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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十八話 そして一石は投じられた・其の貳

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 沖田ら試衛館派の幹部が招集され、近藤・伊東の会談の内容について聞かされたのは朝の業務がひと段落した後だった。

「新選組を分離する・・・・・・ですって?」

 土方の口から会談の内容を聞いた瞬間、沖田は険しい表情を露わにする。

「まさかそれを許したわけじゃねぇよな、土方さん?」

 沖田以上に険悪な表情で土方に迫るのは永倉だ。そんな永倉の言葉を土方は軽くいなす。

「当たり前だろ!それを許しちまったら山南さんの立場はどうなる?」

「そう・・・・・・だよね。脱走と分離との違いはあっても脱退には変わりないもの」

 しかも当時自分は京都にいなかったし、と藤堂がしゅん、と項垂れる。その落ちた肩をちらりと一瞥した後、土方はこの場に揃っている全員の顔を見回した。

「大丈夫だとは思うが、もしかしたらお前達に働きかけがあるかもしれねぇ。くれぐれも伊東の誘いに乗るんじゃねぇぞ」

 土方が凄んだ瞬間、組長達から爆笑が起こる。

「もう、面白すぎますよ土方さん!」

「そんな見え透いた誘いに乗るかってんだよ!」

「そうそう、心配し過ぎだって!よりによって伊東参謀に付いて行くことはありえねぇから!」

 勿論近藤も土方もそれは百も承知だろう。単なる確認だったのだろうがその凄み方に芝居めいたものを見てしまった幹部達の笑いはなかなか収まらない。そしてひとしきり笑ったあと、ようやく皆を代表して沖田が近藤と土方に宣言する。

「・・・・・・という訳で、ここにいる皆はどこまでも近藤先生と土方さんについていくとのことです。だから大船に乗ったつもりでいてください」

 沖田の言葉に皆も強く頷き、それぞれ仕事や休息のために三々五々と近藤と土方を残し局長室から退散した。そんな中、藤堂一人が何か話したそうに局長室に残り、近藤を見つめる。

「ん、どうした平助?」

 藤堂の様子に気がついた近藤が、自ら藤堂に声をかける。その言葉を待っていたかのように藤堂はようやく口を開いた。

「近藤さん・・・・・・ちょっと耳に入れておきたいことがあるんですけど」

 隣にいる土方にちらりと視線を投げかけつつ、藤堂は更に小さな声で続ける。

「近藤さん、ご存じですか?総司が囲っている妾の身分って」

 藤堂が口を開いたその瞬間、土方の顔があからさまに強張った。



 嫌な沈黙が三人を包む。それを破ったのは近藤だった。

「・・・・・・どういうことだ、平助?」

 訳がわからないといった表情で近藤は藤堂に事情を説明するよう促す。それに対し藤堂は、勝ち誇った笑みを頬に滲ませつつ真相を語り始めた。

「実は総司の奴、かわた医者の娘を休息所に囲っているんですよ。池田屋の時に総司を手当をしてくれた・・・・・・土方さんは総司の士気を考慮して黙認しているみたいだけど、幕臣取り立てなんて話になったら何かと都合が悪いですよね、いくら妾とはいえ」

「う、うむ・・・・・・」

 藤堂の口から出てくる『正論』に近藤も土方も返す言葉がない。それに満足したのか、藤堂はさらに自信ありげに持論を展開し始めた。

「そらだけならまだしも、そこを伊東派に突かれて『妾と別れたくなければ分離に加担しろ』なんて言われるかもしれませんよ?総司がその話に乗って向こうに加担、なんてなったらどうします?」

「そ、総司に限ってそんなことは!」

 藤堂の挑発に近藤は声を荒らげる、が心なしかその声は震えている。普段の近藤ならこんな讒言は一蹴にするのだろうが、伊東に分離を迫られ、身内の結束を確認した直後という精神的に昂ぶっている状態なだけに迷いが生じているのだろう。あと少し押せば――――――藤堂はさらに近藤に迫る。

「そうなる前に早く手を切らせるべきだと思いませんか?隊の為にも・・・・・・確かに別れてすぐは辛いでしょうけど、あいつだって新選組の組長です。そのうち仕事が忙しくて女の事なんて忘れて・・・・・・」

「おい平助!いい加減にしろ!」

 さすが見かねた土方が藤堂を止めるが、藤堂は無邪気な笑顔を二人に向けつつ踵を返す。

「悪いことは言いません。伊東さんは近藤さんや土方さんが思っている以上に切れ者ですよ。そんな人に付け入られない為にも、今のうちに打てる手は打っておいたほうがいいと思います」

 近藤と土方に背を向けたその顔には二人に見せたものとは明らかに違う、邪悪な笑みが広がる。それは藤堂の心の闇――――――沖田に対する嫉妬に狂った鬼の笑みだった。

「近藤さん、何なら総司にも妻帯を勧めたらどうですか?それなら妾も事情を察して自らすんなり去って行ってくれるかもしれませんよ」

 一番弟子の身分違いの妾を追い出し、自らの力も誇示することができる婚姻命令――――――甘く、苦い毒薬の如き一言を残し、藤堂は二人の前から去っていった。



 藤堂が沖田と小夜の別れ話を近藤らに切り出していることなどつう知らず、午後の巡察を済ませた沖田は、夕餉に間に合うようにとそそくさと自分の休息所へ帰った。

「総司はん、おかえりなさい」

 いつもの如く、仕事に疲れた柔らかな声で出迎えてくれるのは小夜である。沖田は玄関まで出てきた小夜に脱いだ羽織を渡すとそそくさと部屋に上がり込み、さっさと袴を脱いで楽な格好になる。

「ほんまに総司はんは羽織袴が苦手なんおすなぁ」

 羽織を衣紋掛けに掛けた小夜は、呆れ果てたように肩をすくめ、乱暴に脱ぎ散らかした袴を手に取る。

「だって着流しのほうが動きやすいですからね。『武士』だから袴羽織、大小は必要ですけど、やっぱりまどろっこしくて」

 まるで子供のような沖田の物言いに小夜は思わず吹き出してしまう。

「ほんま子供みたいなお人や・・・・・・これは風を通すだけでよろしいんおすか?」

 小夜は脱ぎ散らかした袴を広げつつ沖田に尋ねるが、沖田は少し考える素振りをした後首を横に振った。

「いや、さっき派手な捕物でだいぶ土埃をかぶってしまったんですよ。だから洗濯をしないとちょっとね・・・・・・明日にでも屯所の小者に頼んで洗濯屋に出してもらいますから適当に丸めておいて下さい」

「せやったら簡単にたたんでおきますね」

 そう言うと小夜は袴を簡単に畳むと、着替えの袴を行李から取り出した。その後姿を見つめながら沖田はぽつり、と呟く。

「ねぇ、小夜・・・・・・やはり私達二人の間に子供を望むことは難しいんでしょうかね」

「総司・・・・・・はん?」

 唐突な沖田の言葉に驚いたのか、小夜は切れ長の目を大きく見開き、じっと沖田の顔を見つめる。その視線に負けじと沖田もいつにも増して真剣な表情で小夜を見つめた。

「いえね、今日の巡察の途中に元気な子供たちを見かけましてね・・・・・・きっと小夜との間に生まれた子は可愛いんだろうな~って」

 しみじみ言いながら沖田は小夜に近づき、白い頬を手で包んだ。

「私はあなたを妻にしてあげることはできません。そしていつかは江戸に帰らねばならない身ですけど・・・・・・小夜との子供が・・・・・・『小夜と心を通じ合わせて暮らしていた』って証が欲しいんです」

 その目は熱っぽく潤み、声は心なしか掠れている。今にも泣き出しそうにも見えるその表情から、小夜は沖田が本気で言っているのだと知った。だが、沖田の望みを受け入れるには、あまりにも大きな決断をしなければならない。小夜は暫く迷った挙句、ようやく口を開いた。

「総司はん、もう少しだけ待ってくらはりまへん?一緒に暮らすだけならともかく、子供までとなるとさすがにお父ちゃんやかわた村の長の許しが・・・・・・」

「あ・・・・・・そ、そうですよね。済みません、先走った物言いをしてしまいまして」

 小夜に現実を突きつけられた沖田は苦笑を浮かべつつ、小夜に差し出された膳から箸を手に取る。

「返事は年明けくらいでも良いですよ。さすがにまだ徹底命令も解散命令も出ていませんし・・・・・・あ、そういえば伊東参謀から分離話が出た、って話はありましたけど」

「分離・・・・・・話?」

 正直芳しいとは思えぬその内容に、小夜が形の良い眉を微かにしかめる。

「ええ、伊東参謀が『自分が上洛申請をした尾張月堂殿を護衛したい』って言い出しましてね。今夜もその件についての会合があるんですって」

 惣菜を口に放り込みながら沖田は今朝方聞いた話を小夜にする。

「もしかしたら急に子供が欲しくなっちゃったのは、その話があったからかなぁ」

 思わず呟いた沖田に、小夜は『ふぅん』と何かを悟ったように頷いた。

「・・・・・・せやったらお返事はゆっくりで良さそうやね。喉元を過ぎれば何とやらで上手く話がまとまりはったら子供の事なんてすっかり忘れはるんやないですか?」

 冗談半分に笑いながら余裕を見せる小夜に、沖田は思わず頬を膨らませる。

「え~!あんまり焦らさないでくださいよぉ。そっちの許可が降りたら最低三人は頑張ってもらうんですから!これでも甥っ子姪っ子の世話は結構上手だったんですよ!」

 沖田の必死の形相に、小夜は思わず吹き出してしまう――――――本当の幸せに包まれた、仮初の夫婦の夜はいつものように穏やかに過ぎていった。


 だが、そんな若い二人がささやかな幸せを噛み締めていた頃、近藤の妾宅では議論が紛糾していた。そして伊東に寄って投げられた一石はさらなる波紋を広げ、時代の波へと変化していくのである。



UP DATE 2014.5.10

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伊東によって投じられた『新選組分離』という一石は、藤堂による『総司と小夜を別れさせるための一石』を誘い出しました。一つ一つの波紋はまだ小さいものの、この投じられた二つの石がどのような波紋を広げ、新選組を、そして沖田を飲み込んでゆくのか――――――蝋燭の炎が最後に勢い良く光り輝くような、新選組の栄光と挫折、そして転落へのカウントダウンが始まりました。
特に今後注目してもらいたいのは近藤局長の心のゆらぎですかね。見た目とは裏腹に意外と繊細で小心な拙宅の近藤勇がどう揺さぶられ、そして総司の運命をどう揺さぶってゆくのか・・・私、自分のキャラに対してはとことんドSなんですよね~( ̄ー ̄)ニヤリ
ようやく『書きたい』と願っていた場面にさしかかり、テンションが上がっている管理人ですが、宜しかったらお付き合いお願い致します♪

次回更新は5/17、近藤・伊東の二度目の会談を中心に展開してゆきます♪


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