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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十七話 そして一石は投じられた・其の壹

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 慶応二年九月二十五日、名古屋から帰ってきた伊東達は旅装も解かず、挨拶もそこそこに近藤に会談を申し入れた。

「名古屋での成果に関わる事なのですが、少々込み入った話になりますので屯所ではなく別の場所でお願いできますでしょうか?何なら僕の休息所でも構わないのですが」

 物腰こそ柔らかいが、局長を自分の休息所に呼びつけるかのようなその物言いに敏感に反応したのは土方だった。

「いや、会談を開くなら近藤さんの休息所だ。お考は身重だけど構わねぇだろ、近藤さん」

 有無をいわさぬ土方の言葉に、反射的に近藤もたじろいでしまう。

「あ、ああ・・・・・・ならば伊東さん、明日の夜にでも醒ヶ井の休息所に来てくれないか?夕餉もそちらに用意しておくから」

 土方の気迫に気圧されつつも、近藤は伊東に提案する。その提案に伊東も反論すること無く素直に頷いた。

「承知しました。では明日の夜に醒ヶ井に伺いましょう」

 伊東は意味深な笑みを浮かべつつ一礼すると、篠原と共に局長室を退去した。

「ったく、あいつら何を企んでいるのか!」

 伊東の足音が聞こえなくなったのを確認すると、土方は忌々しげに悪態を口にする。

「まぁまぁ落ち着け、歳。お前の思い過ごしじゃないのか?きっと名古屋で新選組にとっても有意義な話が・・・・・・」

「その程度の話なら今すぐここで話すべきだろう。しかもてめぇの休息所に近藤さんを呼びつけようたぁいい度胸だ!今すぐ奴に切腹を申し付けてくれるんなら俺が介錯をするぜ!」

 近藤の言葉を遮り、今にも局長室を飛び出して行きかねない土方を近藤は必死に宥めた。

「どっちにしろ俺の休息所で会合になったんだ、この件はもういいだろ?で、明日のことはお考に準備をさせておくからお前は隊の仕事に専念してくれ」

 近藤は土方に仕事に専念しろと説得しつつ、さらに愛妾の話を続ける。

「本当にあれを妾にして良かったよ。さすが太夫を張っていただけあって気が利くし、ちょっとした会合や会談の手筈は歳無しでも整えてくれるし・・・・・・特に助かるのは江戸のつねを立ててくれることだな。お考のお陰で夫婦仲がむしろ良くなったような気がするよ」

 へらへらとした笑みを浮かべる近藤に怒りを削がれた形になった土方は、大仰な溜息と共に肩を落とした。

「・・・・・・あんたが甲斐性なしだから妾と正妻が苦労しているんじゃねぇか」

 土方は上目遣いに近藤を睨みつけるが、近藤は苦笑いを浮かべただけだった。

「ははは、それは言えるかもな」

「まったく人の気も知らねぇで!」

 他人に気を使う分、近藤は身内を疎かにしがちである。その事に気がついたお考が可能な限り江戸のつねに近況を報告する手紙を送っているのだ。勘定方から渡される明細を見ても着物や櫛、簪は殆ど購入しないのに飛脚代だけはやけに高い。元々頭の良い女だが、ここまでの気遣いができるとは正直土方も思っていなかった。

(おつねさんもお考だけは信頼しているようだしな。しかし妾を囲って夫婦仲が良くなるっていうのも何だかな・・・・・・)

 元々近藤は女をものにしてしまうと途端に興味を失ってしまうというところがある。要は『手に入れるまで』の高揚感が好きなのだろう。だが、手に入れた女と情を育むという事には殆ど興味を示さない。辛うじて正妻であるつねに対する義理と、お考の気遣いに対する感謝だけが例外だろうか。だが、どちらも近藤にとって『便利なもの』であり、色恋による情愛とはまた別物のように土方には思えた。

(新選組を束ねるものとして、下手に一人の女に執着するよりはいいのか・・・・・・)

 それがいわゆる『大将の器』なのだろう。だが、時折垣間見せるその情の薄さがいつの日か近藤の足を引っ張ることになるかもしれない――――――漠然とした不安を抱えつつ、土方は自分の部屋に戻っていった。



 沖田が幹部会談の話を聞いたのは伊東から話が出た翌日、つまり会談当日のことだった。

「何でもっと早く教えてくれなかったんですか!」

 不満気な表情も露わに沖田は土方ににじり寄るが、土方はそれを一蹴する。

「昨日おめぇは非番だったろうが。それでなくても今夜は巡察当番、どっちにしろ顔を出すことなんざできねぇんだから、別に言わなくたった構わねぇだろう?」

「そういう問題じゃありません!局長の行動を知らなくて組長が務まると思っているんですか!」

 さらに激高する沖田だが、土方は煩そうにちらりと流し目をくれただけでそっぽを向いてしまった。

「別におめぇが知らなくても問題はねぇ。勿論会談の内容は伝えてやるから安心しろ」

「そんなの当たり前です!」

 まるで仲間はずれにされた子供のように沖田は剥れる。その剥れぶりに土方は思わず失笑を漏らす。

「おい、河豚じゃあるめぇし・・・・・・別にそこまで剥れるこたぁねぇだろうが。こんな餓鬼相手にお小夜も大変だよなぁ」

 何気なく呟いた一言だったが、その一言に沖田は過剰なまでに反応した。

「そ、そんなことはありません!小夜に対してはこんな姿は決して・・・・・・」

 土方でさえ一瞬驚いてしまった沖田の動揺ぶりに、土方はしてやったりと笑みを浮かべる。

「じゃあ二日後のおめぇの非番の日にでも聞いてみようか、お小夜に?」

「勘弁して下さいよ、土方さん。それでなくても私の非番の三度に一度はうちに来るのに、そんなことまで言われた日には・・・・・・」

 沖田は今にも泣き出しそうなほど情けない表情を浮かべる。その表情に満足したのか土方はくっくっと喉の奥で笑うとぽん、と沖田の肩に手を置いた。

「ま、気にすんなって。恋女房くれぇしか男が心おきなく甘えられる相手なんざいねぇんだから・・・・・・特にお前はな」

「・・・・・・言ってくれますね、土方さん」

 そうは言うものの沖田は土方の言葉を否定しなかった。一番隊組長としての仕事が厳しいものになるにつれ、小夜に対する依存は大きくなっていると自分でも自覚している。そしてそれは子供時代、少年時代に於いて無条件に甘えられる存在が無かったということも一因だということも――――――。

「だが忘れるな。お小夜とおめぇは身分が違いすぎる。その弱みを伊東達に揺さぶられておめぇが崩れるような事にでもなったら、近藤さんや俺にとっても致命傷になりかねねぇ。せめて―――――お小夜を失っても一人で立てる程度にはいてくれよ、総司」

 深刻な色を帯びた土方の言葉に、沖田は訝しげな表情を露わにする。

「・・・・・・今日の会談はそんなに深刻なものなんですか?」

 不安を滲ませる沖田の問いかけに、土方は無表情のまま首を横に振った。

「判らねぇ。だが向こうはそれ相応の覚悟を決めてきている。食うか食われるか――――――特に近藤さんは踊らされやすいからな。伊東が他の奴らを操って近藤さんを翻弄してくるかもしれねぇ」

 得体のしれない不安に土方も手をこまねいているのだろう。全ては今夜の会談次第ということになりそうだ。沖田はそう理解して口を開く。

「・・・・・・承知しました。私もそれなりの覚悟はしておきます」

 そんな沖田の決意に、土方はただ黙って頷いた。



 土方と沖田がそんな会話を交わしたその日の夜、予定通り近藤の妾宅において会談は行われた。そして開口一番伊東が口にした言葉に近藤と土方は驚かされる。

「名古屋出張にて尾張月堂殿の上洛を要請いたしました。向こうも我らの申し出に快い対応をしてくれましてね・・・・・・ただ、上洛を要請したものとしてそれなりの対応はしなくてはならないでしょう?そこで僕らは新選組本体と袂を分かち、月堂殿の護衛に付くつもりです。さすがに新選組の勤めと月堂殿の護衛は両立できませんのでね」

 その突拍子もない内容に呆れつつ、土方は即座に反論する。

「そもそも尾張のご隠居が上洛するなんて話は聞いたことがねぇ!寝言もいい加減にしたらどうだ?」

 だが伊東は薄ら笑いを浮かべたまま、やんわりと言い返した。

「寝言などではないよ。口約束ではあるけど確かに要請は取り付けてきたんだから」

「しかし何も分離などせずとも・・・・・・現に今までだって幾つもの勤めを兼任してきているわけだし」

 近藤が困惑も露わに伊東に考え直すよう説得するが、伊東は聞く耳を持たない。

「それは月堂殿に失礼に当たるでしょう。何せ会津公は月堂殿の実弟、その弟が藩主を務めている会津預りの身分のままでは先の尾張公であらせられる方の護衛は少々難があるかと」

 熱っぽく訴える伊東だが、近藤と土方は渋い表情を崩さない。

「実際こちらに向かっているというのであればいざ知らず、まだ出立さえなされていないのだろう?だったらその話は月堂殿がこちらに上洛してからでも遅くは無いと思うが」

「いえ、さすがにそれ相応の準備が必要となりますし、尾張藩邸近くに屯所を準備しなければなりません。今から取り掛かってもギリギリ間に合うかどうか・・・・・・」

 結局相容れない両者の会談は水掛け論になってしまい、翌日改めて近藤の休息場で会合を開くことでその日はお開きとなった。

「思っていたよりも面倒くさいことになりそうだな、歳・・・・・・」

 ようやく顔を覗かせた月を愛でる余裕もなく、近藤と土方は疲れきった表情のまま座り込み、いつまでも立とうとはしなかった



UP DATE 2014.5.3

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とうとう伊東派が動き出しました。分離そのものは翌年の3月半ばになりますが、その動きは既にこの時期から始まっていたようでして・・・・・・さすがに初回のこの時は物別れに終わっているようです。
で、会談は翌日に持ち越されることになりますが・・・・・互いの『本気の利害』が絡んでいる時ほどこういった話し合いは長引くものです。先日のTPP交渉じゃありませんけど(^_^;)

次回更新は5/10、物別れに終わった会談内容を沖田が聞くことになるとことから話が始まります♪
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