたのはカイトとメイコだったが、二人共疲労の色が隠せない。それこそ何時間でも歌い続けることができるボーカロイドが、たった2時間の歌唱でこれほどの疲労を見せるのは異常事態である。

「おい、大丈夫か?」

 黒服のカイトは、一番近くにいたカイトに声をかける。その顔はかなり青白い。

「あ、うん。肉体的には問題ないんだけど、精神的にね・・・・・かろうじて培養が進む程度には歌いこなせているんだろうけど、やっぱりいつもと違う『声』は神経を使うよ。何せ咲音さんの命、というかMEIKO全体の命運がかかっているからね」

 笑顔を浮かべながらカイトが視線を向けたその先には、四人の弟妹達が毛布にくるまり寝込んでいる姿があった。強制スリープがかかってしまった状態の四人は、どの顔も疲労の色が濃い。

「みんな頑張りすぎて潰れちゃって・・・・・・暫くクールダウンさせている」

 成人型に比べ、少年少女型ボーカロイドは体力的に劣る。それでも咲音の為に強制スリープに陥るまで音波振動を――――――歌を歌い続けてくれたのだ。

「済まない――――――後は俺に任せてくれ」

 黒服のカイトはインカムをセットすると、二人に変わって歌い始めた。するとエンジンの監視を続けていた研究員から感嘆の声が上がる。どうやら培養の成長速度が急速に上がったようだ。無精髭を生やし、目の下に濃い隈を作りながらも研究員達ははしゃぎまくる。

「やっぱり違うな!これってV3エンジンならではの特徴なのか?」

 そんな人間たちの騒ぎを他所に、歌い終わったカイトとメイコは顔を見合わせくすり、と笑った。

「V1だろうとV3だろうと大事な人の声は聞き分けられるよね。どうも研究員、っていう人種はそういうところが鈍感なんだよなぁ」

 少しばかり小馬鹿にしたような口調でカイトが呟くと、メイコは唇に人差し指を当てながらウィンクをする。

「それを言っちゃおしまいでしょ?やっぱり好きな人とか家族の声で応援されたら頑張ろう、て気持ちになるものね。咲音さんだって同じでしょう、きっと」

 優しげにボーカロイド・プールの中の咲音を見つめるメイコの瞳はどこまでも慈愛に満ちている。それはこれから生まれる新しい命を見つめる母親のようでもあった。そんなメイコをカイトは幸せそうに見つめる。

「きっとマスターの声だって同じような結果が出ると思うんだけど・・・・・・言ったほうがいいのかな?」

「止めておきなさい、カイト。マスターたち人間の喉は弱いんだから。多分一番に応援してくれるだろうけど、あっという間に声を潰しちゃうわよ」

 カイトとメイコの会話に黒服のカイトはただ微笑みながら咲音に歌い続ける。培養が刻々と進む中、黒服のカイトの甘い声はいつまでも流れ続けていた。



 24時間後、咲音のエンジンをベースとしたV3のマスターエンジンは完全な完成を見た。あとは他のMEIKOたちから収集したベースデータの流し込み、エンジンのコピーを量産できるようにAI型製造ラインを整えた後に、アプリ型ボーカロイドのサンプルを取得するだけである。

「ここまで本当に長かったよねぇ」

 ようやくボディの製造に取り掛かった咲音に対し、メイコがインターフェイス越しに問いかけた。

「うん。でも11月5日にはボディの製造、間に合わないよね」

 既に暦は11月に突入し、どう頑張っても11月5日のMEIKO生誕祭でのお披露目は間に合わない。あからさまにがっかりする咲音にメイコは慰めるように語りかける。

「それは良いんじゃない?とりあえずV3が発売になる、ってことだけでも発表できれば。今まではV3の発売さえ危うかったんだから、きっと皆、喜んでくれるわよ」

 この後、外見及び公式衣装の発表は12月20日にまでずれこむことになるのだが、そんなこととは思いもせずに二人のMEIKOは話し続ける。

「そうそう、咲音さんって『特別カスタム』をしてもらうんでしょ?」

 今回のAI型MEIKOからは小柄なアイドルタイプのS型、標準サイズのM型、男性型にもカスタムが出来るL型の3種類がデフォルトとして作られることになった。この他に咲音はさらに特別なカスタムをするというのである。

「そうなの。『咲音メイコ』ってアイドル曲が多かったから、そのイメージで顔立ちもかなり幼くなるみたい」

 どうやら福澤は咲音を妖艶な実力派シンガーとしてではなく、愛らしいが歌唱力はあるアイドルとして売り出すつもりらしい。それを聞いてメイコは少し複雑な笑顔を浮かべる。

「なるほどね。事務所的にも研究所的にも問題ないけど・・・・・・唯一文句を言っているのはあなたの彼氏だけ?ロリはゴメンだ、って」

 その問いかけに咲音も乾いた笑いを浮かべた。

「・・・・・・そうなんだよね。16歳、っていう年齢設定が気に入らないみたいで。ミクと付き合っていた男が何言っているんだか。ただ『乳だけは絶対に譲れません!巨乳は正義!』って泣きついてたってマスターが言ってた」

 それを聞いた瞬間、メイコは頭痛を覚える。どんなにニヒルに決め込んでいようが、ガチ曲しか歌わないイケメン歌手であろうが所詮は『KAITO』であることには変わりないようだ。

「崎音さん・・・・・・彼があなた好みのヘタレになる日は意外と近いかもしれないわよ」

「・・・・・・私もそう思う」

 これからの将来に一抹の不安を感じた2人のMEIKO達は、同時に諦観の溜息を吐くことしかできなかった。



 そして瞬く間に2ヶ月近くが過ぎ、全ての調製を終えた咲音はラボから退所することになった。

「今までありがとうございます」

 新しい公式衣装の上に真っ白いコートを羽織った咲音は福澤と黒服のカイトの間でぺこりと頭を下げる。

「気にしないで。咲音さんの協力が無かったらV3エンジンは出来なかったんだから」

 こちらもV3エンジンに変換したメイコが微笑む。こちらのメイコは咲音と違って標準タイプのM型だ。なのでほんの少しだけ咲音が見上げるような形になる。

「アプリ型MEIKOの販売開始も2月4日に決まったし、あとは待つだけね」

「2月は年長組祭りになりそう・・・・・・あ、それと!」

 そう笑うと、咲音は福澤から手渡された封筒をメイコに渡す。

「4月11日から生誕祭と復活祭とを兼ねたコンサートツアーがあるの。もし良かったらこの日に皆で来てくれる?」

 咲音の言葉にメイコが封筒を開けると、そこには咲音のコンサートチケットが入っていた。メイコ達6人と北堀の家族4人分、合計10枚である。

「ち、ちょっとこの日って・・・・・・これ、ファイナルじゃない!しかも5月5日のメイコの日って!」

 間違いなくプラチナチケットになるであろうそのチケットにメイコは慌てるが、咲音は事も無げにけろりと言い放つ。

「うん、まだ公には発売していないものなんだけど、まずは関係者の方に配ってからと思って。私はすでに『懐かしの歌手』だから発売後でもチケットは取れるんじゃないかって言ったんだけど、マスターが万が一売り切れたら困るだろうって」

 そう言って福澤を見上げる咲音は本当に幸せそうだった。マスターの歌をおもいっきり歌える、それはボーカロイドにとって何事にも代えがたい幸福なのだ。その幸福を感じつつ、メイコは引きつった声で咲音の言葉に反論する。

「たぶん・・・・・・福澤さんの考えの方が正しいと思う。きっとすぐにソールド・アウトしちゃうでしょ」

 それは咲音以外の全員が思っていたらしい。黒服のカイトを始め、メイコの兄弟達も力強くメイコの言葉に賛同する。だが、当の咲音にその自覚は全くない。

「ふふっ、そうだと嬉しいな。じゃあ今度は5月5日にね!」

 晴れやかに咲音は笑い、いつの間にか回された車に乗り込む。そしてメイコ達ボーカロイドや研究員が見送る中、咲音ら3人を乗せた車は都会へと続く道へと走り去っていった。


 後日、咲音メイコの復活ツアーのチケットが発売されたが、会場5箇所全てが10分間で売り切れた事は余談である。




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最後の方はちょっと端折っちゃった感がありますが、何とか咲音復活までたどり着きました!ここまで長かった~(いや、余計な寄り道ばかりしているから長くなるのは自覚しているんですけど^^;)
人間の技術+ボーカロイドの歌によりエンジン再構築に成功した咲音ですが、11月5日の生誕祭にボディも公式衣装も間に合いませんでした(^_^;)実際MEIKOV3の外見が発表されたのは12月20日だったそうですし・・・そんなこともあるよね(^_^;)ということで、何とか無事咲音は退所する事が出来ました。
ちなみにAI型ボディがS,M,Lの3種類あるというのは私の捏造ですが、絵師様の絵を拝見させていただくと結構小柄なめーちゃんと少し背が高めのめーちゃんがいるんですよ。カイトやミクはそれほど慎重のイメージが変わらないんですが・・・というわけで大きさが3種類あったら面白いな~と3種の大きさのめーちゃんを作らせていただきましたv

次回はとうとう最終回、勿論咲音メイコ復活コンサートファイナルをお届けいたします♪
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