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「短編小説」
鶴蔵てまえ味噌

鶴蔵てまえ味噌・其の伍・たけのこ泥棒

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 鎌よりもなお細い三日月が暮れ切らぬ西の空をささやかに飾る。爽やかな五月の風が吹き抜ける寺の裏庭にその小さな二つの影はあった。

「お~い、鶴蔵。これってやっぱりまずくねぇ?やっぱり止めといた方がいいよ」

 心配そうに前を行く少年に声をかけるのは鶴蔵と同門の匡蔵である。鶴蔵と同い年の筈なのだが鶴蔵に比べ華奢で小柄な匡蔵はまるで弟のように鶴蔵の後ろにへばりつき、これから行おうとしている鶴蔵の『悪事』を止めさせようとする。だが鶴蔵はそんな匡蔵の忠告を聞こうともしない。

「何言ってやがる!こんな機会滅多にねぇんだぞ。それよかおめぇがグズグズ文句を垂れているせいで大人に見つかったらそれこそ事じゃねぇか!」

 声変わりもまだの高い声を出来る限り低くしながら凄む鶴蔵に、匡蔵は大きな目に目一杯涙を浮かべつつ、黙りこむ。
 近い将来有望な若女形になりそうな匡蔵のその容姿や仕草は、男色の気がある男にとってはこれ以上ない見ものなのだろう。だが、目の前にある『ある物』に気を取られている鶴蔵にその美貌や比護心を誘う仕草は全く通用しない。

「ほら、さっさと手にした鍬を寄越しやがれ!俺が筍を掘っている間ちゃんと見張ってろよ、匡蔵!」

 鶴蔵のその一言に匡蔵は諦めたのか渋々手にした鍬を鶴蔵に渡し、がっくりと肩を落とした。



 文政三年五月、鶴蔵達は贔屓客からの誘いに応じ、子供だけで武蔵国川越へと巡業に出向いていた。端午の節句も近く、男の子が好む演目をと言うことで演じるのは『忠臣蔵』、誰もが知っている演目でもある。その稽古をしようと、楽屋代わりの寺の本堂へ向かう際、鶴蔵は目ざとく竹林を、さらにそこに生えている筍を見つけたのだ。勿論食事は三食きちんとでているが、食べ盛りの鶴蔵はそれだけでは足りないらしい。それこそ高師直を見つけ出した大星由良助の如き形相で筍を掘り進めてゆく。その後姿を見つめつつ、匡蔵は駄目で元々ともう一度声を掛けた。

「ねぇ、やっぱり止めておいたほうがいいんじゃないの?」

 だがその声を掛けた瞬間、鶴蔵が手にしていた鍬が筍の根本に突き刺さり、ものの見事に筍を切り取ったのである。その手際の良さは歌舞伎役者より百姓のほうが向いているのでは?と思わせるほどだった。

「ほら、これだけでかければ皆で食えるだろ!さぁ大人に見つからねぇうちにさっさとずらかるぞ!」

 鶴蔵は筍を手にすると鍬を匡蔵に放り投げ、そそくさとその場を後にする。

「ち、ちょっと待ってよ~!」

  鍬を手にしたままこんなところに置き去りにされては適わない。匡蔵は両手で鍬を抱えたまま慌てて鶴蔵の後を追いかけていった。



 上手く筍を盗ることが出来た――――――そうほくそ笑んだ鶴蔵だったが悪事というものはそう上手くいかない。案の定、鶴蔵と匡蔵が宿で盗んだ筍を仲間に見せていたその時、それを宿の主に見咎められたのだ。

「こらっ悪ガキ共!ここいら辺の筍は川越藩の殿様への献上品だと知っていて盗んだのか!」

 鬼瓦ような強面の宿屋の主の雷が鶴蔵達に落ちる。その叱責の言葉を聞いた瞬間、鶴蔵は筍を手にしたまま震え上がった。宿の主の怒声そのものではなく、その内容に、である。

「と、と、殿様の・・・・・・献上品ですって!」

 子供でもさすがにその意味は理解できる。しかもここは鶴蔵達の住む江戸ではなく、隣国の川越なのだ。どんな罰が待っているか判らず、子供たちは項垂れ、涙ぐむものまで現れた。その様子を伺いながら、宿の主は駄目押しとばかりにさらに言葉を重ねる。

「ああ、そうさ。特に川越の殿様は殊の外この時期の筍を楽しみにしておられてなぁ・・・・・・これがもし見つかったら間違いなく死罪か遠島だな」

「ひ、ひえぇぇ!」

 さすがに鶴蔵も真っ青になってガタガタ震えだし、匡蔵に至ってはワンワンと大声で泣きじゃくり始めた。さすがにここまでやれば二度と同じ悪さはしないだろう――――――宿屋の主はそれを確信すると、今度は穏やかに子供たちに語りかけた。

「ま、引っ立てられるとしたら今夜中だろう。明日まで誰もこなかったらお咎め無し、ってことになるから安心していいぞ」

「ど、どうして・・・・・・」

「筍が一日でどれくらい伸びるか知らないのか?これだから江戸の餓鬼は・・・・・・それくらいの大きさの筍だったらあと二日もしたら食べられなくなるぞ?さすがに川越の殿様だって食べられないものにまで頓着はしないさ。ま、今夜一晩は反省しながら寝るこったな!」

 宿の主はそう言い残すと、大笑いをしながら鶴蔵達の部屋を後にした。



 新茶の香りがふわり、と楽屋に広がる。『色は静岡、香りは宇治と、味は狭山でとどめさす』と唄われる狭山茶を送ってくれるのはあの時鶴蔵を叱り飛ばした宿の主だ。あれから二十年、未だに交流は続いている。

「あの親父も俺に負けず劣らず人が悪いからな・・・・・・結局寝るに寝られず一晩中肝を冷やし続けたのさ」

 鶴蔵の言葉にで弟子達、そして隣にいる女形の匡蔵が笑い出す。

「で、その後結局どうなったんですか?」

 弟子の一人の問いかけに、答えたのは鶴蔵ではなく匡蔵だった。

「あたいも鶴蔵もここにいるってことはお咎め無しってことさ。本当に昔っからこの人は無茶をするんだから」

 匡蔵の流し目に鶴蔵は居た堪れないように頭を掻く。だがあまり反省はしていないようである。

「でも、その後日譚はあってよ・・・・・・俺が盗んだ筍に卵をたくさん入れて蒸し焼きにしたもんを宿の主はごちそうしてくれたんだ。ありゃ本当に美味かったなぁ。今思えばあれだけ大きくなっていたから本当にギリギリ位だったんだろうけど、穂先なんか真綿みたいでねぇ」

「うわ、美味そうですね」

「しかし江戸じゃあれは難しいかな。ありゃ間違いなく見つかった後すぐに湯がいてあったんだろうし」

 茶をすすりながら鶴蔵は自慢気に笑うが、その笑顔に匡蔵は釘を差すことを忘れない。

「もし機会があったらやってもらうといいよ。あ、だけど『殿様の筍』は盗まないことだね。本当にあの時は肝を冷やしたんだから・・・・・・鶴蔵の悪さに付き合うのはまっぴら御免だよ」

 匡蔵のその一言に楽屋は笑いの渦に包まれた。



UP DATE 2014.4.30 

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『鶴蔵てまえ味噌』、五月は何とたけのこ泥棒の話です(爆)きっと端午の季節絡みの巡業だったのでしょうね。子供たちだけで川越まで出向き、そこで起こった実話を元にいたしました。
本文では書きませんでしたが、筍の中に流し入れた卵は溶き卵で、全部で14~15個分くらいだったとか・・・これだけの卵を流し入れることができる筍だとそこそこ大きくなっていないと難しいですよね。少なくとも殿様に献上するには大きすぎるでしょう。しかもお寺さんの本堂の裏に生えていたって・・・(-_-;)きっと宿屋の主が悪ガキ共を懲らしめるために言ったでまかせだと思いますが、子供たちには結構良い薬になったようです。

次回更新は5/28、ジメジメした季節直前の暑気払い・心太か釣りには最適な季節ということで鮎あたりをネタに書かせていただくつもりです♪
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