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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第十四話 誠の恋、偽りの恋 其の貳

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 芹沢とお梅が睨み合いをしていた最中、土方から指示を貰った佐々木は早速『八百藤』で自分の返事を待っているであろうあぐりの許へ向かっていた。『八百藤』は先代が一代で財を成し、名字帯刀を許された大店である。あぐりの名も武士にあこがれていた先代が『武士の娘のような名前を』と初孫でもある息子の娘につけたらしい。

(問題は『八百藤』の今の主が長州贔屓・・・・・ということか。)

 奉行所などの手前あまり表だって長州贔屓を表明している訳ではないのだが、長州藩邸や浪士の潜伏先に品物や出来合いの総菜を差し入れたりすると言う事はやはり心情的には長州よりなのだろう。
 秀麗な眉を顰めながら佐々木は二条へ向かう。いざとなったら壬生浪士組脱退を偽装しなくてはならないかもしれない。考え込みながら歩いている内にいつの間にか二条法衣棚にある『八百藤』の裏口に辿り着いてしまった。裏口とは言え大店である。下手な店よりははるかに間口が広い裏口の前でこれから配達に向かうのか何人かの丁稚や手代が品物を大八車に運び込んでいる最中であった。

「あの~すんまへん。こちらのお嬢はん、中にいらっしゃいますやろか?」

 佐々木は警戒心を抱かれぬよう柔らかな大阪弁で手代の一人に語りかける。

「へぇ・・・・・お侍はんがうちの所のお嬢はんに何か御用で?」

 声をかけた佐々木に対し、二十代半ばくらいの手代は険のある声で応え、疑わしげに睨み付けた。それもそうだろう、大事な一人娘であるあぐりに若い男が『用事がある』と言いよってくるとなれば何が目的か大抵は想像が付く。

「いくらええ男のお侍はんでも、そう簡単にうちのお嬢はんに逢わせる訳にはいきまへんな。」

 どうやらこの手代はあろう事か主人の娘に対し、それ以上の感情を抱いているらしい。声に含まれた棘を敏感に察知し、佐々木は攻め方を変える。

「まぁ・・・・・な。お嬢はんが無理やったら旦那はんでも構へんで。というか、むしろ旦那はんの方に逢わせてくれはったほうがありがたいんやけどなぁ。」

 要は長州藩の潜伏先を知っている人間に会うか、もしくは自分自身が潜伏できればいいのである。『自分は八百藤の主人に用事がある』事を前面に押し出し、佐々木は手代を説得し始めた。
 ここであぐりか八百藤の主人につなぎがつかなければ土方の立てた計画もおじゃんになる。表情にこそ出さないが佐々木はじりじりと焦りつつ、自分を疑いの目で見る手代がどう動くのかじっと待つ事しかできない。その時である。

「伸造はん、いつまでかかっとるん!お父ちゃんがおかんむり・・・・・・・ああっ!佐々木様!」

 黄色い声が突如上がり、手代を押しのけて鮮やかな藤色の着物が佐々木の目に飛び込んできた。
何とあぐりが手代達の仕事の遅さに業を煮やして裏口にやってきたのである。渡りに船とはこの事であろう。佐々木はあぐりに対し、極上の笑顔を向ける。

「佐々木様、わざわざおおきに!あの・・・・。」

 佐々木の笑顔にあぐりは顔を真っ赤にさせ、上目遣いに佐々木を見つめる。

「ええ、あぐりはんとお付き合いをしてもええと上役にお許しを貰うてな。早う知らせたかってん。もしできるんやったらあぐりはんのお父はんにお目通り願えるやろか?」

 佐々木はあぐりの手を優しく握り、愛くるしい瞳をじっと見つめながら口説き始めた。実のところ佐々木がこうやって堅気の女子を口説き落とすのは初めてである。ここに来る前に土方から簡単なコツを伝授して貰ったものの、恥ずかしくてしょうがない。しかしそれを表情に出してはならないと恥ずかしさを必死に押し殺し、一生懸命あぐりをかき口説く。

「え~?でも、お父ちゃん、きっと嫌な顔をするに決まってはる・・・・・。」

 だが佐々木以上に照れてしまっているのはあぐりであった。憧れていた相手に返事が貰えただけでなく、真剣に付き合いたいと言って貰えばどんな強者でも陥落する。

「だからこそや。どこの馬の骨か判らへん、悪い虫が愛娘にくっついたらどんな優しい親かてええ顔はせぇへんで。わては・・・・・まじめにあぐりはんと付き合いたいんや。」

 どんな醜男であっても真剣な告白に女子はほだされる。しかも佐々木は歌舞伎の二枚目を張れるような美形である。そんな佐々木の真剣な-------------真剣を装った告白にあぐりは首筋まで真っ赤にしながら夢見心地になる。

「そやったら・・・・・今、お父ちゃんに逢わせるから一緒に来て!」

 あぐりはそういうと佐々木の手を引いて店の中へ引き入れた。思惑がうまくいった佐々木も嬉しげにあぐりに手を引かれ店の中に入っていく。その後ろ姿を伸造と呼ばれた手代が憎しみの籠もったものすごい形相で睨み付けていることに有頂天になった佐々木はその事に気がつかなかった。



「ほぉ、まさかあんさんが大阪の錺良さんとこの次男坊だったとは・・・・・。」

 通された客間は小さいながらも小綺麗で落ち着いたものであった。やはり公家や藩邸に品を収めている大店だけあるのだろう。京風の趣味の良い客間は佐々木の心を和ませた。そしてそれ以上に佐々木の心を安堵させたのはあぐりの父親の反応であった。あぐりの父は自身の煙管入れを弄びながら佐々木に笑顔を向ける。

「こちらも驚きました。まさか八百藤さんが父の作った品を贔屓にして下さっていたとは。」

 佐々木も恐縮しきりである。あぐりの仲介で八百藤の主人に引き合わせてもらった佐々木であったが、その腰にぶら下がっていた煙管入れはまさしく佐々木の父の作品であった。最初こそ佐々木を胡散ぐさげに睨み付けていた主人であったが、挨拶の後その事を話すと八百藤の主人は途端に上機嫌になったのである。

「生粋のお侍はんやったらうちの娘に嫁なり妾なりがつとまるんやろか、と思うてはりましたが、元々が大阪の職人さんの息子はんやったら安心おすな。」

 生粋の侍、というよりは壬生浪士組に対しやはり良い感情は抱いていなかったらしい。言外にそのような匂いを感じつつ佐々木はできるだけ『地元の職人の息子』という面を押し出してゆく。

「安心だなんて・・・・・公方様もじき東帰しはりますし、誠忠浪士組もどうなるか。家業は兄が継いでますんで、わてはほんまの浪人になってしまいます。」

 壬生浪士組が解散するかも知れない-------------そんな言葉を佐々木の口から聞いた八百藤の主は露骨に嬉しそうな表情を浮かべた。

「せやったらあぐりの婿になってくれたらええ。確かにあんさんほどくそまじめやと商売にはむかへんやろうけど仕事は番頭に任せておればええし。ほんまなら誠忠浪士組なんてすぐにやめてうちの婿はんになって欲しいくらいやわ。」

「むちゃをいわはりますな。それこそ真面目に奉公してくれはってる番頭さんに怒られてしまいます。」

 そう言って笑い出したところであぐりが新しいお茶を淹れて二人の許へやって来た。

「お父ちゃん、ずるい!佐々木様を独占して・・・・・私だって佐々木様とお話がしたいのに、いつまでうちに判らん話をしはるの?」

 あぐりの小言に言い訳をする八百藤の主を見つめながら佐々木は頭の中で色々と考える。

(公方様の東下後の処遇次第だが・・・・・もし誠忠浪士組が存続するならばこの話、進めるのも悪くはないな。うまくすれば婿修行だ何だと行って入り込めるかもしれない。)

佐々木は穏やかな笑みの下でこの事をどう土方に報告しようか考え始めていた。



 佐々木が屯所に帰ってきたのは六ツの鐘が鳴ってしばらくした後であった。佐々木は早速直属の上司である沖田を見つけると簡単に事情を説明し、土方にどう報告したものかと相談する。

「なかなかどうして・・・・・・佐々木さん、やるじゃないですか。話が面白い具合に進んでいきますね。」

 沖田は声を潜めにっこりと微笑む。

「私達は明後日から公方様の見送りのため大阪に下ります。その留守中を狙って長州系の浪士達が動きを活発化させるでしょう。普段の隊務以上に忙しくなるのを覚悟しておいて下さいね。もしかしたら・・・・・我々の行く先をも決定づける仕事になるかも知れません。」

 そう言いながら沖田は土方の部屋の襖を開けた。

「土方さん、お待ちかねの佐々木さんが帰ってきましたよ。我々が思っていた以上の成果を上げて。」

 沖田の言葉に、書類を書いていた土方の手が止まる。

「佐々木、詳細を話してみろ。」

 土方に促され、佐々木は土方に事の顛末を話し始めた。話が進むにつれて土方の表情が徐々に和らいでゆく。

「なるほどな。まさかそこまでうまく話が運ぶとは・・・・・何せ錺職人の息子っていうのは嘘じゃねぇしな。」

 土方は不敵な笑みを右頬に浮かべながら顎に手をやる。

「大樹公の東帰後も、しばらくの間俺たちの処遇はこのままだそうだ。奉行所や会津藩だけでは人手が足りないらしい。この六月いっぱいで辞めちまう奴も少なくねぇからそう簡単に助っ人をそっちに向かわせることができねぇかもしれねぇが、辛抱してくれ。」

「承知。」

 美しい顔に満面の笑みを浮かべ、佐々木は嬉しそうに土方の命令に応える。それはまるで近藤の言葉一つ一つを嬉しげに聞く己の姿そのもののように沖田には思えた。

「・・・・・そうだ、もし助っ人を寄こして下さるようでしたらできるだけ身体の大きな人にして頂けませんでしょうか。」

「はぁ?そんな奴目立ってしょうがねぇだろう。」

「普通ならば・・・・・しかし、私が入り込もうとしているのは八百屋です。名字帯刀が許されている大店ではありますが、そこは体力勝負、身体の大きな者が多いですし入り込んでも違和感がありませんので。」

 そこは実際店を見た佐々木の強みであろう。

「だったら島田あたりでいいか?あの図体の割りには器用なところがあるし、助っ人としては悪くねぇだろう。あとで話を付けといてやる。」

「ありがとうございます!」

 佐々木は畳に額を擦りつけるように一礼した。



 三人はさらに島田魁も呼び出し、これからの事について詳細な打ち合わせを小半刻ほどした。特に幹部達が壬生を留守にする間、長州浪士達も動きを活発化させるかも知れない。その時を狙って動けば大物を仕留めることも出来るかも知れない。

「この事は局長達にも伝えていねぇ。それだけに誠忠浪士組からの妨害があるかもしれねぇがそこは耐えてくれ。」

 土方は最後にそれだけ伝えると二人を解放した。

「部下は自分で仕事を見つけて、上司の思惑以上の効果を上げてくれる孝行息子なんですけどねぇ。」

 佐々木と島田が部屋から出て行った後、沖田がぼそりと呟いた。

「問題はむしろ親の方・・・・・だといいたげだな。」

 土方はため息を吐くと障子を開けた。

「まったく・・・・・ただでさえ呑むと手がつけられねぇっていうのにあんな女が来たばかりに余計厄介になっちまった。」

 土方は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、八木家の方を見やる。今日の芹沢の荒れ方は尋常ではなく、八木家の人々も前川邸に避難している。

「あれは・・・・・間違いなく一目惚れだな。」

 思わぬ土方の一言に、沖田は呆気にとられた。

「はぁ?何を寝ぼけたことを・・・・・。」

 いくら何でも他に言いようがあるだろうと沖田は土方に食ってかかったが、土方は真剣そのものであった。

「別に食指の動かねぇ、ただの女だったらあそこまで荒れねぇだろう。実際今までだってちょっかいを出しながら袖にされた女に対してあそこまで荒れたことを見たことあるか?」

 土方は沖田に流し目をくれながら沖田に問うが、その質問はする相手を間違えていた。

「・・・・・私は芹沢局長とは一度しか遊郭に出向いておりませんので。」

 どうせ花街に行くのは避けていますよ、と沖田は憮然と答える。

「・・・・・聞いた相手が悪かったな。荒れると言ってもせいぜい茶碗を割るくらいさ。だが今日は下手をすると隊士の腕の二、三本は折りかねねぇ。」

 土方は苦笑を浮かべながら沖田に詫びた。

「あんなきつい人のどこが良いんでしょうかねぇ。」

 気の強い女性に関わる嫌な思い出があるだけに、沖田は自分には理解できないと肩を竦める。

「ガキにゃわかるめぇよ。京女にあそこまで度胸がある奴がいるたぁ俺も知らなかった。あの気性、女にしておくのはもったいねぇ・・・・・。」

「私はたおやかなで優しい人の方が良いですけどねぇ。」

 どうも芹沢や土方の女性の趣味は判らない・・・・・沖田は首を横に振り諦めの表情を浮かべた。

「平和な時代ならともかく、そんな女が一人残されて生きていけるほど世の中甘くはねぇぞ。お前も女を作るんならいざというとき一人でも生きていけるような強さを持った女にするんだな。」

 土方はそう言い残すと残りの書類を片づけるため沖田に背中を向けたのだった。



UP DATE 2010.05.14


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『誠の恋、偽りの恋』其の貳です。佐々木君、慣れない遊び人風を必死で演じております。果たしてどこまで演じきれるのでしょうか?そして島田さんがどうやって八百藤に入っていくのか(爆)。まぁ呉服屋さんよりは入り込みやすいと思うんですよね~。どう考えてもあの体格では体力勝負のお店--------------八百屋とか魚屋とかそう言うところにしか密偵として入り込めない気がするんですよね~(私の貧相な脳みそでは・笑)。偽りの恋が偽りのまま貫けるか、それともばれてしまうのか、はたまた嘘から出た真となるのか書いている本人にも判りませんので(え゛)これからの展開をお楽しみ下さい。
そして芹沢さんの方ですが、多分自分自身の気持ちには気がついておりません。現時点で芹沢局長の気持ちに気がついているのは観察者である土方くらいでしょう。この気持ちに芹沢自身が気がついた時どうなるか・・・・・(要・大人の妄想力)。最終的には芹沢&お梅のあの有名なシーンを一応全年齢版のこの話でやろうかと思っております(其の四くらいですかね~。)こちらの展開も頑張らせて頂きます。


次回更新は5/21、今度は芹沢VSお梅第二ラウンドと芹沢大阪逃亡、もとい大阪下阪を中心に展開する予定です。
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